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革命編 八章:冒険譚の終幕

最初の友達

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 天界エデンの大陸は二人の到達者達の激突により、『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』で隔離される。
 その影響を受けた『黒』の生まれ変わりである少女シエスティナは、反動ルールが一時的に解け『』の人格が蘇った。

 そしてケイル達に協力すると告げた『黒』は、自身の肉体とも言うべき創造神の身体リエスティアへ人格を移す。
 更に自らを戦力として、アルトリアすら手も足も出ないメディアと相対する事を伝えた。

 一方その頃、マナの大樹が存在する聖域においてメディアは映像越しにログウェル達の戦いを観戦している。
 しかし傍に居る自分の子供アルトリアの数多の攻撃に一瞥すら向けなくなり、全ての対応を身に着けた『魔王の外套スフィール』に任せていた。

 それでもアルトリアは、魔力マナ生命力オーラを用いた中距離攻撃ほうげきを続けている。
 メディアは映像から視線こそ逸らさず、周りを飛び回りながら撃ち続けるアルトリアに呆れ気味の声を向けた。

「――……そろそろ諦めて、一緒に見たら? これから面白くなりそうだよ」

「だったら、じかに見せて欲しいんだけどっ!!」

「それはダメ、大人しく聖域ここに居なよ。二人の戦いが終わるまでは、自由に遊んでていいからさ」

「ッ!!」

 視線を向けず微笑みながらそう声を向けるメディアに、アルトリアは表情の強張りと攻撃を更に強める。
 本来ならば地形すら大きく削るアルトリアの攻撃を、メディアは遊戯あそび程度としか認識していないのだ。

 それでも攻撃を続け激しくさせるアルトリアは、肉体からだに取り込んだ魔力マナを自身の生命力オーラに変えながら戦闘を継続している。
 それが闇雲な攻撃あそびではないことを、メディアは気付いていた。

「『魔王の外套スフィール』をお腹いっぱいにすれば、攻撃が吸収されなくなると思ってる?」

「!」

「残念。『魔王の外套スフィール』の許容量おなかをいっぱいにするなら、星そのものを食べさせるくらいじゃないとね」

「……つまり、それが許容量げんかいってことね。だったら、やってるわよっ!!」

 『魔王の外套スフィール』にも許容量げんかいがある事を理解したアルトリアは、背負う六枚の翼を羽ばたかせて上空に飛翔する。
 そして両腕を真上に翳し、自身に膨大な魔力マナを取り込みながら生命力オーラと混ぜ合わせた凄まじいエネルギーを集めた。

 更に溜めたエネルギーを溜め続ける両腕をメディアに向け、巨大な砲撃を放つ。
 しかし『魔王の外套スフィール』は攻撃それにも反応し、広範囲に天幕カーテンを広げながら吸収し始めた。

 マナの大樹ごと聖域すら破壊しかねない程の攻撃を、巨大な傘となった『魔王の外套スフィール』は取り込み続ける。
 その許容量げんかいを超えメディアに攻撃を貫通させる為に、アルトリアは必死な表情を浮かべながら攻撃を止めなかった。

 逆にメディアは天幕カーテンに覆われて薄暗くなった事で、逆に感謝を伝える。

「おっ、やっぱり暗い方が映像が見易いね。ありがと、アルトリア」

「っ!!」

 砲撃の最中にも念話として届くメディアの挑発ことばに、アルトリアは歯を食い縛る。

 時空間で形成された聖域からは転移では逃げられず、自分アルトリアが出口である光の渦を目指すと瞬く間に叩き落とされる。
 それでもメディアは自身に対する攻撃を続けている限りは手を出して来ず、それを利用するしかないアルトリア自身は『魔王の外套スフィール』を攻略しなければならなかった。

 しかし創造神オリジン権能ちから魔力マナ生命力オーラに変換する技術を併用しながら砲撃するのは、アルトリア自身の魂に重大な負荷を及ぼす。
 肉体は幾ら癒せても魂だけは癒しきれないアルトリアも、精神的な疲弊を強めていた。

 それから一分程、砲撃は続く。
 すると『魔王の外套スフィール』の許容量より先に、アルトリアの精神たましいに限界が訪れた。

「――……カ、ハ……ッ!!」

 一気に集中力が途切れエネルギーの集束と変換が止まった瞬間、アルトリアは口から血を吐き出す。
 それは権能ちからを使い続けた魂の耐久力に限界が訪れたことを意味し、彼女は気を失いながら砲撃を止めながら落下を始めた。

 『魔王の外套スフィール』は落ちて来るアルトリアを感知したのか、まるでそれを飲み込む為に天幕ぬのを伸ばし始める。
 すると映像を見ているメディアが、低く厳かな声を発した。

