上 下
1,132 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者

師の一刀

しおりを挟む

 創造神オリジンの計画を止める為に、循環機構システムが存在するマナの大樹の内外にいる者達で激しい戦闘が行われ始める。

 循環機構システムの内側ではリエスティアの身体とアルトリアの精神体たましいを鍵として制限されている機能を解除しながら、ウォーリスが循環機構システムの書き換えを行い創造神オリジンの世界破壊の計画を止めようとする。
 それを阻む循環機構システム防衛機能天使もどきを阻むのは、未来のユグナリスと鬼神フォウルの二人だった。

 一方で現実世界では、鬼神の力を駆使するエリクと復活したマギルスが中心となりマナの大樹から生み出され続ける『神兵』達を排除し続ける。
 それに加わるのは現代いまのユグナリスと『青』の七大聖人セブンスワン、そして特級傭兵であるスネイクとドルフが援護する形で聖域の戦いに加わる事になった。

 こうして内外の状況に変化が及ぶ中、世界破壊の計画が実行されるまでの時間は刻一刻と猶予を削られていく。
 その間にも循環機構システムの書き換えに集中するウォーリスに対して、傍に座り守るアルトリアが残されている時間を告げた。

「――……残り時間、八分はっぷんを切ってるわよっ!! まだ終わらないのっ!?」

「無茶を言う!」

「無理だって言うなら、私にも操作盤パネルを渡しなさいっ!!」

「出来るのかっ!?」

「アンタがやれてるのよ! すぐにやれるわっ!!」

「……なら、射出攻撃の停止を頼むっ!! 遅延でもいい!」

 そう叫ぶアルトリアに対してウォーリスは何か言いた気な口を敢えて閉じながら、自身の周囲に投影させた操作盤パネルの一つを流し渡す。
 アルトリアは目の前に流れてきた操作盤それを確認し、頼まれ事と映し出されている内容を照らし合わせながら自分の知恵を働かせながら循環機構システムの書き換えを始めた。

 しかしアルトリアがウォーリスと共に書き換えに加わったことで、防衛機構システムの攻撃に対して防御まもりが薄くなる。
 その隙を突くように迫る天使モドキ達に対して、未来のユグナリスとフォウルの二人は凄まじい速さで精神体からだを動かし、それぞれの攻撃によって侵攻を阻んだ。

「――……まだ終わんねぇのかっ!!」

「今やってるとこよっ!!」

「俺達だけじゃ、この数は難しいぞっ!!」

「そんなの分かってるわよっ!! だからアンタ達は、死ぬ気で私達を守りなさいっ!!」

「チッ、だから女ってのはなぁ!」

「お前のそういうところが、嫌いなんだよッ!!」

 未来のユグナリスは聖剣から繰り出す『生命の火』を用いた剣戟によって、天使モドキ達を両断しながら排除する。
 一方で鬼神フォウルは単純な殴打のみで対応しながらも、その破壊力は片腕と片足から放たれる膂力だけで天使モドキの姿を粉砕して見せていた。

 しかし圧倒的な強さを見せるその二人ですら徒労を感じる光景が、目の前に広がっている。
 それは黒い裂け目から次々と溢れ出て来る防衛機能システムの天使モドキ達によって四方八方は埋め尽くされた、まさに白き絶望の壁だった。

 それでも循環機構システムの中で奮闘する四名は、限られた時間の中で自分がやるべき事を続ける。
 むしろそうした状況の中で己が役割を見出せず混沌の渦中に身を置いていたのは、外側げんじつで戦っているエリク達だった。

「――……おじさんっ!! コイツ等、倒しても倒してもキリ無いよっ!!」

「あの樹をどうにかしないと、無限に沸き続けて来る……!!」

「マギルス! ユグナリス! マナの大樹を壊してはならぬぞっ!! アレを破壊してしまえば、それこそ世界の終わりだっ!!」

「……アリア、まだなのか……!?」

 マナの大樹から出現し続ける『神兵』達を相手にするマギルスとユグナリスは、その元凶を断つべきと考え始める。
 しかしマナの大樹が世界にとってどういう役割を担っているか理解している『青』は、二人を静止しながら魔法での援護を継続していた。

 そんな三人に対して、何かしらの変化が起こそうとしているアリア達の行動結果をエリクは待ち続けている。
 しかしウォーリスが書き換えに回った事で素早い生産量と高い個体能力の制御が外れてしまった『神兵』達は、確実にエリク達を追い詰め続けていた。

 そうして『神兵』達と戦う者達から離れた場所にて、青馬ファロスの背に乗せられているケイルが苦々しい面持ちを浮かべる。
 左手を失い自身の気力オーラを大幅にマナの大樹へ奪われてしまったケイルは、彼等を助けられない自身の状況に悔いるような心境を抱いていた。

「――……クソッ、せめて左手これさえ無事なら……っ」

 自分自身でも意図しない形で失った左手を見て、ケイルはそうした言葉を浮かべる。
 それでも自分が与えられた役目をやり終えた事を認識し、これ以上の参戦は他の者達の足を引っ張ってしまう事を自覚していた。

