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革命編 八章:冒険譚の終幕

仲間との別れ

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 ベルグリンド共和王国に訪れたエリクは、ワーグナーやマチスを含む黒獣傭兵団の面々と再会する。
 そんな彼等との宴を終えて一夜を過ぎた翌日、その拠点やしきに訪れたクラウス=イスカル=フォン=ローゼンと顔を会わせることになった。

 不敵な笑みを見せながら向かい合うクラウスに、エリクは奇妙な既視感を感じる。
 そしてその傍に立つワーグナーを見て、記憶に残っている出来事を思い出しながら呟いた。

「……そうか。お前は、あの時の……」

「ほぉ、そっちは覚えていたようだな」

「やはり、そうなのか」

「……なんだ、お前等。どっかで会ったことあんのか?」

 見覚えを感じているエリクの言動に、クラウスは応じるように答える。
 そんな二人のやり取りを聞いていたワーグナーは首を傾げると、過去の出来事をエリクは教えた。

「俺達が、初めて戦争の報酬を貰った後。買い物をしただろう」

「……あぁ、なんかうろ覚えだが……そんなことあったな」

「その時に、お前と喧嘩した男だ。ワーグナー」

「えっ、俺と? ――……あぁ……はあぁっ!? ちょっと待て。ってことは……あん時の貴族の坊ちゃんがコイツかよっ!?」

「やっと思い出したか」

「なんで帝国の皇族おうぞくが、王国ここに居たんだよっ!?」

「あの時も言っただろう、各地を旅して回っていたのだ。兄上と一緒に、師匠とな」

「兄上って……じゃあ、あの時のが帝国皇帝だったのかよっ!?」

「当時は皇子だったがな。旅を終えた帰り道に、王国に寄っただけだ」

 霞んでいた記憶を呼び覚ましたワーグナーは、改めて目の前に居るクラウスが過去に殴り合った少年だと理解する。
 そんな二人が昔話を交わす中、エリクは改めてクラウスの訪問理由を問い掛けた。

「俺に会いに来た理由は、なんだ?」

「む? あぁ、そうだったな。……娘をたぶらかした男の顔を見ておきたかった、という理由では不服か?」

「たぶらかす?」

「おいおい……」

「ふっ、冗談だ。――……既に息子セルジアスやマシラ王から聞いているとは思うが、各国はお前達の偉業に感謝している。この共和王国ベルグリンドも同様だ」

「!」

「特にエリク。お前はこの国が故郷でもあるし、宗教国家フラムブルグ教皇ファルネとも親しい間柄だと聞く。その教皇ファルネから、お前にある言伝を預かった」

「?」

「黒獣傭兵団の団長エリクを、宗教国家フラムブルグ公認の使徒しととして、聖人認定を行いたいそうだ」

「……使徒……聖人認定?」

 聞き慣れた単語ながらも意味が分からない言葉に、エリクは首を傾げる。
 するとクラウスも肩を軽く上げながら、その事について説明した。 

「黒獣傭兵団が、両国を行き来する使節団となっている話は聞いているか?」

「ああ」

「三年前の事態でも、黒獣傭兵団は宗教国家フラムブルグでもかなり活躍をしたからな。現教皇ファルネと共に邪神ゲルガルドを奉る邪教を祓った傭兵団として、かなり信徒達からも有名になっている」

「そうなのか? ワーグナー」

「いや、勝手にコイツクラウスが名乗っただけなんだがな……」

「その黒獣傭兵団かれらの団長が異変の時、命を賭して世界を救わんとしたという話が信徒達にも広まってしまってな。その団長エリクが帰還したという事で、ミネルヴァの後継となる使徒にえるべきだという要望が信徒から多く届いてしまったようだ」

「ミネルヴァの、後継?」

「つまり、『きん』の七大聖人セブンスワンになって欲しいという事だな」

「!!」

「エリクが、七大聖人セブンスワンっ!?」

「その為に使徒の儀、つまり『きん』の聖紋を譲渡する儀式の為に宗教国家フラムブルグに赴いて欲しいという頼みを教皇ファルネから伝えられたわけだが。どうする?」

「……どうすると、言われてもな……」

 いきなり『きん』の七大聖人セブンスワンとして候補者に立てられてしまったエリクは、訝し気な様子を見せながら返答に困る。

 現教皇であるファルネとエリクは、旧王国で知り合ってから十年に近い付き合いがある。
 しかし宗教国家フラムブルグ自体には深い関わりを持たない為、顔も知らない信徒達から七大聖人セブンスワンとして乞われる事に困惑するしかない。

