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革命編 八章:冒険譚の終幕

緑の系譜

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 ケイル達がアズマ国内にて『白』の七大聖人セブンスワンである『みかど』と出会っていた頃。
 天界エデン大陸だいちに到着していた帝国皇子ユグナリスとリエスティア達は、中央にそびえる巨大な神殿まで向かっていた。

 かなりの速さで走る父親ユグナリス友達マギルスに抱えられたリエスティアとシエスティナの母子に、追従する『青』が隣を走り付いている。
 すると『赤』と『青』の聖紋が仄かに光ると、それを持つ二人は神殿の入り口を見据えながら会話を始めた。

「――……これが、聖紋の共鳴ですか?」

「そうだ。……そして、奴が近い証拠あかしでもある」

「……ッ」

 ユグナリスと『青』は短くもそう話し、その先で待つだろう人物について話す。
 それを聞いたユグナリス側は渋い表情を強めると、『青』は警告を向けた。

「奴とは儂が戦おう。お前達はその間に、聖域あそこへ向かえ」

「えっ!?」

「『赤』の血族であるお主と、奴では相性が悪いからな」

「あ、相性って……?」

お前達ルクソードは『火』の到達者エンドレスと呼ばれる者の末裔だが、奴は『風』の到達者エンドレスと呼ばれる存在に仕えた一族だ。『火』と『風』では、『風』の方に相性的ながある」

「!」

「真っ向勝負では、恐らくお主では押し負ける。故に儂が――……」

「まずは! ……俺に、話をさせてください。お願いします」

「……分かった。だが、儂の言った事を覚えておけよ」

 『青』の言葉を聞いていたユグナリスは、せきを切るように自身の提案を告げる。
 それを聞いた『青』は渋々ながらも応じ、この先で待つ者とユグナリスが会話をすることを認めた。

 そうして一行は走り続け、ついに神殿まで辿り着く。
 すると彼等の視界には、その入り口に立つ一人の老人を確認した。

「……ログウェル……ッ」

「――……ほっほっほっ。来たのぉ、ユグナリスよ」

 相手の姿を視界に捉えると、ユグナリスとログウェルは視線を重ねながら互いの名を呟く。
 しかしログウェルは迎撃するような様子を見せず、一行は二十メートル程の距離を保ちながら立ち止まった。

 するとユグナリスは抱えているリエスティアの足を地面へ着け降ろし、隣に立つ『青』に預ける。

「リエスティアを頼みます」

「うむ。だが、気を付けろよ」

「大丈夫ですよ。きっと……」

 注意を向ける『青』に対して、ユグナリスは微笑みを浮かべながらそう話す。
 しかしその言葉とは裏腹に胸騒ぎを感じる彼は、改めてログウェルに歩み寄りながら更に十メートルほど距離を縮め、声を向けた。

「……ログウェル。アンタ、何やってんだよ」

「何を、とは?」

「……あのメディアって人と、知り合いなんだろ? なんでこんな馬鹿なことしてるのに、めないんだ」

「ほっほっほっ。……儂も、メディアと同意見だからじゃよ」

「!?」

「儂は人間という存在が好きじゃ。だがその実、人間とは非常に怠惰な存在でな。自身が楽になることばかり追求し、そうした技術ばかり高め、生物としての進化を止めてしまうのが人間じゃ。……儂はそんな人類にんげんに、少し刺激を与えたいだけじゃよ」

「……何を、言って……」

「逆に、お主のような者達ならば好ましく思える。故に儂は、儂等は人間に試練を課す存在でもあるんじゃよ。――……『風』の一族として」

「!」

 ログウェルは普段と変わらぬ微笑みを向けながら、自身の両手を左右に広げる。
 すると次の瞬間、無風だったその場に風が吹きながら彼の両隣に風に集まるような動きが見えた。

 そして次の瞬間、ログウェルの隣に二人の人物が作り出される。
 ユグナリスはそれに驚愕し、同時に後方に控えていた『青』は渋る様子を浮かべた。

「えっ!?」

「……バリス。そして――……ガリウス」

 その場に居る全員が視たのは、ログウェルの隣に出現した二人の老人。

 一人目はルクソード皇国の『赤』一族に仕えていた、元『緑』の七大聖人セブンスワンバリス。
 更に二人目の老人おとこを見た『青』は、それをガリウスという名前で呟いた。

