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革命編 八章:冒険譚の終幕
白門の先へ
しおりを挟む『虚無』の世界を漂い続けていた彼等は、その中に巨大な白い門を発見する。
それに見覚えがあるアルトリアとエリクは、他の二人とは違う意味で驚愕を浮かべながら呟いた。
「――……アリア、もしかしてアレは……」
「……確かに、似てるとは思うけど……」
「な、なんだよ。お前等、あの門が何か分かるのか?」
「僕にも教えてよ!」
二人の言葉を聞いていたケイルとマギルスは、暗闇の中に浮かぶ白い門について尋ねる。
するとエリクは、彼自身が知る白い門についての情報を教えた。
「……アレは多分、死者の世界……輪廻という場所にあった門だ」
「えっ!?」
「俺は一度、輪廻からあの門を通って生き返った」
「じゃあ、ここはやっぱ輪廻だったのかよ……?」
「いや、俺が知っている輪廻と似てはいるが……違う気がする。……アリア、君はどう思う?」
エリクは未来で死んだ際に輪廻から帰還した門と似た白い門を見るが、ここが同じ場所ではないことを無意識に悟っている。
そして考えながら表情を厳しくさせるアルトリアにエリクは気付き、敢えてそう尋ねた。
すると彼女は、表情を厳しくさせたまま自分の考えを教える。
「……ここは輪廻ではないはずよ、魂が存在してる感じがしないし。……それにあの門、不自然だわ」
「不自然って……そりゃあ、こんな場所であんな風に浮かんでる門が自然なわけないだろ」
「そういう意味じゃなくて。……アレは魂の門でもなければ、輪廻の門でも無いような気がする。……でも、ここからじゃよく分からない。どっちにしても、どうにかして近付けないかしら……」
自分の推察をそう語るアルトリアは、かなり距離が離れている白い門に近付く術を探す。
しかし創造神の張る結界内で浮遊しているだけの自分達では、門がある場所まで移動できない。
そうして悩むアルトリアの言葉を聞き、マギルスが少し考えながら透明状態の青馬に聞いた。
「ねぇねぇ、ここからあの門に行く方法ってあるかな?」
『――……ヒヒィン』
「えっ、それでいいの? そういうの先に言ってよ、もう!」
『ブルルッ』
「聞かない方が悪いって、酷くないっ!?」
「……マギルス、何か方法があるの?」
三人は独り言のように喋るマギルスの様子を見て、彼の相棒である青馬が伝えた事を察する。
そしてアルトリアがそう聞くと、マギルスは頬を膨らませながら不機嫌な様子で教えた。
「僕の精神武装で、魔力を噴射させて推進力っていうのにするんだって。そうすれば結界内でも移動できるって言ってる」
「凄いじゃない、じゃあ早速お願い」
「むー。僕が思い付きたかったなぁ、コレ!」
マギルスは青馬に教えられた方法を素直に実行へ移し、自分の両足を精神武装で纏わせる。
そして白い門へ進む位置取りを確認し、そこへ移動しながら創造神の肉体の身体の華奢な腰部分を掴んだ。
すると他の三人もそれに近付き、エリクがマギルスの肩を両手で掴む。
他の二人はその大柄の肩を掴みながら、背負われるような体勢となった。
そうして移動する為のそれぞれの準備を整えると、マギルスは移動開始を教える。
「それじゃあ、行くよ!」
「……ッ!!」
両足の精神武装から自身の青い魔力を噴射させると、創造神の肉体を中心とした光の結界が急加速しながら移動し始める。
その加速圧によって三人は表情を厳しくさせながらも、全員が結界内から振り落とされないように努めた。
これにより、巨大ながらも長距離に存在した白い門へ一行は向かい始める。
それから加速圧に三人が慣れ始めた十数分後、今度は自分の魔力を噴射させていたマギルスが弱音を上げ始めた。
「――……はぁ……はぁ……。……凄い疲れる、これ!」
「頑張りなさい、もう少しだから!」
「これ以上は無理! 魔力の限界っ!!」
「あ――……」
天界での戦いを経て長い漂流生活によって魔力の回復が出来ていないマギルスは、限界を悟り噴射を止める。
そして精神武装を解きながら加速が緩まると、マギルスは大きく疲弊した様子を見せた。
しかし加速し移動した影響か、噴射を終えてからも白い門との距離が少しずつ詰まり始める。
