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革命編 五章:決戦の大地

求めぬ姿

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 紙札を用いて妖狐族クビアと交信できた帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトの二人だったが、そこで思わぬ情報が飛び込む。
 それは『創造神オリジン』と呼ばれる存在を復活させる鍵がリエスティアの肉体とアルトリアの魂であり、その復活を企むウォーリスを阻止すべくフォウル国が鍵となる二人を殺めようとしている情報だった。

 それを聞いたユグナリスは憤慨していたが、エアハルトの鋭い言葉によって逆上させた感情を引っ込められてしまう。
 更にこうした事態を引き起こし多くの者達を巻き込み犠牲としたことをエアハルトに咎められ、見限られる形となりユグナリスと別れる事になった。

 こうしてウォーリスを追う二人が分散し、同盟都市建設予定地までエアハルト単独で足を進める。
 一方でその頃には、夜に覆われている帝都でも次の異変が目に見える形で押し寄せようとしていた。

「――……閣下! 魔法学園に依頼していた通信用魔道具の修復が、完了したようです!」

「そうか。魔法学園むこうから貴族街こちらに、持って来られるか?」

「確認してみます!」

 貴族街の正門内側にて生存者達の指揮を執っていた帝国宰相セルジアスの耳に、魔法学園に借り受けていた小型通信用の魔道具から報告が入る。
 それは死体ゾンビが襲撃して来る前に魔法学園側に依頼していた、帝城内に設置してあった通信用魔道具の修復が完了したという知らせだった。

 この魔道具そうちが使えるようになれば、各領地や同盟国に対して通信を用いた救援と状況説明が行える。
 そうなれば帝都に及ぶ危険度と周囲に対する対策が行え、帝都に留まる上で必要な物資が優先的に集める事が出来るとセルジアスは考えた。

 しかし魔道具そうちの大きさは荷車に積載する必要とする重量であり、修理と設置には魔導技師や専門知識を持つ魔法師が十数人は必要となる。
 そうした対応も魔法学園側から依頼していた為、セルジアスは苦労するであろう魔道具そうちの移動も魔法学園側に依頼した。

 そこで魔法学園から寄越された返答は、セルジアスが納得できる内容として返って来る。

「……駄目です! 少数での移動ならば可能ですが、貴族街ここまで魔道具そうちを運搬するのは不可能だと……!」

「そうか。魔法学園むこうから貴族街ここまでの道も、私自身が潰すよう頼んでしまったからね。……なら、私自身が魔法学園むこうに赴くしかないか」

「しかし、貴族街ここの指揮は……」

「移動自体はパール殿の飛竜ワイバーンに頼る事になるが、通信は魔法学園むこうで済ませる。残存兵力の指揮は、騎士達きみたちに頼もう。よろしいか?」

「ハッ!!」

「魔法学園側には、上空うえに張っている結界を一部解除するように伝えておいてくれ。私はまた、パール殿に頼みに行こう」

 セルジアスは即座に決断し、自ら魔法学園に赴いて各領地と各国への救援要請を行う事を決める。
 そして壁内の部屋から出て来ると、パールと飛竜が休む広場側へ向かうように走った。

 それから十数分後、二人を乗せた飛竜ワイバーンが再び夜空を羽ばたく。
 多くの者達が飛竜ワイバーンの飛び立つ姿を見送りながら、二人は市民街の西側にある魔法学園へと向かった。

 今度は背中側に乗る二人は、下を覗き見ながら帝都内に入り込んでいる死体ゾンビ達の状況を確認する。
 そしてまばらながらも少なくなった死体ゾンビ達を見下ろしながら、二人は話し合った。

「――……死体の侵入は、かなり防げていますね」

「だが、東側むこうからやって来る奴等がまだ残っている」

「そうですね。一刻も早く、各領地にその情報を伝えて、帝都ここへの集結と防衛陣を築かないと……」

「間に合わなくても、私と飛竜コイツがいる」

「頼りにしていますよ。――……あそこです。あそこが、魔法学園です」

「分かった。……魔法学園あそこに降りろ!」 

「ガォッ」

 簡易的ながらも首の根元に巻かれた手綱状の縄を握る二人は、暗闇の中で見える魔法学園の上空うえへ向かう。
 すると魔法学園に展開されていた幾層もの結界が様々な色合いで輝くと、上空部分に円形状の穴が空けられたのが見えた。

 パールは飛竜ワイバーンにその穴を潜らせ、緩やかに降下させる。
 そして学園内に避難している一万人近い民間人が様々な場所で見上げ中、広場に着地した飛竜ワイバーンから二人は飛び降りた。

 すると飛竜ワイバーンを驚嘆する視線を向ける周囲の中から、出迎えるように三人の青い外套ローブ姿の者達が歩み出る。
 それに応じるように背広を羽織るセルジアスは、その三人に近付きながら前に居る老齢の人物に自分の名を伝えた。

