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革命編 八章:冒険譚の終幕
母子の戯れ
しおりを挟むアズマ国内に赴いたケイルは、『白』の七大聖人である転生体の『帝』と出会う。
そして『黒』の未来視とは真逆にメディアの過去を視ることが出来た帝は、その目的を理解し自ら止めに向かう意思を見せていた。
それが事態の解決に繋がる可能性を考えたケイルは、帝を連れ出そうと試みて各流派の当主達と相対する。
その行動を阻もうとした武玄と巴だったが、事態を静観するナニガシの言葉を受け、自分自身の心に従い愛弟子に味方する事を選ぶ。
更にシルエスカも加わり、一転した状況においてケイル達は相対しながら『帝』を争奪する為に争おうとした。
しかしその対峙は、再び出現した映像によって阻まれてしまう。
そこに映し出されていたのは、天界の聖域において戦うメディアとアルトリアの姿を映し出していた。
「――……ほらほら、どうしたの。元気が無くなってきたね?」
「……ハァ……。……ハァ……ッ!!」
メディアは微笑みを向けながらそう呼び掛け、その先で膝を地面に着けるアルトリアへ声を向ける。
そして荒い息を零しながらアルトリアは立ち上がり、僅かに身体を揺らしながらも踏み止まるように地面へ足を踏み締めた。
するとメディアは拍手するように両手を重ね、立ち上がったアルトリアに声を向ける。
「おー、偉い偉い。よく立てたね。アルトリア」
「……馬鹿に、してるの……!?」
「そんなつもりは無いよ。ほら、君が初めて立った時はもう居なかったから。こんな感じで立ったのかなと思って、褒めてあげただけさ」
「……ッ!!」
挑発にしか思えぬ言葉を向けるメディアに対して、アルトリアは呼吸を整えながら再び自分の肉体に魔力を集めて生命力へ置き換える。
そして自分の肉体に生じた小さな傷を瞬く間に癒すと、再び生命力で形成させた錫杖を向けながら夥しい数の気力弾を周囲に作り出しながら発射した。
しかしメディアは結界を張って防御する様子すら見せず、襲来する気力弾に対して呟きの声を向ける。
「『返すよ』」
「なっ!? ――……『消えよ』ッ!!」
メディアは短くそう言葉を発すると、向かって来る全ての気力弾が瞬時にアルトリアへ返される。
それが古代魔法である統一言語だと瞬時に見抜いたアルトリアは驚愕を浮かべながらも、同じように統一言語を発した。
それによって向かって来た気力弾は全て掻き消え、メディアはそれに対しても褒める様子を見せる。
「おー、偉い偉い。ちゃんと統一言語も出来るんだね。でも、言葉がちょっと拙いかな。使い慣れてないのがよく分かるよ」
「……ッ!!」
「そろそろ、凡才の君でも理解できただろ。――……君に出来る事は、私にも出来るんだよ」
メディアは平然とした様子で、余裕の態度と様子を見せ続ける。
それと対峙せざるを得ないアルトリアは、メディアの持つ技術が自分を上回っている事を改めて理解させられた。
しかしそれでも諦める様子を見せないアルトリアは生命力で形成した錫杖を巨大な剣状に変化させ、メディアに斬り掛かるように襲い掛かる。
「ァアアッ!!」
「あー、ダメダメ。今そういうのは――……」
「!?」
「ほら、こうなっちゃうから」
薙いだ気力斬撃がメディアを襲おうとすると、彼女が纏っている『魔王の外套』が自身の意思で広がり喰らう。
夥しい生命力で寝られた巨大な剣は外套に飲まれ、それに巻き込まれそうになったアルトリアは瞬時に転移し先程まで居た位置に戻った。
そして満足そうに生命力を飲み込んだ自身の外套を見ながら、メディアは呆れの声をアルトリアに向ける。
「そういうのは効かないって、さっきので理解してくれたと思ったんだけど。遊ぶにしたって、もっと考えてやってくれないとさ」
「……遊び、ですって……!?」
「あら。もしかして、今がまさに本気だったりする?」
「……ッ!!」
「なんだ、てっきり親子の戯れ程度で遊んでくれてるのかと思ったんだけど。……それが君の限界なんだね、アルトリア」
自身の本領を特に見せていないメディアは、既に全力で掛かってきているアルトリアを理解して落胆した面持ちを浮かべる。
しかしその言葉を嫌うかのように、アルトリア自身は背負う六枚羽の翼を広げ、上空に飛翔しながら真下に向けて両手を翳した。
すると先程と同じように周囲の魔力を肉体に掻き集め、自身の両手に膨大な生命力を作り出し始める。
それを見たメディアは呆れるような視線を向け、溜息を漏らしながら呟いた。
「それは効かないって、さっきも言ったでしょ?」
「……知ってるわよ、そんなのっ!!」
見上げているメディアの口の動きを察したのか、アルトリアは苦々しい面持ちを浮かべる。
その言葉とは裏腹に、先程と同じ生命力と魔力の混合砲撃をメディアに放った。
それは再び動き出す外套の広がりによって飲み込まれ、メディアへ浴びせる事は出来ない。
しかし次の瞬間、メディアの真横に転移して来たアルトリアは集めた魔力と生命力を間近で放とうとした。
そうしたアルトリアの工夫を見破るように、既にメディアはその位置へ視線と微笑みを浮かべている。
「駄目だよ、アルトリア」
「ッ!?」
「不意打ちも、私には効かないから」
不意打ちを見破り微笑むメディアは、既に振り抜いていた右脚をアルトリアの左腕へ激突させる。
すると左腕と左胸の骨が複雑に折れ砕ける音がその場に響き渡り、アルトリアはその場から吹き飛ばされながら再び木々を破壊していった。
