虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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革命編 六章:創造神の権能

破壊の技術

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 神殿内で失われたはずの『マナの樹』を発見したアルトリアとウォーリスだったが、その途上にてある変化が見え始める。
 それは創造神オリジンの魂が肉体であるアルトリアに干渉し、記憶だけではなく意識に強く干渉しているという状況だった。

 ウォーリスはその状況を鑑みて、創造神オリジンがアルトリアの意識を乗っ取り肉体を得ようとしていると推測する。
 仮初アルトリアの肉体とはいえ、創造神オリジンが復活するかもしれない最悪の状況を避ける為に、ウォーリスはアルトリアの殺害を実行した。

 そしてアルトリアから抜き取った心臓に創造神オリジンの魂を封じ込め、創造神オリジンの肉体であるリエスティアと共に『鍵』として使う事を決める。
 創造神オリジンの『魂』と『肉体』を再び得たウォーリスは、『マナの樹』の根本を目指して独走を始めた。

 そうした内部なかの状況から、場面は外部そとに変わる。
 神殿の外周にて行われている戦闘において、その一箇所に視点は移った。

 それはウォーリス達が天界エデンに来た際、拠点としていた黒い塔。
 そこから出現する魔鋼マナメタルの黒い人形と、それ等を操る機械人間サイボーグアルフレッドが、武玄ブゲントモエ等を始めとした者達と戦っている場所だった。

「――……ぬぅっ!!」

「ハァッ!!」

 魔鋼マナメタル義体からだで戦うアルフレッドと、『仙人せいじん』として卓越した戦闘能力を持つ武玄ブゲン
 二人は互いの能力ちからを示しながら、互いに大きな損傷や負傷もないまま拮抗した戦闘状況を作り出していた。
 
 その周囲から狙うように押し寄せる黒い人形達に対して、トモエ本人と作り出した影分身が応戦し、武玄ブゲンの援護を行っている。
 更に元七大聖人セブンスワンであるシルエスカとバリス、更に魔人ゴズヴァールが数百体以上にまで増えた黒い人形達と戦い、場の状況を保たせていた。

 しかし三十分以上も続く戦闘は、生身を持つ者達に確実な疲弊を蓄積させている。

 人形の動きや性能自体は極めて単純であり、数で押し寄せても実力の有る聖人や魔人であれば退ける事は出来る。
 しかし魔鋼マナメタルの強度を上回る攻撃を与えられず、破壊できない黒い人形は未来と同じような脅威となっていた。

 それは機械の義体からだであるアルフレッドも同様であり、疲弊せず高性能な機能を駆使して戦う姿に何の変化も無い。
 対する武玄ブゲンは額に僅かながらも汗を浮かばせ、右手に持つ長刀を向けながら厳かな表情を浮かべていた。

「これは、埒が明かぬな……」

「……このまま戦い続けたとしても、私の勝利は揺るがない」

「!」

「お前達の疲弊を待ち、動きが鈍った瞬間すきに刺さばいい。……それまで、幾らでも付き合ってやろう」

 余裕を抱くアルフレッドは、そう告げながら再び両手と両腕を前方に突き出しながら身構える。
 そして両腕の射出口を開け放ち、そこから巨大な灼熱砲レーザーを放った。

「ッ!!」

 それを大きく右側へ跳び避ける武玄ブゲンだったが、相手の腕が追従するようにその動きを追う。
 すると武玄ブゲンの身に着けている左袖が焼け焦げ、その放射された余波ねつが左腕の肌を焼いた。
 
 更に灼熱砲レーザーを止めながら跳躍したアルフレッドは、武玄ブゲンに迫りながら右手の平に丸い球体を出現させる。
 そこから発生させた電撃を放ち、武玄ブゲンとその周辺へ降り注がせた。

 逃げ場を失くしながら電撃を浴びせるアルフレッドの攻めに対して、武玄ブゲンは自身に気力を纏わせた長刀でを逸らしながら打ち払う。
 しかし動けなくなった武玄ブゲンを狙うアルフレッドは、電撃を放つ右手とは逆の左手の平を広げて向けた。

「誇りを奪われて死ぬがいい、アズマの武士サムライ

「なにっ!?」

 そうした言葉を向けるアルフレッドの左手の平に、ある物が出現する。
 それは武玄ブゲンが掴み持っていたはずの長刀かたなであり、それがアルフレッドの左手に握り持たれた。

 逆に武玄ブゲンの右手からは長刀かたなが消失し、武器を持たない素手となる。
 迎撃や受け流しも出来なくなった状態に陥った武玄ブゲンに、再び電撃が直撃するように降り注いだ。

