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革命編 八章:冒険譚の終幕
語り部の再来
しおりを挟む到達者であるエリクとログウェルの激突により、浮遊する天界の大陸に『螺旋の迷宮』の時空間が生み出される。
その内部では今も激戦が行われる中、『青』やエアハルトを始めとした者達はその時空間から逃れて離れる事となった。
そうした一方で、大陸中央に聳える神殿側にも動きが見える。
長く続く階段を登り終えたケイルはリエスティアを背負いながら入り口である門の前に立つと、その後から遅れて三歳のシエスティナが辿り着いた。
するとシエスティナは下段を見ながら、その後に続く者に呼び掛ける。
「――……お姉ちゃん、もう少し! がんばって!」
「――……はぁ……は……ぁあ……」
シエスティナに応援されているのは、汗だくで階段を登る妖狐族タマモ。
ここまでケイル達と共に行動していた彼女も階段を登ることで体力を全て使い切り、疲れ果てた様子を見せていた。
それでも遅れながら門の前まで登り終えたタマモは、最後の階段に腰掛けながら必死に息を整える。
しかしケイルはそうしたタマモに気に掛ける様子を向けず、大陸の中央部分から感じられる凄まじい波動を感じながら表情を強張らせた。
「……この感じ、間違いない。片方はエリクだな。……もう片方は、あのログウェルって爺さんか……」
大気を震わせる程の波動がエリクとログウェルの圧力である事を察したケイルは、僅かに迷いながらもすぐに首を横に振って懸念を振り切る。
そして真逆に位置する門側へ視線を向けた後、表情を強張らせながら呟いた。
「……この門、どうやって開けるんだ……。どっかに開ける仕掛けがあるのか……?」
「――……手を、触れてみてください」
「え? ……分かった」
門の開け方に悩むケイルに対して、背負われるリエスティアがそう助言する。
彼女は未来を視る黒い瞳を通してそうした言葉を向けている事を理解したケイルは、それに従いながら門の前まで歩み寄った。
すると右手を門に触れさせた瞬間、ケイル自身とリエスティアの肉体が仄かに黄金色に輝き始める。
それと同時に門が緩やかに内側へ開き始め、ケイルを驚かせた。
「これは……」
「私の身体と貴方の魂が、この門を開けた……みたいです」
「……創造神の肉体と魂か。アリアだけじゃなくて、アタシ達でも出来るのか。――……おいっ、クビア! 門が開いたぞ、さっさと来いっ!!」
「は……はぁ……? ……ちょ、ちょっと待ってよぉ……」
創造神の肉体と魂が触れたことで、アルトリアと同じように二人は神殿の門を開ける。
そして座り込んでいるタマモへ怒鳴るように呼び掛けるケイルは、リエスティアを背負ったまま神殿の中に入った。
タマモも疲れ果てた様子を見せながらも腰を上げ、緩やかに門の内側まで歩み始める。
それに付き添うようにシエスティナも隣を歩き、四人はそのまま神殿内部に入場した。
真っ白な魔鋼で築かれた神殿内部は、豪華ながらも透明感のある装飾で彩られた長い廊下が続いている。
その奥に見える光の渦を確認したケイルは、背負うリエスティアに問い掛けた。
「あの光が、もしかして……」
「アルトリア様がいる、聖域だと思います」
「一本道だし、なら行くしかねぇな。クビア、お前も警戒しとけよ」
「ちょ、ちょっとは休ませてよぉ……」
「ほら、門も閉まった。ここまで来たんだ、腹括れ」
「そ、そういう問題じゃないってばぁ……」
開いていた門がクビアの通過と同時に緩やかに外側へ動き、静かながらも響く音で閉まる。
それを見て進む決意をさせるケイルは、そのまま光の渦まで歩き始めた。
そんな二人をシエスティナも小走りで追い、タマモも疲れ果てた様子ながら足を進める。
すると彼女達が長い廊下を歩んでいると、ケイルは奇妙な声を聞く。
『――……神様!』
「!?」
「……ど、どうしたのぉ?」
奇妙な声を聞いたケイルは驚愕しながら足を止め、周囲を警戒しながら確認する。
しかしその周囲には同行している三人以外の姿は無く、ケイルは奇妙な面持ちを浮かべながら呟いた。
「……声が聞こえた。知らない奴の声だ」
「え?」
「……気のせい……にしちゃあ、はっきり聞こえたな……。……何かの罠か?」
ケイルは聞こえた声が幻聴には思えず、周囲を探る。
すると背負われているリエスティアは、ケイル自身を見ながら言葉を向けた。
「……多分、ですけど……」
「ん?」
「貴方の魂が、この場所と共鳴して……何かを伝えようとしているんだと思います」
「アタシの魂と共鳴? ……創造神の魂とってことか」
「多分……」
「……そういや、アリアの奴が言ってたな。創造神の記憶を見たとか。……アタシの魂が、創造神の記憶を見せようとしてるのか……?」
