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革命編 六章:創造神の権能
神の暴虐
しおりを挟む『マナの樹』が聳え立つ天界の深奥へ辿り着いたゲルガルドだったが、そこで息子ウォーリスの裏切られる。
そしてウォーリスは自らの意思によって創造神を復活させ、自身と世界の破壊を果たさせようとした。
そうした一方、肉体の主導権を奪い返したゲルガルドは創造神の権能を得るべく自ら計画を完遂しようとする。
しかし創造神の魂であるアルトリアの精神は絶望へ沈み、その意識は表層に出て来れなくなった。
すると『器』と『魂』が定着し終えた創造神は、ウォーリスという人物に対する明確な殺意を向ける。
それを察知し逃走に入ったゲルガルドに対して、創造神は容赦の無い攻撃を浴びせた。
転移させた赤い球体を巨大な劫火として放つ創造神は、ゲルガルドはそれに巻き込まれる形で爆炎に飲まれる。
しかし劫火から僅かに離れた中空に現れたゲルガルドは、転移魔法によって直撃を逃れていた。
「――……クソッ!! あの攻撃、やはり【始祖の魔王】と同じ――……ッ!?」
創造神の直撃を免れながらも、劫火の放熱で身に着ける衣服が焦げたゲルガルドは悪態を漏らす。
そして自身の記憶に残る第一次人魔大戦での【始祖の魔王】が放つ攻撃方法の一つと、『創造神』の攻撃が同じ手法である事を理解した。
しかしその悪態を全て口から放つより早く、次の事態は襲って来る。
それは先程の赤い球体がゲルガルドの周囲に複数も転移して現れ、再び巨大な劫火となって炸裂したのだ。
ゲルガルドはそれに気付き、着火した球体に巻き込まれる前に再び転移魔法で逃走する。
その距離は『マナの樹』からかなり離れた十数キロほど先であり、そこから先程まで居た中空に巨大な赤い劫火が発生した光景を目にした。
劫火の巨大さは先程の数倍に及び、十数キロ以上も離れたゲルガルドの視覚でも強化せずとも映し出される。
それによってゲルガルドの表情は血の気を引かせ、声を震わせながら呟かせた。
「あの一瞬で、私の居場所を――……ッ!!」
「――……逃がさない」
劫火を見据えながら創造神が自分の位置を正確に捉えていると確信しようとしたゲルガルドだったが、再び自分の思考領域を超える事態に驚愕する。
それは殺気に満ちた創造神が既に背後に浮かぶ気配であり、そこで向けられる声に絶句しながら表情を強張らせた。
「……クソッ!!」
逃走が不可能だと判断したゲルガルドは、生命力で形成した闘衣を纏いながら近接戦に切り替える。
振り向きながら両手に創り出した生命力の剣で斬り薙いだゲルガルドだったが、それは創造神の周囲に纏わせている障壁によって弾かれた。
一薙ぎで同盟都市を破壊した生命力の剣が効かない様子に、流石のゲルガルドも僅かながら放心する。
しかし歯を食い縛らせると、身体能力を極限まで高めながら動かし、両腕に握る生命力の剣を叩きつけるように創造神へ浴びせ続けた。
「グッ、ォオオッ!!」
一切の躊躇いも無く殺す気で放つゲルガルドの斬撃は、全て創造神の障壁によって妨げられる。
そして銀色の髪で覆われ隠れていた赤い瞳が銀髪の隙間から覗き見ると、その斬撃を凌駕した速度で創造神の右腕がゲルガルドの首を掴んだ。
「ッ!?」
掴まれた瞬間、ウォーリスの首が百五十度ほど右側へ曲がる。
それはゲルガルドの首回りにも纏っていた生命力の闘衣を握り潰した創造神が、そのまま首を完全に折った事を証明していた。
掴まれてから反応する事すら出来なかったゲルガルドは、首を折られてから初めて傾く視界で自身に異常が起きたことに気付く。
そして次の瞬間、自身の腹部に巨大な衝撃を受けながらゲルガルドはその場から斜め下側に吹き飛ばされた。