 しかし次の瞬間、投げ放たれた一つの小刀が雷撃を受け止めるように防ぐ。
 その僅かな時間に武玄ブゲンは大きく跳び退き、他の電撃を回避しながら態勢を整え直した。

 するとトモエの影分身が互いを踏み台にしながら跳躍し、複数体でアルフレッドを襲う。
 それを迎撃する為に電撃を解いたアルフレッドは掴んでいた長刀を放り投げ、左手の甲から魔鋼マナメタルの剣を出して迎撃を始めた。

 ひとまず難を逃れた武玄ブゲンの隣に、本体であるトモエ本人が立つ。
 二人は視線や顔こそ合わせなかったが、互いの現状を認識するように言葉を向け合った。

「どういう絡繰からくりだ?」

「恐らく、『転移』なる術でしょう」

異国そとの妖術か。しかし触れもせずに、儂の刀を奪うとは……」

「刀ではなく臓物を奪わぬということは、何かしらの制約とりきめがあるようですね。例えば、視認している無機物だけしか奪えぬとか」

「なるほど。しかしあの義体からだ、どれだけ斬撃を浴びせても硬くて斬れぬ。どうしたものか……」

「ならば奴の相手は、私が務めましょう」

「分かった。儂の刀を頼む」

「はい」

 機械人間サイボーグであるアルフレッドの性能ちからを確認していた二人は、互いに立ち位置を入れ替える事を伝える。
 するとアルフレッドに襲い掛かっていたトモエの分身体が落ちている武玄ブゲンの長刀を拾い、持ち主に返すように投げ放った。

 それを右手で難なく掴み取った武玄ブゲンは、周囲から襲い来る黒い人形達の相手を担う。
 逆に今まで影分身や援護に徹していた忍者シノビトモエが前に立ち、影分身に混ざりながらアルフレッドへ迫った。

「チッ」 

 襲って来る影分身を迎撃していたアルフレッドは、武玄ブゲンと話していた本体トモエが近付いて来るのを即座に察知する。
 そして周囲の影分身を退ける為に、右手を白い大地へ向けながら電撃を放った。

「!」

 魔鋼マナメタルで出来た白い大地の表層うえに、アルフレッドの電撃が一定の範囲まで拡散する。
 それにより気力オーラで形成されていたトモエの分身体は幾つか電撃を浴び、消失してしまう。

 それでもトモエ本人と数体の分身体達は大きく跳躍し、電撃を回避しながらそれぞれに懐に忍ばせていた苦無クナイを放った。

 しかし魔鋼マナメタルの義体であるアルフレッドに、ただ鉄で出来た苦無ナイフ程度で傷付きようが無い。
 その自信によって僅かな侮りを向けるアルフレッドは、電撃を蓄えた右手をトモエの本体に向けながら言い放った。

「そんな武器モノで、私が――……!」

 しかし侮っていたアルフレッドの表情に、僅かな驚きが浮かび上がる。
 苦無クナイの柄には紐と共に括り付けられた紙札が存在し、それと共に投げ放たれていたのだ。

 アルフレッドがそれ等を迎撃する間も無く、周囲に撒き放たれた紙札が突如として爆発を起こす。

 しかし紙札から発せられる爆発の衝撃程度では、アルフレッドの義体からだを傷付けられない。
 その自信を持つアルフレッドは揺るがぬ意思で回避しなかったが、爆発によって起きた黒い煙が周囲の視界を塞いだ。

「!」

 周囲を覆いながら降り注がれる黒煙に、アルフレッドの視界は極端なまでに狭まる。
 そしてトモエと影分身達の姿を見失いながら、右手の平を周囲に向けて電撃を放った。

 しかしその逆側を突くように、黒煙の中から忍者シノビ装束を纏ったトモエが姿を現す。
 そしてアルフレッドに対して気力を纏った小刀での攻撃を行おうとした。

 しかしそれを予測していたのか、アルフレッドは口元を微笑ませて左脚で蹴りを放つ。
 それに直撃し小刀を中空に舞わせたトモエに、アルフレッドは右手を向けながら言い放った。

「その程度の陽動は、予測済みだ」

 そう告げるアルフレッドは躊躇せずに右手の平から電撃を放ち、襲い掛かって来たトモエに浴びせる。
 常人であれば丸焦げになる程の強力な電撃を浴びたトモエは、黒い装束と共に消し炭に変えられた。

