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革命編 八章:冒険譚の終幕
天変地異
しおりを挟む老騎士ログウェルの死を見届けたメディアの意思により、再び地上と人類を破壊すべく天界の大陸に備わる巨大砲台を起動させる。
その発射を防ぐ為にエリクは『聖剣』をケイルへ託し、大量の魔力を含んだ魔鋼で築かれている天界の大陸を破壊させた。
『聖剣』から放たれる極光は最高硬度である魔鋼すらも易々と粉々に分解し、天界の大陸とそれを囲む『螺旋の迷宮』の時空間を破壊する。
それはマナの大樹が存在する『聖域』にも影響を及ぼし、文字通り『聖剣』は魔力によって形成されている全てを破壊した。
ケイルやエリク、そしてアルトリアは機動戦士の手の平に乗せられながら唖然とした様子でその景色を見下ろし、互いに声を向ける。
「――……アレが、『聖剣』ってやつの威力なのかよ……っ」
「あの『聖剣』なら出来るとは思ったが、本当に破壊できた。よかった……」
「……あっ!?」
「!」
ケイルとエリクは互いに『聖剣』の威力について呟く中、アルトリアが何かを思い出して短く叫ぶ。
そしてケイルの方へ顔を向け、動揺しながら声を掛けた。
「ケイル、シエスティナ達はっ!?」
「……あっ、やべぇっ!! アイツ等も、まだ神殿に残ったままだっ!!」
「!?」
「……なんだってっ!?」
アルトリアの言葉で神殿内部に残ったままのシエスティナやクビアの事を思い出したケイルは、一気に焦燥感を高める。
そして今まで沈黙し放心していたユグナリスは、自分の子供や最愛の女性が取り残されていることに気付いた。
しかしクビアの魔術を思い出すケイルは、落ち着いた声を戻す。
「いや、でもクビアは転移魔術が使える。だったら、傍に居るガキも連れて脱出くらいは……」
「……あの『聖剣《けん》』の傍では、転移魔術は使えないと、狐の女は言っていた」
「!」
「それに、あの極光は魔力を持つモノを全て壊す……。……狐の女《クビア》は、魔力を持っている魔人だ。だから……」
「……おいっ、マジかよ……。……クソッ!!」
クビアが転移魔術で脱出できると考えるケイルだったが、それを否定するようにエリクが言葉を繋げる。
それを聞いて唖然としながら絶句する衝撃を受けたケイルは、自らの浅慮に悪態を鳴らした。
それを聞いていたユグナリスがログウェルの遺体を両腕から降ろし、鋭くも厳しい表情を受けながら手の平から飛ばす。
「――……シエスティナッ!! リエスティアッ!!」
「!?」
「ユグナリス――……ッ!!」
『生命の火』を纏いながら飛び立ったユグナリスに対して、アルトリアは叫び止めようとする。
しかし権能の反動によって傷付いた魂と連動する肉体の痛みによって上手く動けず、『聖剣』の極光に包まれる天界へユグナリスが向かうのを止められなかった。
そして落下速度と相まって加速するユグナリスは、必死の形相で叫ぶ。
「もう、誰も死なせないっ!! 俺の大事な人を――……これ以上、死なせるもんかっ!!」
ユグナリスの脳裏には目の前で死んだ父親と師匠の微笑む顔が浮かび、そして今まさに死の危険に在る大事な家族の姿が映し出される。
その強い覚悟と感情が彼の魂に伝わると同時に、右手に宿る『赤』の聖紋が反応を示した。
すると次の瞬間、彼の肉体から尋常ではない『生命の火』が放出される。
しかもそれが極光に切り裂かれ崩壊していく天界の大陸を全て包むように飲み込み、それを見たアルトリア達が驚愕を見せた。
「なんだ、ありゃ……!?」
「……アイツの持ってる権能が、あの『生命の火』を増幅させた……」
「!?」
「私の持ってる権能は『変換』に特化してるけど、アイツの権能は『増幅』に特化してるんだわ。……私と同じように、権能を使えている……!」