 しかもその二人は意思を持つように瞼を開き、ログウェルの右隣に立つバリスが声を発し始める。

「――……御久し振りですな。ユグナリス様」

「貴方は、バリス殿……!? 確か貴方は、二年前に皇国が改名した後に姿を消したと……。実体……? それとも、幻影……?」

「そう、わたくしは皇国での役目を終えました。故に、彼のもとに戻ったのです」

「戻った……?」

「以前に、わたくしログウェルの前任者である『緑』の七大聖人セブンスワンだったことは話しましたね? その時に、私の本名も御教えしましたが、覚えておられますか?」

「え、ええ。確か、バリス=フォン=ガリウスと……」

「不思議に思いませんでしたか?」

「え?」

「何故ログウェル殿が、私の名バリスを自分の名に含んでいたのかを」

「……それは、御二人が親類関係だからでは……?」

「違いますな。わたくしとログウェル殿は、そうした関係ではないのですよ」

「えっ。……だったら、なんで……?」

 バリスの話を聞いたユグナリスは、改めて彼等の名前が自分達の常識とは微妙に異なることを自覚する。

 前任者である『緑』の七大聖人セブンスワンバリス=フォン=ガリウス、そして現任者のログウェル=バリス=フォン=ガリウス。
 まるでフォン=ガリウスの姓だけではなく、ログウェルに自分の名を継がせるような形にしていることに、改めて違和感を覚えた。

 すると今度は、ログウェルの左隣に立ち『青』からガリウスと呼ばれる老人おとこが声を発し始める。

「――……ほぉ、この男がルクソードの子孫か。確かに、雰囲気は似ているな」

「あ、貴方は……?」

「俺か? 俺はガリウスだ」

「ガリウス……。……ログウェル=バリス=フォン=ガリウス……。……この二人の名前が、ログウェルの名に含まれている……?」

「なんだ? コイツ、俺達の事を何も知らないのか。――……おっ、そっちに居るのは『青』か。ん? 二人もいるな、どっちが本物だ?」

「……やはり、アレはガリウス。最初の『緑』だ」

「!?」

 ガリウスと名乗る男は、『青』とマギルスを見ながら慣れ親しむような声を向ける。
 するとその声や様子を確認した『青』は、それが初代『緑』の七大聖人セブンスワンガリウス本人だと明かした。

 その声を聞いた周囲の者達は驚きを浮かべる中、ユグナリスは必死に思考を回して状況を理解しようとログウェルを発する。

「ログウェル、コレって……」

「そう、この二人は『緑』の七大聖人セブンスワン。――……今も、昔ものぉ」

「えっ」

「『緑』の七大聖人セブンスワンは、『白』や『黒』と同じように継承の仕方が特殊でな。……儂等の聖紋には、『緑』となった者の人格や魂を引き継がせるんじゃよ」

「!?」

「故に、儂等の名は『ログウェル=バリス=フォン=ガリウス』。儂等は三人で、一人の存在ということじゃ。――……まぁ、今まではこうして彼等の精神体からだを作り、別の生活を送っておったがの」

「!?」

 ログウェルはそう語り、手袋を脱いで右手の甲を晒す。
 それと同じようにバリスやガリウスもそれぞれに右手の甲を見せ、そこに浮かぶ『緑』の聖紋を見せた。

 三人はそれぞれに『緑』の聖紋を持ち、互いに明確な意思と人格、更には実体すらも有している。
 今まで様々な人物達に出会ったユグナリスだったが、最愛の女性リエスティア以外に最も知ると思っていたログウェルという存在について、改めて疑問を零した。

「……ログウェル。アンタ……人間なのか?」

「人間じゃったよ。四百年ほど前まではのぉ」

「!?」

「その頃に儂は聖人へ至り、バリス殿と出会い、百年ほど前に『緑』を継ぐと同時に『風』の一族として迎えられた」

「一族に、迎えられた?」

「儂等には、血の繋がりは無い。しかし聖紋を通じてその魂を継承し、全ての経験と記憶を継承しておる。……故に儂は、『ログウェル=バリス=フォン=ガリウス』なのじゃよ」

