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革命編 八章:冒険譚の終幕
三度目の対峙
しおりを挟む『黒』が百年以上前に予言した『世界を滅ぼす者』は、『緑』の七大聖人ログウェル=バリス=フォン=ガリウスだった。
その原因は彼が持つ創造神の権能とそれを完全に制御する為の聖紋であり、彼の持つ『暴食』によって世界の生命を全て飲み込まれてしまう。
それを阻止する為には、到達者となったログウェルを殺し創造神の権能と聖紋を奪う必要がある。
彼は自分の滅ぼした未来で出会った『黒』の話を聞き、それを任せる相手に同じ権能を持って到達者となった傭兵エリクという『戦士』を選んだ。
ログウェルは自身の夢とした旅を終える為に、エリクと戦おうとする。
それを邪魔するであろうアルトリアを封じ込めてエリクを誘き寄せる囮としたメディアとログウェルは、天界において対峙を果たした。
その事実は循環機構を用いた映像と音声によって地上にも伝えられ、改めて二人の共謀した計画が明かされる。
そうした事態に陥っていることを認識していないのは、天界に立つ人々と、ログウェルと対峙するエリク達だけだった。
「――……さぁ、傭兵エリク。天界へ行こうか」
「!」
「ログウェル! 待って――……」
機動戦士が留まる天界の更に上空にて、エリクと対峙するログウェルはそう提案する。
そして弟子であるユグナリスの制止を聞かず、そのまま天界の大陸へと降下していった。
それを視線で追うエリクは、表情を強張らせながら機動戦士に搭乗するドワーフ族長のバルディオスに呼び掛ける。
「バルディオス、天界の大陸へ降りてくれ」
『むっ、いいのか?』
「ああ。……あの男が言っている言葉は、全て本気だ」
「!」
「俺と戦わなければ、奴は世界を滅ぼす。……俺は、奴と戦う」
『……分かった』
エリクはログウェルの言葉を全て聞いた上で、彼の意図を察する。
それを聞き届けたバルディオスは、機動戦士を降下させ始めた。
しかし機動戦士の右肩に乗るユグナリスは、『白』である帝を拘束したまま頭部に乗るエリクへ声を向ける。
「……ま、待ってくれっ!!」
「ん?」
「ログウェルとは、俺が話すから! だから、アンタ達が戦うなんて――……」
「話は無駄だ」
「!!」
「あの老人は、俺と戦う為にコレを始めた。……だったら俺とあの老人は、戦わなければならない」
「そ、それを止めてくれって言ってるんだっ!! よく分からないけど、ログウェルを殺す以外にだって、何か解決方法があるはずだろっ!?」
「奴は、それを望んでいない」
「!!」
「他に方法があったとしても、この方法以外にやる気は無いんだ。……だったら俺は、戦うしかない」
「で……でも……でも……っ!!」
戦う事を選択する二人に対して、ユグナリスの意思と声は届かない。
そうして彼が苦悩しながら顔を伏せると、『白』は拘束された状態でユグナリスを見上げながら銀色の瞳を凝視させて声を発した。
「……お主も、創造神の権能を持っているのか?」
「!」
「しかも『赤』の聖紋に選ばれたのか。……だとしたら、お主は『緑』と似た状況だな」
「え?」
「創造神の権能が循環機構を制御するには、鍵となっている七大聖人の聖紋が必要なんだ。『緑』はそれを利用して、世界の天候そのものを操ってみせた」
「えっ。……じ、じゃあ……俺もログウェルと同じことが……?」
「ただお主の場合、到達者ではない。創造神の権能を完全に操るには、到達者になる必要があるんだ。だから循環機構への完全な干渉も、今のお主では出来ない」
「……貴方はいったい……」
「言っただろう、余は『白』の七大聖人だ。それに余にも、同じ『権能』がある」
「!」
