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革命編 五章:決戦の大地

贈り物

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 『天界』へ向かうウォーリス達を追うエリク達は、箱舟ノアで月食の通路みちを進み続ける。
 その間の休養から目覚めたエリクは、自分が知った情報をマギルスにも伝えた。

 しかしウォーリスと対等に戦えるエリクの装備が破損している状況に、二人は悩む様子を浮かべる。
 そこに現れた『青』から二人の武装を協力者が用意していたと聞き、それぞれに別の思考を浮かべながら付いて行った。

 そして辿り着いた部屋は、広大な貨物室に近い一室。
 そこにある通路を通る『青』に追従する二人は、薄暗い貨物室に置かれている物体に視線を向けた。

「――……アレは……」

「うわっ、魔導人形ゴーレムだ。……あれ、でも未来で見た事ないかたちのだ?」

 エリク達が見たのは、敷き詰められるように座らせられている見覚えの無いタイプ魔導人形ゴーレム達。
 それを注視しながら歩くエリク達に、『青』は説明するように教えた。

「アレは、我々が開発した新型だ」

「新型……。……他のものより強いのか?」

「我々が現状で用意できる魔導人形ゴーレムの中では、最高の技術と言ってもいい」

「アレも、ウォーリス達の討伐に使うんだな」

「敵は寡兵かへいながらも、一人一人が強大な持つ。それを討つお主達を援護サポートできるよう、出来る限りの機能を取り付けた」

 説明する『青』の言葉に、エリクは微妙な面持ちを浮かべながら貨物室の魔導人形ゴーレムを見る。
 
 魔導人形ゴーレムは座らされている状態ながらも、人型を模した全長二メートル程の体格。
 胴体部分を始めとした両腕や両足は銀色で分厚い劣化輝鋼ミスリルの装甲で覆われており、エリクの目では鈍重そうな魔導人形ゴーレムという印象を抱いた。

 そんなエリクを他所に、マギルスは軽く体を揺らしながら『青』に問い掛ける。

「へー。コレ、『青』のおじさんが造ったの? それとも、協力者って人?」

「合作、と言えばいいだろうな」

「へー」

「未来で造られていた魔導人形ゴーレムは、それぞれの状況に特化する為の機体構造、言わば局地戦に長けた型ばかりだった。それを彼奴アルトリアが私の設計図から模倣し、そのまま利用していただけだからな」

「じゃあ、本当に新型なんだ。どんな機能ちからがあるの?」

「両手の指先から魔弾を放ち、自身を中心に半径五メートル程の結界を作り出せる。そして背や足には飛翔機構ホバーユニットも積載し、僅かだが飛行も可能だ。そして胴体部分からは、小型の魔導砲撃を放てる仕様になっている」

「ふーん。今までの魔導人形ゴーレムから良いとこ取りしたって感じだね」

「故に汎用性は高いが、扱いが難しい。この機体だけは自律行動オートで制御しようとすると、対応が難しくなる。だから最低でも、補助サポートしながら操縦コントロールできる術者が必要だ」

「じゃあ、『青』のおじさんがコレを操るの?」

「いいや、それはテクラノスに任せている」

「テクラノスお爺さんが?」

「奴の特技でな。我がもとで魔導の知識を得ていた際、奴は魔導人形ゴーレムを使った複数の構築式を積み上げ、ある程度まで自律行動オートで動かせる魔導人形ゴーレムを作成した事がある」

「えっ。じゃあ、魔導人形ゴーレムが自分で動けてるのって……テクラノスお爺さんの技術なの?」

「そうだ。……そうした類稀なる才能センスを、我は買っていたのだがな。……しかし更なる先を目指そうとし、触れてはならぬ禁忌へ奴を迷い込ませてしまった」

「禁忌?」

「自らの意思を持ち、命を生み出す魔導人形ゴーレム。それが奴の目的とする、最終的な到達点だったのだ」

「……それって、僕等みたいに生きてる魔導人形ゴーレムってこと?」

「そうだ。しかしそれは、魔導の道において我が禁忌と定めたモノの一つでもあった。更にそれを成す為に別の禁忌へ触れようとし、故に我はテクラノスの目的を正そうとしたが、反抗した為に破門させた」

