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革命編 五章:決戦の大地
未来の援護
しおりを挟む同盟都市の浮遊に伴い、ガルミッシュ帝国の大陸全体が大きく揺れる。
その大陸にいる者達は地震によって新たな異変に気付き、様々な危惧を抱きながら事態に対応するしかなかった。
そんな最中、地震に襲われる帝都の上空に巨大な物体が姿を現す。
それは未来の戦いにおいて建造され、人類の『希望』を乗せた『箱舟』だった。
しかし未来で作られたはずの『箱舟』が現代に存在し、更にルクソード皇国から赴いたグラド達の独立兵団を乗せている。
更に『箱舟』を操縦するのが魔導人形という状況は、エリク達の知る未来と大きく異なっていた。
一方その頃、地震の発生源である同盟都市側にも大きな変化が起こる。
次第に巨大になっていく揺れが地面を砕き、巨大な溝を作り出しながら同盟都市周辺の地肌を隆起させ始めた。
その周囲に敷き詰められるように配置されていた死体達や合成魔獣は、亀裂の中に落下しながら暗い底に沈んでいく。
元々から意思を奪われた死霊と化している死体や合成魔獣は、それに抗わず逃げもせずに命じられた動きを行う。
それは同盟都市に迫る侵入者を排除するという、極めて単純な命令だった。
「――……クッ!!」
既に数多の気力斬撃を放ちながら千を超える合成魔獣と万を超す死体達を倒していたエリクは、着実に前進しながらも囲まれている現状を変えられずにいる。
普通の人間や聖人ならば既に疲弊し倒れいる程の生命力を使いながらも、エリク自身はそうした疲弊をまだ見せずに進み続けていた。
しかし亀裂が更に隆起して同盟都市全体が地面ごと盛り上がる光景は、エリクに精神的な焦燥感を高めさせる。
エリク達が体験した未来のホルツヴァーグ魔導国と同じように、都市全体が遥か上空まで浮遊してしまえば、今の段階で乗り込める手段は地上からしか存在しないのだ。
それが分かるからこそ、エリクは同盟都市までの走行速度を速めている。
しかしそれを阻むように邪魔に入る合成魔獣達が襲い掛かり、エリクの進路を阻害しながら押し寄せる数が衰える事は無かった。
「これでは、間に合わない……ッ!!」
焦るエリクは苦々しい面持ちを浮かべ、大きく揺れ動きながら亀裂が入る地面と、絶え間ない合成魔獣の襲撃に耐えるしかない。
そうした最中、エリクの上空を飛ぶ合成魔獣達に対して凄まじい熱線が真横から放たれた。
「ッ!?」
突如として夜空を裂くように走る熱線の光に、エリクは驚愕を浮かべながら上空を見上げる。
すると熱線を放った位置にある空間が揺れ動き、その中から見覚えのある巨大な球体型の飛行物体をエリクは目にしながら新たな驚きを呟いた。
「……アレは、未来の……魔導人形の飛空艇……!?」
その造形を目にしたエリクは、未来の港都市で戦った魔導人形の飛空艇を思い出す。
球体の造形に目のような魔導兵器の大型射出口がある姿は、まさに未来で戦った飛空艇そのものだった。
「何故、魔導人形の飛空艇が……。アレは、未来のアリアが作ったものでは……!?」
未来で存在したはずの魔導人形の飛空艇が現代に姿を現したことに、エリクは少なからず動揺を浮かべる。
そんなエリクの疑問を晴らすことなく、魔導人形の飛空艇は未来と同じように、球体状の表面から数多の砲塔を露出させながら地上側に向けた。
「ッ!!」
そして次の瞬間、魔導人形の飛空艇から地面に向けて数多の砲撃が放たれる。
その光がエリクの視界を光で覆うように迫り、砲撃を防ぐ為にエリクは身体に生命力を纏わせながら大剣を上空に翳して防御姿勢に入った。
しかし放たれた砲撃はエリクには降り注がず、その周辺や押し寄せて来る死体や合成魔獣だけを襲う。
飛空艇から放たれる砲撃は未来で戦った時と遜色の無い威力と精度を見せ、瞬く間に周囲の地形と一緒に合成魔獣達を消滅させた。
「……これは……!!」
それを見たエリクは唖然とした様子を見せ、飛空艇が意図的に合成魔獣達を襲った事を悟る。
更に球体の真下部分に備えられた多くの開閉扉が開くと、そこから直径二メートル前後はある銀色の球体が一気に降下して来た。
すると合成魔獣や死体等に銀色の球体が着弾し、押し潰された身体や地面にめり込む。
落下した球体は未来で戦った魔導人形と同じように変形しを始め、両腕に備わる魔力弾の砲撃で合成魔獣や死体達を排除し始めた。
更に上空に残る飛空艇は、球体状の真上部分から別の魔導人形達を射出する。
それは未来の魔導国に上陸しようとした際に妨害して来た飛行型の魔導人形達であり、地上と同じように上空を飛ぶ合成魔獣達を襲撃し始めた。
突如として現れた未来の魔導人形達が死霊の大群に襲い掛かる光景は、エリクに信じ難い表情を浮かばせる。
しかし魔導人形達が合成魔獣達の相手をすることにより、同盟都市までの道がエリクの前に拓かれた。
「……今は、行くしかないッ!!」
様々な疑問がエリクの脳裏に過りながらも、今は浮上しようとする同盟都市に乗り込む判断を優先して足を走らせる。
それを援護するように飛空艇や魔導人形の砲撃が放たれ、更にエリク自身の気力斬撃が道を塞ぐ死霊達を排除すると、割れ砕けて崖のように隆起した同盟都市の地面まで辿り着いた。
「ここを、登ればッ!!」
エリクは崖のようにせり上がる地肌に飛び乗り、僅かな窪みを利用しながら手足を駆使して崖を登る。
それを阻むように上空の合成魔獣達はエリクに襲い掛かろうとするが、上空に展開された飛行型の魔導人形 達に突き刺されながら妨害された。
その間にエリクは一気に崖を登り終え、浮遊する地面へ着地しようとする。
しかし同盟都市に張り巡らされた結界がエリクの着地を阻むように展開され、その身体を弾きながら焼け焦がすような魔力を浴びせた。
「グ――……ウォオオッ!!」
それでもエリクは歯を食い縛りながらドワーフ製の魔装具で空中に留まり、両手で大剣の柄を握りながら上段に構える。
更に大剣に込められるだけの生命力を瞬時に注ぎ、侵入を阻む同盟都市の大結界に突入しながら振り薙いだ大剣を衝突させた。
「ォオオオオオォオッ!!」
結界と衝突するエリクの大剣は、凄まじい魔力の火花を散らす。
未来では都市を覆った結界を突破するのに『箱舟』に備えられた巨大魔導砲撃を使い突破したが、今はそれが無い。
自力で結界を破るしかないエリクは、未来で破壊した赤い核を思い出しながら力を込め、焼け焦がす結界の魔力に抗いながら大剣を衝突させ続けた。
そしてついに、大剣を衝突させた結界部分に亀裂が走る。
その亀裂が広がりながら深まると、エリクは表情を強張らせながら更なる力を込めた。
「……砕けろッ!!」
エリクが叫びながら抉り込ませた大剣の刃が、ついに大結界を切り裂く。
その瞬間に亀裂も深まり、エリクの居る一帯に敷かれた結界が大きく割れ砕けた。
それを見計らうかのように、エリクは躊躇うことなくに結界内部に跳び込む。
すると地面を転がりながら即座に立ち上がり、周囲を探りながら同盟都市の外壁に向けて走り始めた。
「……何人か、同盟都市にいる。……この感じ、マギルスか? ……その近くに、他に二人……。……一人、特に強い気配の奴が居る」
エリクは外壁越しに同盟都市内部に存在する気配を感じ取り、そこにマギルスが含まれている事を察する。
その近くに居る帝国皇子ユグナリスや狼獣族エアハルトの気配なども感知すると、他の気配も探りながら表情を顰めた。
「……他に、気配がしない。……アリアは何処だ、また塔の中か?」
エリクはそう言いながら呟き、同盟都市内部に聳え立つ巨大な黒い塔を見上げる。
未来でそうだったように、エリクはアリアが黒い塔内部に居るのだと考え、凄まじい勢いで走りながら外壁に突入し、跳び越えずに大剣から放つ気力斬撃で壁を破壊しながら同盟都市内部に侵入した。
そうして建設中の内部を走る中で、エリクは自分を助けるように現れた魔導人形達を思い出す。
未来では人間達を滅ぼす為に作られた魔導人形が、どうしてこの状況で助けに入ったのは、エリクは改めるように考えた。
「……何故、未来の魔導人形が現代に……。……クロエの能力で、未来を覚えている誰かが作ったのか? だがアレを作っていたのは、未来では一人だけ……」
エリクは訝し気な様相を浮かべながら、未来の魔導人形達を作れる可能性がある一人の人物を思い浮かべる。
しかしその答えはエリク自身に困惑を抱かせ、僅かに首を振りながら前を見据えさせた。
「……俺のやることに、変わりは無い。……もうアリアからは、何も奪わない。……あの男にも、奪わせない……!!」
凄まじい速度で駆けるエリクは、大きく揺れる地面を諸共せずに同盟都市中央の黒い塔を目指す。
その思考にはアルトリアを救出するという目的と共に、彼女から何もかも奪おうとする敵の排除を最優先にしていた。
そうした最中、同盟都市に突入したエリクに見下ろすような視線を向ける者がいる。
それは浮遊しようとする同盟都市の上空に浮かぶ【魔王】と称する人物であり、走るエリクに顔を向けながら呟きを見せた。
「――……エリクも、相変わらずね。――……テクラノス、地上に残ってる死霊達の相手は任せるわ。一匹も残さず、殲滅しなさい」
『承知した』
「『青』、箱舟で帝国と王国の民間人達の避難を急いで」
『こちらも承知している。……今、皇国に派遣した箱舟が帝都に辿り着いた。積載できる人数から言っても、全て安全地帯まで退避させるには明朝までは掛かる』
「他の国に向かわせた別動隊は?」
『それぞれに予定通り、同盟都市に向かわせている。……フォウルの戦士達は?』
「既に侵入してるし、気配を巧妙に消してる。少数精鋭の干支衆だけでね。……巫女姫も、遺跡の入り方を知ってると思う?」
『恐らくは。何せフォウルの里を形成している外殻そのものが、あの遺跡と同じ構造になっているはずだからな』
「となると、エリク達の方が一歩も二歩も出遅れてるわね。……どちらが間に合うか、分の悪い賭けだわ」
【魔王】は自身の義体に備わる通信機能を用いて、ある者達との通信で状況を把握する。
一連の事態に関して未来の技術を用いる彼等は、ウォーリス達とは相反する事を目論むような動きを見せていた。
こうして同盟都市を目指していたエリクは、魔導人形達の援護によって突入に成功する。
一方でそれを見守る【魔王】とそれに与する者達は、一方的ながらも協力するような様子を見せながら事態の推移を見守っていた。
応援ありがとうございます!
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