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革命編 五章:決戦の大地
赤の包囲網
しおりを挟む『砂の嵐』の狙撃手が敷いた半包囲網を突破した帝国皇子ユグナリスは、主力である狙撃手を倒すべく外壁側へ向かう。
一方で特級傭兵スネイクと長距離で対峙する狼獣族エアハルトは、障害物を通り抜ける『不可侵の弾丸』に苦戦を強いられていた。
「――……クッ!!」
「……ありゃりゃ。また俺達の『不可侵の弾丸』が避けられちまった。どういう事だろうな、イオルムよ」
『――……リィ……ン……』
「あぁ、なるほど。『魔力感知』で弾丸に込められてる魔力を察知してるわけか。だからギリギリ避けられるってわけだ。賢いなぁ、イオルムは」
魔銃に語り掛けながら目標が狙撃を回避し続けている理由を察したスネイクは、再び一発の『不可侵の弾丸』を放つ。
それも嗅覚で感知し跳び避けたエアハルトに気付いたスネイクは、小さな鼻息を漏らしながら足元に置かれている複数の弾丸を摘まみ取った。
それ等を新たな弾丸として魔銃に装填すると、嵌め込まれた宝玉が黄色い輝きから緑色の輝きに変化する。
それと同時に放たれたスネイクの弾丸は、撃ち抜かれた右脚を治癒しようとするエアハルトを再び襲った。
「匂いが、また――……クッ!!」
再び放たれた弾丸の魔力が違う事を嗅覚で察したエアハルトは、右手と左脚だけでその場から跳び避ける。
しかし次の瞬間、放たれた弾丸の周囲に凄まじい暴風が発生し、射線上に入った障害物を凄まじい切断力を見せながら縦横無尽に切り裂いた。
障害物を細切れにしながら迫る弾丸の軌道は、完全に避けたエアハルトから外れている。
しかし巻き起こる暴風の刃が弾丸から四方四メートル前後まで展開し、余裕を持って避けたはずのエアハルトの肉体に無数の切り傷を生み出した。
「グゥッ!!」
腹部と右手、更に左脚を切り刻まれたエアハルトは、その場に倒れながら傷から血を吹き出す。
そして切り払われた障害物からエアハルトの姿を視認したスネイクは、口元を微笑ませながら鎖閂式で新たな弾丸を装填した。
「――……『風刃の弾丸』だぜ」
「……グ……ッ!!」
「これで、終いだ」
両足が傷付けられ動きを制限されたエアハルトに対して、スネイクは躊躇せずに魔銃の銃口を向ける。
そして引き金を引こうとした瞬間、傍に控えていた部下の一人から割り込む言葉が飛んだ。
「――……団長っ!!」
「ん?」
「もう一人の目標が、こっちに――……っ!!」
「!」
団員の言葉と外壁の塀に身を乗り出しながら下を見る様子に、スネイクは驚愕の表情を浮かべる。
そして団員が見る場所に銃口を向けながら見ると、そこには走るように外壁を駆け上がるユグナリスの姿が見えた。
「まさか、壁を登るかよっ!!」
「――……居たっ!!」
垂直に伸びた五十メートルの外壁を駆け上るユグナリスの姿に、流石のスネイクも驚愕を隠せない。
一方で駆け上るユグナリスも、外壁の屋上にいる狙撃手を視認した。
ユグナリスは魔力と生命力で身体能力を強化し、外壁の出っ張り部分や窓枠の塀に手を掛け、足を踏み込ませながら駆け上がるという驚異の身体技術を見せる。
外壁を踏み砕く程の脚力で登って来るユグナリスの速度は、まるで平坦な地面を駆ける尋常ではない速さを見せていた。
それに対して屋上に待機していた一人の団員は恐れ戦く様子を見せ、移動しながら狙撃銃の銃口をユグナリスに向ける。
そして真上に位置しながらユグナリスを撃ち落とそうと、狙撃銃から弾丸を放った。
「死ねっ!!」
「!」
放たれた弾丸は駆け上るユグナリスを正確に捉え、真正面から撃ち抜こうとする。
しかし向かって来る弾丸が緩やかに見える程に遅く感じさせる動体視力は、右手に持つ鞘付きの剣で弾丸を迎撃する程の余裕を見せた。
「なっ!?」
命中したと確信していた弾丸が命中せず叩き落とされた光景に、団員は目を見開きながら動揺する。
その隙を突いて瞬く間に十メートル以上の距離を詰めたユグナリスは、右手に持つ鞘付きの剣を煉瓦の隙間に突き刺しながら跳ね上げた両足で覗き込む団員の顔を蹴り上げた。
「ア、ガ……ッ!!」
「……おいおい、マジかよ……」
顔を殴られた団員はそのまま仰け反って中空を飛び、背中から倒れて気絶させられる。
一方身を乗り出しながら剣の柄を握り締め、紐付きの鞘から引き抜いたユグナリスは下半身から屋上に辿り着いた。