「ただ余の場合、到達者になると今の『緑』と同じような状態になるので、到達者にはならぬようにキツい制約を施しているがな。……なぁ、そろそろ離してくれないか? かなり痛いんだけど……」
銀の瞳が見通す『過去視』によってログウェルの事情を再び明かす帝は、ユグナリスや自身にも関わる事情を伝える。
それを聞いていたユグナリスは後ろ手に拘束している腕力を僅かに緩めたが、それでも拘束は解かずに再び問い質した。
「じゃあ、なんでアンタはログウェルを殺そうとしたんだ……!? 確か到達者って、同じ到達者にしか殺せないんだろ!?」
「よ、余自身も奴を殺せるわけではない。だから奴の肉体を滅ぼして権能を持っている魂を引き剥がし、『虚無《む》』の世界へ放り込むつもりだったんだ」
「!?」
「そうすれば、『虚無』で魂は権能ごと滅びる。循環機構を経由して輪廻には行けなくなるが、その方法が手っ取り早い解決に――……イ、イタタタタッ!!」
この場に現れた帝がログウェルを滅ぼす方法を伝えると、緩んでいたユグナリスの腕力が再び籠る。
それによって拘束力が強まり両腕に痛みを走らせながら訴える帝に、改めてユグナリスは怒鳴りを向けた。
「そんな事をしたら、ログウェルが消滅しちゃうだろっ!!」
「だ、だったら! それ以外の方法は、もうその男に頼るしかない!」
「えっ!?」
「到達者となった『緑』を殺して権能を奪って聖紋を剥奪し、奴の魂を輪廻へ導けるのはその男だけだ! イ、イタタ……ッ!!」
「……ッ」
帝は自身の用いた方法を否定され、もう一つの手段であるエリクとログウェルの戦いが必要であることを説く。
それを聞かされたユグナリスは表情を顰めながら、改めてエリクを見上げながら声を向けた。
「……ログウェルと戦うにしても、殺すまでしなくても……!」
「無理だ」
「なんでっ!?」
「奴は、俺を殺すつもりで戦うつもりだ。だったら俺も、本気でやるしかない」
「!」
「到達者になって、ようやく分かった。……あの老人は、とんでもない強さだ。今の俺でも、勝てるかどうか分からない」
「で、でも……ログウェルは、自分で死ぬつもりなんじゃ……?」
「奴は俺に勝てば、本気で世界を滅ぼしに掛かるだろう」
「!?」
「奴は奴なりに、俺との戦いでその覚悟をしている。……だから、戦うしかないんだ」
「……なんで……なんで、こんなことに……っ」
改めてエリクを説得しようとしたユグナリスだったが、その言葉はログウェルの覚悟によって阻まれる。
そうしてそれぞれを乗せた機動戦士は、降下を続けた。
すると場面は移り、浮遊する天界の白い大陸に視点は戻る。
『雷』の能力を持つ狼獣族エアハルトは、『緑』である初代と二代目の融合体と激闘を繰り広げていた。
その周囲に留まる者達を他所に、神殿の階段を走る者達が見える。
それはケイルに伴われるリエスティアとシエスティナ、そして妖狐族クビアを含む女性陣だった。
しかし先頭を走るケイルは後方を窺い足を止めながら、焦る様子を浮かべて声を向ける。
「――……もっと早く、登れねぇかっ!?」
「な、なんでここぉ……転移が使えないのよぉ……」
「そういう場所なんだよ。……ってか、そっちのガキの方が元気じゃねぇか!」
「う、うーん!」
「ご、ごめんね……」
「……雨は止んだままだな。生命力が使える内に、登り切りてぇが……」
聖人であるケイルは高い身体能力によって階段を躊躇いなく登れているが、体力と身体能力が遥かに劣る他の三名は遅れてしまっている。
機能が再開した神殿の敷地へ入ると、転移魔法や空を飛ぶ術が使えなっていたのだ。
しかし生命力や魔力を用いた能力を封じていた雨は、少し前から止んでいる。
それでも仕方なく自力で階段を登るしかない四人は、急いでアルトリアとメディアが戦う聖域へ向かおうとしていた
。
そんな時、自分の子供に手を引かれながら登るリエスティアは、何かに気付くように黒い瞳を見開いて足を止めながら後方を見る。
