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革命編 六章:創造神の権能

悪魔の進化

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 創造神オリジン権能ちからを得る為に神殿の最奥へ向かったウォーリスは、その後背せなかを任された悪魔騎士デーモンナイトザルツヘルムに任せる。
 そしてザルツヘルムは追い付いたマギルスと再戦するも、魔鋼マナメタルで作られた装備ふくによって苦戦を強いられた。

 更にエリクやケイルを始めとした強者の気配が近付くのを感じ、苦境に立たされながらある決断を行う。
 それは自身に身体に組み込まれた赤いコアを破壊し、その内部から溢れる憎悪の魂と瘴気の依り代となることで、敵勢力マギルスたちほふるという強硬手段だった。

 巨大な瘴気の怪物へ変化したザルツヘルムに対して、マギルスとエリク、そしてケイルは立ち向かうように各々の武器を握り構える。
 そして大階段を這い上がるザルツヘルムの巨大な瘴気の手が迫り、エリクがそれを払おうと気力斬撃を放とうとした。

「俺が――……」

「アタシがやるっ!!」

 黒い大剣を振ろうとしたエリクに対して、それを抑えるようにケイルが横から踏み出す。
 そして迫る瘴気に塗れた巨大な手に対して、居合の構えから自身の技を繰り出した。

当理流とおりりゅう、月の型――……『弦月げんけつ』ッ!!」

「!!」

 ケイルが踏み込みながら腰を切って身体を捻ると同時に、長刀を鞘から引き抜く。
 その加速による抜刀と同時に、ケイルも身に着けている新たな装備ふくが呼応して僅かに膨らむと、巨大な気力斬撃ブレードが放たれた。

 今までエリクが見せていた気力斬撃ブレードと大差が無いケイルの気力斬撃こうげきは、迫る巨大な手に食い込む。
 そして手の部分を消滅させながら肘辺りまで真っ二つに切り裂き、見事に退しりぞけて見せた。

 それに驚くエリクとは別に、ケイルも自身が放った気力斬撃ブレードの威力と大きさを信じ難い様子で呟く。

「この威力は……アタシの気力オーラだけじゃない。この装備ふくで、気力オーラまで増幅されてんのか……!?」

「ケイル!」

「……エリク、お前はがってろ。アタシとマギルスでる」

「いや、俺も……」

「お前が戦うと、寿命を減るだろうが――……っ!!」

「!」

 『制約』によって自らの寿命いのちを代価に戦うエリクを止める為に、ケイルは怒鳴りながら止める。
 しかし瞬く間に斬り飛ばされた瘴気の右腕を再修復したザルツヘルムは、更に膨れ上がる巨体で三名が居る大階段をよじ登り始めた。

 それを確認したエリクとケイルは、互いに這い上がって来るザルツヘルムに構えを向ける。
 しかしその合間をすり抜けるように、上段うえからマギルスが跳び越えて降りて始めた。

「マギルス!」

「最初にってたのは僕なんだから、最後まで僕がるよ!」

「こんな馬鹿デカい奴相手に、一人じゃ無茶だぜっ!?」

「大丈夫! ――……今度こそ邪魔されずに、僕達の戦いを決着させないとねっ!!」 

『ウヴォオオオオオッ!!』

 瘴気の怪物と化したザルツヘルムに対して、マギルスはそう微笑みながら大きく跳躍する。
 それに呼応するように瘴気で形成された両手を伸ばすザルツヘルムは、マギルスを握り潰そうとした。

 しかし口元のニヤけさせたマギルスが、自身の左手で胸の中心を掴み握る。
 そして握る左手を捻りながら青い魔力を心臓部分に帯びさせると、マギルスは今まで見せていなかった形態すがたを明かした。

「――……『精命武装アルマウェポン:巨人形態《ギガントフォルム》』ッ!!」

「!?」

「ッ!!」

 マギルスがそう叫ぶと同時に、青い魔力と生命力の白い輝きが交わるように周囲を包む。
 するとマギルスの身体を中心にそれ等の光が纏い始め、半透明の巨大な肉体を形成し始めた。

