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革命編 八章:冒険譚の終幕
合流の兆し
しおりを挟む創造神の欠片を持つ可能性がある者達を探すべく、アルトリアとケイルはマシラ王ウルクルスへ再び会う為にマシラ共和国の王宮に訪れる。
しかし残された時間が限られる中で焦燥感を強めるアルトリアは、自分自身の思考ばかりを優先し周囲を見れなくなり始めてた。
そんなアルトリアを叱責するケイルだったが、そんな彼等が待たされている客間に老師テクラノスが訪れる。
二人に挨拶を交えた彼は、そのまま二人に歩み寄りながら声を向けた。
「――……何やら、言い争っておるように聞こえたが。何かあったか?」
「……別に。それより、王様は?」
「まだ会議中でな。それが終わるまでは、儂がお主達の話を聞くべきだと思ったまでだ」
二人の前に現れた理由をテクラノスは明かし、そのまま二人が座る長椅子の対面に用意された椅子へ腰掛ける。
すると改めるように、二人が再訪した理由をテクラノスは問い掛けた。
「それで、何事が生じたのだ?」
「……コイツと似た権能を使える奴を探してる。その一人として、マシラ王ウルクルスをちょっと調べさせて欲しい」
「王を?」
「この世界とは別の未来について、『青』から聞いてるか?」
「聞いておる。それが?」
「どうやら別未来ではウルクルス王が死んでたらしいんだが、それから誕生した子供の一人がコイツと似た権能を持ってたらしい。そして現在の時代でその子供を見つけたんだが、それらしい権能を確認できなかった」
「……お主達が探しているのは、分けられた創造神の魂を持つ者達か」
「知ってるのか?」
「話だけはな。だが儂が見る限り、ウルクルス王は欠片の所有者ではないだろう」
「なんで、そう言い切れる?」
「これでも二十年間、共和国に居るのでな。幼い頃から見ていた彼奴は、マシラの秘術以外に特に目立った特徴も無い子供であった。……お主と違ってな」
「……ッ」
王子時代の頃からウルクルスを知るテクラノスは、彼が血族の秘術以外に創造神の権能を有していない事を伝える。
その確信に満ちた言葉はケイルの表情を渋らせ、比較されたアルトリアには苛立ちの表情を浮かばせた。
しかし二人が再び姿を見せた理由を知り、テクラノスは納得した言葉を見せる。
「だが、なるほど。それでか」
「?」
「先程まで、儂も王達が出席している通信会議に参加していた。そこでガルミッシュ帝国のローゼン公から、ある二人を探すように各国へ依頼があった」
「えっ」
「お兄様が?」
「うむ。その内の一人は、『緑』の七大聖人ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。丁度、一年程前から行方知れずとなっているようでな」
「ログウェルを……?」
「そしてもう一人が、メディアという名の女らしい」
「!」
「普段から偽装を施している、凄腕の魔法師という情報以外は無かったが。その二人らしき者を見つけた場合、公爵まで報告して欲しいという依頼が帝国から出された。……お前達は関わっていないのか?」
「……いや、知らねぇな」
「……」
テクラノスの伝える話について、ケイルは首を傾げる。
しかしアルトリアだけは更に思考を深めるように僅かに顔を沈めると、それに気付いたケイルが呼び掛けた。
「おい、どうした?」
「……メディアっていうのは、多分……私の母親の名前よ」
「えっ」
「御父様から何度か、その名前を聞いた事があるわ。どういう人だったかは、知らないけど」
「自分の母親なのにかよ?」
「私が生まれてすぐに蒸発したらしいわ。だから顔も覚えてないし、居ない母親に興味も抱かなかったのよ。昔の私はね」
母親の名を聞いてそうした事情を明かすアルトリアは、溜息を漏らしながら顔を上げる。
すると改めて、実兄からそうした依頼を出された理由をテクラノスに問い掛けた。
「それよりも、どうして今頃になってお兄様は母親を……。……探してる理由とかは、何か言ってた?」
「いや、詳しい理由は何も。ただ、お主達と一緒だったエリクがこの二人を探しているようだ」
「エリクが探してるって、どういうこと?」
「お主達がこうして創造神の欠片を持つ者を探しているように、エリクも同じ者達を探しているのではないか? 儂はそう思ったのだが」
帝国からの依頼がエリクを理由にしていると聞かされ、アルトリアとケイルは驚きを見せながらも疑問を深める。
