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革命編 七章:黒を継ぎし者

施設侵入

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 ゲルガルド伯爵領地の鉱山地帯に訪れたウォーリス達とそれを伴う【結社】の構成員じょせいメディアは、囚われている『黒』のリエスティアを救い出す為に動く。
 自らを囮にしてゲルガルドを誘き出したメディアの攻撃によって鉱山地帯に隠されていた実験施設を発見したウォーリス達は、そこに向かいながら走り続けた。

 それを察するように口元を微笑ませたメディアは、対峙しながら睨むゲルガルドに言葉を向ける。

『――……それで。凡人の貴方が到達者エンドレスに成れたのは、なんでかな?』

『……私が、凡人だと……!?』

『だってそうでしょ。到達者エンドレスって凄く強いって聞いてたのに、貴方は弱過ぎるもの。それは貴方が凡人だから。違う?』

『……言わせておけば、つけ上がりおってっ!!』

 ゲルガルドは激昂する様子を見せながら振り被り、右手に持っていた剣をメディアに投げつける。
 それは捉えられぬ程の回転と速度で放たれながらも、メディアは意に介する事無く右腕を振りながら生命力を纏わせた右手けんで払い落した。

 しかしその隙を突くようにゲルガルドは両腕に魔力を込め、崩壊させられる前に凄まじい魔力砲撃を放つ。
 メディアはそれを見ながら小さな溜息を漏らし、右手を前に向けながら魔力砲撃こうげきに飲まれた。

『ふっ、これで終わり――……!?』

『――……やっぱり、たいしたことないね』

 メディアを抹消した事を確信していたゲルガルドだったが、放った魔力砲撃こうげきが突如として掻き消される。
 するとその中から無傷のまま姿を見せたメディアに驚愕を浮かべながら、彼女が前に突き出しながら構える右手に注目した。

 彼女メディアの右手の平には圧縮された魔力球が存在し、それが自分の集めた放った魔力砲撃まりょくだとゲルガルドは瞬時に悟る。
 そして逆に魔力砲撃こうげきを返される事を恐れるように、今度は自分が魔力に干渉してメディアの右手に集まる魔力を崩壊させようとした。

 しかしゲルガルドの干渉能力ちからは、メディアが持つ魔力球体ボールを崩壊させるに至れない。
 むしろ魔力球体の大きさが徐々に増していく光景に、ゲルガルドは戦慄する面持ちを浮かべながら呟いた。

『馬鹿な……。……何故、魔力の干渉が……!?』

干渉能力ちからが弱過ぎるんだよ。君のね』

『!?』

『君がやっている事は、そよ風で大陸を動かそうとしてるのと同じくらい無謀なこと。……分不相応なんだよ。ただの凡人が、到達者エンドレスの真似事なんてさ』

『……貴様キサマァアッ!!』

 影のある微笑みでそう挑発するメディアに、ゲルガルドは憤怒の感情を露にしながら表情を強張らせる。
 その激昂度合は地上を走るウォーリス達にも気付かぬ程に意識を削がれ、再び魔力を両腕にあつめて嘲うメディアに放った。

 それに対してメディアも膨張させた魔力球を瞬時に縮小し、それを向かって来る魔力砲撃こうげきに投げ当てる。
 一見すれば大きさも速度も遥かに上回るゲルガルドの魔力砲撃だったが、次の瞬間にその予想が覆される状況を本人ゲルガルドは目の当たりにさせられた。

『なっ!?』

 ゲルガルドの魔力砲撃こうげきは、小さな魔力球体ボールに衝突すると同時に飲み込まれるかのように魔力を吸収させられる。
 四散するでもなく消失するでもなく吸収させられた自分の魔力砲撃を目の当たりにしたゲルガルドは、更に別のことにも気付いた。

 少し先に浮かんでいたはずのメディアが居なくなり、その姿を消している。
 それを探すように左右と上空を見回したゲルガルドだったが、その背後から寒気を帯びた声を聞き取った。

