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革命編 五章:決戦の大地
魔銃の脅威
しおりを挟む帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトの二人は、潜入した旧ゲルガルド伯爵領地の都市内部にて突如として狙撃を受ける。
その狙撃手は『砂の嵐』と呼ばれる傭兵集団を率いる、特級傭兵スネイクだった。
スネイクには特級傭兵であるという肩書の他に、異名を一つ持っている。
それは『魔人殺し』と呼ばれる異名であり、彼自身が果たした成果によるモノだった。
まだフラムブルグ宗教国家が四大国家の一つに数えられていた百年前、攫われた『黒』を取り戻す為にフォウル国に侵攻を行う。
それに伴いホルツヴァーグ魔導国とアズマ国が諫めようと介入した結果、当時の四大国家に関連する同盟関係の均等が崩れ、ルクソード皇国を巻き込む形で大国間の戦争が発生した。
この戦争に関して、各国は様々な大陸で戦争を始める。
特に状況が酷かったのは、四大国家に属する小規模の国や、新旧四大国家に挟まられる形で存在していた旧砂漠大陸の国々。
各国家が大国を経由する為に必要とする拠点を確保する為に旧砂漠大陸に集い、戦力を逐次投入した結果、砂漠の大陸は各大国の主戦場となってしまった。
この時期には既に、フラムブルグ宗教国家は四大国家から外れる意向を示し、『黒』を殺めたフォウル国を庇うアズマ国に最も敵対意識を高める。
そのルクソード皇国は同盟関係にあるアズマ国の救援として、、フラムブルグ宗教国家の凶行を止める対峙することになった。
更にホルツヴァーグ魔導国は開発した魔導兵器の実験場として三国の争いに介入し、旧砂漠の大陸はそこに暮らす住民達を巻き込みながら五十年以上に渡る戦争行為を継続させる。
そうした大国同士の争いは、必然として国に仕える兵力以外の戦力が生業として興す。
それが『傭兵』と呼ばれる職業であり、各国には数々の傭兵組織が立ち上げられ、数々の戦場にその姿を見せることになった。
その傭兵の中には無論、人間を越えた身体能力を持つ『魔人』も投入されている。
奴隷や兵士として徴用された魔人達が戦場で活躍を示したが、その魔人の台頭がフラムブルグ宗教国家を刺激し、『魔人』を扱う各国に対する信頼と信用に深い溝を生み出した。
戦場で活躍する魔人達に対抗できたのは、数を利用したホルツヴァーグ魔導国の魔導兵器や、アズマ国の『仙人』と呼ばれる卓越した戦闘技術を持つ人間達。
それ以外に対抗できる手段を持たない者達にとって、『魔人』とは最も恐るべき戦力として対抗する術に苦労を強いられてしまった。
そんな時期、一つの傭兵団が驚くべき戦果を見せる。
二百名程の傭兵達を率いる一人の男が、『銃』と呼ばれる武器を持って激化している砂漠の戦場に現れる。
するとフラムブルグ宗教国家の勢力に味方するように与し、当時に名の知れた魔人達を撃ち殺したのだ。
殺された魔人の数は五百名以上を超え、その戦果によって傭兵団と率いる男の名は各国家に知られていく。
後にその傭兵団は活躍した戦場に倣うように『砂の嵐』と名乗り、それを率いるのが七大聖人以外に存在する聖人、スネイクという男である事が広まった。
当時のスネイクや『砂の嵐』の戦果は、倒した魔人以上に人間も殺している。
与えた被害はどの傭兵団や国家の軍隊よりも多く、その戦果が魔導兵器とは異なる『銃』という兵器で齎された成果である事が伝わると、各国で『銃』の兵器製造が行われる兆しが見え始めた。
しかし『銃』を主戦力として企む者達の思惑は、各国の重鎮達によって阻まれる。
剣や槍、そして弓や馬、魔法や魔石を用いた魔導兵器以上に安価で短期間に作り出せる『銃』の製造は、後々に戦力以上の脅威になる事が懸念されてしまったのだ。
そう危惧される要因となった『砂の嵐』は軟化していく戦場の中で干され、フラムブルグ宗教国家と各四大国家間で『銃』の製造と使用に関する禁止が取り決められる。
戦場を外され自分達の存在とも言える『銃』を大国から否定されてしまったスネイクと『砂の嵐』は必然として大国から疎遠に扱われ、四大国家に属さない小国や荒れた国々を転々とするようになった。
後に傭兵ギルドが立ち上げられた後、スネイクは『特級傭兵』としての地位を得て、彼が率いる『砂の嵐』も【特級】の傭兵団として認知されるようになる。
そうして四大国家を除く場所で『銃』の有用性を示し、更に犯罪行為に加担する魔人達を殺し得る存在として、『聖人』スネイクは『魔人殺し』の異名で人間大陸の魔人達から知られるようになった。
そして今、そのスネイクが己の持つ狙撃銃を向ける。
その相手は奇しくも『魔人』と『聖人』であり、放たれる弾丸の一つ一つが確実にその動きを捉えながら襲い掛かった。
「――……くっ!?」
「グルゥッ!!」
都市の外壁屋上から放たれるスネイクの銃身は、二人を的確に狙っていく。