それは創造神が拳を握る左腕によって齎され、首が折れたままのゲルガルドは下界に広がる森へ突っ込む。
森を削り取りながら吹き飛ばされるゲルガルドは、再び自分が居た『マナの樹』の傍まで戻された。
「――……ガ……ぁぐ……ッ」
地面を削りながら勢いが止まったゲルガルドは、身に着けた生命力の闘衣《ふく》を解く。
その闘衣によって辛うじて肉体への損傷は軽微に留まりながらも、折れ曲がる首と腹部へ与えられた殴打の損傷までは庇い切れていなかった。
そして後から訪れる凄まじい痛みで歯を食い縛りながら、ゲルガルドは両手を動かし自身の首を支える。
左手で首を真っ直ぐに立たせ、右手で頭を固定しながら肉体の治癒をさせ始めながら呟いた。
「……治癒が、遅い……。到達者の私が、何故……。……しまった、今の創造神も……まさか……っ!!」
ゲルガルドはエリク戦でも見せた驚異的な再生能力が発揮されていない事に気付き、それを疑問に思いながらある事を思い出す。
それは自分が到達者になっているように、復活した創造神も同じ到達者へ至っている可能性だった。
『到達者』が戦い合う場合、互いに与えた傷の治りは非常に遅い。
膨大な生命力と魔力を内包する到達者同士が戦う場合に限り、不死性が一時的に適応されなくなってしまう。
その原因は創造神が敷いた世界の『理』であり、多くの信仰心を糧として不死性を与えられる『神』に対する唯一の弱点でもあった。
その事象を第一次人魔大戦の経験と情報から知るゲルガルドは、到達者である自分の肉体が上手く再生しない理由を悟る。
しかしそれに対する対策を行える時間も無く、治癒に集中しようとしていたゲルガルドの視界に再び恐怖が押し寄せた。
「創造神から、どうにか離れて……治癒を――……ッ!!」
首と頭を支えながら治癒しようとするゲルガルドの目と鼻の先に、音も無く再び創造神が転移して来る。
そして赤い瞳で見下ろしながら、鋭い眼光を向けた。
すると次の瞬間、ゲルガルドの肉体を包むように赤い光が纏わされる。
そしてゲルガルドの意思に関わりなく、その身体は中空に浮かされながら両腕を左右へ伸ばされ、両足を真っ直ぐにさせられた。
「これは……ッ!?」
身動きの取れないゲルガルドは、自身の肉体に及んでいる赤い光に困惑を浮かべる。
するとゲルガルドの背後に赤い光で形成された十字架が出現し、それに両手と両足、更に折れている首も真っ直ぐに固定させた。
拘束されたゲルガルドは藻搔き動くが、赤い魔力で構成された十字架と枷は千切り取れず、また転移魔法などを使おうとしても発動しない。
そんなゲルガルドに対して、歩み寄る創造神は銀色の髪を靡かせながら呟いた。
「……これでお前も、逃げられない」
「ッ!!」
創造神はそう呟きながら、銀色の前髪から憎悪で滾る赤い瞳を覗かせる。
その赤い瞳に恐怖を抱くゲルガルドに、再び目にも止まらぬ創造神の拳が降り注いだ。
創造神は容赦の無い殴打を連打で浴びせ、ゲルガルドの魂を宿す肉体を殴り続ける。
それは常人であれば一撃で肉体が四散し絶命するであろう重い殴打ばかりだったが、到達者として頑強な肉体を持つゲルガルドを殺すには至れていない。
しかしそれこそ目的とするように、創造神は拘束から逃れられない肉体に強烈な痛みを与える嬲り方で痛みを与え続けた。
「が、はっ!?」
「……フッ」
「ぁ、ぐぎゃっ!!」
「……フフ……ッ」
「ぶぐっ!!」
「フフ……アハ……ッ!!」
「ぐっ、きさ――……ガッ!!」
「アハハハハァアッ!!」
痛みを与え続けながらも気絶を許さず、そして殺さぬようにか細い拳を奮い続ける創造神は、その肉体から吐き出る血を浴びながら狂気の笑い声を上げる。
