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革命編 七章:黒を継ぎし者
犠牲は続く
しおりを挟む再び創造神の精神世界に戻ったアリアは、そこで現在の自分に生じている精神の致命的な損傷を修復する。
しかしその代償として自らの精神体を大きく損壊させると、自らの精神を代価として魂の門を経由し、創造神の精神世界に鬼神フォウルを召喚した。
その魂の門越しにアリアの最後を見たエリクは、名を叫びながらも精神体の足を止める。
すると前に立つフォウルに向けて、強張らせた表情を向けながら頼みを告げた。
「――……頼む。……アリアの為にも……っ」
「……チッ。分かってるっつぅの」
頼むエリクの言葉を聞いたフォウルは、そのまま振り返らずに目の前に存在する魂の門を通過する。
そして創造神の精神世界に辿り着くと、その先で待っていたケイルを一瞥しながら口を開いた。
「――……今度は自分の精神を代価にして、門を開いたか。……馬鹿だぜ、あの嬢ちゃんも」
「……エリクが、鬼になった時と同じ姿……。……これが、エリクの中に居る鬼神……!!」
魂の門を通過しながら歩み出るフォウルの姿を見上げ、ケイルは強い存在感を感じながら息を飲む。
そうした僅かな緊張を走らせる空気の中、それを読まずにその場に駆け付けた未来のユグナリスが状況を確認して来た。
「――……大鬼族ッ!? それに、あの禍々しかったアルトリアの波動が……いったい、どうなっているんだっ!?」
「あぁ?」
瘴気の対応で状況から置き去りにされていた未来のユグナリスは、消えたアリアの波動と代わりに現れた赤い大鬼族に驚愕を見せて警戒する。
そんな未来のユグナリスに面倒臭そうな視線と表情を向けるフォウルだったが、それを止めて自ら仲裁役を買って出たのはケイルだった。
「アンタ等、アタシの話を聞けっ!!」
「!」
「アリアからの伝言だ。アタシ等は四人で、創造神の精神を制御する必要がある。そして創造神が命じてるって言う、世界破壊の計画を止めなきゃならない」
「なっ!?」
「……チッ」
「今ここにいるアタシ等だけで、創造神を制御しなきゃいけない。……アリアが自分を犠牲にして作った機会を、無駄にはさせねぇぞっ!!」
そう怒鳴りながら言葉を向けるケイルに、双方はそれぞれに反応を示す。
今に至って敵対関係だったアリアの真意を理解した未来のユグナリスは、驚きに包まれながらも言葉を詰まらせて身構えた聖剣を引かせる。
一方でフォウルは始めから交戦の意思など無く、顰めた表情を浮かべながら修復され横になっているアルトリアの精神体を見据えていた。
こうして僅かに沈黙が訪れ、双方に敵意が無い様子が見られる。
それを確認し終えたケイルは、改めて現状を自分でも理解する為に未来のユグナリスへ視線を向けて問い掛けた。
「アンタ、帝国の皇子だよな。確か、ユグナリスとか言ってた」
「え、ええ。そうです」
「状況を教えてくれ。あの溢れ出て来てる瘴気が、創造神の憎悪って奴なんだよな。……瘴気を全部消せば、創造神を制御できるようになるのか?」
「……いや。かれこれ、数時間はあの瘴気を焼き尽くしているけれど。瘴気を表層に出さないようにするのが精一杯で、全てを焼失させるのはどれだけ時間を掛けても不可能かもしれない」
「瘴気が表層に溢れちまったら、どうなる?」
「また創造神が暴走を始める。今は俺の『火』で瘴気が表層に溢れないよう留めているけれど……」
「あと、どれだけ留められる?」
「……正直、もう一時間も持たない。それで俺の『火』は尽きる」
未来のユグナリスは自身が行っていた事を改めて伝え、瘴気を留めている現状に限界がある事も伝える。
その言葉をある程度まで理解できたケイルは、フォウルの方へ振り返りながら問い掛けた。
「エリクの中に居る鬼神だよな。改めて、アタシはケイル。エリクの仲間だ」
「あぁ、知ってる。小僧の中から見てた」
「アンタ、エリクを通じてアリアとも話し合ってたんだよな。この状況で、何か対処方法を聞いてないか?」
「聞いてねぇよ。アイツが勝手に協力しろっつって、俺を創造神に呼んだだけだ」
「そうか」
「……だがまぁ、何をやるべきかは知ってるがな」
「!」
創造神の制御を得る為に必要な方法を問い掛けたケイルに対して、フォウルはそうした回答を向ける。
それに驚愕を浮かべるケイルに対して、フォウルは溜息を零しながらある情報を伝えた。
「俺はな、五百年前にも同じことしてんだよ。創造神を止める為にな」
「えっ!?」
「ほ、本当かっ!?」
「この状況で嘘言ってどうする。まぁ、それを知ってか知らずか。あの嬢ちゃんは俺を呼んだみたいだがな」
「前の時って、五百年前の天変地異の事だよなっ!? ど、どうやって止めたんだっ!?」
思わぬ事実が述べられるフォウルの言葉に、周りに居る二人は驚愕を浮かべる。
そして創造神を止める為の方法を、ケイルは急ぐように問い掛けた。
フォウルはそれに溜息交じりで応え、口を開く。