放たれる弾丸は着弾すると同時に建物さえ吹き飛ばす爆発力を示し、その爆発によって吹き飛ぶ瓦礫すらも利用するスネイクの狙撃技術は、まるで二人の動きを先読みするかのような弾道を描かせていた。
その爆発に伴う衝撃と光景は、都市内部の住民達を動揺させる。
近場に居る人々は爆発が起こる付近から逃げ惑い、それと同時に各区画に魔道具を用いた避難勧告が行われた。
『――……現在、中央地区付近にて不審人物達が暴れ回っています! 市民の方々は、定められた避難へ移動して頂くよう御願いします!』
「キャアアアッ!!」
「な、なんだ……っ!?」
「爆発だっ!!」
「逃げろぉおお」
避難勧告と同時に逃げ始める住民達は、それぞれの区画に設けられた避難場所に向かう。
それにより自分達が悪者にされてしまった事を察したのは、渋い表情を見せながら声を漏らすユグナリスだった。
「クソッ、まるで俺達のせいみたいに……!!」
「『砂の嵐』は、やはり敵側に雇われているな」
ユグナリスは都市内の騒動を起こした原因と言われている事を苦々しく思いながらも、放たれる弾丸を避けながら逃げていく人々の方向に行かないように努める。
一方でエアハルトは、スネイクが敵勢力に雇われている事を察しながら苦々しい表情で弾丸を避け続けた。
辛うじて弾丸の直撃を免れる二人は、爆発と瓦礫を回避し続ける。
しかし埒が明かぬ事を察している二人は、スネイクが構える外壁の屋上に視線を向けながら同じ事を呟いた。
「このままじゃ……!」
「……奴の思う壺か。ならば――……」
「こっちからっ!!」
離れている二人は同じ事を考え、同時に飛び出しながらスネイクが狙撃している外壁を目指す。
ユグナリスは建物の屋根や屋上を伝いながら一直線に走り跳び、最短距離で外壁を目指した。
逆にエアハルトは屋根などの高い位置からではなく、射線の障害物となる建物に隠れながら外壁の方向を目指して走り抜けていく。
位置的にも状況的にも相反する状況で二人が向かって来るのを視認したスネイクは、それでも口元を微笑ませながら傍に居る部下の一人に声を向けた。
「予定通りだ。屋根の上を走る獲物は、お前等で足止めしろ」
「了解」
「俺は、魔人の方を狙う。――……障害物程度で、俺とイオルムからは逃れられないぜ。魔人野郎」
『――……』
スネイクはそうした言葉を呟き、それと同時に魔銃に嵌め込まれた宝玉が青い輝きから黄色い輝きに変化し始める。
それと同時にエアハルトが走り向かう場所に向けて、スネイクは一発の弾丸を放った。
「――……なにッ!?」
スネイクが放った弾丸に込められる魔力の匂いが変化しているのに気付いたエアハルトだったが、その射線を遮るように障害物を利用しながら走り続ける。
しかし次の瞬間、建物を破壊せず通過した何かがエアハルトが走る右脚を貫き、直径二センチ程の穴を開けながら撃ち抜かれた太腿を貫通した。
思わぬ痛みと状況に驚いたエアハルトは倒れながらも、止まらぬ為に起き上がる。
そして右足の弾痕から血を流しながらも弾丸が来たと思われる場所を確認し、何をしたのかを察した。
「……壁を撃ち抜いたんじゃない。あの弾丸は、壁を通り抜けたのか……!?」
「『不可侵の弾丸』。俺とイオルムに、障害物なんて無意味だぜ」
『――……』
撃ち抜かれた右脚の治癒力を強めるエアハルトは、放たれた弾丸が障害物を通り抜けた事を察する。
そしてスネイクはエアハルトが居る位置を正確に把握し、再び不可侵の弾丸を放った。
その魔力が近付くのを嗅覚で察した瞬間、エアハルトは右手と左脚で大きく飛びながら弾丸を避ける。
避けられた弾丸はそのまま地面に穴を開ける事も無く、まるで通過するように通り抜けた後、石畳の地面内部で音を鳴らしながら停止した。
それを見たエアハルトは、更に確信を持って呟く。
「やはり一定の無機物は通り抜け、生物には当たる仕組みか……!」
「……避けられたか。だが、良い弾丸はまだまだあるんだぜ」
障害物が意味を成さない弾丸に気付いたエアハルトは、種類の違う弾丸毎に魔力の匂いが異なっている事を即座に嗅ぎ取る。
一方で爆発を起こす弾丸を含む様々な弾丸に切り替えられるスネイクは、確実にエアハルトを仕留める為に次の弾丸を用いる事を呟いた。
一方で、建物の屋上を走るユグナリスにも別方向から弾丸が襲って来る。
それに気付き飛び避けたユグナリスだったが、更に別の場所から飛んでくる弾丸の圧力に気付き、大きく飛び避けながら屋根の出っ張りに隠れる形で身体を屈めた。
「……外壁に居る以外にも、狙撃手が……」
全く異なる場所から狙撃された事を察知し、ユグナリスは苦慮した様子で呟く。
それはスネイクが既に配置させていた『砂の嵐』の団員達であり、それぞれに高性能の狙撃銃を扱える訓練を施された彼等は、ユグナリスを撃ち抜く為に民家の中に紛れながら待ち構えていた。
こうしてスネイク率いる『砂の嵐』に強襲されたユグナリスとエアハルトは、その足を止められる。
彼等の鍛え抜かれた肉体すらも易々と破壊し得る禁忌の『銃』を相手に、二人は苦戦を強いられていた。
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