そして二人で顔を見合わせながら、状況のすり合わせを始めた。
「……アタシ達が公爵領地から居なくなったから、エリクの奴が探し回ってるのか?」
「でもそれなら、なんでログウェルと私の母親を探してるって話になるのよ……」
「……アレでも勘が良い奴だからな。爺さんの言う通り、アタシ達が消えた理由を察して同じように権能を持つ奴を探してるのかもしれない」
「まさかエリクの方では、ログウェルと私の母親が創造神の欠片を持ってると思って、探し回ってる?」
「可能性はあるんじゃねぇか? あの爺さんは七大聖人の一人だし、もう一人はお前の母親だろ。同じような権能を持ってても、不思議じゃない」
「……エリクはエリクで、私達が知らない情報を仕入れてるのかしら。……エリクと合流した方が良さそうね」
「そうだな」
ここに来てエリクが同じ目的で既に動いている事を理解し始めた二人は、改めて合流の必要性を考える。
すると考えるアルトリアに代わり、ケイルがテクラノスに改めて問い掛けた。
「エリクが今、何処にいるか知ってるか?」
「それならば二日ほど前に、共和国でマギルスと合流してフォウル国へ向かったという話をゴズヴァールに聞いている」
「!?」
「フォウル国に……!?」
「その際には、転移を使える者を連れていたそうだ。確か元闘士の女魔人で、クビアという者だったか」
「クビアって、妖狐族の魔人?」
「確かそうだな」
「そう……。……私はフォウル国の詳しい座標も、実際に行った経験も無いから、転移魔法で向かうのは無理ね」
「そもそもフォウル国は、人間の転移魔法で赴けぬ。魔人や魔族の転移魔術でなければ、自然から放たれる魔力に妨害されるからな」
「魔法は無理で、魔術ではなんで行けるのよ?」
「魔法は環境の魔力干渉を諸に受けて易く、転移魔法の場合は座標に大きく狂いが生じてしまう。だが魔術は魔族や魔人が生み出す体内魔力で成されるので、周囲の魔力が乱れておっても影響力はほぼ無いに等しい」
「……そっか。妖狐族の魔符術も体内魔力を動力源にするから、環境には左右されないわけね。……だとしたら、私も座標さえ分かれば魔符術を使って行けるかも……」
『魔法』と『魔術』の違いをテクラノスの話で改めて認識したアルトリアは、自身が開発した魔符術でフォウル国へ移動できないかと考える。
しかしその話を聞いていたケイルが、そうした思考へ入るアルトリアを再び引き留めた。
「待てよ。……フォウル国には行かない方がいいかもしれない。特にお前はな」
「え?」
「話だと、フォウル国に居る巫女姫ってのは『黒』を殺すよう命じていた張本人だろ。そんな場所に創造神の生まれ変わりだって言われてるお前が行ったら、殺される可能性だってある」
「……でも、それならエリクは?」
「アイツは鬼神の生まれ変わりなんだろ。だからフォウル国に行っても無事だったんだし、アイツも欠片だって知ってるのはアタシ等や『青』ぐらいだ。だったらアイツ等だけで行く分には、問題ないはずだろ」
「……じゃあ、私達はどうするのよ?」
「どうせアタシ等には、向こうが探してる二人の情報は無いんだ。だったらアイツ等が戻った時に、合流し易い場所で待ってようぜ。場所はお前の兄貴の屋敷でもいいし、何なら暫く共和国に居るのもいいだろ」
「……んん……っ」
ケイルはフォウル国へ向かう危険とエリク達とのすれ違いを避ける為に、自分達の居場所が分かり易い場所で待つ事を提案する。
その提案が至極真っ当である事を理解しているアルトリアだったが、内に抱える焦燥感が完全に同意するのを妨げるように唸る声を呟かせた。
そうした二人の会話を見ていたテクラノスは、特にアルトリアを注視しながら呟く。
「……母親か。……やはり、そうなのか」
「ん? どうしたんだ」
「……儂は恐らく、そのメディアという女を見たことがあるかもしれん」
「!」
「えっ!?」
「儂が共和国で囚われ、奴隷となる前の話。それも二十年ほど前か。『青』に破門され追われる身となった時、四大国家の非加盟国である小国群を放浪していた際のことだ。……お主に似た雰囲気を持つ女と会った」
「!」
「その女は小国群では見ぬ風貌で、しかも背中に幼い子供を背負っていた」
「子供を背負ってた……?」
「そういう目立つ者であるが故に、小国の荒くれ者に絡まれていてな。……だがその女は指一つすら動かさずに眼力だけで場の空気を圧倒し、荒くれ者達を指一つ触れずに気絶させた」
「!」
