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革命編 八章:冒険譚の終幕
神話の到来
しおりを挟む復活した二人の到達者が戦う世界は、様々に荒れ狂う異常現象に襲われる。
それは世界各地の人々に混乱と動揺を抱かせ、混迷する事態へと発展させていった。
各国の統率者達はそれを鎮めようとしながらも、根本となる異変の解決までには至れない。
人間大陸の最大戦力とも言える聖人や魔人達ですら、到達者同士の戦闘に介入する事すら出来なかった。
そしてその動揺と混乱は、ガルミッシュ帝国の南方領地に棲む樹海の部族にも及んでいる。
彼等は元天界に棲んでいた民の末裔であり、真の天変地異を伝承において伝えられていた為、部族のほとんどが荒れ狂う天候と鳴り止まぬ地響きを治める為に祈りを向けていた。
「『――……神よ……どうか、御鎮まりを……』」
「『この地を、この世を、壊さないでください……』」
この異常事態が到達者の影響である事を知る部族の者達は、それを鎮める為に祈り続ける。
それは元大族長である老人や傍仕え達が中心となり、各集落の中央に集めながら行われていた。
しかし、その祈りの集まりに参加しない者達もいる。
それは元黒獣傭兵団の団員で樹海に残った者達であり、そうした部族の人々に声を掛け続けていた。
「――……何やってんだっ、皆……!?」
「祈ってる場合じゃねぇだろ! あちこちで地滑りや樹木の倒壊が起きてる。出来るだけ倒れる物が無い、広い場所に避難するんだよっ!!」
「頼む! 言うことを聞いてくれっ!!」
樹海の部族達と良好な関係を築けていた元団員達だったが、この異常事態に部族のほとんどが祈り留まる姿に困惑しながらも避難を呼び掛ける。
比較的に若い部族の者達はその言葉を聞いて悩む様子を見せながら応じる者も幾人か居たが、高齢の者達はそれを聞き入れず、ただこの異常事態が終わるのを祈り続けていた。
こうして樹海の部族達を避難させる為に奔走する者達が居る傍らで、この事態を解決する為に自ら身を乗り出す者もいる。
それは出産を終えたばかりの部族の女性であり、現在の大族長を任せられている女勇士パールだった。
「『――……何をしている! 彼等の言う通り、早く避難しろっ!!』」
「『お、大族長……!』」
「『でも……!』」
「『避難しながらでも、神に祈る事は出来るっ!! まずは自分達の安全を確保してからだっ!!』」
槍を持ちながら祈る者達に対して叫ぶパールは、この樹海を任される大族長として、そして帝国貴族の一員として成すべき事を行う。
同じ樹海の部族として異なる様子を見せる彼女の行動も、三年前に起きた帝都の襲撃を体験し、その時に行動していた自らが選んだ男を倣ったからこそだった。
そして大族長であるパールの呼び掛けに、迷っていた若い部族達も動き始める。
すると老齢である部族の者達を祈りから起こし、予め定められた避難場所へ移動を誘導し始めた。
すると元団員達は、自分達の避難勧告に応じてくれたパールに感謝を伝える。
「ありがとう、協力してくれて」
「いや。――……父や動ける勇士達にも、各集落の避難をさせるよう向かってもらった。お前達に、中央集落の避難を任せてもいいか?」
「あ、ああ。……任せるって、アンタはどうするんだ?」
「私は、アリスの――……この事態が起きている場所に行く」
「えぇっ!? ――……あっ、おいっ!!」
パールはそう告げると、中央集落の避難を彼等に委ねる。
そして自らは異常事態が起きている場所へ向かう為に、闘技場に居る飛竜の巣へ向かった。
出産を終えたばかりで鈍い痛みと気怠さが残るパールは、それに耐えながら凄まじい速さで闘技場に辿り着く。
そして辿り着いた観客席から舞台に置かれた三つの卵を寄り添う飛竜に呼び掛け、駆け跳びながら着地した。
「飛べるかっ!?」
「……」
「ん、どうした……?」
飛竜は傍に駆け寄った主人に顔を向けず、ただ上空を見ながら唸り声すら鳴らさずにいる。
自分の呼び掛けに応じる様子が無いのを察したパールは、飛竜が見ている方角へ視線を向けた。
そちらには暗雲が立ち込め、雷鳴が鳴り響く幾度も光が落ちている空だけが見える。
しかしその暗雲の先に、更に濃く浮かび上がる巨大な影が存在していることに気付いた。
「……なんだ、アレは……?」
パールはそう呟き、暗雲の先に存在する巨大な影を凝視する。
するとその時、その暗雲を吹き飛ばすような巨大な突風が巻き起こった。
「ッ!!」
「……ガォオオンッ!!」
「な、なんだ……何か、空にいるのか……!?」
凄まじい突風が樹海の地にも届き、それを受けたパールは表情を歪めながら片腕で顔を覆い守る。
しかし飛竜はそうした状況で、まるで何かに呼び掛けるような咆哮を発した。
すると吹き飛んだ暗雲の先に、パールはその存在を目撃する。
「……アレは……何だ……?」
パールが見たのは、一大陸にすら匹敵するような巨大な黒い影。
しかしそれが影ではなく、何か生物の皮膚である事を理解した。
それはパールや飛竜だけではなく、樹海の部族、そして上空を見ていた帝国の人々も目撃している。
その全長は何千キロにも及び、地上からでも全体を一望することすら出来ない巨大な生物の鱗だった。
