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革命編 五章:決戦の大地

己の誓い

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 創造神オリジン権能ちからを手に入れようとするウォーリス達を追い、『青』を含めた十二名の勇姿が『天界』へ向かう。
 その道中、光に包まれた通路みちを抜けていく箱舟ノアに乗った者達は、それぞれ戦いの為に休息に入ろうとしていた。

 しかし垣間見えるエリクやケイルの葛藤は、互いの中で覚悟を固めさせるのに時間を要する。
 その船内では、もう一つの覚悟を必要とする十三人目の戦士が居た。

「――……傷はどうだ? エアハルト」

「……」

 箱舟ノアの船内に設けられた一室であり、医療室を兼ねた部屋で一方的な声が響く。
 そこには立ちながら見下ろしているゴズヴァールと、寝台に横にされている狼獣族エアハルトが居た。

 その傍には二体の人型魔導人形ゴーレムが存在し、医療技術を備え魔石と魔法式を組み合わせた治癒魔法を施せる性能を持つ。
 人の姿に戻っているエアハルトはその二体から治療を施され、胴体と右腕を器具で固定されながら厚く包帯を巻かれていた。

 それ以外の外傷は特に見当たらず、瞼を開けるエアハルトはゴズヴァールの方を見る。
 しかしその表情は目元に皺を寄せるような怪訝な表情であり、エアハルトは視線を合わせずに僅かに顔を逸らしながら応えた。

「……こんな傷、すぐに治る」
 
「そうだろうな。……お前が艦橋あそこに現れた時には、驚かされた」

「……俺も驚いた。まさかアンタが、あの国から遠く離れてまで戦いにのぞむとは」

「王の願いだ。私はそれを叶える為に、この戦いに臨んでいるに過ぎない」

「……アンタらしいな」

 視線を合わせずにそうした言葉を交わすエアハルトは、僅かに皮肉染みた声色でそうした言葉を向ける。
 それを察するゴズヴァールは自らの巨体を床に座らせながら、横になっているエアハルトと視線を合わせて言葉を続けた。

「お前にとって、共和国あのくには狭すぎたようだな」

「……」

「だから俺は、クビアに依頼してお前を連れ出させた」

「……なにっ!?」

 思わぬ一言がゴズヴァールの口から飛び出し、エアハルトは目を見開きながら身体を思わず動かす。
 その振動によって寝台が僅かに動くが、固定具によって制限されるエアハルトはゴズヴァールの話を聞き続けた。

「俺は王が昏睡から目を覚ました後、関わっていたテクラノスからの供述を聞き、お前の優れた嗅覚で事件を察知できないはずがないと思った」

「……チッ」

「だがそれとは別に、俺の目を誤魔化しアレクサンデル様と入れ替われる偽装と擬態を施した術者は、一人しか思い浮かばなかった。……だからクビアの残した紙札を使い、事件との関わりを問い質した」

「……ッ」

「クビアはあっさりと、自分が関わっていると教えた。【結社そしき】を仲介し、王の依頼を請けたとな。……俺はそれを聞いた時、改めて自分がどれだけ不甲斐なく、王に信頼されていないのかを自覚した。……そして、お前にも信頼されていないとな」

「……だから、俺を……あの女狐《クビア》に?」

「そうだ。……お前が共和国あのくにに居続けても、ただ人間と魔人との狭間で苦しみ続けるだけだ。だからクビアを通じて、共和国から離れられる機会を作るように依頼した」

「……そうか」

 ゴズヴァールの落ち着いた声に、エアハルトはそれが本当の事なのだと察する。
 それを聞き身体の強張りを僅かに緩めたエアハルトは、力の籠らぬ瞳で天井を見上げたまま口を開いた。

「……俺は、初めから知っていた」

「?」

「あの女が……レミディアが、毒を飲み続けて死ぬつもりだったと知っていた」

「!」

「俺は、それを止めようとした。……だがあの女は、それを拒絶して自分の死を望んだ。……それがあの共和国くにに……そして自分の子に、安寧を齎すと信じているようだった」

「……」

「だが結局、そうはならなかった……。……あの女の死は全て無駄だったのだと、そう思った」

「……エアハルト、お前は……」

「だから俺は、何も言わなかった。……皇子が入れ替わっているのも、テクラノスやクビアがそれに関わっているのも、それが王の企てだったことも、全て黙ったままでいた。……そのまま共和国あのくにが滅びるのなら、あの女のやったことが全て間違いだったと、証明したかった」

「……」

「だが、あの女の妹が……それを邪魔した。……あの女が死んだことを……俺が止めようとしたのが間違っていなかったと、証明できなかった……」

「……そうか」

「だから俺は、あの女も……あの妹も憎い。……俺は、何も間違ってなんかいない……ッ」

 苦々しい声でそう伝えるエアハルトの言葉は、次第に震えながら唇を噛み締める。
 そして両目から溢れるように涙を流し、様々な感情を漏らすような僅かな嗚咽が医療室の中に響いた。

 それを小さな相槌で聞き続けたゴズヴァールは、涙を流すエアハルトの顔を見ずに自身の顔を伏せる。
 すると歯を食い縛りながら表情を強張らせた後、エアハルトにある言葉を伝えた。

「……すまなかった」

「!」

「俺は、お前の苦しみも理解できていなかった。……師として、そして友として、謝らなければならない」

「……ゴズヴァール」

「不甲斐ない俺を、許してくれとは言わない。憎んでくれていい。それがお前の生きる糧となるのなら、俺はその憎しみを背負い続けよう」

「……」

「だが、代わりと言ってはなんだが……。……あの二人の姉妹ことは、もう憎まないでやってくれ」

「……ッ」

「そして、お前の力が必要になった時には……力を貸してやってくれ」

 ゴズヴァールはそう言いながら頭を深々と下げ、エアハルトに頼む。
 横目を向けているエアハルトは拭えない涙越しにゴズヴァールの姿を見ていると、何も答えずに顔を背けた。

 返答の無いエアハルトに対して、ゴズヴァールは申し訳なさそうな表情を浮かべながら立ち上がる。
 そして黙ったまま医療室から出て行き、互いに別れた。

 医療室を出たゴズヴァールはそのまま与えられている部屋に戻り、寝台ではなく床に座りながら瞑想を行う。
 そして自身の魔力と生命力を研ぎ澄ませながら、ある覚悟を秘めながら閉じている瞼から鋭い瞳を明かした。

「……今度こそ、俺が守られねばならない……」

 そうした言葉を呟くゴズヴァールは、自らの決意と覚悟を口に出して己を戒める。
 それを自らの誓約ちかいとして、自分の周りで傷つけ合う者達を守る為の意思を確かにさせた。

 一方でゴズヴァールが出て行った医療室では、瞼を開けているエアハルトが天井を見続けている。
 しかし暫く瞼を閉じた後、流れ終えた涙と共に寝台の固定具で留められている右腕を剥がすように振り動かし、胴体を固定している金具を右手で外しながら上体を起こした。

「……俺は……」

 そう呟いたエアハルトは、寝台に座ったまま考え続ける。
 それは今の自分とゴズヴァールの言葉と向き合いながら、何を成したいかを考えさせる貴重な時間となっていた。

 こうして魔人であるゴズヴァールとエアハルトも、互いに己の覚悟と向き合う。
 そして一行を乗せた箱舟ノアは、『天界』への通路みちを時の流れと共に飛び続けた。
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