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革命編 六章:創造神の権能

悪魔ゲルガルド

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 天界エデンの聖域内にてアルトリアの亡骸を発見したエリクは、赤鬼オーガと化し暴走しようとする。
 それを止めに向かったマギルスだったが、赤鬼オーガになりながらも暴走したフリをして意識を保っていたエリクの演技に気付いた。

 アルトリアを再び死なせたという失意に塗れて意気消沈していたエリクに対して、マギルスはある思考を浮かべる。
 聖域に存在する『マナの樹』にえる『マナの実』を用いて、アルトリアの亡骸からだを生き返らせ創造神オリジンの魂を入れる事で蘇る可能性を伝えた。

 それにより失意の淵から再び腰を上げたエリクは、引き千切れた服布を身体に巻き付けながらアルトリアの亡骸からだを背負う。
 するとマギルスのやや大きくなった青馬に騎乗し、そのまま創造神オリジンと未来のユグナリスが戦っていた『マナの樹』へ駆け向かった。

 一方その頃、意識を戻しながらも現状に関する前後の記憶が存在しないケイルは、傍に倒れていた創造神なぞのじんぶつに目を向ける。
 そして見た事も無い森と巨大な大樹にも視線を向けながら、左手で頭を掻いて苦々しい表情を浮かべた。

「――……マジで何処だよ、ここ。……それに、この女。クロエにちゃいるが、人間じゃないみたいだし……誰なんだ……?」

 ケイルは創造神オリジンを見下ろしながら再び顔を覗き込み、それが自分の知る未来の『クロエ』と似た顔立ちをしている事を理解する。
 しかし銀髪であり耳が尖っている容姿は人間と大きく異なる為、魔人か魔族ではないかと考えていた。

 それがまさか自分達の世界を左右する神様そんざいだとは考えられないケイルは、訝し気な表情を浮かべながら創造神オリジンを見下ろす。
 すると自身の思考を悩ませていたケイルは、小さな溜息を漏らしながら創造神オリジンに両手を伸ばした。

「よく分からんが、何もせず突っ立てるわけにもいかないし。……とりあえず、コイツを連れてエリクとマギルスを探すか……」

 創造神オリジンの上体を起こしたケイルは、今いる場所から移動して他の者達を探すことを決める。
 そして創造神オリジンを背負うと、目印になりそうな巨大な大樹を見上げて足を進め始めた。

「あの馬鹿デカい大樹に行くか……。……まったく、いったいどうなってんだ……」

 状況も分からぬまま動き始めるケイルは、愚痴を漏らしながらも『マナの樹』を目指す。
 そうして周囲の地形を把握しながら背負う創造神オリジンを激しく揺らさぬように足を進めると、僅かに額から頬を伝って汗を流し始めた。

 それを自覚するケイルは、汗が出る理由を自ら口にする。

「……なんだ、この熱気。……森が、湿気しけってるわけじゃない。……あの大樹に、何か仕掛けがあるのか……?」

 大樹の根本に近付くケイルは、奇妙な熱気を『マナの樹』から感じ取る。
 その異常を証明するように、過酷な環境でもある程度は適応できる『聖人』のケイルが、徐々に息を乱し始めていた。

「……はぁ……っ」

 しかしそして大樹の根本が見える場所まで近付いたケイルは、両足を止めながら身体を前に傾かせる。
 そして両腕を地面へ着きながら息を吐き出し、大きく疲弊する様子を見せていた。

「……なんだ、ここ……。……これは、熱いんじゃない……。……アタシの身体から……熱が、生命力が抜かれていってる……!?」

 ケイルは汗を浮かべ疲弊するような虚脱感に苦しむ理由が、自分の肉体から体温を含む生命力が抜き取られているからだと理解する。
 しかしその原因がまだ分からず、ケイルは顔を上げながら周囲を見渡すと、真正面に見える大樹の根元を凝視した。

「……まさか、この大樹に吸い取られてるのかよ……。……だったら、この大樹から離れないと……!」

 ケイルは遅れながらも目の前にそびえる大樹がその巨大さ以上に異常な存在モノであると認識し、腰を起こし両足を立たせながら戻ろうとする。
 しかし次の瞬間、ケイルが来た方角とは別の場所から、巨大な黒い閃光が放たれた。

