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革命編 八章:冒険譚の終幕

座談会

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 世界の破壊を食い止めながらも、聖域の消失と共に『虚無』の世界を漂流していたアルトリアやエリク達。
 彼等はその『虚無』の中で、奇妙な白い門を発見した。

 そして開かれる白門の先へ辿り着くと、そこは暗闇ばかりの『虚無』とは真逆の白に染まる世界で覆われている。
 更にそこに現れた白い輝きを纏う人物は、自らを『しろ』の七大聖人セブンスワンだと名乗った。

 それに一同は驚愕しながら、改めて『白』を名乗る人物を見る。

 白い輝きを纏っている『白』は顔の造形や身体が視認し難く、はっきりとした容姿が見えない。
 そして全員が初めて見る『白』を凝視していた中で、手袋に覆われた自分の右手に意識を向けたケイルが訝し気な声で呟いた。

「……コイツ、七大聖人セブンスワンじゃないぞ」

「!」

「どういうことだ、ケイル?」

「アタシの聖紋が反応してねぇ。七大聖人セブンスワン同士が近くにいると、御互いの聖紋が共鳴するはずだ。それが起きてないってことは、奴は七大聖人セブンスワンじゃないってことだろ」

「……そうか。そういえば、ミネルヴァが近くに居た時は……」

 ケイルの言葉を聞いたエリクやマギルスは、彼女が初めて『赤』の聖紋を宿した時の事を思い出す。
 その時に近くに居た『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァも同様の事を話していた事があり、それによって目の前の『白』が七大聖人セブンスワンかどうかを判別できるのだと理解できた。

 しかし代わるように喋るアルトリアが、その言葉を否定する。

「いいえ。多分、奴が『ほんもの』だとしても反応しないわ」

「っ!?」

「思い出しなさいよ。皇国で『クロエ』に初めて会った時、『赤』だったシルエスカが感知できてなかった。……多分『黒』と同じように、『白』も七大聖人セブンスワン同士の共鳴が通じない可能性があるわ」

「なら、アイツの聖紋を確認すれば……!」

「元七大聖人セブンスワンだった老人バリスが言ってたわ。『黒』と『白』には身体に聖紋がなくて、魂に刻まれてるんですってよ。だから共鳴っていうのも作動しないんでしょうね」

「マジかよ。じゃあ、アタシの聖紋だけじゃ確かめようがねぇってことか……」

 聖紋で相手が『白』の七大聖人セブンスワンかを判別できたと思いきや、アルトリアはそれが不可能だと述べる。
 それを聞いた他の三人は微妙な面持ちを浮かべ、改めて『白』を自称する人物を見つめた。

 するとその話を聞いていた『白』が、首を傾げながら問い掛ける。

『ふむ。話から察すると、そこのむすめはいずれかの七大聖人セブンスワンか? だが、聖紋が無いようだが』

「えっ」

『その証拠に、身体にも魂にも聖紋が刻まておらんだろ。確かめてみろ』

「――……なっ!?」

 『白』に指摘されたケイルは、改めて右腕の装備と手袋を外して右手の甲を見る。
 するとそこに刻まれていたはずの『赤』の聖紋は消失しており、それに初めて気付いたケイルは驚愕の声を漏らした。

「せ、聖紋が無くなってる……なんでっ!?」

「多分、どっかの馬鹿に移ったんでしょうね」

「!?」

「そんな事より、今は目の前に集中よ。二人もね」

 ケイルが『赤』を継いでいた事を知っているエリクやマギルスは、その事実に驚きを浮かべる。
 しかし彼女から『赤』の聖紋が消えている事を指摘した『白』の様子に、それ以上の驚愕を抱いていた。

 そうして動揺する三人を落ち着かせながら、今度はアルトリアが前に歩み出て『白』へ話し掛ける。

「貴方が『白』だとして、その証拠は? ……その身体、精神体よね。聖紋があるなら、出してくれると助かるんだけど」

『証拠……。ふむ、それは難しいのぉ』

「難しい? どうしてよ」

『だって儂の聖紋は、もう他の者に譲っておるしのぉ』

「……じゃあ、元々は『白』の七大聖人セブンスワンだったってこと?」

『そうとも言うし、そうとも言わんよ。ほれ、そこのくろと同じだ。儂がじぶんの聖紋を譲ったのは、現世むこうで生まれる儂自身の転生体だからな。故に儂は、白の本体オリジナルでもある』