「……!!」
ユグナリスの起こす異常な状況を視認したアルトリアは、それが彼の持つ『権能の効力である事を話す。
種類こそ違いながらも、同じ権能を覚醒させた者としてその現象をそうだと理解していた。
そして自分の持つ権能を覚醒させたユグナリスは、増幅した『生命の火』を使い崩壊する天界の中に意識と感知を集中させる。
すると自分の『生命の火』内部に存在する、二人分の生命反応を感知した。
「――……あそこかっ!!」
無意識に権能を使いこなすユグナリスは、感じ取った生命反応が在る場所へ赤い閃光となって向かう。
すると数秒ほど飛んだ中で、崩落し崩れていく瓦礫の中に紛れるように落ちていく、クビアとシエスティナの姿を見つけた。
「――……て、転移魔術が使えないぃ……っ!! 何がどうなってんのよぉっ!?」
「……お母さん……お父さん……っ!!」
クビアは『聖剣』の極光を浴びてこそいないものの、突如として崩落した神殿と紙札を用いた転移魔術が使えずに困惑と動揺を見せている。
それでも頼まれたシエスティナを左手に抱え、必死に守ろうと二人で落下を続けていた。
そんな二人の姿を視認したユグナリスは、自らが纏う『生命の火』を更に強める。
すると今まで以上の速度で飛翔し、瓦礫と極光を回避しながら二人の傍に辿り着いた。
「――……シエスティナッ!!」
「……お父さん!」
「た、助けてぇっ!!」
赤い閃光となってその場に現れたユグナリスに、シエスティナは喜びの表情を浮かべる。
そして助けを求めながら必死に叫ぶクビアを見ながら、彼はその身体を左腕で抱き留めた。
すると周囲を見ながら焦りの様子を浮かべるユグナリスは、クビアに尋ねる。
「リエスティアはっ!?」
「ま、待ってたんだけどぉ……聖域の中から出て来なかったわぁ」
「!?」
「この光ってぇ、もしかして聖剣のぉ……? だったら多分ぅ、あの聖域を形成してる時空間も壊れてぇ……消滅しちゃってるかもぉ……」
「な、なんだって……!? ……全部、アイツが……ッ!!」
クビアの話を聞いたユグナリスは、リエスティアが聖域に入っていた事を初めて知る。
それが『聖剣』の影響を受けて彼女を取り残したまま消滅した可能性を知ると、その脳裏にエリクの姿が憎々しく浮かんだ。
師ログウェルの望みとはいえ、それを殺したエリクが持って来た『聖剣』が最愛の女性も殺す。
もしそれが確定した時、ユグナリスは帝国の皇子ではなく復讐の炎を滾らせる一人の化物になる覚悟さえ抱かせた。
一瞬で際立つ憎悪によって父親の激しい表情を見る娘シエスティナは、抱えるクビアの胸元に置いていた右手を動かす。
するとその右手を父親の腕に触れさせ、左目に浮かぶ黒い瞳を僅かに輝かせながら幼い声を向けた。
「お父さん」
「!」
「お母さんは、大丈夫だって」
「え……」
幼くも確信するようなシエスティナの言葉に、激情していたユグナリスの精神は僅かに落ち着きを見せる。
すると再び、シエスティナは予言にも似た言葉を伝えた。
「ここから、遠くに離れた方がいいって。お姉ちゃんが言ってる」
「お、お姉ちゃん……?」
「わぁ、私じゃないわよぉ。……もしかしてぇ、この子ぉ……『黒《くろ》』にぃ……?」
「え?」
「お父さん!」
「……わ、分かったよ。一旦、あの魔導人形に……!」
諭されるように告げるシエスティナの言葉に、ユグナリスは困惑しながらも従う。
そして二人を抱えて再び『生命の炎』を纏って飛翔し、極光や瓦礫を避けながらバルディオスが操縦する機動戦士に向かった。
そうして滞空している機動戦士に集おうとする者達と対になるように、天界の大陸は瓦礫となって真下に広がる海へ落下していく。
神殿も崩壊し大陸としての原型を失った天界は、地上へ堕ち続けた。
