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革命編 七章:黒を継ぎし者
仲間
しおりを挟む世界の破壊を目的とする創造神の計画は、創造神自身の死後にマナの大樹となった肉体から循環機構が抽出した思考を再現したモノだった。
それ故に創造神の『魂』や『肉体』を持つ者達の『権能』でも止められない事を聞いたアルトリアは、自爆しようとするマナの大樹を破壊し自らがその大樹となる事を選ぼうとする。
それを実行しようとマナの大樹に触れようとしたアルトリアを止めたのは、共に旅をして来た仲間の声と姿。
まだ聖域から離れず、逆に自分が居るマナの大樹まで来ていたエリク達に対して、アルトリアは驚きながらも表情を厳しくさせながら振り向いて怒鳴った。
「――……何やってんのよ、アンタ達! 言ったでしょ、さっさと逃げろってっ!!」
「……」
「もう時間が無いのよっ!! 計画が続いてるせいで閉じれない時空間の穴に、今も天界は落ちてるってのに……っ!!」
再び自分の前に現れた仲間達に対して、アルトリアは焦りを含んだ怒声を向ける。
しかしその怒声を聞く彼等は、厳かな表情を変化させないままその場から離れようとする様子を見せなかった。
そうして苛立ちを含んだ表情を浮かべながら、アルトリアは右手で頭を掻いて怒りの籠る溜息を吐き出す。
「ハァ……。……だったら無理矢理にでも、アンタ達を聖域から出して――……」
「――……もう、そういうのは飽きちゃった!」
「!?」
エリク達に歩み寄り無理矢理にでも聖域から脱出させようとしたアルトリアだったが、それを止めるような声が放たれる。
それは彼女の正面に立つマギルスであり、彼は今まで見せていなかった自分の意思を伝えた。
「アリアお姉さん、いつもそんなんじゃん! 自分の責任がどうとか、僕達が無関係とか。そんな感じでいつも僕達のこと、離そうとするんだもん!」
「な……」
「僕、そういうの飽きちゃった。だからそんな事ばっかり言うアリアお姉さんの言う事は、もう聞かないもんね!」
マギルスは少年らしさの残る笑みを浮かべながら、アルトリアの言葉を完全に拒絶する。
それに驚きを浮かべているアルトリアに対して、今度はケイルが声を向けた。
「……そういうことだから、諦めな。御嬢様よ」
「ケイル……。……貴方だったら分かるでしょっ!? この状況で、ここに残っても――……」
「お前、勘違いしてんじゃねぇよ」
「え?」
「アタシ等の目的は、最初から最後まで決まってるんだ。それが果たされなきゃ、アタシ等がここまで来た意味が無い。いや、その為にやって来た事が全て無駄に終わっちまう。今までの事が無意味だったと思わされるは、勘弁できないね」
「……目的?」
厳かで鋭い視線を向けるケイルの言葉に、アルトリアは再び困惑の表情を浮かべる。
そんな二人の言葉に続くように、エリクが前に踏み出しながら自分達がこの場に留まる目的を告げた。
「……俺達の目的は、君と一緒に帰ることだ」
「!」
「そしてそれが、俺達の旅でもある。……君が一緒に帰らなければ、俺達の旅は終われない」
自分達の目的を伝えるエリクの言葉に、やや後ろに立つケイルとマギルスも同意するように頷く。
それを聞き唖然とした様子を見せるアルトリアは、僅かに身体を震わせ顔を伏せながら呟いた。
「……帰るって、何処によ」
「えっ」
「私に、帰る場所なんか無い。……アンタ達も知ってるでしょ? 私が創造神の生まれ変わりだって。そしてそのせいで、こんな事になったんだって」
「……」
「私の存在そのものが、この世界では化物みたいなモノなのよ。私が望んでも、望まなくてもね……」
「……君は……」
「だったらせめて、最後くらい良いことしたいじゃない。……私が、好きになった人達の為に……っ!!」
「……それが、君の本音なんだな」
伏した顔のままそう告げるアルトリアに、エリク達は初めて彼女が抱き続けた本音を聞く。
それは幼少時代から自分自身を『化物』であると考えた少女の根底に残る、大きな『自己犠牲《おもい》』だった。
『化物』である事を自覚した少女は、『人間』になろうと必死に努力を重ねる。
しかし言い換えてしまえば、それは自分自身の感情や精神すらも擦り減らし、結果として『人間』になる為に『化物』である自分自身を嫌悪しながら傷付けるという『代償行為』へと発展してしまったのだ。
だからこそ、少女は一人でも傷付き続ける。
そうして成長し続けた彼女に大事な仲間が生まれたことで、更に『化物』である自分自身を傷付けることに躊躇いを失くしていった。
そんな彼女が最後に望んだのは、大事な者達を救う為の『化物』の死。
前世とも言うべき創造神と同じように自分の死を望んだ少女は、ただ大事な者達を守る為だけに自分の命を使い尽くす選択を選び続けた。
『化物』としての孤独な本音を仲間達に告げたアルトリアは、顔を伏せたまま悲痛な涙を零す。
それを聞いたケイルやマギルスは僅かに驚きながらも、今まで自己犠牲ばかりに走り続けたアルトリアの行動理由に不思議と納得を浮かべていた。
しかしエリクは静かに歩み寄り始め、アルトリアへの真正面に立つ。
するとアルトリアの背中を覆うように左腕を伸ばしながら華奢な左肩を掴むと、エリクは自分自身の胸に彼女を抱き寄せた。
「!」
「俺が、君の帰る場所になる」
「……!!」
「だから、一緒に帰ろう。……そしてまた、一緒に旅をしよう」
「……ぅ……ぅう……っ」
左腕だけながらも力強く抱き締めるエリクの言葉に、アルトリアは驚きを浮かべる。
しかし徐々にその言葉が彼女の擦り減らし続けた精神に染み渡り、更に涙を溢れさせた。
そんな二人の様子を見ていたケイルは僅かに苛立ちの表情を浮かべたが、何かを諦めるように溜息と言葉を吐き出す。
隣でそれを聞くマギルスは、こうした会話を交わした。
「……やっと、噛み合ったか」
「噛み合った?」
「何でもねぇよ。……それより、問題はここからだろ」
「だね」
「お前が言ってた作戦、本当に上手く行くと思うか?」
「やってみなきゃ分かんないよ」
「そりゃそうだな」
ケイルとマギルスはそうした話をすると、エリクとアルトリアに歩み寄る。
そして抱き寄せられていたアルトリアがエリクの胸から離れると、まだ涙を引けない姿のままケイルに話し掛けられた。
「アリア、この状況をどうにかできる策がある」
「えっ」
「と言っても、マギルスの発想だけどな。それを聞いて、お前の権能で出来るかどうにか考えてくれ」
「マギルスの……。……分かった、聞くわ」
「よし。それじゃ――……」
ケイルの話を聞いたアルトリアは、マギルスが発案したというある策を聞く。
それを聞いたアルトリアは涙を引かせた姿で驚きを浮かべ、暫く考える様子の後に呟いた。
「――……確かに、子供の発想ね……。……それが失敗したら、世界と一緒に心中よ?」
「だったら、何処に逃げても一緒だろ。だから残ったんだよ」
「でも……」
「ウダウダと悩める程、時間は無いんだろ。で、どうなんだ? やれるのか、やれないのか」
「……可能よ。成功するかはともかくね」
「んじゃ、さっさとやっちまおうぜ」
「わーい! これで成功したら、僕の御手柄だね!」
「それは成功してから言いなさい。――……それじゃあ、やるわよ。アンタ達っ!!」
「ああ!」
話を聞き終えたアルトリアは、そう言いながら再びマナの大樹へと向き合う。
それに続くように、ケイルとマギルス、そしてエリクもアルトリアと同じように振り向きながら、全員が一致した目的を果たす為に覚悟を含んだ微笑みの表情を見せた。
こうして自らを犠牲にしようとしたアルトリアの策は止められ、エリク達が伝える新たな策が用いられる。
それは今まで旅を共にして来た者達が、仲間として初めて目的を一致させた瞬間でもあった。
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