「!?」

『儂はしろではあるが、お主達の現世にいるしろではない。それが正しいのかもしれん』

 改めてそう伝える『白』の言葉に、再び全員が唖然とした様子を見せる。
 『黒』と同じように、『白』もまたこの現世の中で転生している存在だったのだ。

 その事を初めて聞いた四人に対して、『白』は笑いを見せながら呼び掛ける。

『まぁ、そんな細かい事は良いであろう。久し振りの客人だ、歓迎するぞ。まずは茶でも出そうか、いやその前に座れる場所だな』

「……!」

 そう言いながら振り返る様子を見せた『白』は、何も無い白い空間に右手を向ける。
 するとそこに突如として白い粒子が集い、その場に立派で長い机と共に大き目の椅子が人数分で作られた。

 それを見た全員が驚きを浮かべる中で、アルトリアだけがその現象が何なのかを理解する。

「まさかここは、構成情報プログラムの中……!?」

『ん? いや、違うが』

「!?」

『ただ、発想は合っている。その技術を応用して、この場所に反映させているだけだ。……ほれ、座りなさい。茶は何がいい? 緑茶か、珈琲コーヒーか。儂は紅茶にするから決まった言うといい。勿論、ミルクも砂糖もあるぞ。そうだ、菓子も付けた方がいいだろう。和菓子と洋菓子、どちらが好きだ? いや、面倒だから両方とも用意するか』

「……!!」

 次々とそう言いながら口にした物を出現させていく『白』に、全員が奇異な視線を向けてしまう。
 しかし改めて話す場を設けられた事で、アルトリアは意を決するように最初に用意された席の一つに自ら歩み寄って座った。

 それを見たエリクもまた、警戒心を持ちながらもアルトリアの隣へ歩み寄り、背負う大剣を机に立て掛けながら座る。
 軽く数百キロを超える大剣を支えられる机にエリクは内心で驚いたが、すぐに『白』へ注目を戻した。

 そんな二人の様子を見て、ケイルも緊張感を含んだ溜息を吐き出しながら倒れている創造神オリジンを抱え持つ。
 するとマギルスもそれを手伝いながら彼等三人も椅子に座る状態となって、改めて『白』と向かい合う光景となった。

 そして自ら作り出した紅茶を飲みながら、『白』は思念テレパシーでの言葉を発する。

『それで、今日は何用で来たのかな? 招いておらぬ客人よ』

「……意図してここに来たわけではない、というのは理解してもらえてるのよね?」

『うむ。おぬし等、虚無あそこから来たのであろう。それ以外にここに来れぬだろうし』

「あそこって、あの門の向こうにある暗闇だけの場所?」

『うむ。あそこは現世げんせ幽世かくりよの境界、虚無だけが存在する世界。あそこに入り込めば、如何なる存在も虚無へ帰ってしまう。そんな場所から碌な装備もせず、よく生身で来れたものだ。まぁ、それも黒の身体があったおかげか』

「……なんでもお見通しみたいね」

 彼等がこの場に辿り着いた経緯を聞かずに言い当てる『白』に対して、それぞれが微妙な面持ちを浮かべる。
 すると置かれた洋菓子クッキーを摘まんで口と思しき部分に運び食べる『白』は、こうした答えを返した。

『何でもではないぞ。儂は現世の状況を知らぬし、ここでは調べる事も出来んからな』

「えっ。……そういえば、ここって天界エデンなのよね? だったら、少し前に私達が結構な無茶をしてたんだけど……何とも無いの?」

『む? 別に何も無かったが。そもそも、ここに居るのは儂だけのはずだし』

「……どういうこと? ここって、天界エデンに浮かんでた大陸じゃないの?」

『あぁ、お前さんが言っているのは居住施設の話か。だったらここは、また違う場所だ』

「違う場所って……天界エデンには他にも大陸が在ったの?」

『いやいや、ここは……あぁ、こう言えばいいのか。惑星エデンの管理施設ステーションだ』

「!?」

「……わくせい、エデン?」

「すてーしょんって、なんだ……?」

 アルトリアと話す『白』は自分達が居る場所についてこう説明すると、彼の発する言葉の意味にエリクやケイルは戸惑いを浮かべる。
 しかしその話を聞いていたマギルスが、『黒《クロエ》』と交わした話を思い出し微笑みを浮かべて会話に参加して来た。

