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学校に行って、勉強して友達と遊んで部活でフルートをする。家に帰れば温かいご飯とお風呂があって、夜になればふかふかのベッドで眠る。そして朝が来ればまた目を覚まし、学校に行く。
これが、雨宮琉唯の当たり前のはずだった。
朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。どうやらアラームヲセットするのを忘れていたらしい。母も父も起こしてくれなかったということはもう仕事に行っているのだろう。
少し頭が痛む気がしたが、急がなくちゃ、と思い少し怠い体を起こし、キッチンまで少し早足で歩いた。ここまでは、多分普通だった。
いつも通り準備しようとしたその時、いきなり頭を鈍器で殴られたような痛みが走った。そして、それと同時に催す吐き気。トイレに駆け込み、吐き出したそれは真っ赤で鉄臭く、血を吐いたということを痛む頭で理解した途端に、視界が揺れて吐き気が増した。
ごく普通の高校生に、これまでにないほどの痛みと吐き気なんてどうしたらいいかも分からず、琉唯の意識はここで途絶えた。
「ここ、どこ……。」
琉唯が次に目を覚ましたのは、白い天井にやけに消毒の匂いの強いところ。見慣れない場所だが病院だと直ぐにわかった。ナースコールで看護師を呼べば、廊下からパタパタと少し小走りする音が聞こえた。
「目が覚めましたか?」
「はい、あの私朝からの記憶がないんですが、どうなったんですか。」
どうやら、普段学校を休むことなんて滅多にない琉唯が何の連絡もなしに学校に行かないのを担任が不思議に思ったらしく、母に連絡したらしい。そして母が家に電話をかけたものの繋がらず、おかしいと思い家に帰るとトイレで倒れる琉唯が居た。
仕事に行ったのに一度家に帰ってきてくれた母に申し訳なさと感謝を感じる反面、私の中で大きくなるのは不安と恐怖ばかり。
「私、病気ですか。」
そう聞くと少し気まずそうな顔をして、検査をしてみないと分かりません、と答えた。琉唯はもう高校生。それを見てやはり察してしまった。
自分は、なにか病気だということを__。
あんなこれまでにないほどの頭痛に襲われて吐血までして、病気じゃないという方がおかしな話なのかもしれないが、まだ高校生の琉唯にそんなことが受け止められるはずがなく、目頭がじわっと熱くなる。
看護師は気を利かせて、お母さんに電話してくるからゆっくりしていてね、と声をかけて部屋から出ていった。
これまでの普通を根こそぎ奪われるような感覚にどうしようもない畏怖感が膨れ上がる。なぜ自分なのか、そう思いながら溢れる涙を止めようとするが一度溢れた涙は止まることをしらず、次から次へと溢れてくる。
そんな時に、声をかけられた。
「なんで泣いてんの。」
無神経にもそんなことを聞く彼は、明るめの茶色に染められた髪を綺麗にセットしていて、不似合いな病院服を着ている。一向に問いかけに答えない琉唯に、彼は何故かいきなり自己紹介を始めた。
「俺、梶本和彦。高校2年な!病気でずっと病院暮らしなんだ。」
初対面にもかかわらず馴れ馴れしい彼のせいで、涙はいつの間にか止まっていた。とても病気には見えないが、という言葉を飲み込み琉唯も自己紹介をした。
「雨宮琉唯。私も高校2年。よろしく。」
「おう!」
このときの太陽の光をかきあつめたかのような眩しい笑顔に惹かれたのが琉唯の運命の1つ目の分岐点だったのかもしれない。
これが、雨宮琉唯の当たり前のはずだった。
朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。どうやらアラームヲセットするのを忘れていたらしい。母も父も起こしてくれなかったということはもう仕事に行っているのだろう。
少し頭が痛む気がしたが、急がなくちゃ、と思い少し怠い体を起こし、キッチンまで少し早足で歩いた。ここまでは、多分普通だった。
いつも通り準備しようとしたその時、いきなり頭を鈍器で殴られたような痛みが走った。そして、それと同時に催す吐き気。トイレに駆け込み、吐き出したそれは真っ赤で鉄臭く、血を吐いたということを痛む頭で理解した途端に、視界が揺れて吐き気が増した。
ごく普通の高校生に、これまでにないほどの痛みと吐き気なんてどうしたらいいかも分からず、琉唯の意識はここで途絶えた。
「ここ、どこ……。」
琉唯が次に目を覚ましたのは、白い天井にやけに消毒の匂いの強いところ。見慣れない場所だが病院だと直ぐにわかった。ナースコールで看護師を呼べば、廊下からパタパタと少し小走りする音が聞こえた。
「目が覚めましたか?」
「はい、あの私朝からの記憶がないんですが、どうなったんですか。」
どうやら、普段学校を休むことなんて滅多にない琉唯が何の連絡もなしに学校に行かないのを担任が不思議に思ったらしく、母に連絡したらしい。そして母が家に電話をかけたものの繋がらず、おかしいと思い家に帰るとトイレで倒れる琉唯が居た。
仕事に行ったのに一度家に帰ってきてくれた母に申し訳なさと感謝を感じる反面、私の中で大きくなるのは不安と恐怖ばかり。
「私、病気ですか。」
そう聞くと少し気まずそうな顔をして、検査をしてみないと分かりません、と答えた。琉唯はもう高校生。それを見てやはり察してしまった。
自分は、なにか病気だということを__。
あんなこれまでにないほどの頭痛に襲われて吐血までして、病気じゃないという方がおかしな話なのかもしれないが、まだ高校生の琉唯にそんなことが受け止められるはずがなく、目頭がじわっと熱くなる。
看護師は気を利かせて、お母さんに電話してくるからゆっくりしていてね、と声をかけて部屋から出ていった。
これまでの普通を根こそぎ奪われるような感覚にどうしようもない畏怖感が膨れ上がる。なぜ自分なのか、そう思いながら溢れる涙を止めようとするが一度溢れた涙は止まることをしらず、次から次へと溢れてくる。
そんな時に、声をかけられた。
「なんで泣いてんの。」
無神経にもそんなことを聞く彼は、明るめの茶色に染められた髪を綺麗にセットしていて、不似合いな病院服を着ている。一向に問いかけに答えない琉唯に、彼は何故かいきなり自己紹介を始めた。
「俺、梶本和彦。高校2年な!病気でずっと病院暮らしなんだ。」
初対面にもかかわらず馴れ馴れしい彼のせいで、涙はいつの間にか止まっていた。とても病気には見えないが、という言葉を飲み込み琉唯も自己紹介をした。
「雨宮琉唯。私も高校2年。よろしく。」
「おう!」
このときの太陽の光をかきあつめたかのような眩しい笑顔に惹かれたのが琉唯の運命の1つ目の分岐点だったのかもしれない。
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