 だからこそ、ケイルは自ら青馬ファロスの背から降りながら伝える。

「お前は、マギルスを手伝って来てくれ」

「ブルルッ」

「アタシは大丈夫だ。自分のケツくらい、自分で持つ。……アイツ等を、頼んだぜ」

「……ブルッ」

 自身の両足で立ちながらそう促すケイルの言葉を聞き、青馬ファロスは頭の無い姿ながらも心配そうな声を漏らす。
 しかしそれを聞き終えると、マギルスの精神武装ぶきとしての役割を果たす為に青馬ファロスは主人の下へ駆け戻った。

 それを見送ったケイルは、青馬が去った場で堰を切るように息を吐き出す。
 更に大量の冷や汗と乱れた息を吐き出しながら、その場に尻餅を着く形で倒れた。

「はぁ、はぁ……。……チクショウ……ッ!!」

 ケイルは包帯越しに切断した左手から再び出血が激しくなっているのを感じながら、歯を食い縛らせて耐え凌ぐ。
 しかし消耗した体力は出血によって更に削られ、戻らない気力オーラでは傷口の治癒力を高める事も出来なくなっていた。

 このままだと自分の結果を見届けられないことを朦朧とする意識で察知したケイルは、唇を強く噛み締めながら意識を保とうとする。
 しかしそれもままならず意識と共に身体を右側へ傾けた時、ケイルは奇妙な浮遊感を味わいながら懐かしく思える声を傍で聞いた。

「……あ、れ……?」

「――……軽流けいるっ!!」

「……師匠……。……巴さん……」

 朦朧とする意識の中、ケイルは自身の耳に師匠である武玄ブゲンの声を聞く。
 更に自身を抱え纏う匂いがもう一人の師匠であるトモエである事に気付き、霞む視界の中で最後の意思を振り絞った。

「し、師匠……。……エリク達を、助けてやって……ください……」

「!」

「もうすぐ、アリア達が……創造神オリジンの計画を止める……。……だから――……」

 師匠である頼もしき師匠ふたりに託すべき事を伝えたケイルは、それから意識を完全に途絶えさせる。
 そんな愛弟子ケイルの言葉を聞いた武玄ブゲンは、静かに立ち上がりながら激しい戦いが繰り広げられている場所に視線を移した。

「……ともえ軽流そやつは任せたぞ」

「はい。処置を終えたら、わたくしも向かいます」

「うむ」

 武玄ブゲントモエは短くもそうした言葉を向け合い、互いにその場から離れる。

 ケイルを抱えたトモエは自身の腰部分に忍ばせていた丸薬をケイルの口に含ませ、水を流し込みながら飲み干させた。
 その効力か、血の気が薄かったケイルの表情が僅かながらも血色を戻す。
 更に枯渇していた気力オーラもケイルの肉体に宿るように幾分か戻り、息は荒くも危機的な状況を脱することに成功したように見えた。

 一方で地面を蹴るように走る武玄ブゲンは、鋭い眼光を向けながらマナの大樹へと向かう。
 その接近に真っ先に気付いたのは、樹木の上で魔銃イオルムの射撃をしていたスネイクと、影の魔法で援護していたドルフだった。

「――……うぉ、なんだっ!?」

「どうした!?」
 
「やべぇ殺気が近づいて来るっ!! コイツは――……!!」

「……ありゃ、人間かっ!?」

「あの服、確か寝っ転がってたアズマこくの……!!」

 走り迫る殺気の塊が後方から近づいて来る武玄ブゲンだと気付いた二人は、思わず攻撃しそうだった手を止める。
 すると武玄ブゲンもまたエリク達が居る場所まで赴くと、有無を言わずに飛び交いながら右手で握る左腰の刀の柄を引き抜き、自身のわざを放った。

「――……月の型、奥義。『月喰げつが』ッ!!」

 凄まじい殺気が込められた武玄ブゲン気力斬撃オーラブレードは、瞬く間に黒く染まりながら『神兵』達を一挙に襲う。
 その黒い斬撃に飲み込まれた瞬間、『神兵』達は反撃すら許されず肉体を崩壊させながら撃墜された。

 気力オーラの斬撃が肉体を侵食し逆に喰らうように滅ぼす光景に、エリクを始めとした者達は驚愕の面持ちを浮かべる。
 そして右足を地面へ着けながら身構えて着地した武玄ブゲンは、『神兵』達に対して凄まじい殺気と相反する静かな構えで対峙して呟いた。

「……よくも、大事な弟子の腕を切り落とした。――……貴様等、許さんぞ」

 愛弟子ケイルの左手が切り落とされていた事に凄まじい憤怒を抱く武玄ブゲンは、エリク達と敵対している『神兵』達をかたきだと認識する。
 その認識に大きな過ちこそ無かったが、ケイルが必要な理由で自分自身の左手を切り落とした事を理解しないまま、武玄ブゲンはその場に合流することになった。
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

婚約破棄された公爵令嬢は平民の男に抱かれ破瓜する

heart I
絵本
heart I から皆様へ一足早いクリスマスプレゼント! 珠玉の恋愛短編集の豪華スペシャルver.です

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...