『――……ダメだよ。余所見なんかしたら』

『!?』

 ゲルガルドは自身の背後から相手メディアの声が聞こえた事に戦慄し、すぐに振り返りながら左腕を振って拳を当てようとする。
 しかしそれよりも早くゲルガルドの背中に強い衝撃が走り、凄まじい速度で前方に吹き飛ばされた。

 その衝撃を感じ取りながら風圧で顔を歪めるゲルガルドだったが、目の前に存在する小さな魔力球に気付く。
 すると吹き飛ばされた勢いも止められずに魔力球に衝突したゲルガルドは、次の瞬間に半径百メートル以上の巨大な閃光に飲まれた。

『な、なにぃ――……!?』

 閃光の範囲から逃れていたメディアは、爆発に飲まれたゲルガルドを眺め見ながら微笑む。
 そして膨張した閃光が数秒後に更に小さくなると、何も残されていない光景を確認し、別の方角を見て声を発した。

『なんだ、転移して逃げれたんだね?』

『――……はぁ……っ。……はぁ……っ!!』

 別方角の上空そらを見るメディアは、そこに浮かぶゲルガルドにそうした声を向ける。
 しかしその姿は五体満足ではなく、魔力球に直撃した左半身は欠けながら顔半分を失っている姿だった。

 それでも死ぬ様子の無いゲルガルドは、荒くした息のまま肉体に力を込める。
 すると生命力と魔力を用いて自身の肉体を復元し、服こそ消えながらも元の姿へと戻る事に成功した。

 しかしその表情だけは、メディアに対する激昂を更に深める。
 そして憎悪と憤怒が入り混じる荒々しい表情と息を隠さないゲルガルドは、唸るような言葉を向け放った。

『……よくも、やってくれたな……オンナァッ!!』

『んー、やっぱり私の攻撃じゃ殺せないかぁ。これは勝てないかな。……でも、負ける事も無さそうだけど』

 怒りながらも魔力を用いた攻撃が不利だと冷静に判断したゲルガルドは、凄まじい殺気と憎悪を見せながらメディアに迫る。
 それと相対するメディアは一切の恐れも抱かず、殺し切れない到達者エンドレスを相手に圧倒するような実力ちからを見せ続けた。

 そうしてメディアとゲルガルドが上空で激闘を繰り広げている頃、削られた鉱山地帯に残されている不自然な森近くまでウォーリス達は辿り着く。
 すると真っ先に辿り着いたウォーリスが立ち止まりながら、森に踏み込むのに躊躇いを見せていた。

『――……クッ、結界が解けていないか……!!』

 ウォーリスは小規模ながらも森に張られた結界を僅かな空間の揺らぎで視認し、それ以上は踏み込めない事を理解する。
 その後ろから追い付いたアルフレッドと背負われるジェイクは、立ち止まっているウォーリスに話し掛けた。

『ウォーリス様!』

『兄上!』

『二人とも……!』

『……これは、結界ですね?』

『ああ。この結界を破壊して、実験施設しせつを見つけ出さなければ……!』

『しかし結界を壊されれば、上空そらで戦っているゲルガルドにも気付かれる可能性があります』

『だが、この結界の先へ行くには……!』

『私に御任せを。ジェイク様、少し降りていて下さい』

『あ、ああ』

 森に張り巡らされた結界について任せるよう伝えるアルフレッドは、背負っていたジェイクを降ろしながら二人の前へと歩き出した。

 すると結界が張られている境へ立ち、義体の両腕を前に向ける。
 そして結界に触れるか触れないか程度の位置で両手の平を翳し止め、両目を大きく見開きながら義眼の内側を動かし、結界に対する対処を始めた。

『……結界に使用されている魔力の波長を確認。……魔力への同調を開始……』

『!』

『ア、アルフレッド殿の……身体が……!?』

 身体を赤い魔力で仄かに光らせるアルフレッドは、留まっていた状況から一歩だけ歩み出る。
 そして目の前に張られている結界に触れると、赤い光が灯る両腕が何事もなく結界をすり抜ける光景を二人の兄弟は見ていた。

