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革命編 六章:創造神の権能
留まれぬ意識
しおりを挟む『天界』に聳え立つ巨大な神殿の最奥に辿り着いたアルトリアとウォーリスは、その内部に広大な大自然が広がる光景を目にする。
その大自然の中に更に巨大な大樹が存在し、それが自分達の箱庭で消失した『マナの樹』である事を告げた。
しかし初めて見る光景にも関わらず、『マナの樹』を始めとした光景にアルトリアは今までと比較できない郷愁を感じ取る。
その感覚を否定するように首を左右に振ったアルトリアは、止めていた足を動かしながら歩き始めた。
一方で『マナの樹』が現存する事実に嬉々とした表情を浮かべていたウォーリスも、その後ろに付くように足を進める。
創造神の魂を持つアルトリアに再び案内させようと目論むウォーリスは、周囲の変化や異常な状況に備えて観察を始めた。
互いに言葉こそ交えず、ウォーリスからも行く先に関して命令は無い。
その理由は、互いに別々の思考から同じ場所を目指すべきを見定めていたからだった。
僅かに伸びた草原地帯を歩くアルトリアは、外と同じ白い魔鋼で築かれた遺跡らしき建築物を視認する。
その脇に存在する広めの通路を発見すると、何も言わずにその場所に向かった。
アルトリアは一言として何も喋らず、ただ周囲を見渡しながら困惑した表情を強め続けている。
動きこそ呪印で制限された状況の為に機敏とは言えなかったが、まるで見知った場所を通るような淀みの無い歩き方は、ウォーリスに更なる確信を与えていた。
「やはり彼女は、ここの構造を把握している。……問題は、ここにも何かしらの仕掛けが施されている可能性だが……」
「……」
「もし、その仕掛けを利用して私の排除を目論むようなら……。……場合によっては、先に始末も考えなければな」
創造神の魂と持ち前世の記憶すらも蘇ろうとしているアルトリアに対して、ウォーリスは強い警戒心を抱き始めている。
呪印を施され魔法を扱えなくなっているアルトリア自体の脅威は、ほとんど無いに等しい。
しかし創造神の記憶から権能《ちから》の使い方を思い出してしまえば、自身との立場は逆転してしまう事もある。
それを予期できるウォーリスは、殊更に肉体とアルトリアを再び接触させないように状況を窺う。
しかしアルトリア側はそんなウォーリスの様子など気にする素振りは無く、ただ動揺する表情を抑えて歩きながら周囲の光景を瞳で追っていた。
「……私は、ここを歩いた事がある……。……違う、私はここに来たのは初めてで……っ」
感覚的な郷愁によって周囲の景色に関して既視感を強めるアルトリアだったが、それを否定する為に自らの記憶を遡りながら自身の感覚を否定する。
しかしその否定も虚しく、アルトリアの足は自然とこの先に辿り着くまでの順路を歩んでいた。
そうして二人は整えられた順路を歩き、巨大な『マナの樹』が存在する方角へ歩みを進める。
すると数十分以上が経過した時点で、ウォーリスは周囲に見える自然に関して、大きな不自然さがある事に気付いた。
「……どういうことだ。これだけの自然が残っているにも関わらず、動物の鳴き声も……姿も見当たらない……。……いや、虫すらもいないのか……?」
植物が多く群生している森の中にも関わらず、植物以外の生命が存在していない事にウォーリスは気付く。
自然の植物を育てる為には、土や水、そして太陽の光以外にも様々な要素が必要となる。
それが他の生命であり、動物や虫も巨大な自然を作り出す為には必要な存在だった。
しかし『マナの樹』を中心とした神殿内部の巨大な森林には、動物や昆虫が一切存在していない。
それが不自然である事に気付いたウォーリスの言葉に対して、アルトリアは前を歩きながら虚ろな声を向けた。
「……聖域には、私しかいなかった」
「!」
「みんなが暮らして居たのは、神殿の外……。……私は、ここで皆の暮らしを見ていた……」
「……これは……」
「ここは、理の中心……。……この自然を育てているのは、この世界に生きる者達……。……そして、死んだ者達……」
「……やはり、彼女の意識ではない。まさか創造神の魂が干渉し、喋らせているのか?」
「……ッ!!」
無気力にに喋り聞かせるアルトリアの様子が普通ではない事に気付いたウォーリスは、それが創造神の意識が干渉している可能性に至る。
しかしその途中、意識を戻すように光が灯る青い瞳に戻ったアルトリアは、右手で右顔半分を覆いながら苦々しい声を漏らした。
「何なのよ……これ……っ!!」
「創造神の魂が活性化し、肉体の意識を乗っ取ろうとしているのか……。……だとすれば……」
徐々に創造神の魂がアルトリアへの干渉を強くしている事に気付いたウォーリスは、その思考にある可能性を浮かび上がらせる。
それはウォーリスが考える最悪の場合であり、アルトリアの反抗する事など比較できない事態だった。
ウォーリスは鋭い視線と厳しい表情を見せ、左腕に抱えたリエスティアの身体をその場に置く。
それに気付いたアルトリアは、困惑した表情を浮かべたまま後ろを振り向いた。
「……?」
「アルトリア嬢。ここまでの案内、御苦労だったな」
「っ!!」
「今の君は、どうやら私が考え得る最悪の状況にあるらしい。……それは出来る限り、避けておきたいのでね」
「私を、殺す気……!?」
「肉体だけ、だがね。例え創造神だろうと、肉体と切り離され魂だけとなってしまえば、流石に干渉はできまい」
「……ッ!!」
一切の躊躇を見せないウォーリスは、右手でアルトリアの胸部を突き狙う。
呪印の拘束と衰弱した肉体ではウォーリスの攻撃を避けられるはずもなく、成す術も無いままアルトリアは胸を貫かれた。
それと同時に貫いた胸部から右手を引き抜きながら、アルトリアの心臓を切除するように抜き取る。
強張らせた表情のアルトリアは、青い瞳には自身の心臓を映し見ながら膝を傾けて地面に着けた。
「……ぁ……っ」
「短い間だったが、これで御別れだ」
「……」
アルトリアは上体を傾けながら地面へ横たわると、胸から溢れ出る血と共に瞳の生気を薄れさせる。
それを見下ろすウォーリスは、抜き取った心臓を生命力で纏わせながら、その内部に捕獲した創造神の魂を封じた。
「魂は劣化していくが、心臓に留めるだけでも『鍵』としては十分に保てるだろう。……さぁ、行くぞウォーリス。我が息子よ」
そう呟きながらその場に置いていたリエスティアを左腕で抱え直すウォーリスは、アルトリアの死体を置いてそのまま歩き出す。
心臓と共に魂を抜き取られたアルトリアの肉体に刻まれていた呪印が消え、流血と共にその温もりを失い始めた。
その後、ウォーリスの背後にはアルトリアの死体は見えなくなり、今まで緩やかだった歩行速度が急激に速まる。
右手には抜き取ったアルトリアの心臓を持ち、左腕にはリエスティアの肉体を抱えるウォーリスは、『マナの樹』に向けて余裕の表情を浮かべて走り始めた。
こうして創造神の魂を抜き取られた肉体は放置され、ウォーリスは権能を得る為に『マナの樹』を目指す。
そんな状況が内部で起きていると分からない神殿の外部では、各々の勢力が激闘を繰り広げられていた。
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