「どうして、生きてる魔導人形ゴーレムを作っちゃ駄目なの?」

「かつての人間達が同じような物を作り、文明を滅ぼした事があるからだ」

「!」

「生命の根幹にあるのは、生存の為に必要とする闘争だ。自分より弱い者を喰らい、自分を上回る強者に喰われる。その食物連鎖の成り立ちで生きようとした魔導人形ゴーレムもまた、闘争を求める生命となったのだ」 

「……よく分かんないけど、生きた魔導人形ゴーレムが人間を滅ぼした事があるから、作っちゃ駄目って事にしてたんだ?」

「そうだ。……お前達も、あの未来で視たのであろう? 魔導人形ゴーレムが人々を蹂躙する光景を。アレと同じ事が、古い時代にも行われたのだ」

「うーん、それなら禁止するのも納得かな?」

「お前のように、テクラノスも物分かりが良いと良かったのだがな。――……ここだ」

 雑談を交えながら歩き続けていた三人の中で、『青』は動きを止めて部屋の扉前に立つ。
 すると横の壁に備わっている操作盤に触れると扉が開き、『青』は臆する事もなく部屋の中に入った。

 それを追うように二人の部屋に入り、薄暗い部屋の中で周囲を見渡す。
 すると『青』は室内の壁に設けられた操作盤を扱い、部屋の中を明るくしながら入り口とは別方向の壁に視線を向けた。

「これが、お前達の為に用意された装備だ」

「……!」

「うわっ、すご……!」

 『青』は右手に触れている操作盤を再び使うと、何も無かった小部屋の壁が開かれるような扉となる。
 そして開かれる壁が壁の内部に収納されていくと、その部屋の奥に設けられたもう一つの部屋が現れた。

 そこには三原色の色合いを持つ衣服が透明な強化硝子ガラスの先に飾られ、それ等の近くにはそれぞれの武装と思しき物も置かれている。
 それ等を収納している機構つくりにも驚かされた二人だったが、その置かれた武装に興味を抱きながら足を揃えて歩み寄った。

「……これが俺の、新しい装備ふくか」

「なんか、クロエから持った装備に似てるね!」

「ああ。……こっちの赤い装備ふくは、ケイルのか?」

「そうじゃない? あれ、でも……」

「……赤い服が、二つもあるな」

「シルエスカお姉さんのかな? ……でも、ちょっと大きめ?」

 エリクとマギルスは強化硝子ガラスの先にある自身の色合いを模した装備ふくを確認し、それが自分の為に用意された物だと確信する。
 しかしその隣に置かれた装備の内、壁際に飾られている四つ目の赤い装備ふくを見た。

 その装備ふくはケイルやシルエスカの体格よりも大きめに作られており、それが二人の装備ふくでは無い事をエリク達は察する。
 そして振り向きながら視線を向けると、そこに立ちながら小さな鼻息を漏らす『青』は四つ目の装備ふくについて答えた。

「それは、もう一人の『赤』の血族に用意した装備ものらしい」

「もう一人……。……まさか、あの男か」

「あー、そういえば居たね。すっごい強い赤髪のお兄さん! もしかして、あのお兄さんも箱舟ここに乗ってるの?」

 『青』の答えを聞いたエリクとマギルスは、同盟都市の戦いで出会った赤髪の男ユグナリスを思い出す。
 その消息が不明になっている事を思い出したマギルスは、エアハルトと同じように箱舟ここに回収されているのではないかと考え尋ねた。