「帝国宰相を務めています、セルジアス=ライン=フォン=ローゼンです。御久し振りです、オイゲン学園長殿」

「御久し振りでございます、宰相殿」

 互いに国柄として異なる礼を見せながら挨拶を交わした後、二人は顔を上げて互いを見る。
 しかしオイゲンとその後ろに控える付人らしき魔法師達は、セルジアスよりもパールと共に居る飛竜ワイバーンに注目を向けながら驚嘆を声で漏らした。

「……伝え聞いていた事ながら、信じ難いものでした。しかし、まこと飛竜ワイバーンで御越しになるとは……」

「突然の事で驚かせてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ。まさか滅びたはずの飛竜ワイバーンを、帝国が飼育と使役するのに成功しているとは。実に興味深い……」

飛竜かれと飼育と使役は、ガゼル子爵家の領民である彼女パールが行っています。飛竜ワイバーンに関する詳しい情報を御聞きしたい場合は、後ほどガゼル子爵家に御尋ね下さい」

「ええ、是非そうさせて頂きましょう」

 初めて見る飛竜ワイバーンに注目を向ける魔法師達に対して、セルジアスは微笑みながらそう伝える。
 この言葉により飛竜ワイバーンに関する出来事にガゼル子爵家に秘密があると認識したオイゲンを含む学園側は、好奇と探究心に溢れる意識を秘めているのが窺えた。

 そしてガゼル子爵家に面倒な飛竜ワイバーンの説明を全て丸投げしたセルジアスは、改めてオイゲン達の意識を自分に向けさせる。

「まず初めに、感謝を御伝えしたい。この非常事態において、多くの市民達を学園に避難させて頂きありがとうございます」

「本校を帝都ここに置かせて頂いている事です。このような事態であればこそ、我々も協力は惜しみません」

「そう言って頂けると、心強い限りです。そして御依頼していた魔道具そうちの修理も行って頂き、ありがとうございます」

「いえいえ。修理はしたものの、貴族街そちらに送り届けられませんで」

「聞き及んでおります。故に私から学園ここに赴かせて頂きました。修理した魔道具そうちを、こちらで使わせて頂いても?」

「ええ、こちらに設置させて頂いております。案内をしましょう」

「感謝します。――……パール殿は、ここで待機を。何か異常が起きた場合は、また対応を御願いします」

「分かった」

 セルジアスはそう伝えながらその場を後にし、学園長オイゲン達と共に実験塔のある建物へ向かう。
 そして塔内の部屋に赴いたセルジアスは、様々な魔導施設に繋がれながら修理を終えた通信用魔道具そうちの操作盤を押しながら起動を確認した。

 すると魔道具の中央に設けられた円形状の空間に丸く大きな水泡あわが浮かび上がり、そこに術式に刻まれる文字が現れる。
 そして定められた暗証番号パスワードを操作盤に打ち込むと、泡内部に人間大陸と思しき縮図映像が浮かび上がった。

「……確かに、修理は終わっていますね。ありがとうございます、オイゲン学園長」

「こちらも、修理が成功している事を確認できて幸いです」

「それでは、ここで通信れんらくを行わせて頂きます。……まずは、ゼーレマン卿から……」

 セルジアスは更に操作盤に扱い、泡状の内部に新たな映像を映し出す。
 そこにゼーレマン侯爵領地の首都に設けられている通信用魔道具と繋がる数式と暗証番号パスワードを打ち込むと、泡内部の魔力が気泡を発生させながら黒い映像を映し出した。

 しばらくその黒い映像が続くと、今度は晴れるような白い光が浮かび上がる。
 そして黒い映像が雲のように晴れて行き、その向こう側にある人物の姿が見えながら声が響いた。

『――……御久し振りですね。セルジアス=ライン=フォン=ローゼン殿』

「ッ!?」

 その声と泡内部に浮かび上がる人物の顔を見た時、セルジアスの表情が思わず強張る。
 そして内心の驚愕を隠しながら小さな息を吐き出すと、それに応じるように言葉を返した。

「……貴方こそ、御久し振りですね。ウォーリス=フォン=ベルグリンド。……いや、フォン=オラクルでしたか?」

『いいえ、どちらでもありませんね。私については、アルフレッドで構いませんよ。それが私の、本当の名ですから』

 映像内に映し出される人物は、そう微笑みながら自分の本名を明かす。
 そしてセルジアスが思い出すのは、まだオラクル共和王国が旧ベルグリンド王国を名乗っていた際にベルグリンド王として赴いた、茶髪の青年アルフレッドの姿だった。

 こうして各領地と各国に死体ゾンビの襲来に関する救援を求めようとしたセルジアスに、画面越しながらも思わぬ人物が姿を見せる。
 それはウォーリスの影武者を務めオラクル共和王国の王として君臨していた、アルフレッド=リスタルだった。
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