「な――……ッ!?」 

 ケイルは森の木々を薙ぎ倒しながら迫る黒い閃光に気付き、咄嗟に飛び避けながら地面へ倒れる。
 するとケイルと共に背負われていた創造神オリジンも地面へ転がり倒れ、二人の頭上を黒い閃光が通り過ぎた。

 しかしその黒い閃光は、巨大な大樹に掻き消されるように四散する。
 それを横目に見ていたケイルは、その閃光を放った場所に視線を向けながら左腰に携える長刀の柄に右手を添えた。

 そして黒い閃光が放たれた先へ注視し、そこから現れる黒い人影を目撃する。
 しかしそれを見たケイルは、驚きを秘めた表情でその瞳を向けながら表情を強張らせた。

「……なんだ、ありゃ……!?」

 思わず驚きを漏らすケイルが見たのは、全身が黒く染まっている人間の形をしている何か。
 それが何なのか理解できないケイルだったが、自身の直感によって現れた相手が決して油断を許さぬ相手だと理解した。

 しかし全身を黒に染めた何かは、木々の幹から歩み出ながら黒い腕や身体に亀裂を生じさせる。
 するとその身体を覆う黒い何かは割れ砕け、その中から人間と思しき肌が明かされた。

「……人間……!?」

「――……ク、クク……ッ!!」

「!」

 徐々に黒い表面が剥がれ落ちて行く姿を凝視するケイルは、剥がれ落ちた顔部分に浮かぶ口が笑みを浮かべて高笑いを浮かべているのに気付く。
 そして黒い表面に覆われた者は、自ら顔面を覆っている表面それを右手で剥ぎ取りながら握り砕いた。

 すると明かされた相手の顔を見て、ケイルは血の気を引かせながら表情を強張らせる。
 それは顔に傷を残しながらも、見た事のある黒髪と金色の瞳を持つ青年の顔だった。

「マジか……。……こんな状況で、黒幕ウォーリスかよッ!!」

「……ハハ……。……クハハハッ!!」

 肌に張り付く黒い表面を剥ぎ取ったその青年の姿を見て、ケイルは箱舟ふねの映像で見たウォーリスゲルガルドだと気付く。
 しかしそんなケイルを無視するように、辛うじて生き延びていたゲルガルドは気絶している創造神オリジンへ憎悪の瞳を向けながら高笑いを止めた。

「……よくも散々とやってくれたな、創造神オリジン……ッ!!」

「オリジン……!? じゃあ、コイツが……!!」

「間一髪で、瘴気を身体に纏い耐えたものの……。……今度こそ貴様を糧にして、その権能ちからを全て奪ってやるっ!!」

 ゲルガルドは憎悪の瞳を向けながらも、自らの計画を遂行する為に創造神オリジンを『マナの樹』に捧げようと跳び迫る。
 そして初めて背負っていた銀髪の女性が創造神オリジンだと理解したケイルは、それを手に入れようとするウォーリスゲルガルドを阻む為に向かい迫った。

 進行方向の視界に入ったケイルに対して、ゲルガルドは小さな舌打ちを漏らす。
 そして怒声を上げながらケイルに左腕を向け、凄まじい瘴気を宿した黒い閃光ほうげきを放った。

「邪魔だ、女っ!!」

当理流とおりりゅう合技ごうぎ――……『扇形空羅せんけいくうら』ッ!!」

「ッ!?」

 迫る瘴気の砲撃に対して、ケイルは当理流とおりりゅうの奥義を組み合わせた合わせ技を放つ。

 左腰の鞘から抜き放った長刀を巨大な気力斬撃ブレードとして扇状に展開し、それをまるで大団扇のように動かしながら敵方向ゲルガルドあおぐ。
 すると迫っていた瘴気の砲撃が相反する生命力ちからによって打ち返され、ゲルガルドは自分の放った瘴気の砲撃にケイルの生命力が上乗せされた砲撃を受けた。

 それによって吹き飛ばされたゲルガルドだったが、その肉体は無傷に等しい。
 しかしケイルはその隙を見逃さず、左腰の鞘に長刀を戻しながら傍に倒れる創造神オリジンを再び担ぎ背負いながら、『マナの樹』から離れ始めた。

「クソッ、冗談じゃねぇぞっ!! コイツが創造神オリジンだとっ、なんで復活してやがるんだっ!?」

「――……貴様キサマァアアアアッ!!」

「しかも、あの化物ウォーリスまで相手にしろとか――……無理に決まってんだろがよっ!!」

 ケイルは背中の創造神オリジンにもはや気遣わず、ただ全力で森の中を駆けながら逃走を始める。
 それを察知したゲルガルドは狂気の瞳を向けながら傷付いた肉体で駆け跳び、凄まじい速度でケイルを追い掛けた。

