虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
上 下
1,066 / 1,360
革命編 七章:黒を継ぎし者

か弱き存在

しおりを挟む

 帝都へ向かう道中にて継母エカテリーナの策謀した待ち伏せを受けたウォーリスだったが、約二十年間に渡る鍛錬と実験によって苦も無くそれを撃退する。
 そして運命を変えようと娘リエスティアを介して伝える『黒』に従い、帝国皇子ユグナリスの誕生日祝宴パーティーが行われる帝都を再び目指し始めた。

 従者役として伴うアルフレッドを含めて三名だけになった旅路は、予定通りとはいかなくなる。

 継母エカテリーナの実家とする領地はウォーリス達が移動する領地と隣接しており、またその領兵が用いられているという時点で、領主であるエカテリーナの父親も今回の暗殺に関与している可能性が高い。
 もし今回の暗殺が失敗した事が分かれば、エカテリーナの父親は是が非でも後継者に選ばれた自分ウォーリスを殺そうとするだろう。
 そうすれば跡取りとして残るジェイクを基点にし、自分達の立場を守れるかもしれない。

 そうした安易な考えで自分達の暗殺を諦めない可能性があると考えるウォーリスは、予定していた旅路の順路を変更するようアルフレッドに命じていた。

『――……この順路ルートですと、移動時間が更に伸びますね』

『ああ。だが迂回して別領地の中を移動すれば、エカテリーナ達の妨害を受けずに済む。流石に、一つの領地を跨いでまで領兵を動かすのは危険が高いはずだからな』

『しかしウォーリス様であれば、襲撃を受けても問題ありますまい。私も居ますし』

『今回のように人気ひとけの無い場所でなら問題ないが、追い詰められて人目もはばからず場所でそうした事をされると面倒だからな』

『なるほど』

『予定を外れるが、この順路ルートで行く。頼んだぞ、アルフレッド』

『承りました』

『リエスティアも、それでいいな?』

御父様あなたに任せます』

『そうか』

 帝国領の地図を広げながらそう話し合うウォーリスとアルフレッドは、予定を変更して安全な順路ルートを辿り帝都を目指す判断を行う。
 それを馬車の中から聞いていたリエスティアは異論を挟まず、ただ口元を僅かに微笑ませながら了承した。

 更に町や都市での発見され襲撃されることを警戒し、ウォーリスはそうした宿屋しせつがある街で泊まらない事を選ぶ。
 立ち寄った町などで必要な物品を買いながら不必要な物を売って荷物を減らし、ほとんどの道程を野宿で過ごした。

 しかし義体であるアルフレッドは人間と同じように飲み食いこそ出来たが、本来はそうした行為をする必要は無い。
 更に『聖人』であるウォーリスは飲み食いをせず不眠不休でも三ヶ月以上も活動できる為、必要とする荷物はリエスティアの分だけで十分だった。

 そんな完璧にも思える二人だったが、一つだけ大きな欠点がある。
 それは常人とは懸け離れた生活と存在故に、人間に最も必要なモノが欠けていた事を、リエスティアは渋い表情を浮かべて伝えた。

『――……不味まずいです』

『ん?』

『御父様達の料理、不味まずいです』

『……ッ』

 初めての野宿を行った日、リエスティアの為に不慣れた様子で食事の準備を整えたウォーリスとアルフレッドだったが、その張本人に料理の出来栄えを批難されてしまう。
 二百年以上も食事を必要としなかったアルフレッドと、屋敷で用意された食事ばかりを食べていたウォーリスは強力な能力ちからこそ持っていたが、料理の事など何も学んでいなかった。

 実際にウォーリスは自分の作ったスープらしき料理を口にし、思わず表情を渋らせる。
 屋敷の料理人が用意した食事とは雲泥の差がある味は、流石のウォーリスも弁明のしようが無かった。

 そんな表情を見せるウォーリスに、リエスティアは微笑みを浮かべながら伝える。

『明日からは、私が料理の仕方を教えます。その通りにしてくれないと、私の身体が帝都まで持ちません。いいですね?』

『……分かった』

 幼い微笑みながらも僅かな圧を感じたウォーリスは、それに異論を挟まずに従う事にする。
 それからウォーリスとアルフレッドは、『黒』の経験を元にした野営の料理方法を学ばされた。

 しかしその時間が、それぞれの心の距離を縮める。
 特に『友』と呼びながらも実験や鍛錬以外で接点の少なかったウォーリスとアルフレッドは、そこで初めて友情と呼べる関係を育めるようになった。

