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革命編 八章:冒険譚の終幕
本物の忠義
しおりを挟む天変地異の前後における被害を受けた国々において、その中心地となっているガルミッシュ帝国とオラクル共和王国ではそれぞれに復興を続ける。
その中で動く者達も、自分達がやるべき事を見定めながら被害地での活動を続けていた。
一方その頃、箱舟を用いてその二国に対する支援物資を送る国々が存在する。
特に二国と最も近い位置に在るマシラ共和国もその一つだったが、その陣頭指揮を取り仕切っているのは、意外にも元老院ではなく元闘士部隊の闘士長ゴズヴァールだった。
「――……ゴズヴァール殿。今回、箱舟へ積み込む支援物資は以上です」
「そうか。なら、積み込みを進めるぞ」
「ハッ」
一隻の箱舟が着陸している首都の付近で、ゴズヴァールは元闘士部隊の部下を伴いながら支援物資の積み込みを開始する。
木製の木箱に詰められた数々の荷物を片手で幾重にも重ね抱えるゴズヴァールは、凡そ数トン以上に及ぶだろう支援物質を一時間も掛からずに箱舟へ載せ終えた。
部下達もそれを手伝いはしていたものの、数で言えば半分にも満たない積載しか手伝えていない。
しかし彼等の役割はそれだけではなく、最もマシラ共和国に対して重要な任務も任されていた。
「――……荷物はこれで、全て載せ終わりましたね」
「そうだな。……それより、連中の監視は怠っていないな?」
「はい。メルクを中心とした武闘派で、拘束を続けています」
「そうか。……元老院は異変の首謀者達と裏で繋がっていた。奴等がこの国で何を行っていたか、全て吐くまで決して尋問を緩めるな」
「ハッ」
ゴズヴァールはそう言いながら、部下達に拘束した元老院の尋問を続けるように厳命する。
それに応じる忠実な部下達は、ゴズヴァールが心の底から元老院に対する怒りを向けている事を察していた。
実はガルミッシュ帝国の襲撃事件が起きた直後、マシラ共和国でもある騒乱が起きている。
それは元老院を中心とした謀反とも言うべき出来事であり、彼等の私兵が王宮に居るマシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルを襲撃したというのだ。
そうした凶行に元老院が及んだ理由は、襲撃事件が起きた帝国での出来事と類似している。
帝都に居たホルツヴァーグ魔導国の魔導師達と同様に、彼等もまた魔道具の通信網を掌握していたアルフレッドから合成魔獣を使った脅迫を受けたのだ。
特に宗教国家の教皇達と同じように、ゲルガルド伯爵家と深く繋がりのある元老院の面々はそれが本気である事を察してしまう。
自分の生命を優先しその脅迫の内容に従った元老院達は、彼等は共和国の頂点でありマシラの秘術を継承している王族を殺害しようとしたのだ。
しかし彼等の計画は失敗し、逆に拘束を受ける事になる。
その理由は、王宮にいるはずのマシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルが居らず、またその襲撃を予期していたかのように待ち構えていたゴズヴァール配下の元闘士部隊によって逆撃を受けた為だった。
エアハルトやマギルス等の魔人闘士が居ない中、ゴズヴァールの下に残る元闘士達は人間である。
彼等は元々からゴズヴァールに対する尊敬と憧れを持ち集まった者達であり、言わば師弟と呼ぶべき関係性にあった。
しかしエリク達との戦いを経て約三年間ほどゴズヴァールの指導を受けた事もあってか、彼等の実力は飛躍的に向上する。
準聖人であり元代行者である修道士ファルネと大差の無い実力者へ育ち、元老院の差し向けた私兵を鎮圧することを苦にせず果たして見せた。
元闘士達がそうした動きに対処できたのは、天界に向かうゴズヴァールが予めそう命じていたからでもある。
しかしゴズヴァールが元老院の裏切りを予測し、マシラ一族を王宮から離れさせていたのは、その事態を予測し警告した者がいたからでもあった。
『――……貴様、何者だ?』
『……』
時は老師テクラノスを『青』に引き渡してから半月が経った、二年前に遡る。
ゴズヴァールは夜間の警備中に王宮内部で奇妙な気配と魔力を感知し、庭園がある場所に自らの足で赴いていた。
一人で赴いた理由は極めて単純であり、まだ実力的に不安な配下を連れて来ても足手纏いになりかねないと判断した為。
すると庭園で待つように佇んでいたのは、頭まで覆う黒い外套を身に着けた奇妙な人物だった。
その人物はゴズヴァールの呼び掛けに気付きながら、顔を向けて機械的な声を向ける。
『青の遣い、と言えば分かる?』
『……それを証明するモノは?』
『証明ね……。……まぁ、アンタにはコレを見せてもいいか』
『……!』
奇妙な人物は『青』の遣いである事を証明する為に、左腕の袖口から何かを取り出して見せる。
それは白い魔玉が取り付けられた短杖であり、それに見覚えがあるゴズヴァールは驚きを浮かべながら相手の正体を察した。
『……まさか、お前は……』
『詮索はしないでね。出来れば、この短杖はバレたくないから』
『……良かろう。だが、どうしてここに?』
『ちょっと警告に』
『警告だと?』
『これから私達は、未来を変えていく』
『!』
『でもそれによって、様々な動乱が起きるかもしれない。特にウォーリスが従えている勢力は、その変化によってどう行動するか分からない。……既に共和国にも、ウォーリスの手が及んでいるわ』
『なんだと……!?』
『元老院の動きには注意しなさい。奴等の中には、ウォーリスの生家から支援を受けて成り上がった連中もいる。奴の生家から命令が飛べば、自分の保身の為にどんな事でもするでしょうね。……例えば、マシラ王と王子の殺害するとかね』
『!』
『マシラ血族で生き残っているのは、あの二人だけ。もし二人が死んだら、マシラの秘術は継承者がいなくなる。……そうなると、少し困る事になるわ』
『……それは、どういうことだ?』
『さぁね。……もし未来が大きく動く予兆が見えたら、青が迎えに来るわ。マシラ血族も保護させる。それまでに、アンタの忠義が本物かを見せなさい』
『!』
『本当は共和国の敵勢力も私が始末しようと思ってたけど、正確な情報が無いし。それに、今の私もそろそろ起きるだろうから。……この国はアンタ達だけで、上手くやりなさいよ』
そう告げた奇妙な人物は、転移魔法と思しき手段でその場から消える。
ゴズヴァールはそれを見送ると、その後から元老院への警戒を配下である元闘士達にさせ、マシラ王ウルクルスと王子アレクサンデルの護衛を信頼に足る元闘士達に行わせた。
その出来事を思い出すゴズヴァールは、空に見える天界の白い大陸を見上げながら呟く。
「――……また、お前達に助けられてしまった。今度こそ、感謝を伝えねばなるまい。……だから、戻って来るのだぞ……」
ゴズヴァールはそう呟き、今まで感謝を伝えられなかった者達の帰還を願う。
彼等はマシラ血族を救い、更に運命を変えながら世界を救うという偉業を成したにも関わらず、生死が不明のまま消息が途絶えていた。
彼等が生きて戻り自ら感謝を伝える事を目標にするゴズヴァールは、共和国と忠義を尽くすべきマシラ血族を守り続ける。
それは彼に本物の『忠義』を魅せてくれた恩人達に対する、せめてもの誠意だった。
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