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終章:エピローグ
小さな光
しおりを挟む白馬や老騎士ログウェルが明かす別未来の情報は、アルトリアに【世界の歪み】の現象と正体を理解させる。
それは創造神の権能を使った『黒』の七大聖人が、滅びる別未来を停止させながら過去の世界を新たに創造し続けていた事が原因だった。
『世界の歪み』とは、幾多も存在し『停止』している別未来が滅亡する事で招かれる爆発の現象。
別未来を含む全ての世界が巻き込まれる現象を止める為には、権能を持つ創造神が眠る事で動かしてしまった別世界の時間を『停止』させる必要があったのだ。
アルトリアは創造神の生まれ変わりである『少女』が眠り続けている理由をそう推測し、その場で聞く者達に明かす。
それを聞いた者達は重々しい様子を浮かべる中、マギルスは普段の陽気な様子を失くし、真剣な表情で問い掛けて来た。
「――……『黒』のやってた事が、『世界の歪み』を起こしてる原因だって言うの?」
「ええ」
「でも、それはアリアお姉さんの推測でしょ? 実際は違うかもしれないじゃん」
「……確かに、これは私の推測でしかないわ」
「だったら……!!」
「でも、この推測をした理由はもう一つの在る。……それが、『黒』の存在そのものなのよ」
「えっ!?」
「旧皇国に居た頃、『黒』が言ってたでしょ? 『一番最初の黒が、そうするよう世界の仕組みに細工をした』って。……どうして輪廻に還らず、黒の存在を世界に在り続けさせる必要があるの?」
「……!!」
「その結果、『黒』の……その肉体で自我を持ったリエスティアの魂内部には、夥しい量の瘴気が溜まっていた。あんな量の瘴気を溜め込むくらいなら、輪廻で浄化した方がマシなはずよ。……なのにそうしなかったのは、どうしても黒が『世界』に存在し続ける必要があったから」
「……それは……そうだ! 『黒』が言ってたよ! 友達との約束で、代わりに世界を見続ける事が! だから……!」
「その友達というのが、創造神だったんでしょ?」
「!?」
「世界を見続けるというのは、世界を『監視している』ことでもあるのよ。世界を滅び方を知る為に。……もしかしたら、私達が夜に見ていた星々の光が別未来の爆発で。この世界に押し寄せようとしている、滅びの光かもしれないわ」
「……っ!!」
友達である『黒』を庇おうとするマギルスだったが、アルトリアが発する言葉が過去の記憶に突き刺さる。
それは『螺旋の迷宮』で『黒』が語った、星の光とその膨大なエネルギーに関する話だった。
『黒』とアルトリアの話が重なり始めるマギルスは、それでも首を横に振りながら否定の言葉を続ける。
「『黒』は、そんな事になるって分かってて……するわけがないよ……!」
「……天界で、リエスティアの魂内部で瘴気に紛れてた『黒』の集合意識と話したわ」
「!」
「その『黒』は、マナの大樹が爆発しようとする前にこう言った。『黒の視た未来は変えられなかった』ってね」
「……それって……」
「『黒』は、世界が滅びる未来を視ていたはず。その意識集合体が、『未来を変えられなかった』と言っていたのよ。……おかしいでしょ? 実際は、こうやって止められたはずなのに」
「……!!」
「私はね、『黒』の未来視にも一定の制約が存在しているんだと思ってる。恐らく転生した自分の身の回りで起きることなら未来視が出来るんでしょうけど、例えば自分が関わらない事だと『別未来の出来事』しか参考に出来ないとかね」
「……それって、今まで『黒』がしてた未来予知が……別の未来で起こってたから、知ってたってこと?」
「ええ。それなら『黒』が、滅びる未来にしないよう先回りし続けられた事も理解できる。……別未来で起きた世界の滅び、その出来事の原因を『黒』は知っていた。だから私達やウォーリス、そしてログウェルという『世界の滅び』を招く者達に関わり、滅びを回避しようとした」
「……ッ」
「でも、それで回避できなかった事もある。だから過去の世界を作り直して、滅びる別世界を停止させて魂や実体を移動させた。何度も、何度も。――……結果、こういう図式になってしまった」
「……っ!!」
「私だって、『黒』が悪意を持ってこんな事をし続けたなんて思ってないわ。……その逆、『黒』が世界を滅ぼさないようにした結果が、こんな図式になっている。そういう事なのよ」
アルトリアは改めて別未来を重ね並べた図式の映像を見せ、自身の説が有力であることを説く。
そして『黒』の本位で起きている出来事ではないと改めて伝えると、マギルスは表情を渋らせながらも顔を俯かせた。
