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革命編 八章:冒険譚の終幕

運命の子供達

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 五十年前にガルミッシュ帝国へ滞在していたログウェルは、そこで奇妙な異空間ばしょへ頻繁に迷い込む。
 そこで『黒』の七大聖人セブンスワンと名乗る少女と出会った彼は、自分の見ている異空間ばしょが滅びた世界の情景けしきである事を明かされた。

 しかも世界の滅びを招いた存在が自分ログウェルであると、『黒』の少女は語る。
 それを聞いたログウェルは動揺以上に訝し気な表情を強め、改めて目の前にいる『黒』に尋ねた。

『――……お前さん、確かくろだと言っていたか』

『ええ』

『どうしてくろがここに居るのかね。それに、この世界と儂の意識が繋がっているというのはどういうことなんじゃ?』

 ログウェルは目の前にいる少女が『黒』であることを再確認し、自分達の見ている異空間せかいについて尋ねる。
 すると『黒』はログウェルから視線を外し、赤黒い暗雲が覆う空を見上げながら話した。

『ここは、貴方がこれから辿る未来の一つです』

『未来……。……この世界が、未来じゃと……!?』

『はい。そして貴方が、この未来を創り出した。そして未来の貴方が過去の貴方と意識を接続させて、この未来きおくを見せているんです』

『……未来の儂が、この未来せかいを見せている……? ……それが本当だとして、未来の儂は何処に居るんじゃ』

『未来の貴方には、もう肉体はありません。意識だけ……いいえ、概念の存在しかないと言えば正しいでしょうか』

『概念……?』

『未来の貴方は、この世界の概念そのものになってしまった。それでも貴方の意識は概念として残り、この結末を創り出した。……全ての生命が滅び、全ての生命が育まれない、滅びの世界を』

『……未来の儂が、儂が居る今の世界を……滅ぼしたというのか……?』

『そうです』

 『黒』の話を聞くログウェルは、自分の見ている異空間ばしょが未来の世界である可能性を考える。
 それを証明するように、周囲に存在する廃墟となった帝城や目の前に見える帝都跡地に『黒』以外の人影や気配が一切見えないことから、その未来せかいには生命いのちと呼べるモノが無いのだと思えた。

 しかし自分がその未来を創り出したという話だけは、ログウェルは険しい表情を浮かべて反論する。

『……儂は、みどり七大聖人セブンスワンだ。この聖紋の制約ルールがある限り、儂は人を殺める事は出来ぬはず……』

『その制約ルールは、貴方に適用されていません』

『なに?』

『貴方の魂は特別なんです。だからこそ、こんな未来せかいが貴方に創れてしまった』

『……どういうことなんじゃ?』

創造神オリジンという存在については、知っていますか?』

『……確か、儂等の世界を創造した神であるとは聞いておる。そして四百年ほど前に復活し、世界を滅ぼそうとしたとも』

『そうです。……しかし四百年前そのときに復活したのは、創造神オリジンそのものではありません。創造神オリジンの魂を継いだ者が、創造神かのじょの願いを叶えようとしただけです』

創造神オリジンの魂を、継いだ者?』

創造神オリジンの死後、創造神オリジンの魂は七つに分けられ特定の者達に宿りました。そしてその七人は、創造神オリジン権能けんのうと呼ばれる能力ちからを得た。……でもその権能ちからを使える者は創造神オリジン感情おもいに取り込まれ、生命を憎み、世界を滅ぼす可能性を秘めていた』

『……儂が、その一人ということかね?』

『はい』

『……つまり、未来の儂は……創造神オリジン感情おもいに飲まれ、世界を滅ぼしたということか……』

 創造神オリジン権能ちからについて初めて聞かされたログウェルは、自分自身が権能それを持つ一人であると察する。
 それに肯定するように頷いた『黒』は、視線を下げながらログウェルの右手を見て話を続けた。

『けれど私は、その危険性を取り除く為にある事を行いました』

『あること?』

創造神オリジン権能ちからを持つ者達が、世界の循環機構システムに干渉できないよう鍵を掛けたのです。……それこそが、七人しちにん七大聖人セブンスワンが持つ聖紋です』

『!』

『聖紋は鍵となり、創造神オリジン権能ちからでも循環機構システムには完全に干渉できなくなる。……七大聖人セブンスワンの役目は人間大陸の守護と銘打っていますが、本来の目的は循環機構システムに干渉できる権能ちからから鍵を取り上げ、それを管理するというのが本来しんの役目だったんです』

『……まさか……』

『そう。創造神オリジン権能ちからを持つ貴方が、その聖紋カギを受け取ってしまいました』

『……!!』

 自分が受け継いだ七大聖人セブンスワンの聖紋についての役割を初めて知ったログウェルは、手袋を嵌めた自身の右手を見る。
 それを視線で追う『黒』は、更なる情報を与えた。

