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終章:エピローグ
不安要素
しおりを挟む幾度も続いた事変の復興を続ける各国に戻った者達は、各々の生活に戻り始める。
その一つに含まれるホルツヴァーグ魔導国においても、僅かな変化が存在していた。
魔導国の中心に位置する魔導機関であり、多くの魔法師達が学び舎とする魔法学院。
別未来では黒い塔が生え破壊されていた施設だったが、変化した未来では健在な風景を見せていた。
その魔法学院において、講義を終え昼食時になって賑わう学生達の居る教室が在る。
するとその一室の窓際席へ座る長い茶髪の女生徒は、講義用の資料を揃え抱えながら席から立とうとしていた。
そんな彼女に、同い年頃に見える一人の女生徒が話し掛けて来る。
「――……あの、アリスさん」
「はい?」
「良かったら、一緒に昼食どうかな?」
「……ごめん、ちょっと外せない用事があって。また誘ってくれると嬉しいわ」
「あ、うん。また今度ね」
誘われたアリスという名の女生徒は、そう言いながら申し訳無さそうに微笑み教室から出て行く。
そして誘った側の女生徒は残念そうな表情を浮かべて見送ると、その傍に歩み寄る友達の女生徒達に話し掛けられた。
「――……フラれたわね、ご愁傷様」
「フ、フラれたって……そういうんじゃないよ! 同じ魔導工学部だし、色々と話したい事とかあって……!」
「はいはい。……それにしてもあの子、入学試験では科目試験と実技試験は全満点なのに。どうして魔導工学に来たのかしら? アレだけの腕前なら、魔導技師なんかならなくても良さそうなのに」
「きっと魔導工学が好きなんだよ。……はぁ、ちゃんと友達になりたいなぁ」
「そう? なんかあの子、周りに壁作ってるって感じがするんだよねぇ」
「そういうこと、影で言っちゃ駄目だよ!」
「はいはい。昼飯いこっ」
「うん」
二人の女生徒はそう話し、自分達も教室を出て昼食へ向かう。
一方でアリスという名の女生徒は、魔法学院の研究室の一室へ赴き、そこで手元から鍵を出しながら教室の扉を開けた。
そして研究室の中に入り、更に奥に在る扉を別の鍵で開く。
するとその一室の奥へ向かい、薄く敷かれた転移魔法陣の上へ身を置きながらその場から転移した。
転移した先は、幾多の魔導装置が繋がれた地下施設。
そしてその先にある扉へ向かい開けると、その一室に居た人物に呼び掛けた。
「――……また借りるわよ、『青』」
「……いつも通り、好きに使え」
「そうするわ」
アリスという女生徒はそう言いながら、そこに立つ青年姿の『青』に無遠慮な話し方をする。
すると一室に設置された映像装置と操作盤が置かれた席へ彼女は座ると、そのまま装置を起動させた。
そして慣れた手付きで操作盤を扱い、映像装置にあるモノを映し出す。
それは何かを書き記した設計図であり、その場に居る『青』も興味深そうな様子で見ながら声を掛けた。
「……設計は順調か」
「まだ七割。設計が仕上がっても、実際に作って部品を作って組み立ててから調整が必要ね。……別未来みたいに既存品を作るのとは、難易度が違うし」
「ふむ。……それにしても、新造艦とはな。今度は世界を滅ぼす戦艦でも作るつもりか?」
「まさか。でも魔鋼は豊富にあるんだし、私の知識と発想力を詰め込んだ最高の機体を作るつもりよ」
「……設計図が完成したら、必ず儂に見せろよ」
「何よ、信用してないの?」
「当たり前だろう。お主の事だ、どんな危険なモノを作るか分かったモノではない。……魔導国にお主を留まらせておる理由も、監視がし易いからなのだぞ。アルトリア」
「はいはい、分かってるわよ」
そう言いながら『青』と話すアリスは、自身の長い髪を両手で後ろに纏めながら茶色の髪を掬い上げる。
すると次の瞬間、手で重なり通り過ぎた髪が茶色から金髪へ変化し、目の色も薄黒から青い瞳になった。
偽装魔法が解いた女生徒は、金髪碧眼のアルトリアへ変わる。
そして昼休みを利用して立体映像を投影し、そこに一隻の艦を映しながら設計を始めた。
この一年間、アルトリアは師匠である『青』が所属する魔導国に居る。
しかし身分や姿を偽装させ、魔法学院の魔導工学部に所属する一生徒として学生生活を送っていた。
その理由の一つとして、あの『大樹事変』が挙げられる。
母親の策略によって戦う自身の姿を映像越しに人間大陸の人々に目撃されてしまったアルトリアは、その素性が大きく知れ渡ってしまった。
その為に故郷である帝国へ戻るのも憚られ、こうしてほとぼりが冷めるまで身を隠している。
その隠れ蓑となったのが師である『青』の下であり、彼の計らいによって彼女は魔導国へ赴く。
更に『青』の伝手を利用して国籍と身分を偽り、魔法学院の生徒として席を置く事となった。
これについては彼女の兄であるローゼン公セルジアスも了承している状況であり、アルトリアの管理は師である『青』に任せている。
しかしただ漠然と学生生活を謳歌しているはずもなく、アルトリアはある目的の為に魔鋼を使った最高の艦船を作り出そうとしていた。
そんな中で、アルトリアは設計図に目を向けながら『青』に問い掛ける。
「そういえば、箱舟はどんな感じ?」
「ダメだな。雷撃を受けて重要な装置と部品は悉く破壊されておった。全てな」
「そう、じゃあ修繕は無理ね。全て屑鉄にしちゃいましょ」
「再製造するか? 各国からも、復興の為に求められてはいるが」
「……止めましょ。過ぎた技術を持たせると、厄介な事に使おうとする連中も必ず出て来るだろうし。希望の箱舟は、もう人間大陸には要らないでしょ」
「同意見だ。……問題が出て来る可能性があるとしたら、テクラノスの魔導人形か」
「ああ、アレね。……人工知能を持った魔導人形。本当にアレが完成するとしたら、ちょっと厄介かも」
「マシラ王やゴズヴァールにも、テクラノスの研究は注意して監視するよう伝えてはいるが。その脅威を実際には体感しておらぬ故、儂等が上手く管理せねばな」
「そうね」
そう話しながら現在の状況において懸念点を話し合う二人は、自分達が生み出した魔導兵器に関する話をする。
すると『青』は思い出すように傍の操作盤を扱いながら、一つの映像装置にある人物の姿を映し出しながら問い掛けた。
「危険という意味では、奴もだ。――……お主の母メディア。今は何処で何をしているのか、【結社】を使っても全く情報が入らん」
「……でしょうね」
「今は大人しくしているようだが、いつまた突拍子も無く動き出すかもしれん。……奴がまた何かを起こす前に、捕えるのが理想だが……」
「無理ね。今の私や貴方じゃ、返り討ちになるのがオチよ」
「そうであろうな」
二人はそう話し、映像装置に出力された銀髪紅眼のメディアを見る。
老騎士ログウェルの目的に共謀し世界の破壊を目論んだ彼女だったが、今現在ではその行方が不明になっていた。
しかしそうした経緯となっているのも、一年前に起きた『大樹事変』が終わった直後に出来事は遡る。
それは【始祖の魔王】がマナの大樹へ姿を戻し、その器となっていたメディアも自身の姿と自我を取り戻していたからだった。
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