それと同時に鞘付きの剣を壁から引き抜いて着地すると、身を屈めながらもスネイクに視線を向ける。
スネイクはそれを見ながら引き気味の苦笑を浮かべ、互いに対峙した二人は武器を構えながら言葉を向け合った。
「壁登りといい、あの態勢から弾丸を打ち落とすなんざ、アズマの連中みたいな事をしやがる」
「……その武器を降ろして、降伏を。この距離は、俺の間合いです」
「生憎と、降伏なんてしたこと無くてな。やり方を知らん。……それに、戦場の狙撃手に降伏は許されない」
「!」
「敵に見つかって殺されるか、持ち場を死守できずに 味方に殺されるか。それが俺達、狙撃手の終わり方だ」
「……貴方達は、まさか……」
スネイクは険しい表情のまま魔銃を構え、揺るがぬ意思を見せる。
それを聞いていたユグナリスは怪訝な表情を色濃くさせ、スネイク側が後に引けない状況にあること察した。
「こんな事をやれる聖人が、帝国に居るとはな……。……まったく、最近の俺はツイてねぇな……」
「……見た限り、貴方達は帝国人では無いですね?」
「ああ、そうさ」
「なら、貴方達はウォーリスに脅されて都市の警備を?」
「脅された? いいや、雇われたのさ。だが失敗して、左遷させられたってとこか」
「左遷……?」
「ほとんどの部下や兵士達を死なせるヘマをして、オマケに雇い主の国を半分近く吹き飛ばす事態にしちまった。……使えない駒として処分されたり、あんな化物共に喰わされちまうよりは、遥かにマシな役目を与えられたがな」
「!」
スネイクは自身を嘲笑するような言葉を述べながら、自分の置かれている状況を話す。
それを聞いたユグナリスは、対峙した『砂の嵐』達がウォーリスの従える化物の事を知った上で、この都市に置かれている事を察した。
「……やはり、貴方達は囮?」
「俺達が囮? いいや、囮は都市そのものだ」
「!」
「雇い主の命令でな。第一優先は排除だが、それが難しい場合は――……予定時刻まで、アンタ達をこの都市ごと閉じ込める為に足止めしろとさ」
「なっ!?」
スネイクの言葉にユグナリスは驚愕し、視線を逸らしながら外壁の外側を見る。
すると都市に張られていた結界が透明な色合いから赤に染まり、都市全体が赤い球形状に囲まれた。
それが通常の結界とは異なる様子だと気付いたユグナリスだったが、視線が動く前から殺気を感じ取る。
それに反応しながら五メートル以上も飛び上がり、自分の身体があった位置に透明な何かが通過した事を察した。
「ッ!!」
「チッ」
魔銃から『不可侵の弾丸』を放ったスネイクは、ユグナリスを殺す目的を諦めていない事を態度で明かす。
更に狙撃銃の姿を模っている魔銃から銃口を含む前半分と銃床を外し、持ち手部分だけを残した拳銃の形状にしながら中空に飛ぶユグナリスに銃口を向けた。
「っ!!」
拳銃型に分解された魔銃の銃口から、高密度に圧縮された弾丸形状の魔力が発射される。
ユグナリスは反射的に右手に持つ剣の刃を魔力の弾丸に薙ぎ当て、凄まじい圧力と衝撃を感じながら表情を歪めた。
そしてユグナリスは身体ごと弾き飛ばされ、辛うじて外壁の屋上に着地する。
すぐに姿勢を戻しながら剣を構えたユグナリスに対して、スネイクは魔銃を右手に持ちながら銃口を向けた。
「悪いな。アンタ達を殺さないと、この結界は解けないんだわ」
「っ!?」
「そうなると、俺達も閉じ込められたままになる。勿論、都市の住民全てもな。……時間制限が過ぎたら、外の化物達が襲って来る」
「……クソッ、そういう事か……!!」
「俺も、そして俺の部下達も、あんな化物共に喰われたくないんでね。……大人しく、俺達の為に死んでくれよ。皇子様」
話し続けるスネイクの視線が外壁の外側に向いた瞬間、ユグナリスも同じように外側へ視線を流す。
すると赤い結界越しに見える都市の周囲から、夥しい影と共に歪な魔獣達が数百体規模で姿を見せた。
それが帝都を襲撃した合成魔獣である事に気付いたユグナリスは、この旧ゲルガルド伯爵領だけがどうして無事だったのかを理解する。
それは邪魔な追跡者を誘導し、領民を巻き添えにした巨大な包囲網だったのだ。
こうして旧ゲルガルド領地に誘い込まれたユグナリスとエアハルトは、帝都と同じ状況に陥る都市内部に閉じ込められる。
そしてこの状況を脱する事を考える特級傭兵スネイクは、侵入者である二人を排除する役目を果たそうとしていた。
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