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革命編 六章:創造神の権能
覚悟の証明
しおりを挟む『天界』に存在する巨大な白い神殿の前まで辿り着いたウォーリスは、創造神の生まれ変わりであるアルトリアとリエスティアを『鍵』として用いて巨大な扉を開く。
しかし自分達の後背に追い付こうとしたマギルスの接近に気付き、側近の一人である悪魔騎士ザルツヘルムにその迎撃を任せ、自身は神殿の最奥を目指した。
そして同盟都市の時から二日ほどの時間を経て、マギルスとザルツヘルムは再び戦闘を開始する。
しかし魔鋼の装備を得たマギルスは、以前より上回る能力を得ながら悪魔化しているザルツヘルムを圧倒し始めた。
「――……はぁあっ!!」
「グッ!!」
自身の魔力で身体能力を強化し、更に身に着けている装備が僅かに膨らみを帯びたマギルスは、大鎌を真横に振りながら凄まじい加速を見せる。
そして下級悪魔の肉体で形成された大盾を構えるザルツヘルムに衝突するように大鎌を振り当て、激しい衝撃を与えた。
成長中ながらもまだ青年としては小柄なマギルスだったが、その倍程の鎧と大盾を身に着けたザルツヘルムが逆に吹き飛ばされる。
しかし今度は大きく飛ばされず、立っていた位置から数十ほど下の階段まで落下させられる程度に被害を留めた。
それでも上段を確保されたザルツヘルムは、圧倒的な不利な状況に追い込まれている。
周囲には影となる障害物も無く、神殿周辺の影響によって飛翔すらも封じられてしまっており、装備を活用し有利を保つマギルスに対して攻めあぐねた様子が窺えた。
その状況に関して、ザルツヘルムは甲冑で隠れた口から愚痴にも似た言葉を呟く。
「……環境や装備の影響もあるだろうが、まさか数日でここまで見違えるとは……。……私の動きを、正確に捉えている……」
同盟都市の戦いから更に急激な成長が窺えるマギルスに、ザルツヘルムは感嘆とした声を漏らす。
暗闇に囲まれていた同盟都市は、悪魔であるザルツヘルムに『闇』という味方を付けていた。
そして悪魔化し大量の命を貯蓄し、強力な再生能力を有するザルツヘルムの脅威は、ウォーリスに継ぐ脅威として認識されるのは正しい。
しかし天界という環境において、ザルツヘルムの助けとなる要素は大きく欠けている。
影が生み出され難い構造物と、昼間のような明るい空。
そして魔力を含む一定の能力を封じる周囲の環境は、ザルツヘルムに不利な状況を強いらせている状況だった。
「……むっ」
それを否応なく自覚されられているザルツヘルムの意識に、更なる警戒が発生する。
正面に立つマギルスとは別に、後背から迫って来る強い気配を感じたのだ。
それがエリクとケイルである事を確認していないザルツヘルムだったが、少なくともそれが味方や人形達ではない事を察する。
前後を挟まれながら不利な状況での戦いを強いられたザルツヘルムは、甲冑越しに覗き見える瞳を細めながら苦々しく呟いた。
「……この手段だけは、使いたくは無かったが……。……仕方ない」
「!?」
ザルツヘルムは自らの鎧や武具と変質させている下級悪魔達を解除し、それ等を己の肉体に戻す。
そして鎧の無い悪魔の姿を晒しながら、マギルスを見上げて告げた。
「マギルス。騎士として君と戦えたことを、光栄に思う。……だが、ここからは『騎士』ではなく、君達の『敵』として相対させてもらおう」
「……何する気さ?」
「さらばだ、少年」
「あっ!」
奇妙な言葉を言い残すザルツヘルムは、突如として自ら大階段の外周へ走り出す。
そして自ら外周に駆け跳び、巨大な階段から飛び降りた。
マギルスはそれを見て大階段の縁から見下ろし、ザルツヘルムが数百メートル以上の真下まで落下していく光景を見下ろす。
その時に下から登って来ていたケイルとエリクが、階段を駆け上りながらマギルスに呼び掛けた。
「――……マギルスっ!!」
「あっ、ケイルお姉さん! エリクおじさんも!」
ケイルの呼び掛けにマギルスは反応し、マギルスは二人の方へ視線を向け直す。
すると二人はザルツヘルムが落ちた階段の外周へ意識を向けると、ケイルから問い掛けた。
「敵、倒したのか?」
「ううん。自分で落ちて行っちゃった」
「落ちたって……逃げたってことか?」