 そんなエリクに対して、腕を組んだクラウスが問い掛ける。

「なんだ、七大聖人セブンスワンに成りたくない理由があるのか?」

「……俺は、まだやることがある」

「やること?」

「まだ、世界の危機は終わってないかもしれない」

「……どういう事だ?」

「アリアが、まだ何か問題を残している様子だった。俺はそれを解決する為に、付いていくつもりだ」

「アルトリアが。……ふむ、そうか。……なら先程の話、私が断りをれよう」

「断っていいのか?」

「まだ使徒エリクは使命を残しているとでも言えば、信徒達も納得するだろう。いや、教皇むこうに納得させる」

「そ、そうか」

「元々、宗教国家むこうの勝手な要望だ。だが庇護下にある共和王国このくには頼みを聞く義理がある。ただそれを理由に、お前をどうこうする気はない。――……まぁ、用件はそれだけだ。では」

 そう言いながらエリクに用件を伝え終えたクラウスは、自らの足で部屋から出て行こうとする。
 するとエリクは何かを想い、彼の足を止めるように呼び掛けた。

「お前は、帝国に戻らないのか?」

「私は既に死んだはずの人間だ。そんな人間が帝国むこうに戻っても、要らぬ混乱を招くだけだろう」

「……自分の娘と、アリアとは会わないのか?」

「四年前に顔は会わせた。……それに父親わたしが顔を見せても、わずらわしいとしか思えないだろうからな」

 娘アルトリアとの確執を自覚している父クラウスは、帰還した彼女との再会を望まない様子を見せる。
 するとエリクは何かを思い、アリアに関するあの出来事を話した。

「……俺達がマシラに行った時に、父親おまえが死んだという話を聞いた。その時のアリアは、十日以上は宿の部屋に引き籠った」

「!」

父親おまえが死んだのは、自分のせいだと言って責めていた。……わずらわしいとしか思っていない父親が死んだなら、そんなことをするはずがない」

「……アルトリアが……。……そうか。……改めて感謝しよう、エリク」

 マシラ共和国で起きたアリアの事を教えるエリクに、クラウスは改めて感謝を伝える。
 そして背中を見せながら部屋を立ち去り、再び帽子を被って拠点やしきから出て行った。

 そんな父親かれの背中を見送るエリクは、隣に立つワーグナーに改めて伝える。

「……そろそろ、帝国に戻る」

「もう行くのか?」

「ああ。……ケイルがアリアを見ててくれているが、出来るだけ目を離したくない」

「そっか」

「すまん。使節団の話は、誰か代わりの者を探してくれ」

「分かってるよ。黒獣傭兵団こっちは任せとけ」

「ああ、頼む」 

 エリクはその日の朝に帝国へ戻る事を決め、身支度を整える。
 そして昼前には王都郊外へ着陸している箱舟ふねへ向かい、それを団員達やマチス、そしてワーグナーに見送られた。

 するとワーグナーが腕に抱え持つ黒い布を、エリクに渡す。

「――……エリク。これ」

「これは……団の外套マントか」

「ああ、新品だぜ。持って行けよ」

「だが、俺は……」

「お前は今も昔も、黒獣傭兵団このだんの団長だ。それを変わらねぇよ」

「!」

「俺達の、そしてガルドの親っさんが背負った矜持マントだ。今度はそれを羽織って、世界を救って来いよ」

「……分かった」

 渡された外套マントを受け取ったエリクは、その場で身に着ける。
 そして黒の布地に栄える白い糸で縫われた獣の顔が浮かび上がる外套マントが、改めてエリクの背に映った。

 その姿に団員達は満足した様子を見せ、笑顔を向けながら声を掛けていく。

「団長、いってらっしゃい!」

「気を付けてくださいね!」

「土産物でも土産話でも、なんでも良いんで持って帰ってください!」

共和王国ここ傭兵団このだんの事は、俺達に任せてくださいよ!」

「……エリクの旦那、元気で」

「じゃあな、エリク。あの嬢ちゃんやケイルにも、よろしくな」

「ああ、行って来る」

 マチスや団員達と改めて別れの挨拶を交わし、エリクはワーグナーと右手で厚い握手を交わす。
 そしてエリクは箱舟ノアへ乗り込み、魔導人形ゴーレムに指示して帝国へ飛び立った。

 それから四時間後、僅かに昼を超えた時刻にエリクを乗せた箱舟ふねはローゼン公爵領地の首都へ戻る。
 しかしそこで待っていたのは、エリクの悪い予想と同じ状況だった。

「――……アリアが居ないっ!?」

「はい。貴方が出立した昨日さくじつから姿が見えず、屋敷や都市内部でも見つからずに……」

「ケイルはっ!?」

「ケイティル殿も、姿が見えません。恐らく前回と同様に、アルトリアの転移魔法で何処かに移動したのではないかと思います」

「……アリア、ケイル……。どうして……っ」

 出迎えたローゼン公セルジアスの言葉により、アルトリアとケイルの姿が屋敷や首都で見えなくなった事を伝えられる。
 一日も経たずに姿を眩ませた彼女達ふたりに、エリクは行先の検討の分からないまま動揺を浮かべた。

 こうしてベルグリンド共和王国で懐かしき仲間達と顔を会わせたエリクだったが、事態は次の問題へ移る。
 それに先んじて動くアルトリアとケイルは、たった二人で別行動を始めていた。
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