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革命編 五章:決戦の大地

砂漠に生きた者達

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 銃を主力武器とした傭兵団『砂の嵐デザートストーム』を率いる特級傭兵スネイクは、帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトの二人と対峙する。
 その末に敗れたスネイクはユグナリスに生かされ、ウォーリスによって奴隷紋が施されている事が明かされた。

 そこまでに至る事情を知る『砂の嵐デザートストーム』の団員達は、スネイクの助命をう。
 その願いを聞き届けたユグナリスによって、オラクル共和王国で起きた『閃光事件』から今まで『砂の嵐デザートストーム』に起きていた事情を聞いた。

 団員達から語られるのは、雇い主であるウォーリスと団長スネイクの決裂。
 その決定打となった瞬間であり、『きん』の七大聖人セブンスワンミネルヴァの自爆から生き延びて旧ゲルガルド伯爵領に赴いた経緯だった。

『――……百四十七人、俺の部下が死んだ』

 この語りは、薄暗い荒地の中で聞こえるスネイクの声から始まる。
 その声を向けられているのは、共和王国の国務大臣を務めていた『アルフレッド』という偽名で呼ばれていた頃ウォーリスだった。

 そして怒りの籠るスネイクの言葉を聞き、ウォーリスは周囲を見渡す。
 そこには床に横たわる形で重軽傷を負いながらも生き残った『砂の嵐デザートストーム』の団員達が、仮設された天幕テントにて十六名だけ寝かされていた。

 手当を施されたその光景を見るウォーリスは、特に感情も見せずにスネイクに視線と言葉を向ける。

『それは、お気の毒に』

『お気の毒だと……。ふざけるなっ!!』

『冗談のつもりはありませんよ。それにこの惨状は、貴方達の不甲斐なさが起こした事だ。むしろ、共和王国側こちらが問い詰めたいほどです』

『テメェ等がミネルヴァを生かしたまま、南方あそこに置いてたのが原因だろうがっ!!』

 スネイクの怒鳴り声は天幕の中でも聞こえ、負傷しながらも意識を残す団員はその会話を聞いている。
 そしてスネイクが怒り狂う理由について、団員達も同じ思いを抱いていた。

『そのミネルヴァの確保を失敗したのは、貴方達だ』

『ミネルヴァが俺達の居た南方ばしょに捕まえてるなんざ、聞いてなかったって言ってるんだよっ!! そのミネルヴァをいきなり取り戻せだの、しかも自爆術式が施されてるから生かしたまま捕まえろだの、こんなふざけた依頼があるかっ!!』

『だが、君達はその仕事を請け負った。しかし、結果はこの惨状ザマだ』

『受けるしかないだろうが! 南方こっちで出来上がった銃と弾薬の開発と製造工場、そして共和王国アンタらに預かってる十万以上の訓練を守る為にもっ!!』

『だが、その十万の訓練兵達も七割以上を失い、南方領地そのものが吹き飛んでしまった。大きな失態だな、スネイク』

『テメェ……ッ!!』

 感情を見せずに淡々として『砂の嵐デザートストーム』の非を述べるウォーリスの言葉に、スネイクは憤怒の感情を露にする。
 そして腰に巻き付けていた革紐ベルトに差し込まれていた拳銃ピストルを抜き取り、ウォーリスに突き付けた。

 そして眉間を狙うように向けられる銃口を見ながら、ウォーリスは冷たい視線で問い掛ける。

『どういうつもりだ?』

『どうもこうもない。死んだ部下の命は、お前の命で償ってもらう』

『……もう少し利口な男だと思っていたが。貴様の目的である銃を主力とした軍隊の編成に協力してやったというのに、その果てが離反これか』

『厄介の種を撒いたのはお前だ。なんで自爆術式が施されていると知ってるミネルヴァを、南方に捕らえたまましていた?』

『ミネルヴァには生かしておく価値があった。七大聖人セブンスワンの肉体だ、確保する理由は十分にある。だからこそ自爆させずに、魂だけを消滅させようとしていた』

『そんなミネルヴァを俺達が居る南方に放置して、逃げられたってわけだな。……やっぱりテメェが元凶じゃねぇか』

『……』

『しかもあの村の中には、間違いなく熟練の腕を持った準聖人やつが混じってやがった。しかも並の使い手じゃねぇ。恐らくアズマの達人か、フラムブルグの神官級の体術使いだ。そいつに鍛えられたガキ共といい、なんであんな連中が放置されたまま南方あそこに居やがった?』