「進めば、分かると思います」
「……まぁ、進むしかないわな」
リエスティアの言葉によって聞こえた幻聴が創造神の魂を持つ自分に何らかの影響を及ぼしている事を理解したケイルは、そのまま歩みを進める。
すると当時のアルトリアと同じように、ケイルの耳に幻聴だけではなく、半透明に幻視される人の姿が見えた。
『――……神様、早く行こう!』
「!」
『今日は、火神様の結婚式だよ』
『神様も神殿から出て、一緒にお祝いしましょう!』
『風神様が祝祷をしてくれるんだってって! 水神様も、ファフナー様達も来てくれてるよ!』
「……なんだ、こりゃ……」
幻聴と共に視える人々の幻視を視線で追うケイルは、再び立ち止まりながら入り口である扉側へ振り返る。
そして彼等が『神様』と呼ぶ人物を神殿の外へ導く様子が窺えると、微妙な面持ちを浮かべながら呟いた。
「……創造神ってのは、神殿の中に引き籠りっぱなしだったのかよ。……天界に居た連中は、創造神を外に連れ出してた……?」
創造神の魂に干渉されるケイルは、自身が視る記憶から創造神についての日常を察する。
それに不可解さを感じるケイルは再び前へ歩み始めると、それに追従するタマモは息を整えながら隣に居るシエスティナを見た。
「はぁ……。……んぅ、どうしたのぉ?」
「……ううん、何でもない」
「そ、そぉ? ……あの子ぉ、なんか雰囲気……変わったかしらぁ……?」
先程までのケイルと同じように、シエスティナは立ち止まりながら門がある入り口側に視線を向けている。
そしてタマモの呼び掛けに、今まで見せていた幼い少女らしさとは異なる大人びた笑みを浮かべて返した。
そうしてケイルを先頭に四人は光の渦へ向かい続け、長い廊下を歩く。
しかしケイルは自身だけが見聞き出来る創造神の記憶に干渉され、周囲を見回しながら足を止める様子を見せた。
そんなケイルに、余裕が戻ったタマモは心配そうに呼び掛ける。
「ちょっとぉ、大丈夫なのぉ?」
「……ああ、一応な。……アリアの言う通りだったってことか」
「?」
「創造神ってのは、生きてた頃は神殿に引き籠りっぱなしだったらしい。創造神を信仰してた天界の連中は、理由を付けて外に連れ出そうとしたり、自分達の暮らしを話して伝えてたみたいだ」
「……自分で外に出る気はぁ、無かったってことぉ?」
「みたいだぜ。……いや……もうこの記憶には、外に興味すら無かったのかもな」
「興味が無いってぇ?」
「アタシの聞いた話じゃ、創造神ってのは何億年も生きて、生きるのにも飽きて自殺したらしい。その為に天界の連中を下界に落として殺そうとしたってぐらいだからな。外の世界や天界で暮らしてた連中自体、もうどうでもよくなってたんだろうぜ」
「……あのメディアって奴みたいにぃ?」
「じゃ、ねぇかな。……随分と、酷い神様に創られたもんだぜ。この世界もよ」
ケイルは垣間見える記憶から、創造神の過去について語る。
それを聞いているタマモは同意するように頷くと、その隣を歩いていたシエスティナが僅かに顔を床へ沈めながら口を開いた。
「……最初は、そんなこと無かったんだよ」
「え?」
「創造神も最初は、皆と一緒に神殿の外で楽しく暮らしてた。……でも、創造神の周りに居る人達は、みんな寿命で先に死んでいってしまう。それを見送るのが、とても辛かったの」
「……お前……」
「だから創造神は、自分と同じ時を生き続ける到達者を生み出した。原樹のマナの大樹から七つの実を苗にして、七つの大樹を作って。……そして、創造神が選んだ七名の到達者が誕生したの」
「……シエスティナ……」
その場の全員が幼いはずの少女から語られる創造神の話に驚愕しながら、同時に訝し気な視線を向ける。
しかし母親であるリエスティナだけはそれを予期していたのか、寂し気な表情を浮かべた。
しかしケイルだけは、その口調を聞きながら目の前の少女をある人物と重ねて問い掛ける。
「お前まさか、クロエ……いや、『黒』の七大聖人なのか?」
「え?」
「……お久し振りです、ケイルさん」
「!!」
動揺しながらも問い掛けたケイルの言葉に、シエスティナは微笑みと肯定の挨拶を向ける。
自分の予想が的中してしまったことにケイルは更なる驚愕を見せ、それを聞いたタマモもまた唖然とした様子を浮かべた。
こうして神殿内に辿り着いたケイル達だったが、そこで数々の異変が起こる。
それは創造神の記憶に干渉されるケイルに始まり、マギルスから能力や知識を持たない『黒』の生まれ変わりであると伝えられていたシエスティナが『黒』の人格と思しき言動を見せ始めたことだった。
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