 それを後ろを見ずに察知するケイルは、余力を全て脚力に回す。
 しかし満身創痍のはずであるゲルガルドの脚力が僅かに上回り、怒声を向けながらケイルに迫りつつあった。

創造神オリジン権能ちからは、この世界は、私のモノにぃいいいいッ!!」

はええっ!! ――……クソッ、本当に誰もいないのかよ……っ!! ……エリクッ!! マギルスッ!!」

 ケイルは必死に走りながら、仲間である二人の名を大きく叫ぶ。 
 しかしその後方には既にゲルガルドが迫り、右手に宿した瘴気をケイルに放つ態勢となっていた。

 そんな時、ケイルの耳に聞き慣れた声が届く。
 それは呑気なようにも聞こえたが、ケイルが待ち望んでいた一人の声でもあった。

「――……呼んだ?」

「!」

「ッ!?」

 ゲルガルドが瘴気の砲撃を放つ直前、走る二人の間に巨大な青い斬撃が放たれる。
 その斬撃に晒されるゲルガルドは吹き飛ばされ、ケイルと創造神オリジンから大きく引き離された。

 それに驚愕しながら立ち止まったケイルは、青い斬撃が放たれた方角に視線を向ける。
 すると安堵の息を漏らすケイルは、そこに立つ青髪の青年と白髪の男に罵声を向けた。

「……遅いっての、お前等っ!!」

「ごめんごめん! でも、エリクおじさんが不貞腐れてたせいだからね! 僕のせいじゃないもん!」

「――……すまん、ケイル。それに、マギルスも」

 ケイルは罵声を飛ばしながらも駆け跳び、二人の声を聞く。
 それは駆け付けたマギルスとエリクであり、互いにケイルを発見しながらその後背を追うウォーリスゲルガルドに攻撃を加える事に成功した。

 しかしエリクが背負い外しながら抱くアルトリアの亡骸からだを見て、ケイルは驚きの表情で問い掛ける。

「アリア……。……死んでるのか?」

「ああ。だが、アリアの『魂』は創造神オリジンの中に生きている。今ならまだ、生き返らせる事は出来るかもしれない」

創造神オリジンって、コイツの中にかよ?」

「それが創造神オリジンか?」

 ケイルとエリクは互いに背負い持っていたアルトリアと創造神オリジンの姿を見せ合う。
 しかしそんな二人の確認する時間を待たず、マギルスが二人に呼び掛けた。

「来るよっ!!」

「!」

「ッ!!」

「――……この、ゴミ共がぁああああっ!!」

 マギルスの声に反応した二人は、互いに意識と視線を同じ方角に向ける。
 するとそこには、マギルスの魔力斬撃ブレードで吹き飛ばされたゲルガルドが膨大な瘴気を放ちながら木々や地面を吹き飛ばして起き上がった。

 創造神オリジンによって与えられたダメージで満身創痍の肉体にも関わらず、その憤怒と憎悪によって生み出される瘴気オーラはあのザルツヘルム並の威圧感を放っている。
 それを察知したマギルスは大鎌を身構え、エリクが大剣を右手に持ちながらアルトリアの亡骸からだをケイルに託した。

「ケイル、アリアも頼むっ!!」

「!?」

「奴の狙いは、あの大樹創造神オリジンを吸収させて、その権能ちからを『マナの実』を食べる事だ」

「先に行くよ、おじさんっ!!」

「ああ! ――……アリアが生き返る為には、俺達も『マナの実』が必要だ。だから奴を倒して、俺達で『マナの実』を手に入れる。だからお前は、その二人を頼むっ!!」

「マギルスッ!! エリクッ!!」

 エリクはそう言いながら先に跳び出したマギルスを追い、瘴気を放出するゲルガルドに迫る。
 そして己の計画を邪魔する者達に対して、ゲルガルドは瘴気を身に纏いながら悪魔デーモンの姿へと変化した。

 こうして状況は最終局面へ至り、エリクとマギルスは決死の戦いに臨む。
 それは己が魂によって生み出す瘴気と到達者であるウォーリスの肉体を操る、悪魔ゲルガルドとの決戦だった。
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