 更に肉体も通過させるアルフレッドは、分厚く形成された結界の中で両腕を真横に広げる。
 するとアルフレッドの居る位置から結界が緩やかに開き始め、そこに一人分ほど通れる空間あなが作り出された。

 そしてアルフレッドは、結界の外側にいるウォーリスとジェイクに呼び掛ける。

『二人とも、今の内にこちらへ!』

『!』

 呼び掛けるアルフレッドの声に応えた二人は、共に顔を見合わせた後に出来上がった空間あなの中に走る。
 そしてウォーリスとジェイクの二人が結界の内側へ入ると、両腕を広げたままのアルフレッドも内側に侵入しながらゆっくりと両腕を閉めて開けた結界の空間あなを閉じた。

 その様子を見ながら驚くジェイクが、アルフレッドに問い掛ける。

『あ、あの。さっきのは、いったい……!?』

『こうした施設に備わる魔導装置で敷かれた結界の魔力には、一定の周波数なみが存在します。それを解析し、こちらで周波数なみを同調させながら留め、穴を開けたのです』

『そ、そんな事を出来るなんて……。アルフレッド殿、実は凄いんですね……!』

『私というより、この義体からだの性能ですね。しかし、御役に立てたのは何よりです』

『……当たり前さ。アルフレッドは、私の親友ともなのだからな』

 驚きながらも賞賛するジェイクに対して、アルフレッドは謙遜しながらも口元をぎこちなく微笑ませる。
 そして親友アルフレッドに対する評価に揺らぎの無いウォーリスもまた微笑み、改めて侵入した森の中を見回しながら二人に告げた。

『入り口を探そう。恐らくここの地下ちかに実験施設があるはずだ』

『分かりました』

『はい!』

 ウォーリスの言葉に従う二人は、共に三方へ散りながら森の中に在る地下への扉を探す。
 地面に張り付かんばかりに目を凝らす三人は、草木の深い茂みや僅かな膨らみがある地面を隈なく確認した。

 すると地面を蹴りながら鉄扉を音で探すウォーリスは、微妙に開けたある空間ばしょの地面に違和感を持つ。
 そして身を屈めながら両手で土を払うと、秘かに土の中に沈む鉄扉を発見した。

『見つけたっ!! 二人とも、こっちだ!』

『!』

 地下への鉄扉を発見したウォーリスの声に、アルフレッドとジェイクは反応しながら向かう。
 そして同じ場所に辿り着くと、そこで表情を強張らせながら悩むウォーリスの姿を確認して問い掛けた。

『どうしたんですか?』

『……扉を開く為の暗号詠唱ことばが、庭園あそこ実験室モノと違うようだ』

『!』

暗号詠唱ことばが分からない以上、普通の方法では開けられない。……こうなったら、自力で抉じ開けるしかない』

『しかし、それは……』

『この結界内だったら、多少の音を出しても大丈夫のはずだ。……二人共、少し離れててくれ』

『……ッ』

 暗号パスワードが分からない扉に対して、ウォーリスは強硬手段を用いて開ける選択をする。
 そして左腰に携えている剣を引き抜き、生命力を纏わせながら地面にある鉄扉を一刺しで貫いた。

 更に上下左右に切断しながら人が通れるだけの穴を作り出し、塞がれていた鉄扉を除去する事に成功する。
 そして開けた穴から飛び込むようにウォーリスが降りると、それに続くようにアルフレッドとジェイクも穴から降りた。

 鉄扉の先には同じように地下へ続く階段が存在し、そこをウォーリスは駆け下りる。
 それに付いて行くアルフレッドと遅れながらも追うジェイクは、三人で共に階段のしたへ向かい続けた。

 こうしてウォーリス達は実験施設内部に侵入し、囚われている可能性が高いリエスティアの捜索を始める。
 しかしそこは庭園あそこの実験室とは比べ物にならない程、ゲルガルドの最も根深い実験が行われている施設であることを、その時の彼等自身も知る由は無かった。
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