それに気付いたのはエリクであり、徐々に白い門が近付けているのを教えた。
「……あの門に近付けている。マギルスのおかげだ」
「はぁ、はぁ……。……へへっ、また僕のおかげだもんね……!」
「はいはい、偉いわよ。ありがとね」
「アリア、あの門が何か分かるか?」
「……やっぱり、アレは私達が知ってる魂の門じゃない。……実物の門よ」
「!?」
疲弊したマギルスを労っていたアルトリアに、エリクはそう尋ねる。
すると改めて近付いた白い門を見上げながら、彼女は訝し気な表情でそう呟いた。
エリクはそれを聞き、更に彼女に尋ねる。
「実物の門……ということは、ここは輪廻でも精神の世界ではないのか?」
「多分ね。そもそも私達は生身だし、秘術でも使わない限り魂の門が現世に現れるはずがない。……いや、でもまさか……」
「何か分かったのか?」
「これは推測だけど……。マナの大樹があったあの聖域は、天界の大陸を遥かに超える時空間の領域で形成されてた。でもクロエに教えてもらった時空間魔法は、現世の場所に上書きする形で時空間を生み出し、それが消失したら中に入ってたモノは現世に戻って来るはずなの」
「……そ、そうか。凄いな」
「要するに、螺旋迷宮と一緒。私達は螺旋迷宮にいて外に出られたのは、あの世界が現実の砂漠と重なり合うように作られた空間だったから。……でもマナの大樹があった聖域は消滅したのに、私達は自分の世界に……現世に戻れてない」
「……つまり、どういう事なんだ?」
「ここは現世でもなければ輪廻でもない、魂や生物すら存在できない第三の世界。言い換えれば、『虚無』の世界ってとこかしら」
「!」
「だからこそ、おかしいのよ。……なんでそんな世界に、あんな門があるのか……」
アルトリアは自分達が居る場所について自力で推察し、この世界が『虚無』だという結論に辿り着く。
するとその話を聞いていたケイルが、不可解な表情を浮かべながら問い掛けた。
「だから、何がおかしいんだよ」
「ケイル。貴方達の斬撃や、さっき噴射されてたマギルスの魔力がどういう事になってたか見てた?」
「え?」
「結界の外に放出された途端、生命力も魔力も消失してたわ。本来のように分解して粒子状になったのではなく、消滅してたのよ」
「!?」
「この結界の外は、本当に『虚無』なのよ。空気も魔力も存在できない、そんな世界。……恐らく私達の身体が一部分でも出たら、身体すらも消失しかねないわ。なんなら、私が手を出して試してみる?」
「おいおい……っ!!」
「でも、あの門はそんな『虚無』で消滅せずに存在してるのよ。……だからおかしいのよ、あの門は」
「……」
アルトリアは今までの出来事から分析して法則性を理解し、『虚無』の世界そのものが危険である事を伝える。
しかしそんな世界に存在している白い門について、その法則から除外されている事も推測した。
そうして徐々に近付く白い門を四人は見ながら、内心で奇妙な不穏さを感じ取る。
すると白い門の間近まで彼等が近付く中、その扉が勝手に開き始めてしまった。
「――……ッ!!」
「門が開いている……!?」
「これは……!!」
「うぇ、どうするの……!?」
まるで自分達を迎えるように開いた白い門に、それぞれが驚愕した表情を浮かべる。
するとアルトリアは意を決した表情を浮かべ、三人に伝えた。
「……このまま中に入るわよ!」
「いいのかよっ!?」
「『虚無』に居続けてもしょうがないわ。だったら、この先に賭けてみるのも手でしょ?」
「勝てる勝負にしか、賭けないんじゃなかったのかよ!」
「いいじゃない、たまには! ――……さぁ、行くわよっ!!」
「ああ」
「ったく、しょうがねぇな!」
「……次は、どんなとこに行くのかな……!」
開かれた門の向こう側は極光で覆われており、彼等の視界には門の先に何も見えない。
それでもこの状況を脱するべく、四人はそれぞれに覚悟を決めながら覆われている結界ごと門の先へ入っていった。
すると彼等の肉体もまた極光に覆われ、それと同時に彼等の意識を眩い白さで覆われてしまう。
四人の意識はそこで途絶えると、次に目覚めた時には全く別の空間へ倒れている光景が広がっていた。。
