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革命編 七章:黒を継ぎし者
慈悲なき戦い
しおりを挟む蘇生して現実世界に帰還したアルトリアは、創造神を手にして逃亡しようとするウォーリスを捕えようとする。
しかしそれを妨げたのはエリクであり、彼は自らウォーリスとの決着を自分自身の手で行うことを伝えた。
その意思を尊重したアルトリアは、エリクとウォーリスの決闘を承諾する。
すると創造神を手に入れる条件と引き換えに応じたウォーリスは、エリクと一対一の激しい戦闘を再開した。
二人は自らが握る魔鋼の剣を振り翳しながら激突させ、マナの大樹から大きく離れていく。
互いに自分の肉体から放出する生命力と魔力を攻撃に転じながら剣を通じて激突させ合うと、その衝撃によって周囲の木々を削り倒した。
それ等を足場にして目にも止まらぬ速さで戦い続ける二人だったが、その余裕には大きさが見える。
互いに武器を握り衝突させながらも、ウォーリスは右手だけで握る長剣で対応し、両手で握り持つエリクの両断を受け止めていた。
「――……クッ!!」
エリクは幾度も交えた剣戟によって、ウォーリスが余裕を保ちながら相対している事を察する。
しかしウォーリス自身の表情に余裕は見えず、ただ真剣な表情でエリクと向かい合いながら剣戟を続けた。
そうして幾度も剣を交えた二人は、最も大きな衝撃を生み出した瓦礫に紛れ、互いに離れた位置に着地する。
するとすぐに攻めようとしたエリクを止めるように、ウォーリスが言葉を向けて来た。
「――……そういえば、改めて感謝を伝えるべきだろうな」
「!」
「傭兵エリク、お前には感謝している。……私の身の内に棲んでいた、ゲルガルドを屠ってくれたのはお前だからな」
「……何の事だ?」
唐突に向けられた言葉に、エリクは怪訝そうな表情を浮かべる。
それを説明するように、ウォーリスは簡潔に自分が陥っていた状況を話した。
「私の肉体には、父親であるゲルガルドの魂が巣食っていた。お前が鬼神フォウルを宿していたのと、同じようにな」
「!」
「だがゲルガルドは自らの精神を使って私の精神を蝕み、この肉体すらも乗っ取るつもりだった。……だがお前が浴びせた一撃によって、ゲルガルドの精神を消滅させる事が出来た」
「……なら、あの時に死んだのは……」
「そう。お前が屠ったのは、ゲルガルドの精神だ。……それでようやく、私は奴の呪縛から解放された」
エリクはその話を聞き、到達者の魔力を溜め込んでいた大剣を使った突きで屠ったのがゲルガルドだったと知る。
それによって改めて今ここで対峙しているのが本当のウォーリスである事を認識し、それに納得しながら声を返した。
「そうか。……お前と対峙する度に雰囲気が違ったのは、そういうわけか」
「お前には大きな恩がある、傭兵エリク。そしてゲルガルドを追い詰めた、お前達の仲間にも。これは私の本心だ」
「……」
「だからこそ、敢えて言わせてもらおう。――……お前達の命が惜しければ、大人しく私達を見逃してほしい」
「!」
渋い表情を浮かべながら訴えるように伝えるウォーリスに、エリクは深い驚きを示す。
それは脅迫にも聞こえる頼みであり、その真意をエリクは問い質した。
「どういうことだ」
「分かるはずだ、お前には。――……例えお前が全力で戦ったとしても、私には勝てない」
「!」
「だが到達者である私達が戦えば、御互いに無傷とはいかない。最悪の場合、お前は死ぬことになる。……ゲルガルドから解放してくれた恩人を殺して報いるというのは、私の本意ではない」
「……」
「そうなる前に、潔く負けを認めてほしい。……どうだろうか?」
真摯にそう訴えかけるウォーリスに対して、エリクは僅かに思考した表情を浮かべる。
彼はウォーリスが話す言葉の一部が正しい事を認識し、小さな溜息を一つだけ零しながら答えを返した。
「断る」
「……理由を聞きたい」
「俺が、その決着に納得できないからだ」
「……」
「お前と初めて会ったのは、王国で呼ばれた祝宴だった。そしてお前の策略で、俺達は王国を追われた」
