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終章:エピローグ
約束の年
しおりを挟む新皇帝ユグナリスの即位式と結婚式が行われたガルミッシュ帝国は、三日後に祭典の終わりを告げる。
その間にも四大国家の連盟国から赴いた各代表者同士での話し合いが行われる場が設けられた内容について、ここに記そう。
ユグナリスは同盟国から赴いた首相アスラント=ハルバニカと話し合い、ガルミッシュ帝国で保有している『赤』の聖紋が刻まれた宝剣の存在について明かす。
そして同盟国に宝剣を返却すべきかという問い掛けを行うと、アスラントは首を横に振って受け取りを断った。
現在の同盟国には『赤』の聖紋を受け継ぐべきルクソードの血族が存在せず、また聖人も一人しか居ない。
更に『赤』の聖紋が刻まれた宝剣を管理し保管する上で、現在の首都となっている元皇都では守り切れるか不安が大きいと述べた。
しかし反対に、帝国にはルクソードの血縁者と能力を扱える者が幾人も存在している。
更に新帝都の防犯機構が同盟国よりも厳重である事を理由に、『赤』の聖紋を管理するのに適しているとも伝えた。
そうした事を述べた後、逆にアスラントはある提案を向ける。
「――……新皇帝陛下。いずれ同盟国は、四大国家の代表国から外れるつもりです。そして代わりとなる代表国には、帝国を推そうと考えています」
「えっ」
「先程も述べた通り、同盟国には七大聖人となれる人材がいません。逆に帝国には、ルクソードの血族と『赤』の聖紋を有している。代表国となる資格は、十分に御有りです」
「し、しかし。帝国は貴国の……元皇国の植民国ですよ? なのに、それは……」
「その点は深く考えずとも構いません。親国である元皇国が体制自体を変えてしまっているのです。そういう意味で、皇国の源流を帝国が色濃く引き継いでいる。それに各国も、今回の訪問で帝国が連盟国の中で最も重要な位置にある国だと理解したはずです」
「じゅ、重要……。だったら、それこそ代表国から外れた同盟国は、不利益になるのでは?」
「確かに代表国であるという利益は無くしてしまうかもしれません。しかし大陸の位置的にも、こちらの大陸から宗教国家や他国からの物流は同盟国を必ず経由する事になりますから。純粋な利益の問題も起こる事は無いでしょう」
「……」
「他の方とも御相談して、一案として御考えください。もし御了承を頂ければ、こちらでも準備を進めさせて頂きます」
「……分かりました、相談してみます」
二人は同盟国と帝国の立場を逆転させかねない提案をそうして話し合い、互いの国へ持ち帰る形で思案を行うことになる。
そして暫くは『赤』の聖紋は同盟国で管理を行っているという嘘情報を流布する事で、代表国としての体裁を保つ事が決まった。
更に各国の代表者達と対談する場を設けたユグナリスは、各国の現状と求めているモノを理解していく。
一国の皇帝として自身の未熟な見識を理解しているユグナリスに対して、それぞれの代表者達は穏やかな対応で会話を行ってくれた。
そうした対談が終わった後、最後に行われた議会においてローゼン公セルジアスがある情報を明かす。
それは非加盟国の【血盟の覇者】から送り込まれた暗殺者を捕らえ、その暗殺対象が教皇ファルネであるという情報だった。
各国の代表者達はそれに驚き、更なる情報を聞かされる。
暗殺者の手引きを行ったのが二つの連盟国から訪れた代表者とその随行者の二名であり、その人物達も既に捕らえ拘束していた事も明かされた。
それを聞いた各国の代表者達からは、暗殺に関わった連盟国へ代表者達への非難が挙げられる。
事前にその情報を聞き自粛していた関係国の代表者と随行者達は、それを甘んじて受け入れる様相を示した。
しかしそうした批判の流れを遮るように、セルジアスはその暗殺が行われた真の問題について述べる。
「――……確かに代表者や随行者が暗殺の手引きを行ったというのは、その国の責任でもあります。また帝国においても、暗殺者の侵入を許してしまった事を深く反省しております。しかし最も問題にすべきなのは、非加盟国の組織が連盟国の代表者にも手が届く工作を行っていたという事実です」
「!!」
「我々は非加盟国について、甘い認識をし過ぎていました。暗殺者が帝城へ侵入する為に用いた転移陣も、見事な出来栄えだったそうです。更に暗殺者の武装には、四大国家で製造を禁止している拳銃なども有りました」
「……ッ」
「更に手引きを行った二名は、麻薬中毒者となっています。……宗教国家に限らず、非加盟国の毒は既に連盟国の中に深く食い込んでいる。我々はそれを再認識し、徹底的に非加盟国の介入とその目的を阻止する為に団結を強めなければなりません」
