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革命編 八章:冒険譚の終幕

瞳に映る未来

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 ガルミッシュ帝国のローゼン公爵領地に帰還したアルトリアだったが、待ち構えていた兄セルジアスによって自身の悪行おこないを責め怒鳴られる。
 更に『赤』の七大聖人セブンスワンが持つ聖紋が帝国皇子ユグナリスの右手に宿り、それを前任者ケイルに譲渡しようとするも失敗に終わった。

 そうした波乱の帰還を迎えながら膝を崩すユグナリスを見るケイルは、微妙な面持ちで声を向ける。

「……まぁ、なんだな。なんかお前に、聖紋それがやって欲しい事があるんじゃねぇか?」

「……や、やって欲しいこと……?」

「ミネルヴァから聞いた話だと、聖紋《それ》は何かしらの目的で宿主を選ぶらしいから。お前に何かやって欲しいのか、それとも何かやりたいとお前自身が考えてることに同調してるのか。どっちかじゃねぇか?」

「え……? ……お、俺がやりたい事って言われても……」

 ケイルは聖紋がユグナリスに引き継がれた理由を考え、そう指摘する。
 しかし今までリエスティアに対する愛情で突き動かされた彼の思考には、帝国皇帝となること以外にそれらしい目標などが考えられていない。

 そんなユグナリスの思考を察するように、アルトリアがいつもの悪態を吐いた。

「ふんっ。この馬鹿にそんな大層な考えなんか無いわよ。何かやって欲しいって前者ほうで当たりじゃない?」

「……な、何かってなんだよ?」

「はぁ。……アンタも一応、世界を救う為の欠片カギではあるから。そんなところじゃないかしらね」

「カギ……? 何の話だよ」

「さぁね。とりあえず、アンタにも時が来たら協力してもらうから。それまで義伯母様クレアに皇帝代理を続けさせるか、それとも……」

「……!」

 ユグナリスが同じ創造神オリジン欠片たましいを持つ者である事を嫌い話すのを拒みながらも、アルトリアはそうした推測を見せる。
 そして皇帝を継げない状況となったユグナリスに代わり、自分の兄セルジアスへ視線を向けた。

 そうして一同がセルジアスに視線を注ぐと、張本人は渋る表情を見せながら口を開く。

「……私は、皇帝にはなれないよ」

「ローゼン公……」

「続けられている帝都の復興と公爵家領地ここの運営、それに皇帝代理クレアが必要とする職務の補佐で精一杯だ。そんな私が皇帝候補そういうことになってしまうと、様々な混乱が生じてしまう。……何より、亡きゴルディオス陛下が次期皇帝として認めたのは君だ。ユグナリス」

「……ッ」

「私は君こそが新たな皇帝に相応しいと思っている。他の貴族達も同様の考えだ。私や彼等は帝国貴族として、君達を支えるのが役割なんだよ」

「……でも、『聖紋これ』がある限りは……」

 自身が皇帝となる事を明確に否定するセルジアスは、そうして諭す言葉をユグナリスに向ける。
 しかし七大聖人セブンスワンとなった事で皇帝となる道を閉ざされている為、それが叶えられない道だとユグナリスは考えながら呟いた。

 するとセルジアスは、妹アルトリアを見ながら問い掛ける。

「アルトリア。さっきの口振りだと、君達が世界の滅亡を回避する為に探している人物達の中に、ユグナリスが含まれているんだね? それが『赤』の聖紋を宿した理由になっている。そう考えていいかな?」

「まぁ、そういうことよ」

「なるほど。ならそれを終えるまでは、クレア様には皇帝代理を務めて頂こう。ユグナリス、君はアルトリア達に協力して、世界の滅亡を防いでくれ。この世界が無くなれば、皇帝の話を今ここでしても無意味だからね」

「……はい」

 今までの情報からそう結論付けたセルジアスは、ユグナリスに優先すべき事を教える。
 それを聞き入れたユグナリスは落としていた膝を上げ、改めてアルトリアに問い掛けた。

「俺はこれから、何をすればいい? 教えてくれ」

「その前に、もう一人の意思も聞く必要があるわ」

「もう一人? ……えっ」

 アルトリアはそう話し、ユグナリスから視線を逸らす。
 すると新たに向けられた視線の先には、寝台ベッドにいるリエスティアが居た。

 するとアルトリアは足を進め、改めて黒い瞳を見せているリエスティアと話を行う。

「リエスティア。貴方の協力も必要になるだろうから、覚悟しておいてほしいの」

「……私の、身体の事ですね」

「!」

 相手アルトリア内容はなしを聞く前に、リエスティアはそうした言葉を零す。
 傍に居たユグナリスはそれに驚きながらも、アルトリアはそれを予測していたかのような口振りで話を続けた。