『こちらに引き入れた魔人との取引で、あの村の人間には手を出さないようにしていたのだよ』

『あの鼠野郎か……』

『しかし、中々にあの村の内情に詳しいようだ。調べていたのか?』

『俺の部下を潜入させていた。南方領地の立地を調べてる時に村を発見して、随分と奇妙な集まりだったんでな。……そいつ等も、救出できずに死んだ』

『それは、お気の毒に』

『ッ!!』

 ウォーリスは落ち着いた口調ながらも、冷たい口調でそうした言葉を向ける。
 それを聞いて感情を激したスネイクは、感情のまま拳銃ピストルの引き金を引いてウォーリスの額を撃ち抜いた。

 その発砲音を聞き、負傷して倒れている団員達は驚愕しながら意識と視線を傾ける。
 しかし次に発せられたのは、スネイクの驚愕を漏らす声だった。

『……なにっ!?』

 その時にスネイクが見たのは、確かに眉間を撃ち抜いたウォーリスの姿。
 しかしウォーリスは僅かに仰け反っただけの姿勢に留まり、上半身を軽く前へ戻しながら額から血も流さず傷も無い様子を見せた。

 そして額に付いた九ミリの弾丸が落ちて、ウォーリスの右手に拾われる。
 更に親指の爪を土台ささえにしながら弾丸を置くと、親指を抑える中指を弾いて凄まじい速さで弾丸を発射した。

『ッ!!』

 ウォーリスの指から放たれた弾丸は、そのままスネイクの左頬を霞めながら通過する。
 そして後方に存在する鉄製のコップに命中させ、拳銃ピストル以上の破壊力を見せながらコップを粉々に砕き貫いた。

 それを見たスネイクは表情を強張らせ、驚愕の声を漏らす。

『な……っ』

『――……気は済んだか?』

『!』

 驚愕するスネイクに平静の声を向けるウォーリスは、口元を微笑ませながら話し掛ける。
 そして弾丸がかすめた左頬から血を流すスネイクは、改めて目の前に立つ化物ウォーリス拳銃ピストルを向けようとした。

 しかし右手に持つ拳銃ピストルをウォーリスは掴み止め、瞬く間にスネイクから奪う。
 すると奪った拳銃ピストルは一瞬にして解体され、その場に部品となって地面に落下した。

 それを見たスネイクは別の驚愕を浮かべ、そこから溢れる声を漏らす。

『……テメェが、なんで拳銃これの構造を……』

『銃など所詮、非力な弱者が持つ武器だ』

『!?』

『私がいれば、こんな玩具オモチャよりも高性能な銃なら幾らでも製造できる。兵士も育てられただろう。……だが敢えて貴様達を雇い入れて兵士の育成と銃の製造を任せていた理由は、どうしてだと思う?』

『……!』

『貴様達が、実に哀れな存在だったからだ』

『……な、なんだと……っ!!』

『百年前に起きた四大国家の戦争で、貴様達は幾多の魔人を撃ち殺し、数十倍から数百倍の戦力差を覆すという大きな戦果を挙げた。しかし四大国家は貴様達の存在とも言える武器じゅうを否定し、貴様達からも武器を取り上げようとした』

『……テメェが、なんでその事を……!!』

『それを拒否した貴様等は、四大国家に属さない、あるいは属せない小国にしか居場所は無かった。その四大国家に対して復讐を企み、小国で銃の製造と兵士を増やそうとしたが、それも失敗したそうだな。……実に哀れだ、砂漠でしか生きられぬ者達よ』

『……クッ!!』

 ウォーリスの憐れむような視線と言葉に、スネイクは一気に感情の沸点を上げて激怒する。
 そして右手を翳しながら、怒鳴るように叫んだ。

『イオルムッ!!』

 魔銃イオルムの名を呼んだ瞬間、スネイクの右手に転移した拳銃型ピストル魔銃イオルムが姿を見せる。
 それと同時に銃口を向けながら構えたスネイクは、魔銃イオルムの宝玉を赤く光らせ魔弾を放った。