「……それが、許せないと?」
「それもある。だがそれより、もっと許せない事がある」
「?」
「お前は、俺の仲間を……そしてアリアを何度も傷付けた。だから俺は、お前を許さない」
ウォーリスに向けている敵意が自らの私怨も含まれている事を明かしたエリクは、取引に応じずに再び大剣を握り構える。
そんな言葉を聞いたウォーリスは、深い溜息を漏らしながら伏せ気味の顔を上げて声を向けた。
「……残念だ、傭兵エリク。――……ならば私達の未来の為に、ここで死んでくれ」
「ッ!!」
エリクに対する感謝を引かせ、慈悲の心を消したウォーリスは長剣を構え直す。
そして左手を中空に翳した瞬間、その周囲に膨大な魔力で形成した魔力球体が作り出された。
すると次の瞬間、それ等がエリクに向けて放たれながら凄まじい速度で襲い掛かる。
エリクはその接近を目にして素早く飛び退くと、地面や木々に着弾した魔力球体が凄まじい爆発を起こして辺り一帯を吹き飛ばした。
その余波と吹き飛んでくる木々の瓦礫を浴びながら、エリクは苦々しい表情を浮かべる。
「グッ!!」
「お前と違って、私は剣だけが武器ではないのだ」
回避したエリクを青い瞳で追っていたウォーリスは、新たに生み出し周囲に滞空させていた魔力球体を投げ放つ。
それを察知したエリクは地面へ着地しながらすぐに飛び退き、魔力球体が直撃するのを避けながらどうにかウォーリスへ近付こうとした。
しかしエリクが最も真価を発揮する距離を拒んだウォーリスは、その接近を許さずに新たな魔法を行使する。
それは周囲の自然へ左手を翳し向け、まるで樹木や地面を動かしながら地形を隆起するように変動させた。
「なにっ!?」
「忘れたか? ランヴァルディアがやっていたように、到達者とはこういう事も出来る」
聖域の自然すら操作するウォーリスは、隆起させた地面によってエリクの走行を阻む。
そして巨大な木々の幹を鞭のように動かしながらエリクに迫らせ、自身との進路を塞いだ。、
しかも迂回する順路から迫る魔力球体が、エリクの前後左右を挟む形で追撃して来る。
それを見て回避が困難だと即座に察したエリクは、大剣を強く握り締めながら膨大な生命力と赤い魔力を宿して斬撃を放った。
「オォオッ!!」
「むっ」
エリクの放った斬撃は横向きに周囲を薙ぎ、その周囲に在った木々や地面を容易く切り裂く。
更に左右と後方から迫っていた魔力球体を切り裂いて爆発を引き起こし、着弾を免れた。
しかし上空から迫る魔力球体だけは迎撃が遅れ、エリクは飛び避ける為にその場から離れる。
するとコンマ数秒にも満たない時間差でエリクが居た地面《ばしょ》へ着弾した魔力球体は、凄まじい爆発を起こしてエリク諸共周囲を吹き飛ばした。
「グゥウウッ!!」
爆発に巻き込まれながらも大剣を盾にして直撃と衝撃を免れたエリクは、倒れている木々の上へ転がりながら着地する。
しかし休む時間すら押しむように身体を起こすと、吹き飛んだ場所から歩み寄って来るウォーリスを視認した。
「……!」
「やはり到達者の攻撃であれば、お前に与える消耗も激しいようだな。……このままお前を、削り殺す」
「オォオオオオッ!!」
ウォーリスが新たな魔力球体を作り出した瞬間、エリクは大剣を振り翳しながら走り向かう。
なんとか斬撃の有効射程範囲まで移動しウォーリスへ一撃を加えようとするが、それはウォーリスも重々に承知して射程へ入れないように努めていた。
距離を保ちながら少しずつエリクの体力を削り傷を増やし続けるウォーリスは、確実な勝利を掴む為に冷静沈着な戦い方を見せる。
一方で回避か防御の二択を迫られ続けるエリクは、反撃すら許されない状況で追い詰められ始めていた。
こうしてウォーリスと激しい戦闘を始めたエリクだったが、その戦況は劣勢という形で持ち込まれてしまう。
近接攻撃と大剣のみでしか攻撃手段が無いエリクと、数多の攻撃手段を有するウォーリスとでは、同じ到達者であっても圧倒的な戦力差が見え始めていた。
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