1,153 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者
楔の代償
しおりを挟むエリクとの勝負において自らの敗北を認めたウォーリスだったが、最愛の女性と交わした約束の為に強靭な精神力でボロボロの身体を再び動かし始める。
そんなウォーリスの周囲を囲むように現れたのは、エリク達と共に天界まで辿り着いた者達や、その後に到着したユグナリスが集まっていた。
最終局面に参加した者達が勢揃いする光景に、エリクやケイルは驚きの様子を浮かべる。
そして彼等の視線は、起き上がろうとするウォーリスに注がれていた。
「……ッ」
エリク達だけではなく人間大陸の強者である聖人と魔人が再び集結した光景を見て、ウォーリスは苦々しい面持ちを浮かべる。
弱体化し自らが抱えるエネルギーによって僅かに動かせる肉体すら自壊しようとしているウォーリスは、この状況を如何に退け、自らの望みを果たす術を必死に探ろうとしていた。
そんなウォーリスに対して、周囲の者達で最も前に立つ皇子ユグナリスが声を向ける。
「――……ウォーリス殿。……もう、止めましょう……!」
「!?」
「貴方の事情は、彼女達から聞きました。……もう、我々と貴方が戦う理由は無い。だから……!」
「……彼女達……?」
ユグナリスの言葉に困惑した表情を浮かべるウォーリスだったが、彼等が現れた方角から再び足音が聞こえる。
それにウォーリスが注目すると、そこに現れた者達の姿に驚愕を浮かべた。
その者達は、いずれもウォーリスが知る人物達。
一人は魔鋼で覆われた自らの脳を持ち歩く義体、親友アルフレッド。
そしてアルフレッドの肩を借りながら引きずられるように歩く、騎士ザルツヘルム。
更にその背後から灰色の外套を羽織った老騎士ログウェルと、その傍らにはある女性の姿もあった。
そうした者達を見たウォーリスは、真っ先に彼女の名を呼ぶ。
「……カリーナ……!?」
自分が最も大事にしていた女性が目の前に現れた事に、ウォーリスは驚愕を動きを止める。
しかしカリーナは相反するようにログウェルの傍から飛び出し、立ち上がろうとしていたウォーリスの胸に飛び込むように抱き着いた。
「――……ウォーリス様……っ!!」
「なんで、君が……ここに……」
「ウォーリス様、もういいんです……。もう、いいんです……っ!!」
「え……?」
「アルフレッド様から聞きました! 私との約束を守る為に、ずっとウォーリス様は戦って来られたと……。……でも、もういいんです……いいんです……っ!!」
「……だが、私は……」
「私はっ!! ……私は、二人さえ生きていてくだされば……ウォーリス様と、私達の娘がいれば、それだけでいいんです……! ……だからもう、誰かを……そして貴方自身も、傷付けないでください……っ!!」
「……」
涙を溢れさせながら強く抱き締めるカリーナの言葉に、ウォーリスは唖然とした表情を浮かべる。
その言葉はウォーリスの心に刻まれていたカリーナとの約束を解き始め、彼が今まで強く望んでいた願いさえ薄れさせようとしてた。
しかし次の瞬間、ウォーリスの内部から悪魔の声が囁き聞こえる。
『――……おや、御主人様。よろしいのですか?』
「!」
『貴方の願いは、貴方が大事と思える者達の為に世界を変えること。それを私に手伝わせる為に、私達は契約を交わした。その願いを捨てるということが、どういう事か御分かりですよね?』
「……ッ」
内側から響き聞こえる悪魔の言葉に、ウォーリスは厳しい表情を浮かべる。
しかし自分の胸で泣くカリーナの姿と、ケイルが抱え持つ創造神の肉体を見て、僅かに表情を柔らかくしながら口元を微笑ませた。
するとカリーナを右手で剥がすように押し除けると、自らの足でボロボロの身体を立たせる。
「ウォーリス様……?」
「……すまない、カリーナ。君の望みを、何も叶えられなくて」
「え……?」
「私は、良い父親になれなかったよ。……だから君が、良い母親になってあげてくれ」
「ウォーリス様……!?」
そう微笑みながら頼みむウォーリスは、その場から後退るように歩く。
それを追おうとするカリーナと警戒を抱く周囲の者達は、再びウォーリスが何かをし始めるのではないかと警戒し始めた。
しかし覚悟を決めたウォーリスは、内部に留まる悪魔に答えを告げる。
「ヴェルフェゴール」
『はい、御主人様』
「私は、お前との契約を破棄する」
『承りました。――……では、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。貴方の魂を、頂きます』
「……ッ!!」
「!?」
「な、なんだっ!?」
自ら望んだ悪魔ヴェルフェゴールとの契約を破棄すると選んだウォーリスは、自らの魂を差し出す事を認める。
それに応じるヴェルフェゴールは魂の内部で形成していた精神体を使い、ウォーリスの魂を掴み取った。
すると次の瞬間、ウォーリスの身体から凄まじいエネルギーが放出し始める。
それは到達者として満ちていた生命力や魔力、更に集めていた信仰のエネルギーが虹のような色で現れ、その場に居る者達すらも覆うように流出していた。
それを間近で受けたカリーナは身体を吹き飛ばされそうになるが、傍に立つエリクが左腕を伸ばして受け止める。
しかしエリクを含む周囲に居る者達はウォーリスに何が起きたか分からず、それぞれに声を上げた。
「な、何がっ!?」
「奴の攻撃かっ!!」
「……これは、奴の身体から生命力と魔力を抜け出ているっ!?」
「どういうことなのです!?」
「……見ろ! 奴の身体が……っ!!」
「!」
押し寄せるエネルギーの波に視界を覆われる中で、その発生源であるウォーリスを見た武玄が彼の肉体に起きている変化に気付く。
それはエリクに受けていた傷を中心に肉体全体に亀裂が生じ、徐々に砂と化すように崩れていく様子だった。
それを見ながらウォーリスの言葉を聞き取れていたアルフレッドは、その様子から事態を察する。
「ウォーリス様、まさか契約を解いたのですか……!?」
「何か知っているのかっ!?」
「ウォーリス様と契約していた悪魔です! 奴が、ウォーリス様の魂を奪おうとしているっ!!」
「!?」
「だが、どうしてこんなっ!?」
「到達者だからですっ!! 到達者であるウォーリス様の魂は、悪魔でも容易に奪えない! だから先に到達者の能力を失くして、魂を奪おうとっ!!」
「悪魔が魂を……!?」
ウォーリスが悪魔ヴェルフェゴールと契約した事を知っているアルフレッドは、今の状態をそう予測し周囲の者達に伝える。
それが聞こえたユグナリスは驚愕した様子を浮かべ、エネルギーの放出と共に崩壊していくウォーリスを見た。
こうしてウォーリスは自らの敗北を認め、カリーナの涙によって自らの望んだ願いも断ち切る。
それは同時に、彼の魂が悪魔に奪われる覚悟を決めるという事でもあった。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる