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革命編 五章:決戦の大地
激闘の境界線
しおりを挟む浮遊する同盟都市の黒い塔付近にて行われる戦いにおいて、エリクとウォーリスによる激戦が繰り広げられる。
そしてその戦いにユグナリスが参加する少し前に時間は戻り、同盟都市内にて起きている小規模な戦いに視点は移った。
ウォーリスとエリクの衝突が同盟都市内部に衝撃を及ぼした頃、二人の戦いが起きた事に気付いた者達がいる。
それは悪魔化した合成魔人バンデラスを倒した帝国皇子ユグナリスと、その傍に居たマギルスや狼獣族エアハルトの三名だった。
「――……この波動は……!!」
「エリクおじさん、やっと来たんだ!」
「……エリク、だと……!」
同盟都市の中央から衝撃として及ぶ生命力の波動に気付いたユグナリスは、そこで強者同士が激突しているのを察知する。
その流れ来る生命力の波動がエリクであることに気付いたマギルスの言葉に、重傷で膝を着いていたエアハルトが反応しながら顔を上げた。
微動にしか感じなくなった地面全体の揺れを凌駕する両者の衝突は、三人の視線と意識を釘付けにする。
そうした最中にユグナリスの視界が捉えたのは、黒い塔の傍に浮かぶ人影の姿だった。
「……アレは……アレは……ッ!!」
膝を着いたままだったユグナリスは赤く染まった瞳を見開きながら膝を立たせ、表情を強張らせながらその人影を凝視する。
その人影の正体が事態の首謀者であるウォーリスだと気付いたユグナリスは、激情を浮かべながら歯を食い縛った。
すると再び身体から『生命の火』が灯り、ユグナリスの身体を赤く輝かせる。
そしてウォーリスが浮遊している都市内部の中央へ駆け出そうとした瞬間、中央から飛んできた光剣の気力斬撃が三人の居る地点を砕き裂いた。
「ッ!?」
「うわっ!」
「チィ……ッ!!」
出鼻を挫かれたユグナリスはウォーリスの放った光剣の斬撃を避け、マギルスもそれに反応しながら俊足形態で退避する。
しかし重傷のエアハルトは二人より反応が遅れ、気力斬撃の衝撃で吹き飛ぶ瓦礫に巻き込まれながら、切り裂かれた地面の亀裂に飲み込まれてしまった。
「エアハルトお兄さんっ!!」
「!」
「……クソ……ッ!!」
エアハルトだけが退避に遅れたのに最初に気付いたマギルスは、押し寄せる瓦礫に埋まるように飲まれる光景を目にする。
それに対して僅かに遅れながら気付いたユグナリスだったが、再び襲って来るウォーリスの光剣から放たれた気力斬撃によって、亀裂に落下したエアハルトを救う事が出来なくなった。
更に三人が散り散りになり距離が開いた状況を見計らうように、崩壊する瓦礫の影から再び気配が現れる。
その気配が近くに居る事をすぐに気付いたのは、大鎌を振り回しながら奇襲する相手の剣をマギルスは迎撃して見せた。
奇襲を仕掛けた相手を見るマギルスは、驚愕しながらも訝し気な視線を向ける。
それは先程までの戦いで逃走し、影に潜みながら気を窺っていた悪魔騎士ザルツヘルム。
しかも既に悪魔化を終えているザルツヘルムは、マギルスとユグナリスを引き離すように黒い瘴気の剣で大鎌ごと持ち主の身体を吹き飛ばした。
「悪魔のおじさん……!!」
「――……君の相手は、私だ」
吹き飛ばしたマギルスに対して追撃するように迫るザルツヘルムは、容赦の無い瘴気の剣を幾度も突くように浴びせる。
それを全て大鎌で受けながら迎撃するマギルスは、口元をニヤけさせながら叫んだ。
「今度は本気なんだっ!?」
「覚悟を決めたのでね」
「じゃあ、こっちも本気でやってあげるよっ!!」
「私もだっ!!」
互いに本気である事を示し合う二人は、弾き合った武器に力を込める。
すると青い魔力と生命力を込めながら振られるマギルスの大鎌の刃と、瘴気を込めたザルツヘルムの剣が強く衝突した。
そこに生まれる衝撃が青と黒の交じり合う波動となり、周囲で砕ける建物群を更に崩壊させていく。
その衝撃が二人を別つように距離を開けながら、互いに地面に着地して叫びを放った。
「――……『精命武装:斬首騎士』ッ!!」
「――……『悪魔の武装よ』ッ!!」
二人は互いにそう叫び、その様相を大きく変化させる。
生命力の性質を変化させながら青い魔力を合わせ纏うマギルスは、自らの身体を覆うように騎士の鎧を形成させる。
そして形成される鎧の上から更に青い外套《マント》を作り出しながら、身分自身の顔も覆うように意匠の凝られた甲冑を身に纏った。
更に大鎌の形状も変化し、長い柄が縮まりながら先に取り付けられた曲刀部分が真っ直ぐな向きに組み立てられる。
すると大鎌から大剣の形状となった武器を持ったマギルスは、地面に散る瓦礫を踏み締めながら青い鎧を纏う騎士の姿へとなった。
逆に悪魔化した姿のザルツヘルムは、従える下級悪魔達と瘴気を融合させながら鎧と武器を形成する。
身に纏うのは騎士の鎧ながらも禍々しい意匠で形成され、左腕と手には下級悪魔達の血肉と瘴気で形成された巨大な大盾が作られた。
更に右手に持つ瘴気の剣にも下級悪魔達の血肉が纏い、刃と柄の部分に顔の様相が浮かぶ長剣が形成される。
そうして出来上がったザルツヘルムの姿は、まさに『悪魔騎士』と呼ぶに相応しい姿へ変貌して見せた。
互いに騎士の姿を纏いながらも、その様相に関する印象は対照的な程に異なる。
しかし互いに顔が隠れた甲冑の下では、口元を微笑ませながら瞳を向き合っていた。
「――……良い格好だね、おじさん!」
「君もな。――……我が忠義の為に。マギルス、君には糧になってもらうっ!!」
「本気で遊んであげるよ、ザルツヘルムッ!!」
二人はこうした言葉を交え、纏わせる周囲の空気を自らの生命力と瘴気で満たしていく。
そして砕けた地面と瓦礫が揺れ動くように宙に浮かんだ直後、二人はその場から消え、間となる空間に現れながら互いの武器と武器を重ねて衝突させた。
青い生命力と黒い瘴気を纏わせた騎士達の激突は、周囲一帯を破壊しながら互いの刃を交え始める。
それを見送るように目撃するユグナリスは、再び現れたザルツヘルムと宙に浮かぶウォーリスを見比べながら僅かな迷いを生じさせていた。
「ク……ッ!!」
先に倒すべき相手がどちらかを思考した時、僅かな時間でユグナリスはウォーリスという選択を選ぶ。
しかしこの時点では空中を飛べないユグナリスは、ウォーリスの光剣から放たれる気力斬撃の余波を掻い潜りながら近くまで走るしかなかった。
そんな時、不意にユグナリスの視界に青い光が浮かび上がる。
そこに居たのはマギルスの青馬であり、頭の無い幽体化した姿のままユグナリスの真横を駆けていた。
「な、なんだ……この馬……馬なのか……!?」
青馬の存在に気付いたユグナリスは、突如として視えるその姿に困惑した表情を浮かべる。
しかし青馬の胴体部分を視えた時、奇妙な既視感をユグナリスは感じながら急速に足を止めた。
それに重なるように青馬も足を止め、頭の無い魔力で揺れ動く首をユグナリスに向ける。
すると神妙な面持ちを抱くユグナリスは、目の前に居る青馬の姿と過去の記憶にある白馬の姿が重なった。
「……この馬は、何処かで……。……確か、アルトリアの……」
『――……ヒヒィン』
「!」
『ブルルッ』
魂の姿とも言える青馬から得た感覚から、記憶に有るアルトリアの白馬と似た印象をユグナリスは抱く。
しかしそんなユグナリスの言動を止めるように、頭の無い青馬の首から低い鳴き声が放たれた。
更に青馬は持ち上げていた首を自ら下げ、ユグナリスの前に身体を出す。
それを見たユグナリスは、感覚的に青馬が何をしているのかを察した。
「……俺を、上空まで乗せてくれるのか?」
『ブルッ』
「……分かった」
ユグナリスは青馬の提案している事を察し、自らその馬上に飛び乗る。
すると青馬は魂から発する自らの青い魔力で魔力障壁を生み出し、それを道にしながら上空まで駆け上り始めた。
その速度は走る距離毎に増し続け、青い光となってウォーリスが居る場所まで至ろうとする。
しかしそれに気付いたウォーリスが放つ気力斬撃を見たユグナリスは、自らの身体と剣に『生命の火』を灯した。
そして自らの生命力と魔力を乗せた短距離の炎熱斬撃を放ち、ウォーリスの気力斬撃を切り裂くように焼失させていく。
更に騎乗している青馬の背から飛び離れながら叫び伝えた。
「後は任せろっ!!」
『ヒヒィン!』
「……ウォーリスッ!!」
そう叫んだユグナリスに応じるように、青馬は切り裂かれた気力斬撃の合間を縫ってその場から離れる。
逆にユグナリスは『生命の火』を身体に纏いながら一人で飛び出し、ウォーリスの放った気力斬撃を足場にしながら瞬く間にその首元まで迫った。
『……ブルルッ』
しかし三人の戦いを青馬《ファロス》は見届けず、そのままマギルスとザルツヘルムが戦う場所へ首を向ける。
そして契約主とザルツヘルムの戦いを見届けることを選び、中空を駆けながらその現場まで走った。
こうしてユグナリスがウォーリスとエリクの戦いに参じた状況の中、マギルスとザルツヘルムの戦いも行われている事が判明する。
しかしその戦いに参加できなかった狼獣族エアハルトは、亀裂が生じた同盟都市の底深くへと消えていく。
そんなエアハルトは落下しながらも、諦めずに生き延びようと抗い続けていた。
「――……グゥ……ッ!!」
暗闇に覆われた亀裂へ落下していくエアハルトは、血を吐き出しながらも大きな瓦礫の上で姿勢を保ちながら立つ。
しかし上から落下して来る瓦礫を飛び避け、全身に生じる痛みを堪えながら瓦礫に押し潰される事態を回避した。
そして底が見えない亀裂の中ながらも、辛うじてエアハルトは生きながらに底の底まで辿り着く。
瓦礫を避けながら辿り着いた底部分に着地すると、冷たい黒い金属に覆われた空間で出来上がっているのを察知した。
「――……ここは……俺は、どこまで落ちた……?」
エアハルトは落下地点から離れた位置まで走り、瓦礫が落下しない天井のある部分まで辿り着く。
そして周囲を見渡した後、光の届かず黒に染まった空間を見上げながら、鼻の匂いで周囲の状況を探ろうとした。
しかし怪訝そうな表情を浮かべるエアハルトは、その疑問を呟く。
「……この匂いは、あの男の持っていた大剣と似ている……。……だが、魔力も何も感じない……。……なんなんだ、この場所は……」
魔鋼が異質な存在である事を察知したエアハルトだったが、それによって形成されている周囲の空間が何なのか理解できずにいる。
それでもエアハルトの優れた嗅覚は、別の匂いを感知しながら暗闇の空間に視線を向けさせた。
「……この匂いは……」
エアハルトは異質な空間から微かに漂う匂いに気付き、その匂いが漂う場所に向けて歩き始める。
重傷を負い戦いから離れてしまったエアハルトだったが、彼にしか出来ない役割へ導かれるように魔鋼で形成された遺跡へと辿り着いたのだった。
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