セルジアスはそう述べ、各国の代表者達に連盟国同士の関係強化と、非加盟国に対する警戒強化を強める事を提案する。
それについて各国から異議は出ず、また手引きに関係してしまった二つの連盟国もそれに無条件で応じる形で賛成を示した。
これにより宗教国家に限らず、非加盟国からの介入調査と物流の遮断を各国でも求められる。
それを行う為に各代表国の協力と連携する方法を重視する提案が成されたことで、改めて議会の場は非加盟国への対策に本腰を入れる姿勢となった。
ただ『非』を責めるのではなく、その『非』を持って次の対策強化を強く提案するセルジアスの言葉は、各国の代表者達から大きな支持と理解を得る。
その結果として、その彼が補佐する新皇帝ユグナリスとガルミッシュ帝国の立場は連盟国の中でも代表国に継ぐ威厳を示した。
そうして一波乱が起きた祭典は、結果として四大国家の結束を強め、ガルミッシュ帝国の評価を高くさせる。
帰国する代表者達には帝国軍が護衛として付き、更に暗殺者とその手引きをした者達も護送し、後の裁判によって犯罪者奴隷として扱われる事になった。
それから四大国家に再加入した宗教国家は、連盟国の支援を受けて本格的な非加盟国の介入撲滅が始まる。
更に連盟国に入り込んでいた裏組織が及ぼしている影響も匿名情報によって次々と判明し、一斉の検挙と鎮圧が行われた。
しかしそうした事態において、非加盟国側からの抵抗は予想される以上に少ない。
それを不思議に思う者も多かったが、既に非加盟国を裏で牛耳っていた【血盟の覇者】が壊滅状態にあり、非加盟国同士の兵力と生産能力が大きく失われている事を知る者は少なかった。
更に同時期、非加盟国に攫われ捕らわれていたという行方不明者が続々と発見され保護される。
これにより非加盟国の悪辣な実情が明らかになり、四大国家から非加盟国への逆介入が開始される事になった。
そうした流れを作り出したのは、問題児の妹と優秀な兄が互いの行動を意図を読み取った上での連携だったと言ってもいい。
その二人に翻弄されながらも短期間の内に非加盟国を抑え終えた四大国家は、数年後に恒久的な平和を迎える事に成功した。
そうした情勢の中、新皇帝ユグナリスの即位式と結婚式から一年後を経た帝国においても、様々な変化が起きていく。
まず話題となったローゼン公セルジアスは、実はセンチネル準騎士爵領を治める女当主パールと第二子を儲けていた事が判明する。
これについては当人達も既に承知の上であり、二人の間には五歳となった長男ラインと、三歳になる長女ダイヤが帝国貴族達に明かされた。
これが判明した切っ掛けは、新皇帝の即位式典が行われた年になる。
その即位式典にセンチネル準騎士爵として参列していたパールは家族として長男と長女を伴っており、その子供達がセルジアスを父と呼んでしまったのだ。
その段階でセルジアスに子供がいるという事が帝国貴族達の中でも判明し、しかもそれが飛竜を操る樹海の女当主だという情報が帝国貴族達の中で驚愕を生ませる。
そしてその後、長男を母親が、長女を父親がそれぞれに引き取るという話も共有されることになった。
そうした驚きがようやく冷めようとする二ヶ月後、后妃リエスティアが第二子を授かった事が判明する。
時期的にそれが結婚式の前に行われた結果であろうと周囲は察しながらも、今度の皇子については帝国貴族一同から贈り物と祝いの言葉が届けられた。
すると后妃の主治医として、アルトリアが魔導国から一時的に帰国する。
しかしそれを公にはせず、転移魔法を駆使して両国を行き来するアルトリアはリエスティアの経過を確認し続けた。
そして八ヶ月後、アルトリアの介助を再び受けた后妃リエスティアは第二子である男児を出産する。
その父親となったユグナリスは男児を『レクセルス』と名付け、皇族名を『偉大な騎士』と定めた。
「――……レクス。レクセルス=ガラハット=フォン=ガルミッシュ。この剣を受け継ぐ事があるなら、この皇族名がきっと相応しいはずさ」
「……ぁぅー」
名前を決めて両腕に収まる第二子を見下ろすユグナリスは、自分の携える宝剣を継ぐ時のことを考える。
そして師匠である偉大な騎士の意思を継ぐ者として、その子を強く育てる事を決めた。
それから出産の経過を確認を終えたアルトリアは、一ヶ月後に帝国から姿を消す。
更に一ヶ月後、シエスティナの傍に留まり続けていたマギルスも帝国から旅立つ事を告げたのだった。
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