『――……ウォーリス様。あれだけ鮮やかに人は斬れるのに、なんで芋の皮はこんな切り方になるんです?』

『お前だって、剥いた皮より残ってるの方が大きいじゃないか。だから均一に切り難いんだよ』

『私は義体ぎたいですから、こういう精密動作は向いていません』

『だったら、もっと高性能な義体を作ってもらうんだな』

『ああ。この義体からだなら、私が作ったモノですよ』

『……そうなのか?』

『私がまだ自分の身体を得たいと駄々を捏ねていた時期に、ゲルガルドが与えた機能ちからです。ある金属を使い人形を形成するだけの機能でしたが、こうした人間の姿を模った義体も作れるようになりました』

『なるほど。……そして皮膚や毛は、廃棄される実験体モルモットを流用か』

『そうですね。どちらも腐らぬように保存液で浸していたモノを使っています。……気味が悪いですか?』

『……いや。そういうところが、お前らしいとは思えるさ』

『誉め言葉として受け取っておきましょう』

 こうした雑談を多くするようになった二人は、今まで把握していなかった互いの不得手な部分と性格を知り、友人としての仲を深める。
 そんな二人の様子に微笑みを浮かべるリエスティアの指導により、旅の間でまともな味をしたスープを作れるようになった。

 そして本来の予定であれば一週間の旅路を超えて十二日が経過し、ようやく一行を乗せた馬車は帝都がある領内に辿り着く。
 しかし帝都に到着する前に、ある異変が起きていた事にようやくウォーリス達は気付くことになった。

『――……熱か』

『……だから、言いましたよ。……私の身体は、貧弱だって……』

『……ッ』

 止められた馬車の内部座席にて、僅かに汗を浮かべて横になるリエスティアの額に触れたウォーリスは、明らかに発熱している事を理解する。

 普通の人間とは異なるウォーリス達にとって、初めての旅路でも不調を起こすことは無い。
 しかし慣れない馬車の旅を十日以上も続けていたリエスティアの幼い身体は、その限界を示すように熱を高めていた。

 それを知った時、ウォーリスは自らの判断が過ちだったと考える。
 そうした後悔にも似たウォーリスの感情を察するように、リエスティアは熱で赤みを帯びた顔で微笑みにながら伝えた。

『貴方は、何も間違っていませんよ』

『!』

『せっかく、ここまで来たんです。ここで足を止めても、意味はありませんよ……』

『……ッ』

『――……ウォーリス様、どうなさいますか?』

 二人の声を聞くウォーリスは、この状況で二つの選択肢を迫られる。

 一つ目は、最寄りの町に向かいリエスティアを医者に診せるか。
 二つ目は、残り一日の距離にある帝都まで向かい、そこでリエスティアを診せるか。
 
 誕生日祝宴パーティーが開かれるまで残り三日の猶予しかない為、リエスティアを近隣の町で診せた場合、その快復を待つ事になる。
 そうなれば祝宴パーティーに出席できる可能性は薄まり、帝都まで来た意味を失ってしまうだろう。

 しかし一日ほどの距離にある帝都まで移動した場合、リエスティアの状態が更に悪化してしまう可能性もある。
 そうなれば最悪、リエスティアが死んでしまう可能性も考えられた。

 その決断を悩むウォーリスに、熱に苦しむリエスティアは無言で視線を向ける。
 『黒』である彼女の黒い瞳を見て、再び運命の分岐を自分に選ばせようとしているのだとウォーリスは気付いた。

 だからこそウォーリスは、鼻息を漏らしながら自身の道を示す。

『……帝都へ行こう。リエスティアは、そこの医者に診せる』

『よろしいのですか?』

『普通の町医者に診せるよりも、施設も医者も充実している帝都の方が良いかもしれない。何より、祝宴パーティーまでリエスティアの休める時間が多くなる』

『……分かりました。では、帝都へ向けて進みます』

『頼む』

 帝都へ進路を戻すように伝えるウォーリスに、アルフレッドは従いながら馬車を進めさせる。
 そして治癒魔法が効かないリエスティアが出来る限り快適な状態になるよう柔らかな敷き布で包みながら、ウォーリスは看病を続けた。

 そして一日を掛けて、ウォーリス達は帝都まで辿り着く。
 ウォーリスは父親ゲルガルドが用意した偽造の身分証をアルフレッドに託し、帝都の入り口を通過して帝都内部に入った。

 しかし祝宴パーティーの参加者として用意されている市民街の民宿に寄らず、子供を診れる医者と病院を探す。
 それを見つけた後、祝宴パーティーが始まるまでの二日間、リエスティアを帝都の民間病院にて静養させる事になった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

処理中です...