それは魂の持ち主だったアルトリアの精神から懸け離れた思考と行動であり、目の前の相手に対して良心や理性など抱かない暴力性に満たされていた。
ゲルガルドも創造神が自身を加虐する為に手加減しながら殴り続けていると気付きながらも、それに抗う事が出来ない。
腹部への殴打を中心に両手両足にも殴打を浴びせる創造神は、治りの遅い相手の肉体にある骨という骨を一つずつ砕く拳を振り続けた。
しかし創造神の暴虐に晒されるゲルガルドは、肉体の再生も治癒も出来ない状況で精神世界へと潜る。
すると精神体となったゲルガルドは肉体とは異なる容姿となり、精神内部で拘束するウォーリスの人格に怒鳴りを向けた。
『――……ウォーリスッ!!』
『……フッ、どうしました? 父上』
『貴様ァア、今すぐ人格を入れ替えて応戦しろッ!! そして貴様が、創造神をマナの樹に捧げるんだッ!!』
『御断りします』
『!?』
『このまま貴方も、そして私も、復讐心に染まる創造神に殺させる。それが私の、本当の目的です』
『……正気なのか、貴様はっ!?』
『お前にだけは言われたくはない。憎悪と狂気に身を委ね、あらゆるモノを道具として利用して来た、お前にだけは』
『ッ!!』
『お前の信用を得る為に、私はこの日まで外道に身を堕とした。異母弟や母上もまた、この日の為に自らを貶め、犠牲になってくれた』
『ジェイクと、ナルヴァニアだと……!?』
『これが家族から、父親《おまえ》に贈る地獄だ。……存分に味わってくれ』
『……ウォーリスッ、貴様ァアアッ!!』
精神体を黒い鎖状の呪印で拘束されたウォーリスの言葉に、ゲルガルドは激昂しながら迫る。
そしてウォーリスの人格を破壊しようと、その胸部分を穿とうと右拳を放った。
しかしゲルガルドの右腕は、その真横から伸びる黒い腕によって掴み止められる。
それに驚愕しながら横目を向けるゲルガルドは、そこに立つ人物を見て目を見開いた。
『貴様は……ヴェルフェゴール!?』
「――……困りますねぇ。契約の報酬を、破壊されてしまうのは」
ゲルガルドの右腕を止めたのは、ウォーリスと契約している悪魔ヴェルフェゴール。
今まで姿を見せていなかったヴェルフェゴールは、その精神内部でウォーリスの傍に控えていた。
そんなヴェルフェゴールに対して、ゲルガルドは掴まれた右腕を引き下げる。
するとゲルガルドは凄まじい形相を浮かべながら、邪魔をしたヴェルフェゴールに対して怒鳴りを向けながら襲い掛かった。
『出来損ないを依り代にした悪魔男爵風情が、邪魔をするなッ!!』
「おやおや。――……御主人様、どうなさいますか?」
『表層へ戻してやれ』
「承りました」
精神体で襲い掛かるゲルガルドに対して、ヴェルフェゴールは契約主の命令に従う。
そして襲い掛かるゲルガルドに躊躇なく逆撃を浴びせ、精神体の顔を右手で掴みながら精神世界の床へ叩きつけた。
『ブギィッ!!』
「貴方の魂、あまり綺麗ではありませんねぇ。……どうぞ、表層へ御帰り下さい」
『この……離せ――……チクショオォオオッ!!』
ヴェルフェゴールはゲルガルドの頭を掴んだまま、そのまま大きく振り被る。
すると凄まじい勢いでその場から吹き飛ばし、ゲルガルドの精神体を精神世界から弾き出した。
そして再び表層へ戻されたゲルガルドの精神は、創造神の殴打を顔面に浴びる。
それから幾度もゲルガルドは肉体に与えられ続ける痛みを味わいながら、創造神の狂気に晒され続けた。
こうして絶望に染まる創造神の暴虐によって、ゲルガルドは拷問と呼べる痛みに晒され続ける。
それから逃れられる術も失い、自らの目的も果たせないまま生き地獄を味わっていた。
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