 しかし魔弾がウォーリスの顔面に着弾するより早く、魔弾は崩れ去るように消失する。
 それを見たスネイクは再び驚愕を浮かべ、幾度も引き金に指を掛けながら新たな魔弾を発射しようとした。

『なっ!! ――……なんで、なんで撃てないっ!? イオルムッ!!』

『……その魔銃も、私から見れば玩具同然だな』

『!?』

『高密度の魔弾を精製し撃ち出す為に、周囲の魔力を吸収する。実に単純シンプルな構造だが、周囲の魔力を掌握されれば銃の形をした玩具でしかない』

『……ッ!?』

『貴様も聖人に至っているようだが、その玩具に頼り切った肉体ではミネルヴァのような七大聖人セブンスワンにも劣るだろう。……せいぜい今の貴様の価値は、悪魔達げぼくの餌になるか、使い捨ての駒というところか』

『……!?』

 落胆にも似た低い声を漏らすウォーリスの影から、突如として異様な気配が漂って来るのをスネイクは感じ取る。
 それと同時に薄暗い周囲の影が蠢きだし、『砂の嵐デザートストーム』とスネイクが居る天幕テント周辺を囲むような動きを見せた。

 その異様な影の動きにスネイクは驚愕し、意識がある団員達も異様な状況に動揺を見せる。
 そうしたスネイクと『砂の嵐デザートストーム』に対して、ウォーリスは冷ややかな視線と声で尋ねた。

『最後に選ばせてやろう。お前達の最後を』

『ッ!!』

『一つ目は、化物の餌になってこの世から魂ごと消失するか。二つ目は、この失態を補えるように私の役に立つか。どちらを選ぶ?』

『……テメェ、いったい……!』

『仲間と共に餌になるのが御所望なら、早く言いたまえ。何しろ、この悪魔達カイブツは常に飢えているのでね』

『ク……ッ!!』

『生きて私の役に立ちたいと言うのなら、お前達には最後の機会を与えてやろう。……だがその誓いを破らぬ為に、貴様には奴隷紋を施させてもらう。スネイク』

『俺を、奴隷にするだと……!!』

『別にお前でなくとも、そこに居る団員達かれらに施しても問題ない。その場合は、ミネルヴァと同じ事をしてもらうだろうが』

『ッ!!』

『あの術式ならば、私も良く知っている技法でね。何せ人魔大戦の時には、捕虜にした魔人や魔族を自爆させて勢力を削いでいたのだから』

『……テメェ、化物かよ……ッ!!』

『ふっ。……それで、どちらを選ぶ? 化物の喰われて魂まで餌となるか、生きて奴隷として飼われるか。……これは、最後の慈悲だ』

 ウォーリスはそうして右手を軽く上げ、敢えてそうした言葉でスネイクに選ばせる。
 そして上げられた右手が振り下ろされた瞬間に周囲の悪魔達カイブツが宣言通りに喰らい襲う事を察したスネイクは、生き残った団員達を見ながら迫られた選択肢から一つを選んだ。

『……分かった。アンタの奴隷になる』

『賢明な判断だな』

『だが、団員達には手を出すな。自爆術式を施すのも、奴隷紋を施すのも、団長の俺だけにしてくれ』

『……いいだろう。ただし、貴様が次に命じた事を守れず失態を見せた時。それは貴様自身と団員達の死を意味する。それを忘れるな』

 上げていた右手を閉じながら腕を下げたウォーリスは、そうして反抗したスネイクを従わせる。
 生き残っていた団員達はそのやり取りの一部始終を見ていた事で、団長であるスネイクが自分達を庇い奴隷に堕ちる事を選んだのだと知っていた。

 そして治療を終えた『砂の嵐デザートストーム』とスネイクに与えられた命令は、ウォーリスの故郷である旧ゲルガルド伯爵領地の都市に待機し、侵入者を殺すこと。
 それを果たそうとしたスネイクと『砂の嵐デザートストーム』の団員達だったが、侵入者である帝国皇子ユグナリス狼獣族エアハルトに敗北し、絶望に染まった都市内部に留まるしかなかった。
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