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革命編 五章:決戦の大地
魔王の警告
しおりを挟む狼獣族エアハルトと帝国皇子ユグナリスに合流したマギルスは、新たな精神武装を用いて相棒の青馬ファロスと共に同盟都市建設予定地に向かう。
その目的は友達との約束であり、次に生まれる彼女の母親リエスティアを救うという同行する彼等と共通の目標を持っていた。
そして『精神武装:二輪車形態』を駆使して夜の上空を飛び、鳥獣系の合成魔獣達を撃ち落としながら進む。
下に広がるのは地面を這う合成魔獣達と多くの死体達であり、マギルスはそれを一瞥しながら側車に座る二人に声を向けた。
「――……アレが全部、死体なのっ!?」
「ああ。この辺り一帯は、死の腐臭ばかりが漂っている。それに奴等からは、生命力を一切感じない」
「僕、まだ生命力は習ったばっかりで、そういうの分かんない! ――……でも、そっちのお兄さんが凄い生命力を持ってるのは分かるけどね!」
「えっ?」
マギルスは二輪車を操縦しながらそう述べ、ユグナリスに視線と意識を向ける。
それに気付いたユグナリスは自覚の無い様子を見せ、エアハルトは舌打ちを漏らした。
「この男に、その自覚は無いぞ」
「そうなの? ふーん。じゃあ、まだエリクおじさんには程遠いかな!」
「!」
「……エリクだと?」
マギルスは比較対象としてエリクの名を聞かせると、二人は驚くような表情と声を漏らす。
その様子に気付いたマギルスは、何かを思い出しながらエアハルトに声を向けた。
「そういえばエアハルトお兄さん、エリクおじさんに負けたんだっけ!」
「ッ!!」
「僕はあの時のおじさんだったら、楽勝だったもんね! もう今だと、勝てるか怪しいけど!」
「……あの男も、強くなっているのか」
「凄くね! 僕とおじさん、ずっとフォウル国で修行してたんだよ!」
「修行……?」
「エリクおじさんは、ずっと巫女姫って人に修行させられててね。『死』の境界を超えられるようになったんだって!」
「……なんだそれは」
「死の境界って……?」
「僕もそれ、よく分かんないけど――……おっと!」
マギルスの言葉に聞いていた二人は、疑問の表情を深める。
そして再び襲い来る合成魔獣達に対処するマギルスは、青い魔弾の連射砲を発射を始めた。
それを収めた後、マギルスの視界が何かを捉える。
「――……なんか見えたよ!」
「!」
マギルスが青く輝く瞳を見開き、前方に見える景色を教える。
それに応じるように二人も生命力で視力を強化し、前方の景色を確認した。
しかし二人が見たのは、建設中だったはずの同盟都市ではない。
その遥か上空まで伸びる、奇妙で巨大な黒い塔の姿だった。
「……なんだ、アレは……!?」
「あんなの、明るい時でも見えませんでしたよ……!」
「……嘘。なんであの塔が、こんな所にあるのさ……っ!?」
「!」
二人は暗闇の中で不気味に聳え立つ高い塔を見ながら、昼や夕刻の時間には無かった事を互いに呟く。
しかしマギルスだけは、見える塔の形状に見覚えのある様子を見せた。
それを知ったエアハルトは、訝し気な表情と声で問い掛ける。
「あの塔を知っているのか?」
「うん! でもアレは、魔導国にあるはず……まさかっ!?」
「さっきからなんだっ!?」
「この大陸にもあったんだ! 魔導国と同じ、五百年前の遺物――……空から落ちて来た、天界の一部だよ!」
「テンカイ……!?」
「元々は、神様が住んでた場所なんだって! それが五百年前に落ちて大陸にもなってたって、クロエが言ってた!」
「!?」
「ここにも、魔導国と同じ遺跡があったんだ。……でもまさか、そこが拠点になってるなんて……こんなの聞いてないよっ!!」
マギルスは未来で見た魔導国の中央に存在した黒い塔と同じモノがある事を察し、この大陸にも同じ遺跡が埋まっていた事を察する。
それを裏付けるかのように、ユグナリスも思い出しながらマギルスの言葉を結び付けた。
「……この大陸の各地には、古い遺跡が多いとは聞いてました。でもまさか、あんな巨大な塔の遺跡が地中に……!? でも、いったい誰がアレを……!?」
「ウォーリスという奴だろう。奴が拠点にしているのだから、そう考えるのが妥当だ」
「でも、どうやって……!? 帝国側でも遺跡については色々と調べられていたはずです。でも、あんな機能があるなんて報告や発表は無かった……」
「貴様等が知らなかっただけで、ウォーリスという奴は扱えた。単純な話だ」
ユグナリスは納得し難い表情を見せながらも、エアハルトの端的な結論を述べる。
その話を聞いていたマギルスは、思考にある可能性を浮かばせながら呟いた。
「……もしあの遺跡が、魔導国に在るのと同じだとしたら……。うわっ、マズいかもっ!!」
「!?」
「魔導国の遺跡は、都市ごと空を飛べたんだ! それも物凄い高く! もし向こうの遺跡も、同じくらい空高く飛べるとしたら……!」