「やっぱり、貴方にも視えてるね。しかも今は、完全に」

「……はい」

「ど、どういう事だよ……!?」

「アンタも流石に知ってるんでしょ。リエスティアの身体が『創造神オリジンの肉体』と呼ばれてるって。言わばリエスティアは、創造神オリジン複製体クローンなのよ」

「!」

「そしてその複製体からだを管理していたのが、『黒』の七大聖人セブンスワン。でもリエスティアの身体から『』の精神体が消失した事で、自我を得た肉体が今のこの子リエスティアを生み出した。……でも『黒』が宿っていた頃からの体質は引き継いでいる。だったら『黒』が持ってた未来視の能力ちからも、この子は引き継いでるのよ」

「未来視……!? リエスティアに、そんな能力ちからが……」

「この子の瞳を治癒した頃から、そうした兆候は診れたわ。ただ未来視の影響で脳や精神に大きな負荷が掛かってたみたいだから、なるべく瞳を開かずに未来を視ないよう注意してたけど。……今はもう、完全に未来視を制御できてるのね」

「……はい。アルトリア様や皆さんがここに来る未来こうけいは、視えていました」

「!!」

 アルトリアの言葉を肯定したリエスティアは、『黒』と同じ未来視の能力ちからを得ている事を明かす。
 それに驚く周囲の反応を他所に、アルトリアは表情を厳しくさせながら話を続けた。

「だから、私が話そうとしていた事も分かる。……リエスティア、それに協力できる?」

「……」

「ア、アルトリア! 彼女リエスティアに何をさせようと……!」

「……世界の破壊を防ぐ為には、もう一度だけリエスティアには創造神オリジンの完全体になってもらう必要があるのよ」

「なっ!?」

「世界を破壊しようとする循環機構システムの自爆は、一時的に停止しているに過ぎない。それを制御する為には、やはり創造神オリジンの完全な肉体が必要。……だからその時が来たら、私がリエスティアの魂と肉体を切り離すわ」

「……アルトリア、お前……ッ!!」

 厳かな表情でそうした話を伝えるアルトリアに、ユグナリスは表情を強張らせる。
 そして何か怒声を放とうとした瞬間、それを止めるようにリエスティアが自身の意思を介入させた。

「ユグナリス様、いいんです」

「!」

「アルトリア様は、そうする必要があるからこそ私達に協力するよう御伝えしているんです」

「で、でも……そうなったら、また君の魂が輪廻に……!!」

「それも防げる方法を、アルトリア様は考えておいでです。そうですよね?」

 いかろうとしたユグナリスをなだめたリエスティアは、自らその対策があることを訪ねる。
 すると小さな溜息を漏らしたアルトリアは、腕を組みながら対策それについて話した。

「ウォーリス達が言ってたでしょ。抜き取られた魂を一時的に保管してたって。その方法を使って、貴方の魂を現世こちらに留めるつもりよ」

「だから、御父様ウォーリス達の協力も必要なのですね」

「まぁね。私の知識あたまで作ることも出来なくはないけど、一から組み立てるより既にある技術を流用した方が早いし。……それで、貴方は協力する気はあるの?」

「はい」

 魂を現世に留める技術を持っていたウォーリス達にも協力が必要だと明かしながら、アルトリアは改めてリエスティアに協力の成否を尋ねる。
 すると頷いて応じたリエスティアに、ユグナリスが困惑の表情を強めながら声を掛けた。

「リエスティア……!!」

「ユグナリス様。私にも協力させてください。それがきっと、御父様ウォーリスの贖罪にも繋がると思いますから」

「で、でも……」

「それに、ユグナリス様も御協力して下さるなら。私も、安心できます」

「……っ」

 微笑みながら協力に応じる許可を求めるリエスティアの言葉に、ユグナリスは反対の言葉を詰まらせる。
 そして渋る表情を抱えながらも、アルトリアを睨むように見ながら自身の返答を向けた。

