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革命編 八章:冒険譚の終幕

見上げる空には

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 ヴェネディクト=サーシアス=フォン=ベルグリンドの手によって再編されたベルグリンド共和王国は、再びフラムブルグ宗教国家からの庇護を受ける。
 そして二国間の国交を任される使節団を率いる黒獣傭兵団の副団長ワーグナーは、自身の引退と共に帰還したエリクに使節団を任せたい事を伝えて来た。

 それをローゼン公セルジアスから聞いたエリクは、アルトリアの見張りをケイルに任せて一時的に故郷ベルグリンドへ戻る事を決める。
 この話を行った翌日、昨日きのうから本邸やしきの外に着陸していた箱舟ノアにエリクは赴いていた。

 その見送りをする為に、アルトリアやケイルも同行している。
 すると彼等は、こうした会話を行った。

「――……旧王国むこうへ行くのに、本当に箱舟これを使っていいのか?」

「当たり前でしょ。使節団むこうは王都にいるんだから、行くなら箱舟これの方が良いでしょ」

「走って行っても、いいんだが」

「検問はどうするのよ。しかも国境を超えるわけだし、貴方の足でも何日か掛かるわ。箱舟これなら数時間で着くわよ」

「そうか。……分かった」

「行先は、操縦席に座ってる魔導人形ゴーレムに言うのよ。自動操縦で共和王国むこうまで移動するし、到着の知らせも自動で送ってくれるから」

 アルトリアは箱舟ふねやそれを操縦する魔導人形ゴーレムについて、その扱い方をエリクに教える。
 するとそれを隣で聞いていたケイルは、訝し気な様子を浮かべながら問い掛けた。

「……何なんだよ、その便利な魔導人形ゴーレムは。というか、この箱舟ふねといい魔導人形ゴーレムといい、未来で造ってた物をよく短期間にここまで作りやがったな」

「未来で造られてたのは強襲用に兵器や機銃を搭載してたけど、この箱舟ふねにそれは載せて無いもの。それを省いて物資が充実してる現代でだったら、製造用の魔導人形ゴーレムに任せれば三年で十台は作れたわ」

「その魔導人形ゴーレムが異常だってんだよ。未来の魔導人形ゴーレムといい、お前あんなのどうやって作ったんだ?」

未来あのときのは『青』の技術を盗んで使って、指揮者リーダーに定めた魔導人形ゴーレムの人工知能で各魔導人形ゴーレムを制御してたけど。現在いま魔導人形ゴーレムは小型化した自律機構システムは搭載して、それぞれに命令すれば予め設定した構築式プログラムで動作してくれるわ」

「……」

「止めてよ、その顔。今回は別に悪用する為に作ったわけじゃないし。第一、この魔導人形ゴーレムはテクラノスと未来の私の合作よ。私が作ったわけじゃないわ」

「テクラノス? そういや、アイツが天界うえでは魔導人形ゴーレムを制御してるとか言ってたな」

「元々、テクラノスは新型の魔導人形ゴーレム開発に力を注いでたのよ。彼が過去に抱いていた夢は、魔導人形ゴーレムに自我を持たせる……つまり魂を吹き込ませる事だったから」

「!」

「だから魔導人形ゴーレムが半永久的に動けるようエネルギー循環の構築式プログラムを研究してたのよね。そして魔導装置を用いた自律思考回路プログラムも開発した。……ただどれだけ優秀な思考回路プログラムでも、自我を芽生えさせる事が出来なかった。だから死者の魂を魔導人形ゴーレムに定着させるという禁忌に手を出そうとして、『青』に追放されたのよ」

「……死者の魂か。じゃあ、あの爺さんテクラノス共和国マシラで捕まったのは……」

「マシラ一族の秘術。死者の魂と交信し、掬い上げる事も出来る魔法ほうほうを狙ってたんでしょうね。それを知って利用できれば、死者の魂を魔導人形ゴーレムに定着させる研究が出来るから。でも結局はゴズヴァールに阻まれて、犯罪奴隷になってたってわけ」

「それでかよ。……でも、そんなテクラノスに手伝わせて危険じゃなかったのか?」

「『青』もそれを危惧してたけど、未来の私が連れて来るよう言ったわ。協力する代わりの、交換条件を出してね」

「条件?」

「テクラノスがやりたかった事をさせたのよ。死者である未来の私の魂を使った、魔導人形ゴーレムへの定着実験をね」

「!!」

「お前……!」

 魔導人形ゴーレムに関するテクラノスの思想と実験に、自分自身の魂で協力していた事を改めてアルトリアは話す。
 それを聞いたケイルとエリクは驚愕し、それを咎めるような視線を向けた。

 しかし口元を微笑ませるアルトリアは、その実験結果を伝える。

「結果は失敗したわ。一時的に魂を憑依は出来ても、完全に魔導人形ゴーレムへは定着できなかった。やはり魂を肉体に定着させるには、その二つが繋がる因子が必要だったのよ。ゲルガルドがウォーリス達にやってたみたいにね」