そうした話を聞いていたエリクは、敢えて重要な問い掛けを向ける。
「――……『世界の歪み』が何なのか、何となくは分かった。……だが、これはどうやって解決すればいい?」
「……」
「『少女』が目覚めると、別未来が動き出して滅びの爆発が始まる。……なら、起こさない方がいいのか?」
「……いいえ、もう遅いかもしれない」
「魔大陸の王者達が、目覚めさせる為に動いているからか」
「違うわ。さっき言ったでしょ? 夜空に浮かぶ星々が、世界の滅びによって起こる爆発の光かもしれないって」
「!」
「既に爆発は起きたのよ。五百年前に『黒』が死んで、創造神の生まれ変わりである『少女』に七つ全ての権能が集まって、動き出した別未来のどれかが爆発した。……その衝撃波が別空間や次元を超えて、他の別未来に誘爆した」
「……それでは、もう……」
「別未来の爆発は、もう起こってしまっていると考えた方がいい。『少女』はそれを止める為に、権能を解体して創造神の魂を肉体に留めて封じる為に、眠り続けるしかなかった。……数多の世界が誘爆しながら押し寄せて来る超新星爆発のエネルギーなんて、誰が止められるのよ……っ」
「……」
苦々しい面持ちを浮かべるアルトリアは、五百年前に創造神が復活した事で別未来が爆発している事を伝える。
それを聞いた瞬間、エリクやケイル、そしてマギルスは表情を険しくさせながら事態の深刻さにようやく気付いた。
そして改めて、映像越しに聞いている『青』にアルトリアは声を向ける。
「『青』。私の推測が正しいとして、連鎖して起こる超新星爆発の衝撃波からこの世界を……星を守れる方法は、何かある?」
『……無い』
「!!」
『少なくとも今の人間大陸の文明技術では、超新星爆発から星を守れる程の強度と巨大な結界を張れる技術力は無い。……いや、例え旧人類の文明であっても。それは不可能であろう』
「……そうよね」
『別空間や次元に星ごと移動させたとしても、幾多の超新星爆発はそれすら突破し襲ってくる可能性が高い。……防ぐ事も、逃げる事も無理だ』
「……『少女』を起こしても殺しても、結局は動き出す超新星爆発に巻き込まれるだけ。……眠らせ続けて、現状を維持するのが精一杯……」
『そうだ。……だが、時間はそれほど残されていない可能性もある』
「!」
『先程から、お前は少女と呼ばれる者が創造神の生まれ変わりだと考えているらしいが。『少女』の存在が忘却されてから、既に五百年が経過している。だとすると、その者は信仰を必要とする『到達者』ではないはずだ』
「……確かに、そうね……」
『仮にその者が長命の種族であっても、飲まず食わずで生き続けるのは限度がある。……聖人であっても、長くて千年。魔族の中で最も長命と言われるハイエルフですら、二千年の寿命がせいぜい。メディアのようなマナの実を肉体としていても、生命の補充がされなければ実は枯れて魂も朽ち逝くはずだ』
「……つまり、その『少女』が眠ったまま寿命が尽きたら……」
『別未来の時間は動き出し、連鎖して来る超新星爆発が押し寄せる。……そうなれば、抗えぬまま世界の滅びを待つしかない』
「……!!」
数多の知識を有する『青』は、時間的猶予すらも残されていない事を伝える。
それを聞き表情に険しさを深める各々が、小さな溜息を零した。
そうした最中、訝し気な表情を浮かべながら話を聞いていたエアハルトが、両腕を胸の前方で組みながら口を刺し挟む。
「――……別未来だとか、ビックバンだとか。よく分からん話が多過ぎる。……だが要するに、外から凄まじい力が押し寄せて、この世界を破壊するという事なのだろう?」
「……ええ、そうよ」
「だったら、その力を飲み込むなり迎撃すればいいだけだろう。それがそんなに難しい話か?」
「……その力をそう出来る手段が無いから、さっきから考えてるんでしょ……」
呆れ気味に声を返すアルトリアは、小さな溜息を漏らす。
するとエアハルトの視線が横へ動き、エリクに注がれながら告げた。
「この男や魔獣王のような、巨大な能力を持った到達者ならどうだ?」
「……!」
「貴様達はこれから、魔大陸の王者達に会いに行くのだろう。だったら魔大陸の王者を集めて、その力を打ち消せないのか?」
「……それは……」
エアハルトの提案に対して、アルトリアは渋る表情を強める。
すると映像の向こう側に立つ『青』が、その理由を明かすように伝えた。
『……到達者は、確かに星一つ分のエネルギーに匹敵する能力を持っている。それが一致団結し協力する迎撃が実現すれば、防げる可能性はある』
「ならば問題は無いだろう」