「……何となく、意味は分かるけど。でも、ソレとコレとどんな関係が……!!」

「言ったであろう。人間に試練を課すのが、『風』の一族の役目じゃと」

「試練……。メディアって人に好き勝手させるのが、人間への試練だって言うのかよっ!?」

「そうじょよ?」

「!?」

「まぁ、メディアはメディアなりの理由もあるが。儂は試練の為に、メディアと共闘しておると言った方がいいな」

「……どんどん、アンタの事が分からなくなってきた。……その試練を課して、アンタは人間をどうしたいんだっ!?」

 ログウェルの話を聞いていたユグナリスだったが、彼の話す目的を得ながらもその真意を得られずに困惑しながら怒鳴った。
 するとログウェルは口元を僅かに微笑ませ、ユグナリスの疑問に言葉を返す。

「言ったじゃろ、これは試練じゃと。――……この状況を人間が止めるなり生き残れるのならば、それは試験に合格したということ」

「……じゃあ、アンタ達を止められなかったら?」

「無論、滅びるだけじゃよ」

「……アンタは、それでいいのかよ……っ」

「ふむ。儂としてもそれは残念じゃが――……まぁ、そうなれば仕方ない。儂等を止められぬのならば、一度この世界を滅ぼしてメディアに作り直させた方がマシかもしれんな」

「……本気なのかよ、アンタは」

「儂がそうした冗談を言わんのは、お前さんがよく知っておるだろう?」

「……ああ、そうだな」

 ログウェルは人間に対する『試練』を目的として、自身の行動理由を明かす。
 それを聞いたユグナリスは僅かに顔を伏せて両拳を強く握り締めた後、顔を上げて鋭い眼光と言葉をログウェル達に向けた。

「俺は、アンタのことを本当に尊敬していた。ここまで俺を強く育ててくれた事にも、感謝している。……だから師匠アンタの凶行は、弟子の俺が止めるっ!!」

「ほっほっほっ。よう言うた、それでこそ儂が認めた『男』じゃ」

 ユグナリスは自身の肉体に『生命の火』を纏わせ、そこから生み出す精神武装アストラルウェポンで自身の聖剣けんを形成させる。
 すると自身の肉体も『生命の火』に変化させ、赤い閃光となってログウェルに襲い掛かった。

 しかしそれを見ていた『青』が、表情を強張らせながら叫ぶ。

「いかんっ!! 儂が言ったことを忘れたかっ!?」

「!?」

 自身の感情を優先しログウェルと衝突しようとするユグナリスに、『青』は叱責を飛ばす。
 しかしその声は周囲に響くだけで、凄まじい速度で向かうユグナリスには届かなかった。

 次の瞬間、前に出たログウェルとユグナリスが衝突を起こす。
 その結果は、周囲の者達や本人を驚愕させるに至った。

「――……ぐぁああっ!!」

「ユグナリス様っ!?」

「お父さん!」

 衝突して一秒にも満たぬ瞬間に、ユグナリスはその場から吹き飛ばされながらリエスティア達がいる方へ返される。
 それを心配し呼ぶ妻子さいしの声がその場に響いた後、その場に凄まじい突風が吹き荒れた。

 今まで無風だった状況で勢いよく吹き出すような突風は、その発生源へ全員の視線を向けさせる。
 するとユグナリス自身も上体を起こし、自身が衝突した相手ログウェルに目を向けながら驚きの声を零した。

「……ログウェル、まさかアンタも……!?」

「――……お主等、『火』の一族が『生命の火』を扱えるように。儂等『風』の一族も、同じ事ができる。それだけじゃよ」

「……アレが、『緑』の七大聖人セブンスワン。『風』の一族の能力ちから、『生命の風』だ」

「……生命いのちの、かぜ……!!」

 ユグナリス達が見たのは、ログウェルの肉体が緑色の光に覆われている姿。
 それは『生命の火』を扱うユグナリスと似た姿であり、『青』はそれを『生命の風』という能力ちからだと明かした。

 こうしてログウェルの目的を知ったユグナリスは、弟子として師匠を止める為に戦いを仕掛ける。
 しかし弟子かれが扱う『火』に対して、同様の能力ちからである『風』がそれを阻むのだった。
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