「多分、違うと思うよ。……アレは、逃げた顔じゃない」
「……!」
ケイルの推測に対して、マギルスは再び外周を見下ろしながらザルツヘルムが逃走した可能性を否定する。
その言葉を聞いたケイルとエリクは、マギルスの勘を信じながら警戒を緩めずにいた。
そしてその勘が正しかった事を証明するように、落下していくザルツヘルムに変化が生じる。
落下中のザルツヘルムは自身の胸に右手を突き刺し、何かを引き摺り出す。
それは未来の戦いでエリク達が破壊した赤い核《コア》を小さくした物体であり、そこ結晶体の中には無数に蠢く瘴気と夥しい数の魂が封じられていた。
右手に掴み持つ小さな核を握り締めたザルツヘルムは、落下しながら身を翻す。
そして落下する勢いに身を任せながら右腕を振り翳し、魔鋼で形成された白い大地に赤い核を叩きつけた。
すると次の瞬間、赤い核に亀裂が生じ始める。
その内部からは赤黒い瘴気とそれに染まった魂達の怨嗟が響き始めた。
「……さぁ、憎悪に染まった魂達よ。我が身を依り代とし、生者を全て飲み込め」
『――……オォオオオオオオオオッ!!』
そして次の瞬間、赤い核から漏れ出る瘴気と憎悪の魂達がザルツヘルムを飲み込むように覆い始める。
それを受け入れるザルツヘルムは赤黒い瘴気に身を包まれ、神殿の周囲にもその影響が及び始めた。
すると溢れ出る瘴気を感知したエリクとマギルスは、思わず下側に視線と意識を向ける。
ケイルも不穏過ぎる異様な気配が下に広がっているのに気付き、神妙な面持ちと言葉を浮かべた。
「な、なんだ……こりゃ……!?」
「……あの核だ」
「えっ」
「俺達が未来で破壊した、あの赤い核。……それと同じ嫌な感覚が、下に広がっている……!!」
「……まさか、野郎……!!」
「この大地は魔鋼で出来ている。……もし奴が同じ核を持っていて……それを魔鋼に当てて壊す為に落ちたとしたら……ッ!!」
未来で赤い核を破壊した事のある三人は、それが内包していた瘴気と下に広がる嫌な感覚が似たモノである事を察する。
しかしその確証を得る暇も無いまま、悪魔化しているザルツヘルムを依り代にして取り込んだ赤い核は、異様な状況を見せ始めた。
赤黒い瘴気に包まれたザルツヘルムの肉体は、徐々に膨張し始めながら巨大化していく。
そして手足と思しき姿を溢れ出て来る瘴気が形成し始めたが、やがて人外の形状となって異形の姿を晒し始めた。
すると大階段の下側を見ていたマギルス、そしてエリクやケイルにも下で起きた変化が視認でき始める。
その変化は、溢れ出る瘴気によって形成され始めた化物が出現している事を認識させた。
「……なに、あれっ!?」
「……帝都を襲っていた、合成魔獣に似ている……。確か奴等も、肉体が瘴気でドロドロに覆われていた……!」
「じゃあ、まさか……!?」
「奴は集めていた死者の魂と瘴気を、取り込んだ。……俺達全員を、倒す為に」
「!!」
エリクは死者達の怨念と瘴気を取り込んだ赤い核が齎すだろう効果を本能的に察知し、それを言語化しながら敵の目論見を読み解く。
その直感は正確である事を徐々に証明するように、ザルツヘルムは二百メートルを超えるだろう瘴気に覆われた化物へと姿を変え始めていた。
そして大階段の下側を肉体を覆う瘴気で飲み込める程まで巨大化した異形の怪物は、更に膨張を続けながら上側を見上げる。
その視界にはマギルスと共に立つエリクとケイルの姿が見え、意識を保っているかも分からない怪物は口を形成し吠えながら赤黒い瘴気を撒き散らした。
『――……ウヴォォオオオオオッ!!』
「うわっ、こっち見たよっ!!」
「来るぞっ!!」
「クソッ、またこんな化物の相手かよっ!!」
瘴気の怪物は形成した四つ足で巨体を運ばせ、大階段を飲み込むようにしながら這い上がって来る。
それに対して各々に武器を構えるエリクとマギルス、そして嫌悪を見せるケイルは、巨大な瘴気に取り込まれたザルツヘルムと相対した。。
こうして圧倒するかに思えたザルツヘルムとの戦いは、思いもよらぬ手段によって覆《くつが》す。
それはザルツヘルム自身が『騎士』の矜持を捨て、ただ怪物となって『敵』を排除するという覚悟の証明でもあった。
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