「儂はその時の女と、初めて相対した生身のお主に似た眼力を感じた。……もしかしたらアレが、お主の母親だったのかもしれん」
「……それから、何かその女と関わったの?」
「いいや。それが異様な実力者だと儂も理解し、近付く事を恐れた。それから儂はその小国を離れ、儂の望みを叶える為に共和国に来た。しかしマシラ一族の秘術を得ようとした儂を阻んだゴズヴァールと戦い、奴隷として囚われた」
「……」
「しかし、奇妙なものだな。犯罪奴隷へ堕ちたはずの儂が、今やマシラ王の相談役を兼ねた宮廷魔法師となっているのだからな。……それもコレも、お前達が共和国に来た影響であろうな」
「……何よ、私達のせいって言いたいわけ?」
「少なくとも、儂はお主のおかげで今の儂が在る。……そういう意味では、感謝しているぞ。小娘」
「……ふんっ」
互いに不敵な笑みを向ける二人は、そうした皮肉にも似た言葉を向け合う。
するとアルトリアは息を零しながら立ち上がり、ケイルを見下ろしながら話した。
「ケイル、行きましょう」
「えっ。いいのかよ? 王様に会わなくて」
「老師が違うって言ってるし、私も前に見た時には何もマシラ王には感じなかった。多分、今回も外れなんだわ」
「!」
「多分、エリク達が探してる二人が本命ね。……ログウェル=バリス=フォン=ガリウス。そして私の母親。その二人の情報を、エリクが持って帰るのを待ちましょう」
「じゃあ、何処で待つ?」
「そうね。……そういえば、グラシウスの用事ってなんだったの? 聞いてないんだけど」
「あっ、そうだ。言い忘れたし渡し忘れてた。――……ほら、コレ」
「えっ。……白金の傭兵認識票?」
「アタシ等まとめて、【特級】傭兵に格上げだとさ。ついでに白金貨で四万枚、各国から四人に報酬だって傭兵銀行に預金に入れられたぜ」
「はぁ? 何よそれ。……まさか共和国も、報酬で払ってないわよね?」
「いや、払ってるらしいぞ」
「はぁっ!? ちょっと、どういう事よ!」
【特級】の認識票を渡されながら多額の報酬を勝手に用意され渡されていた事に、アルトリアは驚愕しながら憤慨をテクラノスに向ける。
すると溜息を零しながら、報酬の件についてテクラノスが説明した。
「王は報酬の件について関与しておらん。共和国からも報酬を払うよう決めたのは、議長のゴズヴァールだ」
「はぁ? 別に報酬なんか要らないわよ。しかも国庫から出された金なんか、余計に要らないわ」
「報酬の資金自体は、元の元老院達の私財を没収して集めた金だが?」
「それも国民から徴収してた税が元金でしょ。だったら国民の為になる事で使ってやりなさいよ」
「各国が報酬を払っている中、共和国だけがお前達に報酬を払わぬとなれば体裁も良くなかったのだろう。共和国から出した金は、確か白金貨で二千枚程だ」
「あっ、そう。だったらそれ二千枚、耳を揃えて共和国に返すわ。……他の国からも幾ら支払われたか調べなきゃ。ケイル、傭兵ギルドに行きましょう!」
「お、おいっ!! またかお前――……」
自分達に支払われた報酬が各国の国庫から出された金銭だと理解したアルトリアは、それを全て返却する為に傭兵ギルドへ向かう事を決意する。
そして有無を言わさずにケイルの左肩に右手を乗せた瞬間、二人は声も姿も途切れさせてその場から転移した。
それを見送る形となったテクラノスは、溜息を漏らしながら呟く。
「……相変わらず、慌ただしい者達だな」
「――……会議が終わったぞ。王とゴズヴァール殿が会うそうだ。これから謁見の間に――……あ、あれ?」
「むっ、メルクか」
「先生。……あの二人は?」
「先程、王宮から出て行った。一足だけ遅かったな」
「なっ!? ……いきなり来ておいて、何も言わずに去るとは。アイツ等、無礼すぎるだろ……!!」
「フッ。まぁ、それも彼奴等らしいというものだ。……王達には、謁見は中止であると伝えよう。儂からも事情を説明する」
「は、はい。御願いします、先生」
テクラノスはそうして闘士長であるはずのメルクを諭し、共に客間から出て行く。
師弟の関係である事が見える二人は、仕えるべき王の下へ歩んだ。
こうしてマシラ王宮に訪れたアルトリア達は、そこでエリク達が同じ目的で動いている可能性を初めて知る。
そして彼等が持って来るであろう情報を頼りにし、二人は傭兵ギルドへ向かったのだった。
応援ありがとうございます!
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