そして彼等の視線には、更に別のモノも見える。
それは巨大な生物の影に比べれば微々たる巨大さながらも、数多の飛行する生物群だった。
パールはそれを見て、初めて上空に居る存在が何かを察する。
「……まさか、アレは……お前と同じ……竜なのか……?」
「ガァアアォンッ!!」
「――……ガァアアォンッ!!」
「!?」
パールは遥か上空を飛翔している生物群が、隣に居る飛竜と同じ竜種である可能性を察する。
すると上空を飛ぶ生物群に対して飛竜は咆哮を放つと、別の方角から数多の咆哮が鳴り響いた。
次の瞬間、パール達の居る上空近くに数十頭の赤い鱗を帯びた飛竜達が通過していく。
それが先ほど咆哮を上げた飛竜達だと理解したパールは、飛竜達が来た方角が樹海の火山地帯であることに気付いた。
「……これは、火山の方から来たのか。……飛竜達、こんなに居たのか……」
三十頭は超えるであろう飛竜の群れは、樹海の上空を飛びながら旋回を続ける。
そして遥か上空を飛翔する生物群に、何かを伝えるように咆哮を上げ続けた。
そしてそれに応えるように、遥か上空から大陸全土に及ぶ巨大な咆哮が鳴り響く。
『――……ォオオオオオオッ!!』
「!?」
その巨大な咆哮はガルミッシュ帝国やベルグリンド共和王国を含む大陸全土に及び、人々の耳に奥まで届くような振動を与える。
それに思わず耳を閉じてパールは、身を震わせながら咆哮を発した存在が自分ですら知らない程の巨大な存在である事を無自覚に察した。
「……も、樹海の獲物とは……まったく違う……。……身体が、勝手に……震えて……っ」
自分自身の意思とは無関係に震える身体に、パールは困惑を浮かべる。
しかし相反するよう、それを聞いていた飛竜達は先程とは異なる甘く懐くような鳴き声を発していた。
耳を塞ぎながらそれを見ていたパールは、その隣で両翼を広げた飛竜に視線を移す。
するとその時、飛竜が守っていた三つの卵が、同時に亀裂を発生させた。
そして亀裂の入った卵の中から、飛竜よりも丸く短い顎口が飛び出る。
更に卵の殻を破り落とし、その中から三匹の子竜が見えた。
「!」
「――……ガァッ!!」
「ギャッ!!」
「クキャッ!!」
「……う、生まれた……!?」
「ガァアアッ!!」
卵の殻を破った子竜達は、互いに幼い鳴き声を発しながら親である飛竜を見る。
それに応じるように飛竜も三匹の子竜を見下ろし、首を下げながら生まれたばかりの彼等に赤い鱗の肌を擦り付けた。
そうした光景を見ていたパールは、子竜が生まれてから巨大な咆哮が止まっている事に気付く。
すると改めて上空を見ると、巨大な尻尾と思しき影が暗雲の先へ向かい、自分達の居る大陸から去っていく光景が見えた。
それを見ながら、パールは巨大な生物群が向かった方角を見る。
「……あっちは、大樹のようなモノが見えた方角か……」
「ガァア……ッ」
「……そういえば、あの伝承……。……『赤い瞳の女性が神の使徒達を伴い天に昇り、神と対峙し、神の使徒達と共に大地を救った。そして大地を救った赤い瞳の少女は、長い眠りについた』だったか。……まさか、アレが……本当の、神の使徒なのか……?」
パールの脳裏に部族に伝わる伝承が思い出され、そこで語られる者達と自分が見た人物が思い出される。
地上に浮かび上がった映像には、赤い瞳を持つ女性。
そして彼女は友達の本名であるアルトリアを自分の娘だと口にし、それを天界に浮かぶ大陸まで呼び寄せていた。
更にそれに連動して起きた厄災によって、異質な巨大生物群が向かっている。
それが彼女の知る伝承と状況が重なり、自分が見たモノこそが伝承に聞く『神の使徒』だったのではないかと考え至った。
すると友を救う為に向かおうとしていたパールは、表情を強張らせながら呟く。
「……もしアレが、神の使徒なのだとしたら。……伝承の通り、神の使徒が大地を救ってくれることを……祈ろう」
パールはそう呟き、自身の知る伝承通りになりつつある状況に一筋の希望を見出す。
そしてその場に留まり、相棒である飛竜と生まれたばかりの子竜を見守りながら、その結末を見届ける決断をした。
一方そうした出来事が一大陸で起きている中、別大陸でも似たような目撃例が後に伝えられる。
しかしこの目撃例もまた異様であり、巨大な雷光が空ではなく地上を走り、しかも暗雲から降り注ぐ落雷を吸収しながら大地や海の上を凄まじい速さで駆け抜けたという情報だった。
更にその雷光が通った地面には、四足獣を思わせる獣の足跡が幾多も残っていたという。
しかもその足跡の中には直径五十メートルを超えるような足跡も存在し、それを目撃した人々の正気を疑わせる事にもなった。
そしてその足跡や雷光が進んだ先も、巨大生物群が向かった先と同じ方角。
奇妙で異質な巨大生物達はそれぞれの方角から現れ、更に【始祖の魔王】と【鬼神】が戦っている聖域へと向かっていた。
こうして異常現象に連動し、人間大陸に巨大な生物の群れが出現する。
それは人々をより大きな混乱に導くことにもなったが、それ等の生物は何かしら人間には危害を与えることもないまま、ただ目的とする場所に集まろうとしていた。
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