創造神オリジン権能ちからは、創造神オリジンと同じ到達者エンドレスとなってから真の能力を発揮します。到達者それになる為の前提条件を、過去いまの貴方は満たしている』

『!』

『魂も肉体も鍛え上げられた真の聖人へ至り、幾万の者達を殺め、幾万の者達から信仰される。……過去いまの貴方は、到達者《エンドレス》になったんです』

『……儂が、到達者エンドレスに……!?』

『本当なら、聖紋の制約ルールが信仰を宿らせることを阻みます。しかし創造神オリジン権能ちからが聖紋の制約ルールを解いてしまい、貴方の肉体が信仰に満たされた到達者エンドレスにしてしまったんです』

『……そうか。儂の本が……』

『貴方がえがかれた本が、貴方に対する信仰あこがれを更に集めてしまった。……その結果、この未来が創り出されたんです』

『……ならば、儂に向けられる信仰おもいが無くなれば、この未来は回避されるのでは……?』

『回避できたのなら、私や貴方がこんな未来を何度も視るわけがありません』

『!』

『未来の貴方も、過去いまの貴方に同じように未来の事を教えた。……けれど幾度もこの未来せかいを創り出す結果となり、私や貴方はこの未来せかいに幾度も訪れることになった』

『……回避できぬのか……。……儂が本当に、この未来せかいを創ってしまったのか……?』

 廃墟となった帝都と赤黒い暗雲に覆われた黄金色の世界を見回すログウェルは、自分がこの未来を創り出した事に呆然とした面持ちを浮かべる。
 現実とも夢とも思えぬ情景けしきが自分の起こす未来だと聞かされれば、常に落ち着いた面持ちであるログウェルにも動揺を隠せるはずがなかった。

 すると聖紋の刻まれた右手を左手で握る『黒』は、ある提案を向ける。

『ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。今の貴方は、この未来を起こしたくはありませんか?』

『!』

『どうですか?』

『……起こしたくは、ないのぉ……』

『そうですか。……なら、私と協力をしませんか?』

『協力?』

『未来の貴方では、過去の貴方としか意識を接続できない。そのせいでこの未来せかいは見せられても、何を伝えようとしていたのか分からず、未来を何も変えられなかった。……なら私と貴方で、この未来を変えませんか?』

『……儂と、お前さんで……?』

『こうなる未来の道筋を、私は知っています。でも私は、それを変えられる程の干渉が出来ない制約があるんです。……でも貴方なら、未来を変える為ほどの干渉を引き寄せられる』

『!』

『私が貴方を、この未来せかいを変えられる存在が居る場所へ導きます。……それを選ぶのは、貴方です。ログウェル=バリス=フォン=ガリウス』

 右手を握る『黒』の幼い左手は、僅かに力が籠る。
 その落ち着いた言葉とは裏腹に必死の思いを抱くような黒い瞳を向けている事に気付いたログウェルは、その返答として『黒』の左手を優しく両手で包みながら身を屈めた。

『……教えてくれんかね。儂がどうすればいいかを』

『私の話を、信じてくれるんですか?』

『信じてみよう。それにこんな殺風景な未来せかいを見て回っても、楽しく無さそうじゃからな。……儂は、生命いのちが好きなんじゃ。生命いのちに触れ合うことこそ、自分が生きているという実感を持てるからのぉ』

『そうですね、私も同意見です』

 二人はそうして微笑みを浮かべると、再び空に時空間の穴が出現する。
 それに気付いた二人は時空間の穴を見上げ、互いに言葉を向け合った。

『そろそろ、時間というわけですな』

『はい。……貴方の世界に戻ったら、天界エデンへ向かってください』

天界エデン? 確か、伝承に聞く……』

『そこに、ある一人の子供がいます。その子が、この滅びの未来を変える存在を作ってくれる』

『!』

『ここにまた来たら、他のことも色々話します。……お願いします。彼女が存在を賭けて救った、この世界を――……』

 そう言いかける『黒』の言葉を遮るように、時空間からこの未来せかいを消滅させる極光ひかりが放たれる。
 二人はそれに包まれながら消え失せ、ログウェルは瞳を開けるといつも通りに自分の世界へ戻っていた。

 そして右手に残る『黒』に握られた感触を思い出しながら、ログウェルは自分の右手を握り呟く。

『……また、旅立たねばならぬようじゃな。少女あのこの願いを、叶える為に……』

 ログウェルはそう呟き、帝都を見渡しながら微笑む。
 翌日になると、彼は唐突に帝城から離れて流浪の旅を再開した。

 そして三年後、ログウェルは一人の子供を連れて帝国へ戻って来る。
 その連れられた子供は『メディア』と名付けられ、その子が様々な人間関係を経た事で、彼と同じ権能ちからを持つ者達が重要な役割を果たすことになった。

 こうして滅びの未来で『黒』と出会ったログウェルは、自らの存在が世界を滅ぼす事を明かされる。
 これこそが『黒』の予言していた『世界を滅ぼす者』であり、その命運を変える子供達をこの未来に導かれたのだった。
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