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革命編 二章:それぞれの秘密
真実の答え
しおりを挟む二十七年前、若き日のクラウスはハルバニカ公爵家に付き、ルクソード皇国の内乱を約一年の時間で終息させる。
その裏ではナルヴァニアと手を結び、【結社】を通じて敵対する皇国貴族達の状勢と動向を探り、ハルバニカ公爵家の戦力を有効に活用して敵対貴族と皇族候補者達を打ち倒した。
その内乱の後、クラウスは敵対した皇族達と皇国貴族達を最も多く討ち倒したことで【烈火の猛将】と呼ばれるようになる。
しかし内乱が起きた経緯やナルヴァニアに関する事情を知っていたクラウスは、皇王エラクやゾルフシスと明確に皇国の在り方について意見を別ち、ルクソード皇国からも去る事になってしまう。
そして時間は現在へ移り、場面はローゼン公爵領地の客間に戻る。
そうした出来事を話し伝えるクラウスは、この話の結末を伝えた。
「――……そして私は、祖父ゾルフシス達と袂を別《わ》けた。皇国を出た私は、お前の母メディアと共に一年ほど周辺諸国を放浪した。しかしメディアが私の子を妊娠した事が分かり、帝国に戻り出産に備えることになった」
「……その時に生まれたのが、私というわけですか」
「そうだ。その時に兄上は父上を説得し、私が帝国で暮らす許可を得た。だが姓は戻さず、そのまま西方の開拓地に住む事だけを許可した」
「その開拓地が、僅か二十年余りで帝国の三割強を占める領土として繁栄しているのですから。父上は、やはり凄いですよ」
「他にやる事も無かったからな。開拓地を発展させては駄目とも言われてはいなかった。……そして父上が退き、兄上が皇帝となった時。私にローゼン公爵家の家名が与えられ、この領地も丸ごと得たというわけだ」
クラウスはそう言い放ち、内乱の前後に起きていた自身の行動を息子セルジアスの前で明かす。
その中にはセルジアスの知らない事も多く、特にナルヴァニアと父親が内乱の中で協力関係を築いていた事に驚きを浮かべていた。
しかし腑に落ちない部分が多く、セルジアスはその部分をクラウスに追求する。
「ナルヴァニア=フォン=ルクソードとの関係は、確かに理解しました。しかし、父上の話から状況的に理解できない部分があります」
「それは?」
「まずは、ナルヴァニア=フォン=ルクソードの動向です。あの方は皇王の座に興味は無い様子を見せていたようですが。しかし現実として、あの方は第二十一代皇王として少し前までルクソード皇国を従属化に置いていた。その点で、不信感を持たなかったのですか?」
「その点については、仕方ないとしか言えんだろう。皇族のほとんどを討った俺自身までもが退き、皇国は皇王候補者を全て失ったのだ。例え血が繋がらなくとも、彼女を皇王の座に就けなければ皇国そのものが瓦解する事になったはずだ」
「それは、確かにそうですが……」
「そういえば、皇王エラクの隠し子も居たらしいが。事情を知らぬ者達は、素性も良く分からない隠し子を皇王の座に置くよりも。まだ淑女として知名度のあるナルヴァニアを次の皇王に推すのも、不思議なことではない」
「……ハルバニカ公爵家が、それを容認してしまった理由は?」
「決まっている。ナルヴァニアが大罪で処刑された一族の子であり、それを養子として保護していた皇王達やハルバニカ公爵家に責任が追及される事を避ける為だろう。ナルヴァニアの素性が明かされれば、それを隠す事に関わっていた自分達も身を破滅させることになるのだからな」
「……確かに、仰る通りです。だからこそ、あの方の死も公には病死という事で報じられているわけですから」
セルジアスはクラウスの話を聞き、ハルバニカ公爵家がナルヴァニアの皇王就任を認めざる得なかった理由に納得する。
しかし心の内で何か引っ掛かりを覚えており、自身の思考を必死に探っている様子が窺えた。
そうした様子を見せるセルジアスを他所に、クラウスは小さな鼻息を漏らして部屋の扉を見ながら声を零す。
「――……それにしても、ナルヴァニアの孫がこの屋敷にいるとはな。しかも兄妹で」
「ええ」
「妹の方は、ユグナリスの子を妊娠しているのだったな。……待てよ、その妹は何歳だ?」
「確か、二十歳前後です」
「二十歳だと? ……兄の方は?」
「私と同じか少し年上だったかと。年齢よりも、少し若くは見えますが」
「つまり、二十五歳前後か。……いや、あり得ない話ではないが……」
「……父上、何に気付いたのです?」
クラウスが奇妙な様子を見せ、ゲルガルド伯爵家に生まれた兄妹の事を尋ねる。
その様子を老騎士ログウェルを始めとした三名が気付き、セルジアスが問い掛けた。
それに答えるように、クラウスは悩んでいた部分を答える。
「……二十七年前、ナルヴァニアは確かにこう言った。『十年前にゲルガルド伯爵家に嫁ぎ、一年後に子供を産んだ』と。つまりその時、ナルヴァニアの息子は十歳程の年齢だったはずだ」
「……!」
「ナルヴァニアの孫で、その兄が二十五歳。少なくともその兄は、ナルヴァニアの息子が十二か十三の歳頃に子を産んでいたという事になる。……まぁ、あり得ない話ではないが」
「……確かに、そうですね。あまりにも、子を持つのが早過ぎる……」
「その妹が二十前後なら、ナルヴァニアの息子が十七歳か十八歳の時に生んだという事になる。その年齢で子を持つのなら、不自然というわけではないが」
「……まさかっ!!」
「!?」
クラウスの疑問を聞いたセルジアスは、今までの話で引っ掛かりを覚えていた部分を自覚する。
そしてその自覚した部分が今まで得ていた情報と繋がり、何かに気付いたセルジアスは長椅子から立ち上がった。
それに驚きを見せる面々の中で、セルジアスは真っ先にログウェルへ顔を向ける。
「ログウェル殿。一つ、御伺いしたい」
「何かね?」
「確か、ルクソード皇国の元『赤』の七大聖人だった現皇王シルエスカは、生まれた頃から聖人だったそうですが。それは本当ですか?」
「そうじゃな。彼女は生まれた頃から、聖人に至っておった」
「そういう子供を、他にも確認した事は?」
「いや、シルエスカ以外には見た事が無いですな」
「仮の話ですが。もし四十年近く前に生まれた子供が、途中で聖人に達した場合。そのまま見た目の成長も遅くなりますか?」
「なりますのぉ」
「……ナルヴァニア=フォン=ルクソード。その息子がもし、子供時代に聖人に達していた場合。今のウォーリス殿と同じ年齢に見えるということですね?」
「!!」
「!」
セルジアスは自身の中で生まれた疑念を口にし、ログウェルとクラウスは共に驚きを浮かべる。
しかし聖人に関する事情を理解してないガゼル子爵やパールは、首を傾げながらセルジアスの言葉を理解できなかった。
セルジアスはその話を理解できる二人に向け、自身の結論を伝えた。
「これは、私の推測に過ぎません。……しかし父上の話が本当であれば、この話は確実となるでしょう」
「……まさか……」
「ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド。――……彼こそが、ナルヴァニア=フォン=ルクソードが三十七年前にゲルガルド伯爵との間に生んだ息子なのかもしれない。……そして彼にとって、リエスティア姫は妹ではなく――……」
「――……そう。リエスティアは、私の娘です」
「!?」
セルジアスの述べる言葉を遮るように、客間に一つの声が響く。
その声を聞いた全員がそちらを振り向き驚きを浮かべ、長椅子に腰掛けていたログウェルも立ち上がり鋭い視線と表情を向けた。
そこ場所には、何者も存在しない。
ただ家具が置かれ、窓から差し込む日の光がそれ等に影を作り出し、部屋の中に存在していただけ。
しかし、その影が蠢く様子を見せながら家具から自立する。
そして独立した影が床を這うように動き、壁際で停止した。
その影から、黒い髪を持つ頭部が生み出されながら昇って来る。
そして顔と胴体に続き、最後の足までせり上がると、その人物は影から歩み出ながらその場の全員に姿を晒した。
「お前は……!?」
「父上。彼が、ウォーリスです……!」
影から出現した人物に警戒し構えるクラウスに、セルジアスは相手の正体を教える。
それは今まさに話に出て来た、ナルヴァニア=フォン=ルクソードの息子。
オラクル共和王国の国務大臣であり、娘リエスティアを妹と偽っていた、ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド本人だった。
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