1,247 / 1,360
革命編 八章:冒険譚の終幕
過去と現在に
しおりを挟む天界にて老騎士ログウェルと再会したユグナリスは、彼がメディアの暴挙に加担している理由を語る。
それは常人の思考では納得し難い理由であり、それを理解できなかったユグナリスは自身の師匠であるログウェルを倒し止める事を選んだ。
しかし『火』の一族と呼ばれ『生命の火』を扱うユグナリスに対して、『風』の一族であるログウェルは『生命の風』で容易く迎撃を行う。
吹き飛ばされながらも『青』が口にするログウェルの能力について聞いたユグナリスは、すぐに身体を起こした。
そして自身の肉体に風を纏わせているログウェルを改めて目にしつつ、自分だけが吹き飛ばされた原因を一瞬で把握する。
「――……俺の『生命の火』が、ログウェルに近付いた瞬間に……消えた……!?」
「だから言ったであろう。お主と奴では、相性が悪いと」
「どういう事なんです……!?」
「そもそも『火』とは、可燃物が在ってこそ存在できる。お主の『生命の火』もまた、お主自身の生命力と精神を燃やす事で生み出されているのだ」
「……な、なら……それはログウェルも同じじゃ……?」
「原理はな。だが燃やし生み出した『火』と同じように、お主の『生命の火』は性質的に弱点がある」
「弱点……っ!?」
「『生命の火』は可燃物さえあれば燃え続けるが、逆に可燃物が無くなれば威力は弱まり消失してしまう。特に体外に放出されたお主の『生命の火』は、そうした現象に晒されれば弱まりは激しい」
「……まさか、ログウェルがやったのは……」
「奴の『生命の風』は、体外に放出されたお主の『生命の火』を吹き飛ばし、肉体から放たれる生命力と切り離した。だから消えたのだ」
「……!!」
『青』はそうした説明を真後ろから行い、ユグナリスが打ち負かされた理由を伝える。
そこに来てようやく自身の『生命の火』に弱点がある事を知ったユグナリスは、苦々しい面持ちを浮かべながらログウェルに視線を向けた。
そしてログウェルは余裕の笑みを向けたまま、左腰に帯びた聖銀の長剣を抜いて声を向ける。
「確かに、相性的な問題はあるかもしれんが。……単純に、まだお主が『生命の火』を上手く扱えておらんのも理由じゃな」
「えっ!?」
「同じ『生命の火』を用いていたお前さんの先祖は、例え生命力を切断されてもそれを持続させる技術を持っておった。……しかし、お主はその技術を鍛錬しておらんじゃろう?」
「……ッ」
「『生命の火』は強力な能力じゃが、それ故にそればかりに頼った戦い方をしておったからのぉ。……この三年でお主が自分自身の弱点を補う鍛錬をしておれば、儂も剣を抜かねば斬られていたやもしれんな」
「……クソッ」
微笑みながらも酷く落胆したような口調のログウェルに、ユグナリスはそれが師としての挑発である事を理解する。
今まで幾度となくログウェルに罵倒の限りを尽くされながら鍛錬に興じられていたユグナリスは、鍛錬を怠った為にこの状況となっている事を指摘されたと考えた。
するとユグナリスは再び前に歩み出ると、今度は全身から凄まじい生命力を発しながら『生命の火』に変えて言い放つ。
「だったら、吹き飛ばされても新しい『生命の火』を生み出し続ければいいだけだっ!!」
そう言いながら叫んだユグナリスは、再び赤い閃光となって移動を始める。
しかし今度は直接的に攻め込むのではなく、幾重にも偽装動作を仕掛けた。
剣を振り上げて襲い掛かろうとした瞬間に素早く別の場所に移り跳び、魔力を用いた魔法で『火球』を作り出す。
そして次々とそれを移動した周囲から発射し、夥しい数の『火球』がログウェル達に襲い掛かった。
しかしそれを避ける様子すら見せない彼等の中で、初代『緑』のガリウスが腕を組んだまま左手の薬指と親指を重ね擦り、指を鳴らして見せる。
すると百にも届きそうな『火球』が、一瞬にして消失した。
「!?」
「『火球』に紛れて襲って来るつもりだったんだろうが。魔力の炎なんぞ、燃料自体を消しちまえば簡単だろう」
「クッ!!」
『火球』を使った陽動作戦にも気付かれ、更に幾重にも偽装動作を行い周囲を光速に近い速度で動き回るユグナリスに対して、『緑』達は追う視線すら向けていない。
それでも意識だけは向けている事を理解しているユグナリスは、持っている自身の聖剣を『生命の火』に戻し、別の精神武装を作り出した。
それはウォーリスの魂を撃ち貫いた時と同じ狙撃銃であり、ユグナリスは真上に上昇し即座に構えてログウェルを狙い撃とうとする。
しかし次の瞬間、照準装置を覗き込んだ彼の視界に迫る二代目『緑』のバリスが迫っていた。
するとバリスは自身に纏わせる『生命の風』で飛翔し、ユグナリスの腹部に右拳の一撃を穿ち撃つ。
「グァ……ッ!?」
「失礼。隙だらけでしたので、つい」
腹部を強打されたユグナリスはバリスの用いる『生命の風』も浴び、自身に纏わせた『生命の火』を吹き飛ばされる。
そして炎化させていた肉体は元に戻り、更に内臓にも響く拳はユグナリスに苦しい息を吐き出させた。
更に勢いよく身体を回転させたバリスが、右脚をユグナリスの後頭部へ叩き付ける。