 すると『青』はそれを否定するように首を横に振り、こう答える。

「あの男は回収できていない。本来はお前達と同じように我が回収する予定だったが、お前達が戦っていた同盟都市ばしょで行方知れずになっている」

「そうなの? それじゃあ、どっかで埋もれてるか、死んじゃってるのかな」

「……確かあの男は、ウォーリスに胸を貫かれていた。常人ふつうなら死んでいるはずだ」

「そっか。じゃあ、こっちの装備ふくは無駄になっちゃったんだ」

 赤髪の男ユグナリスの消息について話す中で、消息不明になる前にウォーリスと対峙する姿を見ていたエリクがその最後を証言する。
 するとマギルスは特に感慨も無くユグナリスが死んだことを受け入れ、自らの新たな装備ふくに興味を注ぎ直した。

 エリクもまたそれ以上は赤髪の男ユグナリスの事について言及せず、開けられた強化硝子ガラスの中に飾られている自身の装備を手に取る。
 そして二人はボロボロになってしまった装備を脱ぎ捨て、『青』の協力者が用意した新たな装備を身に着けた。

「――……ちょっと大きい感じだけど、着心地は良いね!」

「……ああ、そうだな」

 二人は互いの特徴を捉えた色の装備ふくを身に着け、その着心地と動き易さを確認する。

 装備の着心地に違和感を感じず、自然と肌に張り付き一体となるような感覚に奇妙な安心感を抱く。
 その思いを共通させる二人の中で、マギルスが着替え終わるのを待っていた『青』に問い掛けた。

「ねぇねぇ、この装備ふくって頑丈かな?」

「頑丈だな。何せ、全て魔鋼マナメタルを素材として使っているからな」

「えっ」

 装備の耐久力を尋ねたマギルスに対して、『青』は装備の素材が魔鋼マナメタルで出来ている事を明かす。
 それに驚きを浮かべるマギルスに対して、エリクも興味を抱くように問い掛けた。

「胸当てや籠手はともかく、この布も俺の大剣けんと同じ魔鋼そざいだと?」

魔鋼マナメタルは仕組みさえ把握しておれば、どのような形状にも出来る。あの飛行する遺跡は勿論、人が身に着けられる武具にもなる」

「……魔鋼マナメタルの装備か」

魔鋼マナメタルの耐久力も、お主等が一番よく知っているだろう。内部なかはともかく、その装備を傷付けられる者はそういない。……ただし、到達者エンドレスは別だがな」

「!」

ウォーリスもまた、こちらと同じように魔鋼マナメタルの武具を扱う。せめて装備だけでも同等にしなければ、それだけで敵におくれを取るのは目に見えているからな」

「……確かに、そうだな」

 そう述べる『青』の言葉にエリクは納得し、魔鋼マナメタルの装備がこの戦いの助けになる可能性を感じる。
 同じくそれを聞いていたマギルスも納得を浮かべ、与えられた武具の性能が確かなモノだと確信しながら微笑みを浮かべた。

 そして『青』は二人に背を向けながら、再び扉側へ移動して話し掛ける。

「では、お前達の装備について性能を教えておこう」

「性能?」

「お前達には、この戦いで主軸となってもらわねばならん。そのお前達が自分の装備すら扱えずに敗北しては、せっかく用意された装備も意味が無い」

「……分かった。教えてくれ」

「ねぇねぇ、これって空飛べるようになるの?」

「それも含めて教えてやる。さぁ、貨物室に来なさい」

「はーい!」

 身に着けた装備の性能について改めて教示する事を伝えた『青』に、二人は付いて行きながら広い貨物室の空間に戻る。
 そして装備の性能について詳しく話す『青』の説明を聞きながら、『天界』までの到着時間にそれ等を使いこなせるように試行錯誤をし始めた。

 こうして用意された魔鋼マナメタルの装備を身に着けたエリク達は、確かな心強さを得る。
 そしてこれ等の装備を用意してくれた協力者アリアの想いを感じるエリクは、再びアリアを死なせない為の覚悟を強めた。
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