「……誰もあの場所に、行けなくなる……!?」
「この二輪車でも、流石に未来の高さまで昇るのは無理! そうなる前に、乗り込まないとマズいけど!」
「だったら、さっさと行けっ!!」
「うん!」
未来で魔導国の都市に赴く際、クロエを知識で建造した箱舟でしか辿り着くしかない事をマギルスは覚えている。
だからこそ同じ遺跡が空に飛ぶ事を察したマギルスは、エアハルトの声に応じながら取っ手を強く捻り回した。
更に加速する二輪車は、夜空に伸びる黒い塔を目指す。
しかし次の瞬間、思いもよらぬ方角から巨大な熱線が三人の乗る車体に襲い掛かった。
「ッ!!」
「右からっ!?」
「マギルスッ!!」
同時に気付いた三人は気配も匂いも無いまま放たれた熱線に驚愕し、それぞれに声を荒げる。
そしてマギルスは取っ手を更に捻ると、腕を下側に押して車体を下に沈み込ませた。
沈ませた車体は角度が下がり、更に加速しながら突き進む。
そして命中寸前だった熱線を辛うじて下に避けて回避すると、右側に取っ手を切りながら右側に車体の正面を向けた。
「……!」
「アレは……っ!!」
右側を向いた二輪車に続き、側車も同じ向きを正面とする。
そこで全員が視界に捉えたのは、暗闇に浮かぶ黒い布を纏った人物、少し前にセルジアスを助けた【魔王】と称する者だった。
【魔王】は左手を翳し向けたまま、苛立ちの籠る口調でこう呟く。
「――……アンタ達も、こっちの予定を狂わせてくれるわ」
「アレは、誰だ……?」
「……人の匂いがしない。かといって、他の生物の匂いも……。なんだアレは……!?」
「……あれ。あの魂、どっかで見た事が……」
『ブルルッ』
「……確かに、そう視えるけど……。でも、それって――……っ!?」
ユグナリスとエアハルトは互いに初めて見る【魔王】の姿で、その正体を探れずにいる。
逆に首無族の瞳を通して相手の魂が可視できるマギルスは、青馬が伝える言葉に僅かな動揺を見せた。
しかしそれを確かめる間も無く、【魔王】は左腕から更なる熱線を照射する。
マギルスは取っ手を捻りながら加速し横に移動しながら回避すると、【魔王】に迫り背負う大鎌を左手で掴み広げた。
「ちょっと、ここで待っててね!」
「なっ!?」
「よっと――……『俊足形態』ッ!!」
更に次の瞬間、マギルスが両手を取っ手から離す。
そして座席に立ち上がりながら両手で大鎌を構え持つと、青馬を両足に纏わせた形態へと瞬時に移行した。
それから側車に居る二人が止めるより速く、マギルスは座席を足場にして二輪車以上の加速で前方に跳躍する。
音速すら超える速度で飛び出したマギルスだったが、自身の肉体を覆う魔力が防壁となり、音の壁を超えながらも無傷の姿を僅かに晒した。
そして【魔王】の目の前まで瞬時に迫ったマギルスは、その首を狙いながら躊躇せずに大鎌を振り抜く。
しかし大鎌の刃は【魔王】の姿を覆う外套を僅かに一閃しながらも、首を跳ねる事には失敗した。
それでもマギルスは、すれ違い様に隠された【魔王】の顔を覗き見る。
するとマギルスは口元を微笑ませ、作り出した物理障壁を足場にしながら俊足形態を解いて立ち止まった。
そして互いに顔を向けながらも、【魔王】とマギルスは意味深ながらも短い会話を行う。
「なんだ、元気そうじゃん!」
「……クロエのせいでね」
「あれ? ……あっ、そういう事か!」
「この先に行くのは止めときなさい。明らかに罠よ」
「だから止めたの? でもあそこに、クロエのお母さんと生きてるアリアお姉さんもいるんでしょ?」
「多分ね」
「じゃあ、僕は行く!」
「……死んでも知らないわよ」
笑いながらそう告げるマギルスに、【魔王】は呆れた口調でそうした声を漏らす。
すると次の瞬間、その場に居たはずの【魔王】は転移魔法を使い姿を消した。
それを見届けたマギルスは微笑みを浮かべ、向かって来る二輪車の方に視線を移す。
すると足場にした物理障壁を蹴り跳び、見事に通過する二輪車の座席に乗り直しながら再び青馬を二輪車に憑依させた。
そんな行動に出ていたマギルスに対して、エアハルトとユグナリスは抗議するように怒鳴る。
「――……貴様、落ちたらどうする!」
「そうですよ! というか、さっきの奴はいったい……!?」
「うーん。……多分、味方かな!」
「味方が攻撃して来るわけないですよねっ!?」
「まさか奴は、フォウル国の魔人か?」
「へへぇ、秘密!」
「……?」
二人は襲って来た【魔王】が何者かと問うが、マギルスはそうした返事を行う。
まるで【魔王】の正体を見知った仲であるかのように語るマギルスの言動は、二人に不可解な表情を見せた。
そして車体の正面は暗闇に映える黒い塔に向き直り、再び進み始める。
こうしてマギルスは【魔王】と出会い、相手の正体を察する。
そして警告を受けながらも、クロエとの約束を果たす為にエアハルトとユグナリスと共に同盟都市建設予定地へと乗り込んだ。
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