 その大きさはマギルスの身長を大きく上回り、二十メートル前後まで膨れ上がる。
 更に半透明の肉体には首無騎士デュラハンの鎧も纏い始め、右手には魔力と生命力で投影された巨大な大鎌まで形成した。

『――……そっちも変身そうするならっ!!』

『ヴォォオアアッ!!』

『僕の、変身だぁっ!!』

 まるで巨人族ジャイアントを思い起こさせる巨体を魔力と生命力で作り出したマギルスは、巨大な大鎌を振り回して迫る瘴気の手を切り裂く。
 その大鎌から放たれる衝撃と威力は瘴気すらも微塵も残さず消滅させ、マギルスの形成した巨体を落下させながら、迫る怪物の脳天へと大鎌を振り下ろした。

 しかし次の瞬間、怪物ザルツヘルム側にも新たな異変が起こる。
 それは赤黒い瘴気が瞬く間に黒の色合いを強め、それが巨大な大鎌の刃を受け止めながら弾き飛ばした。

 そして大鎌と巨体ごと弾かれたマギルスは、大階段側へ着地しながら驚きを浮かべる。

『うぇっ!?』

『――……すまないな。少年』

『!』

『全てを制御するのに時間が掛けて、醜態を見せてしまったようだ』

『うわっ、マジかぁ』

「あの化物、喋ってやがる……!?」

「……嫌な感覚が、さっきより強まった……ッ」 

 突如として黒く染まりながら鎮静化した怪物の中から、落ち着いた声が響き渡る。
 それを聞いたマギルスは状況を察するように苦笑いを浮かべ、ケイルやエリクは状況が悪化し始めているのを感覚で察した。

 そして肥大化を続けていた怪物の瘴気が、瞬く間に収縮しながら一箇所へ集まっていく。
 その中心地に人の姿を模した瘴気が集まり終えると、そこには再び一人の悪魔ザルツヘルムが立っていた。

 しかしその存在感は、対峙する三名に悪寒を走らせる。

 悪魔の背格好はザルツヘルムに似ながらも、顔立ちは二十代に見える程に若々しく変化していた。
 更に額と頭部に合計で五本の角が生え、背中には悪魔の翼と思しき四枚の羽が生えている。
 更に上半身は裸体ながらも、獣染みた黒い毛に覆われた下半身と両腕は、今まで見せていたザルツヘルムの姿とは大きく異なっていたのだ。

 その形態が今までとは更に異質な姿である事を理解しているマギルスは、頬に一つの汗を流しながら口元を微笑ませる。

『おじさん、何やったのさ?』

「……私の肉体には、あるものが植え付けられていた。それには今まで回収されていた数百万という魂と、そこから溢れ生まれる瘴気が蓄えられていたのだ」

『!』

「私は悪魔このからだとなってから、そこから少しずつ力を吸い上げて使用し、高い再生能力と多くの命を蓄えられていたわけだが。……今の君達を相手に、出し渋るのは愚策だと理解した」

『……!!』

「君達がその装備ふくの恩恵を得たように、私も恩恵を得るとしよう。――……数百万人の瘴気と、憎悪に満ちた魂という暴力ちからでね」

『え――……ガハっ!!』

 そう言い放った次の瞬間、ザルツヘルムはその場から姿を消す。
 瞬きもしないままザルツヘルムを見失ったマギルスは、巨人形態ギガントフォルムのまま周囲を視線で追った。

 しかし次の瞬間、凄まじい衝撃がマギルスを襲う。

 消えたように見えたザルツヘルムはマギルスを包み込む巨人形態ギガントフォルムの前に現れ、ただ胸部むねを殴打で撃ち抜かれた。
 その威力と衝撃波は胸の内部に居たマギルスに届くように響き、大きく口を開けさせながら赤い血を吐き出させる。

 大階段の上段うえまで吹き飛ばされた巨人形態ギガントフォルムのマギルスに対して、そこに居たエリクとケイルは大きく飛び避けながら回避する。
 辛うじて巻き込まれずに済んだ二人だったが、すぐに後ろを向いて確認した時には、巨人形態ギガントフォルムが解けているマギルスが意識も無くうつ伏せになっている様子が見えた。