ケイルはそれに気付き、怒鳴るように問い掛けた。
「どうしたっ!?」
「……また、これが……」
「あぁ!?」
「……未来が、バラバラに……ぐちゃぐちゃに、見えて……っ」
「お、おいっ!!」
来た道を凝視しながら困惑した表情を浮かべたリエスティアは、その場で身体を揺らし始める。
それを見て倒れそうになっている事に気付いたケイルは、自分の立つ階段から跳び彼女達がいる階段まで降りた。
そして淀みなく着地したケイルは、倒れそうになるリエスティアを支える。
「どうしたんだよっ!?」
「……さっきも、同じ事があって……」
「同じこと?」
「あの映像が、見える前に……。……ユグナリス様や、皆が死んでしまう未来が見えて……」
「!」
「でも、その次には……暗い雲が掛かった世界が見えて……。……そこで、ログウェル様が……立っていて……」
「……何の未来を視たんだよ、お前……」
「分からないんです……。……でも、他にも視えて……。……アルトリア様の傍に居た男の方と……ログウェル様が……戦う姿が……」
「!」
ケイルはその話を聞き、リエスティアが視認する未来にエリクが居ることを察する。
そこでケイル自身も来た道を凝視し、残して来た師匠達が居る方角へ視線を向けた。
すると次の瞬間、ケイルの視界にあるモノが映る。
それは遠目に見ても巨大と言える、人型の魔導人形らしきモノが上空から降りて来る光景だった。
「な、なんだ……ありゃ……。魔導人形か……!?」
「……あそこに、ログウェル様と……ユグナリス様。……それに、あの男の方が……」
「!」
リエスティアはそう話し、降りて来る機動戦士に彼等が居る事を伝える。
するとケイルは表情を強張らせ、階段の上と下を交互に見ながら表情を強張らせた。
「……アレにエリクが乗ってるんだとしたら……。……クソッ、どっちに行きゃいい……。エリクと合流して、アリアのとこに一緒に行った方が確実か……!」
ケイルはどちらに優先して向かえばいいかを悩み、僅かにエリク側に意識を傾ける。
しかしそれを否定するように、支えられるリエスティアは首を横へ振った。
「……私達は、アルトリア様の所へ行きましょう」
「!」
「今、あそこに戻っても……何もやれる事は、ないみたいです……」
「……それも予言かよ。……クソッ、確かにそうだな。――……ほら、背負ってやるから。しっかり掴まれ!」
「あ、ありがとうございます……」
戻る選択を踏み止まらせたリエスティアの予知を聞き、ケイルはエリクとの合流を諦める。
そして疲れ果てた様子をリエスティアを背負うように抱えると、そのまま階段を登り始めた。
それに付いていくシエスティナに対して、更にその後方で息を乱すクビアは声を発する。
「わ、私も背負ってよぉ!」
「どっかの御嬢様じゃあるまいし、お前も少しは運動しろ! デブるぞ!」
「ひ、ひどぉい! そんなに厳しいとぉ、男に嫌われるわよぉ!」
「うっせぇ! 喋る元気があるならさっさと登れっ!!」
罵詈雑言を浴びせ合いながらもケイルとクビアは共に階段を登り、神殿の入り口となる門を目指す。
それに伴うリエスティアは、自身の視た未来を信じて希望を届けることを優先した。
そしてついに、機動戦士が天界の大陸に着陸する。
そこは神殿からかなり離れた平地であり、降りたエリクはそこで待っていたログウェルと向かい合った。
「――……では、やるかのぉ」
「ああ」
そうして二人は向かい合い、互いに対象的な表情を向け合う。
その光景は、以前に二度ほど出会った港町で対峙した二人の姿を再現していた。
こうしてエリクとログウェルは、三度目となる対峙を見せる。
それは正真正銘、本気で戦う覚悟をした彼等の姿だった。
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