 しかし次の瞬間、油断したアルフレッドの義眼ひとみが大きく見開く。
 それは電撃を受けて丸焦げになったトモエの亡骸が、塵すらも残らずに消滅した瞬間だった。

 するとアルフレッドは事態を素早く察し、倒した相手が本体トモエではなく本物の小刀を持った影分身だと理解する。

「これは、分身――……ッ!!」

「――……人間とは、隙の多い生き物なのですよ」

 振り返ろうとしたアルフレッドに対して、その裏側からトモエの本体が忍び寄る。
 そして振り向けようとする相手アルフレッドの右腕を掴み、その膂力を逆に利用して足元を大きく払いながら身体を倒すと、右腕を極めながら右肘と右肩を大きく背中側に回した。。

 すると次の瞬間、アルフレッドの右肩と右腕が完全に逆方向へ決められる。
 更に自身の体重を利用して更に奥へ右腕を傾けたトモエは、アルフレッドの右肘と左肩の可動部分である内部の接合部を外してのけた。

「なに……ッ!?」

 アルフレッドは自らの右腕が破壊された事を瞬時に悟り、驚愕の思考に襲われる。
 そして今度は左脚に手を伸ばそうとしたトモエの動きを察知し、アルフレッドは義体からだの膂力を最大限に発揮しながら背中に乗る相手を振りほどいた。

 左脚の破壊を免れたアルフレッドだったが、その思考には困惑と動揺が秘かに渦巻く。
 魔鋼マナメタルという世界最高の硬度に包まれた義体の腕が破壊はずされたという事実は、アルフレッドにとって未知の体験だった。

 そんなアルフレッドに対して、再び影分身を作りながら態勢を整え直したトモエが告げる。

「何者にも傷付けられぬ義体からだ。さぞ便利だっただろう」

「!」

「だがその義体《からだ》、人間に似せ過ぎたな。……どの部位がどういう絡繰りで動いているか、よく分かる」

「……義体わたしの骨格を、見もせずに把握したというのか……」

「例えどれだけ強固な義体からだだとしても、思考なかみは人間。――……人間ひとを壊す為に研鑽する我々に、敵うはずも無し」

「……ッ!!」

 今まで武玄ブゲンとの戦闘からアルフレッドの義体構造を完全に把握したトモエは、硬い義体の可動領域こっかくに人体と似た隙間がある事を理解する。
 更にアルフレッドに対して有効なのが斬撃や殴打ではなく、人体破壊の技術わざである関節技を実行した。

 そしてトモエの試みは成功し、魔鋼マナメタルに覆われたアルフレッドの右肘と左肩を外す。
 組技からの関節技という得意技術を駆使した戦い方を魅せるトモエは、再び影分身達と共に懐から放った苦無と起爆札で周囲の光景を硝煙で覆った。

 それに対してアルフレッドは、再び左手の甲部分から魔鋼マナメタルの剣を出現させる。
 周囲の煙を吹き飛ばすように左腕を振るい、トモエが居た方角とは逆側に走り始めた。

「クッ!!」

「――……忍者わたしから逃げられると思うな」

「!!」

 凄まじい速さで煙の範囲外に出たアルフレッドだったが、その右側には既にトモエが並び発している事に声で気付く。
 そこで右腕が折られた為にその迎撃が僅かに遅れ、左足を軸とした右脚の蹴りでトモエを蹴り払おうとした。

「なっ!?」

 しかし蹴られたトモエもまた影分身の一体であり、その影に隠れた本体ほんにんが伸びきったアルフレッドの右脚を掴み取る。
 更にアルフレッドを支える左足を払いながら義体からだを倒すと、そのまま掴む右足を大きく伸び傾かせて付け根と膝の骨格に生じている接合部を外して見せた。

「グッ!!」

 右腕に続いて右脚も破壊はずされたアルフレッドは、左腕で自身の義体からだを跳ね上げながら左脚でトモエを攻撃する。
 それすらも容易く避けるトモエは、今度は左脚を掴み取りながら逆側へ曲げ伸ばした。

 するとアルフレッドの左脚に僅かな軋む音が響き、膝部分が逆方向に折れる。
 瞬く間に両足を破壊されたアルフレッドは、人工皮膚で驚愕の表情を浮かべながら唖然とした様子で呟いた。

「……馬鹿な……。……私の、完璧な義体からだが……」

「完璧なモノなど、この世に存在しませんよ」

 そうした言葉を呟きながら地面へ仰向けになるアルフレッドに対して、トモエは頭巾と仮面で隠れた顔から視線だけで見下ろす。
 魔鋼マナメタルで作られた強固で強力な義体《からだ》ながらも、人間と同じ動きを行える完璧な構造が人間と同じ弱点を生み出している事を、トモエは教えるように呟いた。

 こうして機械人間サイボーグアルフレッドとトモエの戦いは、圧倒的なまでの個人技によって勝敗が決する。
 しかし周囲の黒い人形達は止まらず、敵と認識している者達に対して攻撃を続けていた。
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