「……」

「だからテクラノスも、死者の魂を魔導人形ゴーレムに定着させる事は不可能だと理解して、長年の夢を諦めた」

「!」

「代わりに私が提案したのは、未来の私も研究してた魔導人形ゴーレム自律思考回路プログラム。簡単に言えば、テクラノスが夢見ていた魔導人形ゴーレムの自我を持たせる研究成果をね」

「!?」

「一定の命令に従い思考回路に沿う形で自律行動できる魔導人形ゴーレム。未来の私は、各魔導人形ゴーレムに指示を出し動かせる魔導人形ゴーレムを一体だけ作った。その魔導人形ゴーレムに、未来の私を守らせながら各国へ魔導人形ゴーレムの軍団を送り込ませてたのよ」

「……まさか、その魔導人形ゴーレムは……あの黒い騎士のような奴か?」

 話を聞いていたエリクが、何かを思い出しながらそうした言葉を向ける。
 それは未来のアルトリアが居た黒い塔に存在していた、魔鋼マナメタルで覆われた他の魔導人形ゴーレムとは違う|黒騎士《《ゴーレム》だった。

 それに頷きながら、アルトリアは話を続ける。

「そうよ。やっぱり貴方が倒してたのね」

「ああ。……奴は、未来の君を守ると言っていた。……なら、あの魔導人形ゴーレムには……?」

主人マスターである私を守るよう、思考回路プログラムで命じていたわ。……でも音声機能せいたいも付けてないのに、勝手に喋り出したのよね」

「!?」

「取り付けた魔鋼マナメタルの影響もあるんでしょうけど、偶発的に自我を持った魔導人形ゴーレムが生まれたのよ。未来の私もそれに驚いて、気に入って特別な武装と機能を取り付けたわ。……ただ、途中で飽きて放置しちゃったけど」

「……」

「テクラノスにはその事を教えたら、喜々として協力してくれたわ。その御礼代わりに、未来の私が憑依する為の精巧ワンオフ魔導人形ゴーレムも作ってくれたし。おかげで、あの事態に対応する為の動きも出来たのよ。……あの時、テクラノスを殺さなかったのは正解だったわ」

 柔らかくも微笑みを浮かべるアルトリアを見て、二人はそれがマシラ共和国から脱出しようとした時だと思い至る。

 元マシラ闘士達と共に襲って来たテクラノスを相手にした当時のアリアは、敢えて彼だけは殺さなかった。
 それは彼の魔法技術が賞賛できるモノだったからであり、それが無ければ他の闘士達と同様に殺していただろう。

 こうした事柄すらも現在に影響を及ぼしている事を改めて知る三人は、ある一人の人物がそれを画策したのではないかと思い至った。

「……これも、『黒』の言っていた運命ってやつかしらね。しゃくだけど」

「まさか『黒』は、そこまで予知していたのか?」

「そんな、まさか……」

「あり得るわよ。私達が生まれる前から動いていた奴だもの。マシラ王の起こした事件いっけんも『白』に関わるのを止めてたみたいだし、むしろその可能性の方が高いわね」

「……おいおい、頭が痛くなってきたぞ。どんだけ仕組んでやがるんだよ、『アイツ』は」

「さぁ、一応アレも神様みたいだし。何を考えてるかなんて分かる人なんて、そうはいないんじゃない?」

「……そりゃそうか」

 『黒』の予知によって画策された現在みらいの状況に、ケイルは辟易とした様子を見せる。
 同様に苦笑を浮かべるアルトリアとエリクは、再び互いの顔を見ながら別れの挨拶を交わした。

「そろそろ出た方がいいでしょ、御昼には到着してたいだろうし」

「そうだな。……出来るだけ早く戻る。ケイル、頼んだぞ」

「おう、行って来い。ついでに、ワーグナーや皆によろしく言っといてくれ」

「ああ」

 長話の末に短い挨拶を交わした三人は、そうして話を終える。
 そしてエリクは乗り込み、それから地面に着いていた箱舟ノアは結界が解かれたローゼン公爵領の都市から飛び立った。

 それを見上げながら見送る二人だったが、ケイルは腕を組みながらアルトリアへ問い掛ける。

「――……それで、何を隠してる?」

「!」

「昨日の様子といい、お前また何か気付いて隠してるだろ。だからエリクを遠ざけて、自分で解決しようとしてる。違うか?」

「……察した良いわね」

「エリクには言えなくても、アタシには言えるだろ。……話せよ。内容次第じゃ、協力ぐらいはしてやる」

「……そうね。……分かった、話すわよ」

 改めて二人だけになった事で、ケイルはアルトリアを問い詰める。
 そして隠している問題について、改めて彼女は話した。

 それを聞いたケイルは一様に驚きを浮かべ、互いに箱舟ふねから視線を逸らして上空に見える天界エデンに目を向ける。

「――……マジなのかよ、それって……」

「多分ね。どちらにしても、魔大陸に行く必要があるわ。……そして私達は、『白』の言っていた彼女に会う必要がある」

「……間に合うのかよ、それで……」

「間に合わないかもしれない。でも、それでも間に合わせないと。――……世界が、滅ぼされる前に……」

 二人は新たな問題に関する情報を共有し、深刻な表情を浮かべながらそう話す。
 それは彼女達にとって、限られた時間の中で果たさなければいけない事だと考えさせられていた。
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