「……話は分かった。でも絶対に、リエスティアを危険な目に遭わせるなよ」

「そんなつもり、最初から無いわよ」

「そうか。……それで、具体的にどういう事をするんだよ? お前とリエスティアは二人だけで分かっているようだけど、俺は何も分からないぞ」

「……はぁ、しょうがないわね。……創造神オリジンの肉体が在るってことは、この現世には創造神オリジンの魂を持った生まれ変わりもいるのよ。それは分かる?」

「あ、ああ。それがお前なんだろ?」

「それも知ってたのね。……ただし、創造神オリジンの生まれ変わりは私だけじゃない」

「え?」

創造神オリジンの魂は七つに分けられて、それぞれ創造神オリジンの因子を持った存在に宿った。そしてその魂が持っていた権能ちからも七つに分けられて、それぞれの生まれ変わりに宿ってるのよ。……それで循環機構システムの自爆を止めるには、七つに分けられた創造神オリジンの魂を持つ者達を集める必要があるわけ」

「……えっと、創造神オリジンの生まれ変わりは七人も居るってことか? その一人が、お前で……他の六人は?」

「んっ」

「……え?」

「アンタよ、アンタ。アンタも一応、創造神オリジン欠片たましい権能ちからを引き継いでるのよ。じゃなきゃアンタの協力なんか死んでも頼まないわ」

「……お、俺がっ!?」

「ついでに、そこにケイルもその一人。あと、私の仲間のエリクもそう。他にも魔大陸に一人いるらしいのと、残り二人は誰かも分かってない。だから私は、その残り二人を今まで探してたってわけ。分かった?」

「……え、えぇ……?」

 不快で不愛想な表情で説明するアルトリアに、ユグナリスは呆然とした表情を見せる。
 そしてそれを傍で聞いていた兄セルジアスもまた、その事について話に加わった。

「……その二人なんだが。ウォーリスの話から、その一人が私達の母上メディアかもしれないという情報があった」

「ウォーリスから?」

「何でも、彼の過去には母上メディアが関わっていたらしい。幼少時の彼女リエスティアを四大国家の非加盟国である小国に隠したのも、母上メディアという話だった」

「リエスティアを隠したのが……。……そうか。テクラノスが見たっていう子供は、この子リエスティアの事だったのね……」

「エリク殿はその話を聞き、母上メディアの消息を知るかもしれない者達を当たっている。その有力な情報源として、母上の育て親であるログウェル殿の捜索も各国へ依頼していたんだ」

「なるほど、そういうこと……」

 エリクがメディアやログウェルを探し始めた切っ掛けがその話を聞いたからだと、改めてアルトリアは理解する。
 そして僅かに思考した後、彼女アルトリアは次の行動に移った。

「……ウォーリスに会うわ。面会できる?」

「ああ、可能だよ」

「リエスティアの魂についてもそうだけど、ウォーリスに聞きたい事が出来たわ。ちょっと行って来るわね」

「アタシも行くぜ」

「僕はこの子シエスティナと遊んでるー!」

「はいはい。――……というわけだから、これからの事はエリクが戻ってからよ。それまでは大人しくしてなさい」

「えっ!? いや、お前が言うなよ……!」

 そう言いながらアルトリアはケイルを伴い、セルジアスを先導させて部屋を出て行く。
 必死に思考していたユグナリスはそれに取り残され、部屋の中に留まる事になった。

 そして部屋に残ったマギルスは、友達となったシエスティナに微笑みながら話し掛ける。

「ねぇねぇ、何して遊ぼうか」

「うーんと、えーっと……かくれんぼ!」

「うん、いいよ!」

「お父さん、お母さん! 友達マギルスと遊んでくるー!」

「あっ、ちょっと! シエスティナッ!?」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 今度はマギルスに連れられたシエスティナが部屋を出て行き、父親であるユグナリスはそれを止めようとする。
 しかし母親であるリエスティアは、逆に二人を微笑みながら見送る様子を見せていた。

 すると二人だけになった部屋の中で、リエスティアは黒い瞳を見開きながら驚愕の表情を浮かべる。

「……ユグナリス様……!!」

「えっ?」

「……これは、何の……未来こうけいなの……!?」

「リエスティア……!?」

 自身の黒い瞳を覆いながら動揺を浮かべるリエスティアに、ユグナリスは駆け寄りながら身を寄せる。
 それから動揺を鎮められないリエスティアは、『黒』の瞳が視せた未来こうけいを語ることが遅れてしまった。

 こうして循環機構システムを掌握する為に必要な創造神の肉体リエスティアと、欠片たましいの一つであるユグナリスの協力を得られる事になる。
 しかしそうした間にも、彼等の居る世界には更なる異変が起きようとしていた。
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