「マギルスッ!!」

 魔鋼マナメタルの装備を身に着け、大量の魔力と生命力で形成されていた巨人形態ギガントフォルムで覆われていたマギルス。
 それがただの一撃で重傷を負わされるという事態は、少なからずマギルスの実力を知るエリクを動揺させた。

 しかもエリクの動揺が治まらず気を僅かに逸らしたエリクの背後に、ザルツヘルムの黒い姿が見える。
 それが悪寒としてエリクの身体を震撼させると、死を予感させるようなザルツヘルムの黒い拳が放たれた。

「グゥッ!!」 

「フッ」

 エリクは咄嗟に悪寒が走る背後に大剣を振り翳し、ザルツヘルムの黒い拳を迎撃する。
 しかし装備ふくによって強化された腕力を上回るザルツヘルムの剛腕が、直撃した大剣ごとエリクを吹き飛ばした。

「ぐぉ……っ!!」

 吹き飛ばされたエリクは、マギルスと同様に大階段へ激突する。
 叩きつけられた衝撃と傷みでエリクは短く悶絶すると、その隙を逃さぬようにザルツヘルムが右手を手刀に変えながら飛び掛かろうとした。

 しかし次の瞬間、迫ろうとするザルツヘルムの上段うえから一閃が走る。
 それを察知し身体を引かせながら下段したに飛び下がったザルツヘルムは、一閃を放った人物と向かい合った。

 そして庇われる形で目の前に立った人物を見て、エリクは苦々しい声を浮かべる。

「ケイル……!」

「二人共、少し休んでろ。――……それまで、時間稼ぎはしてやる」

 悪魔として更なる進化を遂げたザルツヘルムを前にしたケイルは、倒れながら悶えるエリクとマギルスにそう伝える。
 そして自らが会得した『かすみの極意』を用いながら、無意識の境地へ至りながら立ち構えた。

 目の前に居ながら気配が薄れていくケイルに、ザルツヘルムは僅かに眉を顰める。
 しかしそれを意に介さぬように、自身も瘴気の長剣を右手に生み出しながら言葉を口にした。

「その髪、その肌。……皇国の南方に居た、ルクソードの血を引く部族か」

「!」

「話には聞いていたが、本当に生き残りが居たとは。……それは不運なのか、幸運だったのか。分からないものだ」

 嘲笑染みた言葉と笑みを浮かべるザルツヘルムに対して、かすみかけていたケイルの表情が強張る。
 しかし昂りそうな己の精神を沈めつつ、ケイルは鋭い眼光を向けながら口を開いた。

「……捕まった一族を、どうした?」

「ルクソードの血を継ぐ素体にんげんを用いる為の、ゲルガルド伯爵家に運ばれて実験に使用された。合成魔人キメラの実験にも使われたと聞いている」

「……」

「その実験を皇国で引き継いだのが、ランヴァルディアだった。……あの一族で生き残っているのは、お前だけだ」

「……そうかよ。……テメェ等だけは、絶対に許さねぇ」

 自身の一族について改めて結末を知らされたケイルは、無意識の境地に至りながら揺らぎの無い怒りを向ける。
 それと同時に踏み込んだケイルはかすむような動きを行い、一瞬の内にザルツヘルムに迫った。

 エリクでさえ捉えるのが難しいケイルの動きに対して、ザルツヘルムはそれを凌駕する反射神経で対応する。
 迫るケイルの長刀を瘴気の剣で受け止め、逆に弾きながら攻めるように瘴気の剣を縦横無尽に幾度も放った。

 しかし凄まじい速さと威力で放たれる瘴気|《ザルツヘルム》の剣を、ケイルは避けると同時に受け流しながら逆撃を行う。
 未来では悪魔化したアリアに一方的に蹂躙されるしかなかったケイルだったが、装備ふく効力ちからと『かすみの極意』によって自身の身体能力を限界まで引き出す事に成功していた。

 こうして悪魔として更なる進化を見せたザルツヘルムに対して、『赤』の七大聖人セブンスワンとなったケイルが見事な接戦を繰り広げる。
 その傍らでマギルスとエリクは魔力と生命力オーラで負った傷を自己治癒しながら、ザルツヘルムを倒す為に起き上がろうとしていた。
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