『いや。星の爆発によって生じる衝撃波は、到達者の能力と同質のはず。その場合、相殺に失敗すれば到達者ですら死ぬ可能性が高い。……それに魔大陸の到達者達が、協力して応じるかは……』
「……別問題よね」
二人は互いに神妙な面持ちを深め、超新星爆発の衝撃波に対して到達者ですら死ぬ可能性を語る。
それを説明した上で数多くの到達者達に協力させるのは、実質的に不可能に近いと考えていた。
だからこそ表情を渋らせるアルトリア達に対して、その提案に便乗するようにエリクは前へ踏み出して告げる。
「――……方法があるなら、やってみよう」
『!』
「エリク……!」
「何もしないよりは、ずっといい。……それに、アリアの推測が当たっているにせよ、外れているにせよ。元から、魔大陸の王者達と話をする予定だった。その内容に一つ加わるだけだ」
「……でも、それは……」
「大丈夫だ。――……俺も到達者なら、それに協力しよう」
「……ッ」
エリクは自身も到達者であると理解した上で、エアハルトの提案に賛同する。
それを見たアルトリアは更に渋る表情を強めると、その言葉を援護するようにケイルやマギルスも口を出した。
「……エリクの言う通りだ。防げる手段があったのにやらずに後悔しちまうよりは、やって後悔した方がマシだな」
「だね。僕もそれに賛成!」
「貴方達……」
「それに世界ごと滅ぼしちまう衝撃波が押し寄せて来るなら、到達者達だって他人事には出来ないはずだ。自分も死ぬ可能性があるんだからな。交渉する上で、その情報は成功する確率が更に高めるのは間違い無いだろ?」
「……そうね」
「だったらやろうぜ。アタシ等も、それに最後まで付き合ってやるからさ」
「そうそう」
ケイルとマギルスは協力を約束し、魔大陸へ赴く為の旅に改めて同行する事を決める。
それを見たアルトリアは僅かに顔を伏せると、決意の表情を見せながら伝えた。
「……分かったわ。でも、第二計画を用意しておく必要がある。――……『青』!」
『分かっている。箱舟計画を急ぎ進めよう』
「……ノアズアークとは、なんだ?」
『儂とアルトリアで検討していた、天変地異の対策だ。魔鋼で造った巨大な宇宙船を作り、星の生命を可能な限り回収し逃亡する計画でもある』
「!!」
「そんなこと、可能なのかよ……!?」
『その基本設計となっているのが、お前達の乗っている飛行船だ』
「なに……!?」
『魔鋼を膨大に用いれば、時空間魔法で無尽蔵に空間を広げられる。そうすれば理論上、この世界に住む生命を全て収容することは可能だ。それに、世界ごと収納して逃げる事も可能かもしれん』
「……!!」
『本来は天変地異によって世界が破壊された際の予備計画だったが、素材となる魔鋼が足らず八年前の事件には間に合わなかった。しかしゲルガルドが隠していた魔鋼を大量に得られた今、アルトリアの基本設計があれば大規模な宇宙船の建造を進められる』
「万が一の場合は、それで押し寄せて来る衝撃波からも逃げるわ。……まぁ、それも無駄かもしれないけど、やらないよりはマシなんでしょ?」
「ああ」
「ま、そうだな」
「そうそう!」
『青』とアルトリアが述べる箱舟計画を聞く仲間は、驚きを浮かべながらも小さな微笑みを浮かべる。
そしてケイルは呆れるような声を呟き、それに同意するようにエリクやマギルスも言葉を続けた。
「……しかし結局、防ぐか逃げるしか手段はないってことか。旅してた頃と変わらねぇな」
「だねぇ」
「だが、今度はアリアも一緒だ。俺達が揃えば、今までのように何とかなる」
「そうね、私達でやりましょう! ……そこの新入りも含めてね」
「……フンッ」
互いの提案を受け入れる形で、世界の滅びを防ぎ回避する為に改めて意思を合わせる。
それを聞くエアハルトは鼻息を零し、その意見に反対する様子も無かった。
そしてこの日、人間大陸から小さな光が飛び立つ。
安住の地を求めて旅立った彼等の旅は、こうして表舞台から幕を閉じたのだった。
※
『虐殺者の称号を持つ男が元公爵令嬢に雇われました』をご覧頂き、ありがとうございます。
今回の話にて、当作品の本編は幕引きとなります。
この後には『あとがき』が少しだけ続きますので、御興味がある方は御覧いただければ幸いです。
これまで彼等の物語を読み続けて頂いた皆様。
そして感想を伝えて頂いた皆様。
誤字脱字などに気付き教えて頂けた方々へ。
ここまで本当に、ありがとうございました。
いつか輪廻で御逢い出来る機会があれば、どうぞ宜しくお願いします。
ではでは(`・ω・´)ゝビシッ
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