「あん時は、生者と死者も含めて七人の連中が集まった。そいつ等が内と外から協力して、暴れ回ってた創造神の自我を一時的に制御したんだ」
「内と、外?」
「輪廻と現世って事だよ。俺はそん時には死んでたからな。死者側として輪廻から手を貸して、暴走してる創造神を止めた」
「ぐ、具体的にはどうやったんだよ?」
「あの時は輪廻も崩壊しそうだったんだ。死者の魂も瘴気のせいで暴れ回ってな。それを循環機構とか言う奴を使って抑え込んで、俺が暴走する魂をぶん殴って鎮める。それだけだった」
「じゃあ、それと同じようにすれば……!」
「言ったろ、俺は死者側に居たってよ。お前等、今は死んでねぇだろうが」
「!?」
「それに今、輪廻側も同じ事になってるのかすら分からねぇしな」
「……じ、じゃあ。アタシ等が生者側にいるとして。何をすればいい? 五百年前の連中は、何をして創造神を止めたんだ?」
改めて生者側に立つ自分達がどういう役回りか確認しようとするケイルだったが、そこからフォウルの口が僅かに重くなる。
そしてその重さが取り払われた数秒後、フォウルは自らの知識について限界を伝えた。
「知らねぇ」
「えっ」
「言ったろ、俺はその時にはとっくに死んでたんだよ。現実でどうなって創造神が復活して暴走してたのか、詳しく知らん」
「で、でも。七人で協力し合ってたんだろっ!? それで創造神を止めたってっ!!」
「人数に関しちゃ、俺も又聞きだ。それに死者側の俺達は輪廻の連中をぶん殴って抑え込んでただけで、現実の連中が創造神と何をやってたか実際に見てたわけじゃない」
「そんな……」
「悪いな、女。俺が知ってる五百年前の事は、その程度の知識だ」
鼻息を漏らしながらそう伝えるフォウルに、ケイルの表情が歪み淀む。
すると『生命の火』によって囲われ抑え込まれていた瘴気の勢いが強くなり始め、それに気付いた未来のユグナリスが振り返りながら口を走らせた。
「とにかく、三人で瘴気を出来る限り排除しましょう。そうしなければ、こちらに瘴気が溢れてしまうっ!!」
「チッ」
「……それしか、やれることは無いのか……ッ」
再び聖剣を構えて炎を巻き上げる未来のユグナリスに対して、フォウルとケイルは躊躇う表情を見せながら押し寄せて来る瘴気を見る。
他に自分達がすべき方法は何かも分からない三人は、ただ溢れ出て来る瘴気に対応するしか方法が無かった。
そんな彼等に対して、周囲から声が響く。
『――……どうか、諦めないで』
「むっ」
「この声は……!」
「……リエスティアッ!?」
薄暗い精神世界に響く女性の声に反応し、それぞれが表情を変化させる。
その中でケイルは聞き覚えのある声に反応し、ユグナリスは明確に誰の声かを特定する様子を見せた。
そんな彼等に対して、周囲に響く声は自らの正体を答えとして返す。
『私は、この肉体に宿り続けた黒の意識、その集合体です』
「『黒』か……!!」
「じゃあやっぱり、リエスティアの意識も……!!」
『貴方達は、彼女がここに集めた最後の戦士達。だからどうか、諦めないでください』
『黒』の集合意識はそう告げ、行動を行き詰まらせる彼等を導くように声を向ける。
しかし明確な答えを口にしない『黒』に対して、ケイルは焦るような表情で言葉を飛ばした。
「だったら教えてくれっ!! 創造神を制御する為には、どうすればいいっ!? アンタが『黒』なら、知ってるんだろっ!!」
『はい。知っています』
「だったら……!」
『けれど、その方法は駄目なのです』
「……はぁ?」
「なんで、駄目なんだっ!?」
『黒』が発する言葉を理解できないフォウルとケイルは、互いに疑問の声を口にする。
それに対して『黒』は、その理由を告げた。
『その方法であれば、確実に創造神の制御を得られます。……しかし、代償も伴います』
「代償……?」
『それが、止める貴方達の精神。そして魂です』
「!」
『貴方達を代価として創造神を止める事が出来ても、それは私が導くべき未来にはならない。……だから、別の手段が必要です』
「別の手段って、だからそれがなんなのかって聞いてるんだっ!!」
『……それは、至極単純な事です。……私を消す事です』
「!!」
「なにっ!?」
『この瘴気の原因は、創造神の肉体に転生し続け蓄積されて来た黒です。それを取り除けば、創造神から瘴気は消えます』
「……おい、それって……!!」
『そういうことです。――……貴方達で、この肉体に巣食う黒を消してください』
「!!」
「……リエスティア……」
彼等はその話を聞き、それぞれに驚愕した面持ちを浮かべる。
特に未来のユグナリスは、自分が愛した女性であるリエスティアと同じ肉体に生まれ生じた『黒』の意識を消さなければいけないという事態に、酷く困惑した様子を浮かべていた。
こうしてアリアを犠牲に集められた創造神の転生者達は、新たな犠牲を強いられる。
それは長年に渡って蓄積された創造神の瘴気、その根幹となっている『黒』の排除だった。
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