それによってユグナリスは凄まじい速度で落下し、白い魔鋼の大地へ叩き付けられそうになった。
しかしその直前、ユグナリスの身体を大きな水球が包み込む。
それによって水面に叩き付けられるのと同様の衝撃を受けながらも、それより遥かに硬い魔鋼への衝突をユグナリスは避けられた。
「……っ!?」
水球の中で意識を戻しながら瞳を開いたユグナリスは、そこで自身に錫杖を向けて構える『青』に気付く。
そして激突を免れた事を確認し、水球を解いた『青』はユグナリスを軽い高さで落としながら言い放った。
「お主と奴等では、確かに相性以前の問題であろう」
「!」
「片や儂と同じ初代の七大聖人。そしてもう一人は、ガリウスやルクソードの弟子にして第二次人魔大戦を切り抜けた猛者だ。技術と経験においては、お主とは雲泥の開きがある」
「……でも、このまま何もしないわけには……ッ!!」
「分かっている。だからこそ、儂等が居るのだろう」
「!」
濡れた状態のユグナリスをそう言いながら、『青』はリエスティアを後方へ下げながら歩み出る。
それにマギルスもシエスティナを背から降ろし、微笑みながら話した。
「ちょっと行って来るね!」
「うん、頑張って!」
そう言いながらマギルスは駆け、『青』と共にユグナリスの両脇に立つ。
すると互いに同様の人数で向かい合い、マギルスが高揚した微笑みを浮かべて隣に居る二人に問い掛けた。
「ねぇね、誰が誰とやろっか?」
「……俺が、ログウェルと戦います。二人は、他の二人を」
「ならば、儂がガリウスとやろう。奴の技術は、よく知っている」
「じゃあ、僕は向こうの御爺さんかな」
そうした意思を見せる三人が望む相手が真正面に捉えられ、互いに戦う構図が決められる。
それを待つように微笑む『緑』の老人達は、それぞれに向かい合う者達に声を向け合った。
「ほっほっほっ。本番の前に、余興を楽しむかのぉ」
「……ログウェル、俺がアンタを止めてやるっ!!」
「お手柔らかに、マギルス殿」
「へへぇ。執事の御爺さん、皇国に見た時から強そうだなって思ってたんだ!」
「『青』よ。そんな複製体で、本気れるのか?」
「それはお主とて同じだろう、ガリウス。――……行くぞっ!!」
互いに見知った間柄ながrに声を向け合った後、『青』の合図と共に全員が激突を始める。
それは衝突する生命力や魔力が溢れる場となり、離れて見るリエスティアやシエスティナの髪を揺らした。
こうして天界の大陸にて、三人の七大聖人に加えてマギルスが激戦を交わしている頃。
フォウル国の里付近に場面は移り、薄暗い洞窟内にてある者達の会話が行われていた。
「――……ここなのか?」
「そうじゃ。ちょっと待ってろ――……これが、明かりのスイッチじゃな」
「……!」
暗すぎて見えなかった二人の声は、眩い光に照らされて姿を見せる。
そこに居るのは『聖剣』を白い布で覆い左手に持っているエリクと、フォウル国の里に住むドワーフ族の長であるバルディオスだった。
そうして姿を見せたエリクだったが、その洞窟内にて広大な空間がある場所に訪れている。
更にそこに在るモノを大きく見上げながら、驚く様子と声を見せていた。
「……なんだ、コレは?」
「コレはな、儂等ドワーフ族の御先祖様が作ったモンじゃ」
「例の、聖剣を作ったというお前の先祖か?」
「違う違う。儂の先祖が死んだ後に生まれた、ある世代のドワーフ達が作ったんじゃよ」
「ある世代?」
「巫女姫から聞いておらんか? 転生者っつぅ奴等が、やたら多かった時代のことを」
「!」
「ドワーフの中にもそういう転生者達が居ってな。なんでもそのドワーフの転生者達が集まり、太古の知識からドワーフ王国の技術を用いて類似品を作ったんじゃと。コレはその古代武装の一つじゃな。まぁ使い方次第では危険過ぎるってことで、こうして地下深くに隠しておるんだがな」
「……コレが、か。……コレも、魔力で動くんじゃないのか?」
「違うのぉ。コレは魔力を含まぬ特殊な超合金で作られておってな、起動すると内部の装置と掛け合わせて荷電粒子と反荷電粒子が生まれて内部の動力源で衝突する。すると衝突した力場から生まれるエネルギーを利用し、この巨体を動かせる原動力にしておるんじゃ。凄いじゃろ?」
「……あ、ああ。凄いな」
「五百年前の天変地異では、製造していたコレを複数体も使って落下して来た天界の大陸を抱えて破壊し、多くの者達を救ったと伝え聞いておる。……だがそれは、コレを作り乗った転生者達の命と引き換えに達せられたそうじゃがな」
「……大丈夫なのか? お前がコレを操縦するんだろう。できるのか?」
「なに、五百年前のような無茶な使い方をせねば問題ないはずだ。操縦の仕方も知っておる。……何より、お前さんも急ぐじゃろ」
「ああ」
「だったら、つべこべ言わず乗り込むぞい。――……この、機動戦士にな!」
バルディオスはそう語り、目の前に存在する巨大な物体に導くようにエリクを連れて行く。
その洞窟内に存在していた転生者の遺産とは、魔力を用いた魔導技術とは大きく異なる設計と原理で作られた、全長二十メートル程の人型機械だった。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる