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革命編 三章:オラクル共和王国

最後の時まで

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 武具屋の老人は共和王国側てきから奪い取っていた手榴弾を用いて、迎撃に出ていたクラウスとワーグナー達の窮地を救う。
 それに留まらず小銃ライフルを用いた迎撃によって、包囲していた【特級】傭兵スネイクが率いる『砂の嵐デザートストーム』に逆撃を加える事にも成功した。

 老人が投げ込む手榴弾が敵陣地に落下し爆発すると、敵傭兵達に被害を与えながら後退させる。
 それに合わせて連携するクラウスは村人達を指揮し、隙を見せた敵傭兵達に銃撃を浴びせながら着実に打撃を与えていた。

 絶望の表情を色濃くしていた村人達も、敵側に反撃できた事で意思を持つ瞳を戻しながら銃弾を撃ち込んでいく。
 ワーグナーも仲間の仇討あだうちと言わんばかりに、僅かに怒りの感情を宿した心で敵傭兵に銃弾を放ち続けた。

 そうした状況が一分ほど続いたが、『砂の嵐デザートストーム』は大きく下がりながら老人の投げ込む手榴弾の射程を見計らう。
 そして敵傭兵達は冷静さを取り戻し、手榴弾が投げ込めない位置で倉庫の屋根に居る老人へ銃撃を開始した。

「――……グオッ!!」

「爺さんっ!?」

 銃声が放たれた後、屋根の上から老人が上げる短い悲鳴をワーグナーは聞き取る。
 更に銃撃が続きながらも、銃声に負けない老人の声がワーグナー達に届いた。

「……大丈夫じゃい! お前等は、敵に撃ち込めッ!!」

「お、おう!」

屋根うえを狙っている敵を撃つぞッ!!」

 老人の懐かしい怒声が聞こえた事で、ワーグナーは僅かな安堵を浮かべる。
 そしてクラウスが指示しながら銃口を向け、老人を狙う敵傭兵達へ銃撃を浴びせた。

 しかし建物を盾にして守る敵傭兵達に、銃弾は命中しない。
 それどころか態勢を立て直した敵傭兵達は、次々と別の場所から老人とクラウス達に射撃を開始した。

「うわっ!!」

「撃ち返して来た……ッ!!」

「さっきまで撃って来なかったのにっ!?」

「距離が離れて、銃弾たまの威力が落ちて倉庫の壁を貫通しないと踏みやがったか……!」

防波堤バリケードから身体を出すな! 敵の射撃は正確だ、隙間からでも狙われるぞ!」

「でも、これじゃあ反撃が出来ない……!!」

 周囲に築かれた防波堤バリケードによって守られながらも、圧倒的な多数による銃撃でクラウス達は銃を構え撃つ隙を断たれてしまう。
 そして屋根側の銃撃も激しくなり、老人も屋根の向こう側へ退避し手榴弾を投げ込めなくなった。

 『砂の嵐デザートストーム』の傭兵達は村人達と比べ物にならない程の統制射撃を見せ、それぞれに弾丸が尽きた瞬間に交代しながら銃撃を浴びせ続ける。
 しかし老人が投げ込んで来る手榴弾を警戒してか、先程の距離まで一気に詰め寄らず僅かずつ前進して距離を縮めていた。

 少しずつ防波堤バリケードへの当たりが強くなる銃撃を感じながら、クラウスは敵が接近している事を察する。
 その接近の意図を正確に読み解き、クラウスはワーグナーや村人達に伝えた。

「……敵は接近しながら、我々に爆弾を投げ込める距離まで近付く気だ」

「!?」

「ど、どうするっ!? どうすればいいんだ……!?」

「……敵の爆弾を使わせない為には、もう籠城しか手が無い」

「ろ、籠城って……倉庫の中に!?」

「そうだ」

「それこそ、爆弾を投げ込まれて終わるんじゃ……!?」

「奴等はミネルヴァを確保する為に、倉庫内に爆弾を投げ込めない。ミネルヴァが施している秘術を知っているようだからな」

「!」

「スネイクは慎重な男だ。ミネルヴァを死なせて自分達ごと死ぬ危険は、絶対におかさない。……だが私が想定していない武器を敵が持っていた場合、籠城策は逆効果になるかもしれん」

「……ッ」

「最後までここで粘りながら爆弾の投擲を防ぐか、それとも籠城し敵を誘い込みながら撃破するか。……どちらを選ぶ?」

 クラウスは敢えてそう伝え、村人達に二つの策を選択させる。
 それを聞いた村人や少年達は苦悩する表情を浮かべたが、ワーグナーは意を決しながら口を開いた。

「……俺は、籠城策に賭けてもいい」

「!」  

「このまま全滅したら、倉庫内なかの連中はあっさり踏み込まれて殺される。だったら戦える俺達は、生き残り続けなきゃならん」

「……そうだな」

「それしか、もう……!」

 村人達は苦悩の表情を見せながらも、ワーグナーの言葉に頷きを見せる。
 そして少年達も頷き、生き残った全員が籠城策に応じた。

 全員の意思を確認したクラウスは、銃弾が当たる防波堤バリケードの高さを出ないように身を屈めながら倉庫前の扉まで移動する。
 それを追うようにワーグナーや村人達も続き、扉の前まで辿り着いた。

 そしてクラウス達は倉庫の扉を開け、素早く中に入る。
 それを確認した敵傭兵達は一時的に銃撃を止めて踏み込もうとしたが、屋根から再び投げ入れられた手榴弾によって進路を阻まれた。

「ぐわっ!!」

「クソッ、まだ屋根の奴は生きてるぞッ!!」

 『砂の嵐デザートストーム』は手榴弾の爆風を受けながら再び下がり、倉庫から距離を取る。
 そして屋根から手榴弾を投げた老人を警戒し、倉庫の屋根と出入り口の扉へ銃口を向けながら待機した。

 しかし老人の状況は、ワーグナーが思っていた以上に悪い。
 
 老人は左横腹に銃弾を浴び、傾いている屋根からは夥しい血が流れている。
 そして息を乱し青褪めた表情を浮かべる老人は咳き込み吐血しながらも、木箱に残る最後の手榴弾を取り出した。

「……ったく。……悪ガキ共の世話も、これで最後だな……」

 そう言いながら老人は引いていく血の気と痛みを堪え、残す意識を敵側へ向ける。
 そして敵が再び踏み込もうとした時を見計らいながら、最後の手榴弾を投げ込む決意をした。

 一方で、倉庫内に戻ったクラウスやワーグナー達は驚愕した表情を浮かべる。
 それは倉庫内の光景が、先程とは全く異なる様相をしていたからだ。

「……な、なんだこりゃ……?」

「床一面に……」

「……赤い文字……?」

 倉庫内の床には、赤く塗られた奇妙な円陣がえがかれていた。
 半径十五メートル前後はあるだろうその円陣の中には、更に細かい紋様が書き込まれている。

 しかし問題は、円陣が描かれている赤い塗料の正体。
 それは両手を血に染めながら床を這うように円陣を描く、『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァの赤い鮮血だった。
 
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