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終章:エピローグ
公爵の休暇
しおりを挟む旧ルクソード皇国において『赤』の聖紋を宿したシルエスカの話により、ガルミッシュ帝国とユグナリスが抱えた聖紋は解消される。
それからログウェルの事を思い出し気落ちするユグナリスと共にリエスティアが退席すると、その場にはエリクや皇后クレア達、そして水晶越しに映るシルエスカ等だけが残された。
すると視線を水晶の方へ向けたエリクが、アズマ国に居るケイルへ話し掛ける。
「ケイル、そっちでは何か変わりはあったか?」
『ん? いや、特には目立つような変化は無いな』
「そうか。アリアからの伝言で、注意してくれと言われている。何かあったら、気を付けてくれ」
『注意?』
「……何の話をされているのですか?」
エリクの注意を聞いたケイルとセルジアスは、互いに疑問の声を浮かべる。
その意味に関して、代わるように別方向の水晶に映し出されている『青』が答えた。
『緑の七大聖人だ』
「!?」
『緑を継承していたログウェル亡き後、その聖紋が行方を途絶えている。話を聞く限りでは、亡骸にも聖紋は消えていたそうだ』
「……では、誰かに『緑』の聖紋は移った……?」
『儂はそう考えている。それに最も不可解なのは、消えたガリウスとバリスだ』
「!」
『緑の聖紋には、前任である七大聖人達の人格が模倣し保存されているらしい。それで精神体ながらも実体できる術を得ていた初代と二代目が、あの戦いの途中で姿を消した』
「……ならばログウェル殿の死によって、その二人も消えたのでは?」
『可能性の一つとしては考えられる。しかし楽観は出来ん。……何より、奴等の語っていた緑の能力が本当であれば。もう一つの可能性も浮かぶ』
「可能性?」
『死んだログウェルの人格もまた、聖紋によって模倣されている可能性だ』
「!?」
「それは……!!」
『ログウェルの肉体は死に、魂は権能となってエリクの権能に吸収された。しかし四代目となる者に緑が継承されていれば、模倣されたログウェルは初代や二代目と同様に精神体で復元される可能性は高い。……儂はそれを懸念しアルトリアにも伝え、それを経由しエリクに異変が起きていないか確認させている』
「……その話が本当であれば。今のユグナリスには、聞かせられませんね……」
『青』が述べる危惧について、その場の全員が驚き以上に神妙な面持ちを浮かべる。
ログウェル亡き後の『緑』の聖紋は右手から消え、彼等が知り得る者に宿った様子は無い。
ならば彼等ですら把握していない聖人に宿っている可能性も考えている『青』もまた、その人物を探し問題を起こしていないか確認し続けていた。
そうした話を聞いた皇后クレアは、皇帝代理として改めて言葉を発する。
「……分かりました。そのような者を帝国でも見つけましたら、貴方に報告しましょう。『青』の七大聖人」
『頼む。だが継承者を見つけても、迂闊に手は出すな。既に判明した権能を持つ者には宿っておらぬようだが、どのような思想を持った聖人に付けられたか分からぬからな』
「はい」
『では、儂はこれで失礼する。また何かあれば、知らせてくれ――……』
辞する言葉と共に、映し出されていた『青』の姿は水晶から消える。
それを聞き僅かに頭を下げて礼を行った皇后クレアは、今度はアズマ国側の面々が映し出されている方へ視線を向けた。
するとそれに応じるように、溜息を漏らしたシルエスカも話し始める。
『こちらでも、そうした者を発見したら青に伝えよう。ナニガシ殿、それでいいか?』
『うむ、別にかまわんぞ』
『私もしばらくはアズマ国に滞在している。何かあれば相談には乗ろう、クレア』
「ありがとうございます、シルエスカ姉様」
『……それと、ナルヴァニアの件。お前には、すまない事をした』
「!」
『お前は、ナルヴァニアを特に慕っていたからな。……私はさぞ、ナルヴァニアに恨まれていた事だろう。不甲斐ない姉で、本当にすまない』
「……いいえ。ナルヴァニア姉様であれば、きっと御許しになってくれます」
『そうだといいがな。――……では、通信を切る。また何かあれば』
「はい」
そう話を交えた後、シルエスカ側で通信は切られる。
すると水晶から光が消え、薄暗くなった室内にセルジアスは魔道具の照明で明かりを灯した。
それから三人になった場で、エリクはセルジアスに視線を向けながら問い掛ける。
「……ガゼルという貴族とは、これから連絡するのか?」
「いえ、昨晩にエリク殿の要件は御伝えした後、夜に返答を頂いております」
「そうか。ドルフは今、何処に?」
「各領地を繋げる舗装工事に伴いガゼル伯爵家の増員として、センチネル準騎士爵が治める南の樹海へ赴いているそうです」
「……樹海を治める、センチネル?」
「はい。四年前の天変地異で貢献したパールというセンチネル部族の代表者として、帝国から爵位と共に樹海を治める権利を与えさせて頂きました」
「パール……。……あのパールが、帝国の貴族になったのか?」
「パール殿を知っておられるのですか?」
「ああ。……そうか、樹海か。……それなら、行ってみるか」
「こちらやガゼル伯爵領地で、ドルフ氏を御待ち頂くことも出来ますが?」
「いや、樹海もどうなったか見てみたい。実際に行ってみる」
「ではガゼル伯爵家へ連絡して貴方の来訪を伝え、案内役を御用意させましょう。馬車もこちらで御用意させて頂きます」
「そうか、なら頼む」
『闇』属性魔法を得意とするドルフに教えを受ける為に、エリクは帝国領南方の樹海へ赴くことを決める。
それに応じるように準備を協力するセルジアスに対して、今度は皇后クレアが話し掛けた。
「……セルジアス君。貴方もエリク様に同行して、樹海へ行ってはどうかしら?」
「えっ」
「その方が伯爵家にも話は通し易いでしょうし。ウォーリス君……じゃなかった、フロイス卿が業務の大半を担ってくれている今なら、休む事も出来るでしょう?」
「しかし、私には皇后様の補佐という役目が……」
「帝国の状況も今は落ち着いているし、各領もしっかりと機能しているから大丈夫よ。それに、貴方はちゃんと休みは取りなさい。根を詰め過ぎるのは、貴方の悪い癖よ。……それに、気になる方も樹海には居るでしょう?」
「いや、それは……」
「これは皇帝代理である皇后からの命令です。領地の管理も補佐の役目は、フロイス卿や別の方に御願いします。いいですね?」
「……分かりました、仰せに従います」
微笑む皇后クレアの命令によって、渋々承諾したセルジアスも南方領地の樹海へ赴く事になる。
それ自体にエリクは反対せず、帝国内の同行者として頼りになる公爵を得る事になった。
それから三日後。
休暇に伴いそれぞれの者達に業務の引継ぎを済ませたセルジアスは、エリクと共に数名の騎士を護衛に伴いながら馬車に乗る。
そして一行はガゼル伯爵領地を経由し、南方に広がる樹海へと足を進めたのだった。
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