しかしユグナリス達が機動戦士の傍まで戻った時、落下する大陸の瓦礫の中から『聖剣』とは異なる極光が発生する。
それは金色の色合いを見せ、地上の人々と滞空するアルトリアやエリク達の視界を眩くさせる程に照らした。
「――……ッ!!」
「な、なに……!?」
「……この光、まさか……!!」
誰もが金色の極光に驚愕し瞳を細める中、アルトリアだけはそれを見て別の驚愕を浮かべる。
すると天界の瓦礫が落下している海をも飲み込むように、発せられる金色の極光は拡大し続けた。
その極光の一部が天空にも伸び始めていることに気付いたアルトリアは、機動戦士を操縦するバルディオスに怒鳴る。
「ここから離れてっ!!」
『な、なんじゃ!?』
「ここでも巻き込まれる! もっと遠くに、早く離れなさいっ!!」
『お、おう!』
「アリア……!?」
「どういうことだよっ!?」
叫ぶアルトリアの声を聞いたバルディオスは、指示通りのその極光が伸び届きそうになる空域から機動戦士を更に遠ざける。
その声を傍で聞いたエリクとケイルは互いに声を向け、この状況をアルトリアに問い掛けた。
すると焦燥感を強めた表情で、アルトリアは語る。
「……多分、聖域の時空間が『聖剣』のせいで破壊された。……だったら、アレが出て来るわよ……!!」
「アレってなんだよっ!?」
「それは――……!!」
「!」
この事態で起きている予測をアルトリアが述べようとした瞬間、金色の極光が加速しながら天空へ昇る。
そして退避する前に滞空していた機動戦士の位置まで、予測通りその極光は包み伸びた。
退避する機動戦士やそれを追うユグナリス達もまた、その極光の余波で全身を覆われる。
それから人間大陸を含む世界は、眩い金色の極光に包まれた。
――……それから数十秒後、内外に関わらず浸透した金色の極光が晴れる。
そして人間大陸の人々は、眩しさを明けて瞼を開きその瞳で周囲を見渡した。
「――……な、なんだったんだ……さっきの光……」
「……何も、起きてない……?」
「どうなって――……な、なんだ……アレ……!?」
「え? ――……!!」
瞳を開けて周囲を見る者達は、町の景観や人々の様子が変わらぬことに僅かな安堵を浮かべる。
しかし周囲を見渡していた者が天界の大陸が浮かんでいた方角へ瞳を向けた時、その景色に驚愕の声を漏らした。
そして世界中の人々は、アルトリアが予測した『アレ』を見る。
それは遠く離れた場所からでもはっきりと視認できる程に、白銀の色をした幹と枝葉が天空を覆う巨大な大樹が存在していた。
同時刻、ローゼン公セルジアスもまた屋敷の外に出て同じ大樹を直に視認する。
そして隣に立つウォーリスと支えるカリーナもまた、その大樹を見ながら呟いていた。
「――……ウォーリス様。アレって……」
「ああ、間違いない……」
二人が驚愕しながら呟き、目に映る大樹を見続ける。
それを聞いていたセルジアスは、自身も目にする大樹について尋ねた。
「ウォーリス殿。アレは、いったい……」
「……マナの樹だ」
「!?」
「この世界に残された、最後の一本。……聖域に存在した、マナの大樹だ」
「……アレが……」
セルジアスはその話を聞き、実際に目にする大樹がユグナリスを通じて聞いた『マナの大樹』である事を知る。
そんな彼と同じように、世界の天空すら覆わんばかりに巨大な白銀の大樹を世界中の人々は目撃していた。
こうして『天界』と『聖域』が破壊され、その内部に封じられていた『マナの大樹』が現世へ出現する。
それこそが世界の景色を一変させる、真の『天変地異』となった。
応援ありがとうございます!
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