そうして木々が薙ぎ倒される音が終わった後、メディアはその場から瞬時に転移する。
更に吹き飛ばされて左腕が複雑に折れ曲がり地面へ横たわるアルトリアを見ながら、溜息と共に声を発した。
「はぁ。――……ごめんね、アルトリア」
「……ッ!?」
「まさか君が、こんなに弱いなんて思わなかったんだ。本当にごめん」
「……なに……を……っ!!」
「だって君なら、もっと強くなれると思ってたんだ。それを期待して、私の欠片も分けてあげたんだし」
「……!?」
「でも、しょうがないのかな。これが人間という種族の限界なんだろうから」
そうした言葉を向けるメディアに、アルトリアは驚愕の表情を浮かべる。
そして折れ曲がった左腕を治癒しながら右手で上体を起こすと、青い瞳を向けながらメディアに問い掛けた。
「……私に、欠片を分けた……!?」
「ん? あぁ、それも気付いてなかったんだ。ごめんごめん、もう自覚してるものかと思ってたけど、そうじゃないんだね」
「……!?」
「君の持ってる欠片は、私の欠片を少し分けてあげただけだよ」
「……え?」
「君が生まれた時、君に贈り物をしてあげたんだ。私自身の欠片と一緒に、権能の使い方をね」
「……何を、言って……」
そう告げるメディアの言葉に、アルトリアは動揺した面持ちを浮かべる。
すると右手を翳し向けたメディアに反応するように、アルトリアの額に白い紋章が浮かび上がった。
その光に気付いたアルトリアは、自身の額に触れながらようやくその意味を理解する。
「……まさか、コレは……」
「そう。君に欠片を渡した時に、私が描いた契約印だよ」
「!?」
「君は契約印のおかげで、私が持ってた権能の一部を扱えてたんだ。生まれた頃からね」
「……じゃあ、さっきの話は……」
「創造神の魂は、本来な七つに分けられているけど。私が持ってた一つの欠片が、更に二つに分かれて君の中へ宿らせた」
「……!!」
「言わば、君の権能は八つ目の欠片。人類が抱く大罪の一つ、『無垢』ってことになるかな。赤ん坊だった君には、ピッタリでしょ?」
「……なんで、そんな……」
「強い欠片同士が融合すれば、より強い欠片に掛け合わされる。そうすれば、扱える権能も増大する。君もやってたでしょ?」
「……!!」
「私一人で欠片を育てるよりも、二つに分けて育てた方が元に戻った時に権能が増す。君に欠片を分け与えたのは、その為だよ」
然も当然に微笑み話すメディアに、アルトリアは絶句した面持ちを向ける。
それは彼女が生まれ持っていた権能ではなく、母親から譲られた欠片であった事が明らかにされた。
メディアはそれを話した後、アルトリアの額に浮かぶ紋章に指を向けながら話を続ける。
「その契約印に私が再び触れた時、君が持っている権能は私に戻る」
「ッ!!」
「それと同時に、君からは権能が消える。あぁ、安心しなよ。君自身の魂は、ちゃんとその肉体に残るだろうから。――……でもその時、君は普通の……人間の女の子になるだろうね」
「……」
「何の権能も、そして特別な能力も持たない、普通の女の子。ある意味、化物嫌いの君にとっては良い話じゃないかな?」
「……ク……ッ!!」
アルトリアは治癒させた左腕でも自身の上体を支え、両手を地面に着きながら立ち上がる。
それを見るメディアは、首を傾げながら問い掛けた。
「あら、まだ戦う気? 私が逆立ちしたって、君には勝てないよ。なんなら、実際にやってあげようか?」
「……ふざけんじゃ、ないわよ……っ!!」
「?」
「自分の娘に、そんなモンを押し付けといて……。必要になったら、返せですって……。……冗談じゃないわ……っ!!」
「えぇ、貸したモノを返してもらうだけなのに?」
「それに、この権能は私が育てたのよ……。……だったらもう、コレはアンタの権能じゃない。私の権能よっ!!」
「うん。だから君に、機会を与えるって言ったんだけど」
「!」
「私を倒して私の権能を奪うか、それとも奪われるか。それを出来るかどうかは、君自身に掛かっているわけだ。……でもその程度の実力だと、私に勝てそうにないね」
「……まだ、これからよ……!!」
アルトリアの実力を完全に見切ったメディアは、そうした侮りの言葉を向ける。
しかし再び自分自身の権能を使って生命力を蓄え始めたアルトリアは、両手を地面に叩き着けた。
すると次の瞬間、周囲に存在する木々の根や枝葉が伸びながら、メディアに一斉に襲い掛かる。
それはウォーリスが行っていた生命力の操作を技術であり、アルトリアはそれすらも模倣して見せた。
しかしメディアを覆った木々は、次の瞬間に一斉に砕かれる。
それは右手を動かしたメディアが、邪魔な木々を払い除ける程度の動作だった。
「……あら?」
しかしその時、アルトリアの姿が目の前から消えている。
するとメディアは周囲を見回し、微笑みを浮かべながら呟いた。
「なるほど、今度はかくれんぼでもしたいのかな。いいよ、お母さんが遊んであげる」
「――……ッ」
気配と完全に絶ったアルトリアに対して、メディアはそう言いながら聖域の森を歩き始める。
それはアルトリアにとって、圧倒的実力差を誇るメディアを相手にした時間稼ぎだった。
そうして天界の聖域に置ける母子の戦いは、奇しくも地上の者達に映像として見せられる。
それは現状の人類において最も強いはずのアルトリアが、メディアにとって赤子に等しい存在として遊ばれている光景だった。
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