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革命編 八章:冒険譚の終幕
殺気の激衝
しおりを挟む『世界を滅ぼす者』として自らの意思により世界を滅ぼす『敵』となることを選んだログウェルは、自身の冒険譚の終幕として『戦士』と選んだエリクと対峙する。
それに応じるエリクもまた、老騎士との対峙を逃れられないことを理解していた。
互いに世代こと違いながらも、創造神の権能を持ち同じ人間大陸に生まれた人間の到達者となった二人は、数年の時を経て向かい合う。
しかし傍に立つ機動戦士の右肩に乗ったまま『白』である帝を拘束していたユグナリスは、白い地面へ降りた二人に大声で呼び掛けた。
「――……止めてくれっ、二人ともっ!!」
「……」
「他に、他に何か方法があるはずなんだっ!! こんな形で戦うなんて――……」
「ユグナリスや。ちと、黙っててくれんかね」
「!」
「儂は今、久方振りに高揚しておるからのぉ」
「……ッ」
二人の戦いを止めようとするユグナリスに対して、ログウェルは凄まじい殺気を向けながら黙らせる。
今まで訓練で見せていた殺気とは比較できぬ程の寒気と恐怖を抱いたユグナリスは、思わずを声を途切れさせた。
しかし対峙しているエリクは、その殺気を感じ取りながらも右手に握る聖剣へ視線を落とす。
すると何かを考えた後、ログウェルに呼び掛けた。
「少し、いいか?」
「ん?」
「この聖剣、あの王子に預けたい」
「おや、聖剣を使わんのかね? 儂との戦いが、少しは有利になるぞい」
「いや、逆に邪魔になるだろう。俺にとっても、お前にとっても」
「……ほっほっほっ。良いじゃろう、渡して来なさい」
二人が本気で対峙する上で邪魔となることを認識したエリクは、聖剣をユグナリスに預ける事を選ぶ。
それを了承したログウェルの意思を確認し、エリクは機動戦士の脚部と胴部分へ跳び移りながら右肩へ移動した。
そこで帝を拘束しているユグナリスに、腰に提げた鞘と白い布を巻き戻した聖剣を渡そうとする。
「持っていろ」
「……どうしても、戦うんですか?」
「それ以外に、あの男は止められない」
「……その聖剣の能力については聞いた。聖剣を俺が使えば、アンタ達の戦いを止めることだってできるかもしれない」
「そうかもしれない。だがその時、あの老人は躊躇わず世界を滅ぼす」
「!?」
「奴は本気だ。……お前は、あの老人の弟子か?」
「……ああ、そうだ」
「だったら、お前は見守れ」
「えっ」
「師の覚悟は、お前が見届けろ。……奴も俺も、これから自分の為に戦う」
「……ッ」
エリクはそう話し、改めて聖剣を渡すように右手を動かす。
二人の戦う意思を止められずに表情を強張らせながら歪めるユグナリスは、渋々ながらも右手を離して聖剣を受け取った。
すると改めて、エリクは帝に対して忠告する。
「お前も、邪魔はするな」
「じゃ、邪魔って……。……余なら、一瞬で解決できるのに……」
「これは、俺とあの老人の戦いだ。……邪魔をしたら、お前を殺す」
「いや、君も到達者だろ? だったら余と戦ったら、そっちが倒され――……イ、イタタタッ!!」
二人の戦いを邪魔する意思を残す帝は、到達者である二人を倒せる自信を見せる。
しかしそれを阻んだのは、左手と右脚で帝を拘束しているユグナリスだった。
拘束する左手の握力と右脚の圧力を強めて帝の言葉を遮ったユグナリスは、改めてエリクに言葉を向ける。
「……ログウェルを、殺すんですか?」
「あの老人は殺すつもりで戦うだろう。俺もそうしなければ負ける」
「……分かりました……。……ログウェルを、お願いします……っ」
既に自分の言葉や能力では止められない戦いだと悟り、ユグナリスは二人の戦いを認める。
それを聞き僅かに頷いた後、エリクは機動戦士に搭乗しているドワーフ族長のバルディオスに呼び掛けた。
「バルディオス。コイツ等と一緒に離れていろ」
『むっ、いいのか?』
「ここにいると、お前達も巻き込まれる。死ぬぞ」
『わ、分かった。……おい、赤髪の坊主。そこだと振り落としかねし、二人の戦いを視るなら操縦席に入ればいい。ついでに帝も閉じ込められるぞい。あと、聖剣にはずっと生命力を纏わせておけよ! でないと、儂が死ぬからな!』
「……はい」
エリクの呼び掛けでバルディオスも離れる事が最善だと理解し、ユグナリス達を操縦席に移す。
それを確認したエリクは改めて地面に飛び降り、ログウェルを見据えた。
すると機動戦士の飛行装置から推進剤が噴射されながら燃焼し、その場から飛び離れる。
その風に靡かれる二人の中で、ログウェルは微笑みを強めながら声を向けた。
「これで、邪魔は入らんな」
「ああ」
「さて。戦う前に、一つだけ決めておこうか」
「?」
「お前さんも察しておったろう。……どちらかが、死ぬまでやろう」
「……ああ」
二人の戦いには一つの条件が定められ、改めてその覚悟をエリクは理解する。
そしてログウェルは銀色の刃を持つ剣を右手で抜き、エリクもまた背負う黒い刃の大剣を右手で持った。
それから二人は静かに構えると同時に、大気すら揺らす凄まじい殺気を放ち始める。
二人の殺気は、遠く離れた神殿付近に居る者達にも届いた。
「――……な、なんだっ!?」
「これは……気力……!?」
「並大抵の気力ではない……。……これは、まさか……!」
「……先程の魔導人形は、ドワーフ族の……」
「あの機動戦士は、バルディオスが操縦しているのか」
「せやね。……『白』はどうしたんやろか?」
シルエスカや巴と武玄、そして『青』や彼等と共に居る干支衆の二人は遠い場所から放たれる殺気に気付く。
それは戦っていた『緑』の融合体と狼獣族エアハルトにも届き、戦いの動きを止めさせるほどだった。
「――……この殺気は……!?」
「やっとか、三代目。――……おい、狼獣族の小僧!」
「むっ」
「すまんが、戦いはここまでだ。俺達も行かなきゃな」
「逃げる気か?」
「お前との戦いよりも、向こうが優先だ。じゃなあ」
「待て――……チッ!!」
『緑』の融合体はそう言いながら、緑色の風となって姿を消す。
しかしエアハルトは自身の嗅覚を頼りに、融合体が移動した先を一瞬で把握した。
するとその場から駆け出すエアハルトは、殺気が放たれている場所へ向かい始める。
それに気付いたシルエスカ達は、エアハルトに呼び掛けた。
「エアハルトッ!?」
「逃がさんっ!!」
「そっちは! ――……仕方ない、行くぞ!」
「はい」
エアハルトが凄まじい殺気が放たれている場所へ向かい始め、放置できない者達は同じ方角へ移動を始める。
しかしその場に留まる『青』は同じようには動かず、神殿側へ視線を向けた。
「……向こうは向こうに、任せるしかないな」
『青』は僅かに息を零した後、他の者達と同様に殺気が放たれる場所へ向かう。
そして次の瞬間、天界の大陸や人間全土の揺るがす程の巨大な衝撃が響かせた。
こうして天界の大陸において、二人の到達者が激突する。
それは世界の命運を賭けながらも、自身の望みによって果たされる老騎士と戦士の戦いだった。
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