「食べちゃダメだよ、それは」

『――……』

 僅かに視線を落とし自身の肩回りに纏う『魔王の外套スフィール』に威圧の声を向けた瞬間、天幕の動きが止まる。
 そしてメディアの命令に従い、『魔王の外套スフィール』は広げていた布地を収縮しながら元の外套すがたに戻った。

 一方でアルトリアも落下しながら一時的に意識を戻し、背中に持つ六枚の翼を羽ばたかせて落下速度を抑える。
 そして両手と両膝を着きながら着地すると、荒い呼吸を零しながら胸部に発する鋭い痛みに耐える様子を見せた。

「ハァ……ハァ……。……グ……ッ」

「言ったでしょ。君の権能ちからは、私が貸した権能ちからだって」

「……は……?」

「君が今まで私の貸した権能ちからを使えてたのは、君の肉体に私の遺伝子が含まれて権能ちからの適正が合ったから。でも権能ちからが強くなり過ぎたせいで、もう適正だけじゃ補助カバーできないんだよ」

「……な、何を……言って……っ」

「そのまま権能ちからを使い過ぎると、君の魂は権能それに耐え切れずに壊れるんだ。……その意味くらい、分かるよね?」

「!」

「それと、なんで私が君と遊ばなくなったか。……自分の育てた権能ちからに耐え切れずにぶっ倒れるのが分かってたからだよ。おマヌケさん」

「……アンタ……ッ!!」

 顔を上げながら声を向けて来るメディアに、アルトリアの表情は険しさと厳しさを含む歪んだ表情を浮かべる。
 するとアルトリアの背に有った六枚の翼が同時に崩れ落ち、魔力マナ生命力オーラへ分解しながら空気中に散った。

 それを確認したメディアはついに立ち上がり、アルトリアへ視線を向ける。

「じゃ、返してもらおうか」

「ク……グ……ッ!!」

 自身の許容量たましい権能ちからに耐え切れず、アルトリアの魂は肉体の内部で亀裂を起こしている。
 その状態はウォーリスのそれよりも軽度ながらも、再び飛翔するどころか立ち上がる事すら困難にさせていた。

 するとメディアは近付き、四つ這いになっている姿を見下ろす。
 そして顔を僅かに上げながら鋭い眼光で睨むアルトリアに、母親メディアは微笑みながら声を向けた。

「そういうところも、父親クラウスに似たね」

「……!」

「安心しなよ、本当に命までは取らないから。――……これから君は、普通の女の子に戻るだけさ。権能ちから才能センスも無くなった、普通ただの女の子にね」

「……ッ!!」

 メディアはそう告げると、身を屈めながら自身の右手をアルトリアの額に近付ける。
 身体が動かず逃げられないアルトリアは、僅かな抵抗として顔を伏せながら額を地面へ擦り付けるように伏せるしかなかった。

 しかしメディアの右手はアルトリアの金髪を掴み、無理矢理に顔を持ち上げる。
 そして左手を動かし、乱れた金髪の隙間から見える額へ緩やかに付けようとした。

「……ん? ――……!!」

 そこまで残り数センチという距離に左手の中指が辿り着いた時、メディアの身体が影が掛かる。
 それに気付き顔を上げたメディアは、次の瞬間に掴んでいたアルトリアの感触が消え、左手はそのまま何も触れずに虚空を彷徨った。

 メディアは消失したアルトリアを探すように立ち上がり、別方向を見る。
 するとそこには、地面へ座るアルトリアと一人の女性と立っていた。

 それを見たメディアは僅かに驚きながらも、微笑みの声を向ける。

「……やぁ、大きくなったね。リエスティアちゃん」

「!」

 そこに現れたのは人物を見て、メディアは『リエスティア』の名で呼ぶ。
 するとアルトリアは驚愕しながら青い瞳を見開き、状況が一変しながら自分自身の隣に立つ人物を見た。

 そこには長い髪を背中うしろに纏め結び、藍色の帽子と外套ふくを纏った黒髪の女性がいる。
 アルトリアはそれを見てリエスティアだと思いながらも、過去と未来の自分アリアが残した記憶と、そこに立つ女性の姿が重なった。

 そこで驚愕しながら瞳を見開くと、アルトリアは驚きの声を零す。

「……アンタ、まさか……!」

「――……お待たせ、アリアさん。……いや、ここは『アリス』と呼ぶべきかな? 昔みたいに」

「……クロエ……!」

 隣に立つ女性の雰囲気が幼い時に出会った友達クロエと同じだと察したアルトリアは、当時に名乗った偽名アリスで呼ばれる。
 そしてアルトリア自身も、『クロエ』と名乗った少女の名を口にした。

 こうして諸刃じぶん権能ちからに耐え切れず自滅したアルトリアに、初めて出来た友達が助けに来る。
 それこそが過去のリエスティアであり、成人した創造神オリジンの肉体を持つ『クロエ』だった。
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