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第六章

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 フィークがリリーアネの待つ部屋へ行きドアを開けるとリリーアネはベランダに出ていた。ベランダの奥には庭園が広がっている。リリーアネはそれをずっと眺めていた。

 フィークはそんなリリーアネの後ろ姿をずっと見ていた。リリーアネの背中はどこか寂しそうだった。

 フィークは近くにあったソファに座りリリーアネが気づくのを待った。リリーアネは何か口ずさんでいた。フィークは耳をすませ聞こうとした。

「永遠の幸福…」

 その言葉にフィークはハッとした。それは、幼い頃に会ったイザベラという女の子が言っていた言葉だった。やはり、もしかするとリリーアネは…

 フィークは一瞬期待してしまった。違うに決まっている。あの時彼女の母親が読んでいたのはイザベラ。だが、今目の前にいるのはリリーアネ。決して同一人物ではない。

 けれど、もし隣国の姫だとしたらそこではイザベラと呼ばれていてクライス家にいる時はリリーアネと呼ばれていたのかもしれない。

 そんな期待をしてしまう自分にため息をついた。

 フィークがため息をしたのに気づいたのかリリーアネは振り向きフィークを見ると急いでソファの元へ行き座った。

「すみません。気づかずに…」

「いや、何も言わない俺も悪かった。それじゃあ本題に入ろう」

 フィークはそういい自分の考えをリリーアネにはなした。

 隣国に行くとなれば明日がちょうどいい。明日は隣国でパーティーを行う。そこにフィークは招待されている。それを使って城へはいる。リリーアネは名前を偽り、フィークの護衛として参加することになる。

    小さい頃から独学で剣術を学んでいたため剣を扱うのには自信があった。

 城に入れたらフィークは周りの公爵家などに挨拶しに行かなければならない。リリーアネはその間は誰とも話さずフィークについていく。挨拶が終わったあとはさっそく国王と妃様に挨拶しに行く。

 そこで、情報を得る。二人の間に子供はいたか。いたとしたらその子供は今どこにいるのか。怪しまれないように探る。

 これで作戦会議は終わり。話が終わりひと段落着くと思うと何か軽くなった。だが、本番は明日。今話したとおりに上手くいくかだ。隣国の国王がどういうものなのかよく分かっていない。

 それもそう。昔はお互いを尊重しあってきたが最近はほとんど会うことはなく、会うとしても一年に一度の今回のような大きなパーティーくらいだろう。

「明日上手くいくことを願うな」

 この作戦が失敗してもあまり害は無いがリリーアネの正体が闇雲になってしまう可能性がある。リリーアネ自身も自分が誰なのか知りたかった。

「頑張ります」

 そうフィークに言うとフィークは

「まあ、その無表情だと皆、君が考えていることなんて読み取れないだろうがな」

「それは褒めているのですか?それとも貶しているのですか?」

「褒めてるつもりだよ」

 リリーアネは不機嫌そうな顔でフィークを見つめた。どこか懐かしい感じがしたが気のせいだと思い、

「それじゃあ今の作戦で行きましょう」

「ああ、今日は休んでいいぞ。風呂は侍女が場所を教えてくれる」

「え?いいんですか?ここにいて」

「当たり前だろ、それに帰るところないだろ」

 フィークの言っていることは図星だった。確かに帰るところはない。

 フィークはリリーアネに言い部屋を出た。その後のリリーアネはお風呂にゆったりとくつろぎながら入っていた。クライス家での生活とは全くの反対だった。

 記憶がある中では六歳までは可愛がってもらっていたがそれ以降は皆一斉に冷たく接されるようになった。暖かいご飯も出されず自分で作るようになりお風呂なんてシャワーしか浴びさせてもらえなかった。

 ましてや、お菓子なんて一度も食べさせてもらったことはない。服などもみんなのお古を自分で縫って着ていた。

 そんな日々はもうなくなる。あの家にはもう帰りたくもない。そう考えると嬉しくてたまらなかった。一人で心の中で叫んでいると変人みたいだと自分で思い一旦心を落ち着かせた。

 しかし、フィークはここにいていいと言うがこの作戦が終わり、自分が隣国の姫だとしたら送り返すのだろう。逆に、隣国の姫ではなかったらここを追い出されるだろう。

 ここにいさせてもらっている理由は私の正体を知るため。分かったらとっとと出てけと言われるはず。

 ここを追い出された時ようにどこに住むか考えなければ。お湯に漬かりながら考えていた。

 その後はすぐに眠りについた。
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