「――……っ!!」
「……ここは……!?」
「なに、ここ?」
「……ここは、精神の世界……。……いや、違うのか……?」
それぞれに意識を戻した瞬間、伏せていた顔を上げて周囲を見渡す。
すると四人と創造神の肉体は共に近くにいながらも、そこは先程までとは大きく違う景色が広がっていた。
それは一面が白い床に覆われ、更に周囲も天井や壁が見えないにも関わらず真っ白な景色に染まっている世界。
エリクはそれを見て、過去に自分が体験した精神の世界ではないかと察して呟いた。
しかしアルトリアやケイル、更にはマギルスや創造神の肉体までもが同じ精神世界にいるとは考え難い為、エリクはここが違う場所だと察する。
すると驚愕する彼等が後ろを振り向いた瞬間、そこに先程と同じ紋様が刻まれた巨大な白い門が存在している事に気付いた。
「!!」
「……アタシ達、この門を通ってきたんだよな……?」
「うん。……じゃあ、ここって門の先なんだよね?」
「……何処なのよ、ここ……」
「――……ッ!!」
「今度はなんだよ……っ!?」
全員が背後に存在する巨大な白い門に驚きながら、改めて自分達が門を通過して来たのだと自覚する。
しかし既に閉じられた門以外には他の出口らしい場所も見えない白い世界を見渡しながら、彼等は思考で身体の動きを止めながら戸惑いを浮かべていた。
すると門とは逆の方角に、新たな極光が出現する。
それに気付き各々が身構えながら極光の出現した場所へ細めた目を向けると、そこから人の形をした白い存在が現れたのを目撃した。
エリクはそれに気付き、誰よりも前に歩み出ながら問い掛ける。
「誰だっ!?」
『――……なんじゃなんじゃ、誰ぞが来とるのか?』
「!?」
「これはもしかして、念話……!?」
突如として頭に響く声に、全員が驚きの表情を浮かべる。
するとアルトリアはそれが『念話』による相手の声だと理解し、再び現れた相手を凝視した。
そして彼等の目の前に現れた白い光を纏う人物は、こうした声を向ける。
『むぅ? ……もしかして、お主等《ぬしら》は生身か?』
「!」
『いや、確かに生身じゃが……精神生命体と半精神生命体も混じっとるな。……そこに倒れとる女、もしかして黒の身体か? しかも完全体になっとるではないか』
「!?」
『しかもそっちの男は、欠片を持つ到達者か。いや、中にもう一人いるのか? しかもこっちの女達も、創造神の欠片ではないか。なんじゃ、この奇天烈な面子は』
「コイツ、『黒』を知っている!」
「それだけじゃない、私達の正体も見抜いた……!?」
「……今アイツ、アタシを見て変なことを言わなかったか……?」
目の前の相手が自分達の素性を一瞬で見抜いた事を知り、全員が驚愕しながら警戒心を高める。
その中で自分を該当させた思える言葉に、ケイルは強い不快感と嫌悪を感じながら呟いた。
するとその人物の背後の極光が静まりながら、改めて白い光に覆われている人物は考えながら話を続ける。
『まさか虚無から生身で来る者がこれほどおるとは、随分と珍しい事もあるものだ』
「!?」
『あぁ、そう警戒せずとも良い。久方振りの客人だ、歓迎するぞ』
「きゃ、客人……?」
『なんだ、お前達はここが何処かも知らずに来たのか。もしかして迷い人なのか?』
「……ここは何処なの! そして、アンタは何者っ!?」
唐突に歓迎するような言動を見せる白い人物に、全員が困惑しながらも警戒を怠らない。
そして代表するようにアルトリアが問い掛けると、その白い人物は淀みなくこう答えた。
『ここは、エデンだが?』
「!?」
「天界って……ここが!?」
『うむ。そして儂は、ここで管理人をしている……ふむ、なんと名乗ろう。……そうだな。お前さん達がいる現世《せかい》で言うところの、七大聖人の白だな』
「!!」
「『白』の七大聖人……!?」
目の前にいる白い人物の言葉を聞き、四人は驚愕を浮かべる。
それは今まで彼等の知る情報の中で、唯一その素性が何も語られなかった人物。
人間大陸で定められた『七大聖人』の一人、『白』だった。
応援ありがとうございます!
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