「もしかしてさ、『わくせい』って夜の空に浮かんでる色んな星のこと?」

『それも惑星に含まれるな。そしてお主達がいる現世の世界、それがエデンという名を持つ惑星なのだよ』

「へー、星に名前なんてあるんだ。知らなかった! あっ、なんか冷たい飲み物ちょうだい! あと美味しい御菓子!」

『良いじゃろう。ほれ』

「わーい、お腹ペコペコだったんだぁ。――……うわっ、これ凄く美味しい! こっちの飲み物も!」

『そうじゃろ。母上の故郷で作られていた飲み物と菓子だ。ついでに魔力も枯渇しとるようだったから、大量に含ませておいたぞ。腹も満たして魔力の補充も出来て、一石二鳥じゃろ』

「へー、だから美味しいのかな? ありがとね、白いおじさん!」

 マギルスは自分の空腹に従いながら飲み物と菓子を求め、そのまま警戒も抱かずに食べ始める。
 それを呆れる様子で見ていた三人だったが、最後に呼び掛けたマギルスの言葉で『白』が微妙な反応を返した。

『これ、儂はおじさんではないぞ』

「えっ、そうなの? 声とか喋り方がおじさんっぽいよ?」

『むっ、そうなのか。儂が現世に居た頃は、こういう渋い喋り方が周りで流行っておったのにな……。――……じゃあ、これでいいか』

「!!」

 そうした会話を行った直後、念話で届く『白』の声が若々しく変化しながら口調も変わる。
 それに驚きを浮かべる一行に対して、再び『白』は彼等の様子を察するように話し始めた。

『私は君達と違って生身ではないし、姿も声も自由に変えられる。それほど驚くことではないさ』

「……さっき、現世に居たって言ってたけど……いつの話なの?」

『む? そうだな、えーっと――……今から千年くらい前だったかな?』

「千年前って……じゃあ貴方、『黒』と一緒に七大聖人セブンスワンを設立した『白』なの?」

『そうそう、七大聖人セブンスワンやつに誘われて作ったんだよ。それから人員メンバー集めもしてな。そうしながら五百年ほど現世で暮らしていたのだが、魔族の戦争に巻き込まれて死んじゃってね。それからくろに頼まれて、天界ここで管理人をしながら輪廻を監視している。また異常を起こさない為にね』

「輪廻を監視……異常?」

『五百年以上前の輪廻では、どうも不調を起こしていたようでな。魂を浄化する前の記憶が消しきれないまま、現世にその魂を宿す者が生まれていた。だから現世を監視するくろと同じように、輪廻にも監視と調整を行う役が必要だろうということになった。そしてしろの私が選ばれたわけだ』

「……その話は、俺達も聞いたな」

「うん。確か昔は、転生者ってのがいっぱい居たんだっけ」

 『白』が話す言葉を聞き、エリクとマギルスはフォウル国の巫女姫から同様の出来事を聞いたのを思い出す。
 それを呟き合う二人の声を聞き、『白』は加えるように言葉を繋げた。

『そうそう、転生者やつらは傍迷惑な連中が多くてな。奴等が様々な問題を引き起こしたので、私が管理人になったのだ。どうだ、今の現世には転生者は生まれていなかっただろう?』

「五百年以上前から生き残ってて、色んな問題を起こしてた奴なら居たわよ」

「俺のなかには、鬼神フォウルの精神も記憶も残っているらしいが」

『えっ、そうなの? ……いや、それは……ヒューヒュー……』

「……なんか思ったより、すげぇ適当な奴じゃねぇか……?」

 ゲルガルドや鬼神フォウルなどの転生者がまだ現世に存在していた事について、『白』は念話にも関わらず器用に口笛の音を聞かせる。
 それに呆れる様子を見せるケイルだったが、誤魔化しを終えた『白』は不意に思い出すような言葉を発した。

『……しかしそう考えると、だからなのか。最近、くろの奴がやたら輪廻こっちでも動き回っていたのは』

「えっ」

『いや、現世の時間だと百年くらい前からか? くろがやたら死んで輪廻に来るし、その度に色々と頼まれてね。マシラ一族が輪廻に来るから、しばらく居させてやれとか。ランヴァルディアという死者が輪廻に来たら、ある魂の扉を通じて一度だけ現世に魂を戻して欲しいとか』

「!?」

『直近だと、ミネルヴァというきん七大聖人セブンスワンが虚無で消滅するかもしれないから、それを救い出して輪廻に送るよう頼まれたな』

「……じゃあまさか、ミネルヴァもここに来たのか?」

『来てたよ。でもあの時は、君達のような生身は消滅しちゃてたし。ほとんど話さず終いで、魂だけを見送るだけになった』

「……待って。魂を自由に輪廻や現世へ送れるってことは……ここから私達も現世に行けたりするの?」

『行けるけど?』

「えっ!?」

『だってここ、管理施設ステーションだよ。私はここの管理人だし、大抵のことは何でも出来るよ』

「……よ、良かったぁああ……っ!!」

 今まで話を聞いていたアルトリアの問い掛けに対して、『白』は当然のように彼等が現世に戻れる事を教える。
 その事を内心で懸念し続けていた一同は驚愕と共に緊張感から脱すると、その中で人一倍の安堵と言葉をアルトリアは漏らした。

 すると彼等の様子を見ていた『白』は、首を傾げながら問い掛ける。

『なに君達、もしかして現世むこうに戻りたかったの? こんな所まで来といて?』

「そ、そうよ! 戻りたいのよっ!! 今すぐ戻してっ!!」

『えー、久し振りの客人なのに。もうちょっと話をしようよ。今の現世とかさ、どうなってんの。黒はそういうこと、ほとんど話してくれないからさぁ』

「……いや、現世むこうはかなりヤバイ状況だったはずなんだけど……本当に何も知らないのか?」

『うん、そういう制約ルールだし。それに輪廻こっちの仕事で忙しくてさ。こうやって御茶する暇もなかったんだよ。少し前も滞ってた魂が一気に億単位で輪廻に流れ込んで来たと思ったら、いきなりそれを含めた多くの魂が現世へ引き戻っていくし。最近だと変なエネルギーが輪廻に干渉してきて、魂を浄化するシステムが現世側に流出してさ。しかも魂達がそっち側に流れ込んでいくし、彼等それを戻すのも凄く大変だったんだよ?』

「……あっ」

『しかも次は、現世と輪廻の経路が切れそうになってさぁ、危うく輪廻そのものが壊れそうになったんだよね。まぁ、辛うじて魂を保護しながら輪廻の崩壊は防いだけどさ。まったく、誰があんな悪戯をしたんだか。……ねぇ、聞いてる?』

「……」

 愚痴として起きていた出来事を話す『白』に対して、エリクを除く三人が別方向へ視線を逸らす。
 彼が語る輪廻の混乱に自分達が関わっていた事や、崩壊を招こうとした主だった原因が自分達の実行した作戦の影響だと自覚したのか、その話に深追いするのを意識的に拒んでいた。

 すると『白』に顔を向けたままのエリクが、他の様子に気付かないままその事実を口にする。

「……すまん、俺達のせいだ」

『え?』

「ちょっと、エリク!」

「馬鹿、言うなよっ!!」

「シー! シー!」

『えっ、なに? もしかしてアレ、君達のせいなの? ……マジ?』

「……あ、あはは……」

 愚直にも謝ってしまったエリクに対して、三人は椅子から跳び立ちながらその口を塞ぐ。
 しかしそんな彼等の様子を見て、『白』は輪廻の崩壊を起こしていた原因が目の前に居る彼等だと察してしまった。

 僅かに怒気が籠る念話こえを向ける『白』に対して、エリクを除く一同は気まずい苦笑を浮かべる。
 すると輪廻の経験で死者達にも意思が存在している事を理解しているエリクが、真面目で淀みの無い真っ直ぐな言葉で謝罪した。

「ああするしか、俺達はアリアを……そして世界の破壊を防げなかった。お前や死者達にも迷惑を掛けるつもりはなかった。すまない」

『えっ、世界の破壊……? 何それ、現世でどんな事が起こってんの? 普通に怖いんだけど』

「……その、実は……」

 エリクがそうなった理由を明かすと、仕方ないという表情を浮かべたアルトリアが事情を話し始める。
 こうして『白』と話す事になった彼等は、今まで現世で起きていた状況を伝えることになった。
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