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革命編 二章:それぞれの秘密
化物の少女
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二歳の頃に起きた事件で、幼い私は多くの人々がいる祝宴の中で怒りのまま能力を暴れさせる。
しかしそれが友達である黒髪の少女クロエオベールを傷付け、両手と身体の正面に重度の火傷を生み出した。
幼い私は思わぬ事態に無我夢中で思考し、魔力を自身の生命力を還元し傷を負わせてしまったクロエオベールに与える事で治癒する方法を考え付く。
それを実行しクロエオベールの負った傷を完治させながらも、分け与えた為に衰えた生命力を回復する為に深い眠りに落ちた。
それから幾日か経ったのか、その時の私も詳しく分からない。
しかし次に目覚めた時、私はローゼン公爵領地の屋敷である自分の部屋に寝かされていた。
『――……ここは……』
私は虚ろな意識のまま瞳を開け、映る景色に見覚えがある事を悟る。
僅かに首を左右に動かして周囲を確認すると、そこは自分の部屋である事を思い出した。
そして上半身を起こそうとした時、歩み寄るような足音を聞く。
そちらに視線を向けると、見覚えのある侍女達が私が居た寝台へ近付いていた。
『――……御嬢様? 御嬢様、御目覚めになられましたかっ!?』
『……』
『急いで、クラウス様に御連絡を!』
一人の侍女は慌てながらも近付いて私の様子を確認し、若い侍女にそう伝える。
それに従う侍女は部屋の扉を出て行き、私は複数の侍女達に囲まれながら容態を確認された。
その時に侍女達が話す言葉から、私が数日間も眠り続けていた事を理解する。
それから虚ろな瞳が徐々に光を宿し、眠る前の記憶を鮮明に思い出した。
『……わたしは……』
『御嬢様?』
『……そうだ、クロエ……。あの子は、どうなって――……!!』
『お、御嬢様っ!?』
私は重傷を負わせて治癒したクロエオベールの事を思い出し、侍女達の抑えようとする手を振り払いながら寝台から降りる。
とにかく友達がどうなったのかを気にし、部屋を出て行こうとした。
その時、部屋の扉を開いてある人物が怒りの形相を見せながら現れる。
それは私の父親である、ローゼン公爵家当主クラウス=イスカル=フォン=ローゼンだった。
『――……何処に行くつもりだ? アルトリア』
『……ッ』
『お前はもう、今後は屋敷から出さない』
『!?』
『お前が持つ能力も、今後は何処だろうと使用を禁止する』
『なんでよッ!?』
『言わなければ分からないかッ!!』
『!?』
『お前は私の約束事を全て破り、自分の能力で多くの者達を傷付けた。……お前は既に、私の信用を失ったのだ』
『……』
『我が娘だからこそ、今までお前の横暴な振る舞いを許したこともある。……だが今回は、流石に我が娘だとしても許せん』
激怒するクラウスは静かに怒鳴り、私に失望の目と言葉を向ける。
それを聞いた私は、不思議と動揺はしていない。
逆に胸の奥に戻っていた何かが表面に溢れるように滲み出てきながら、怒り混じりの笑いと声を向けた。
『……ふっ。許せない? それはこっちの台詞よ』
『!』
『約束がどうの、人を傷付けただの。……アンタは結局、帝国貴族としての体面を気にしてるだけでしょ?』
『アルトリアッ!!』
『私はただ、友達を守っただけ。私のことを大事に思ってくれる友達を傷付ける奴等を、そしてそんな奴等を生んで貴族にしてるような帝国を滅ぼそうとしただけじゃない。それの何が悪いの?』
『!』
『あの子はたった一日だけの出会いだった私の事を、ちゃんと大事にしてくれた。思ってくれてた。……でも、アンタはどうなのよ?』
『……』
『私を抑え込んで、他の劣った奴等と並べて、ただ自分の道具として扱えるようにしたいだけのくせに、親ぶるんじゃないわよッ!!』
『ッ!!』
私から再び滲み出る敵意と憎悪が、今まで父親に対して抱いていた本音を吐き出させる。
自分を抑え込み、他者と並べて同じ事をさせようと制限させ、様々な縛りを課す父親のことを、私はずっとそう思っていた。
そして私の本音を向けた時、父親の怒りが頂点に達する。
父親の右手が振り上げられ、私は強い平手打ちを左頬に受けた。
それは父親に向けられた、初めての暴力。
その平手打ちを受けた一瞬だけ、私の思考は真っ白に染まり、ただ今まで知らなかった頬の痛みを感じていた。
父親もまた、娘に対して初めて暴力を振るった自分の行動に驚いた様子を見せている。
しかし真っ白だった思考が再び鮮明となった私は、今まで胸の奥に痞えていた何かが外れた事を自覚し、口元を微笑ませながら笑っていた。
『――……ふふっ。……アハ……アハハハッ!!』
『……ア、アルトリア……?』
『……結局、アンタもアイツ等と同じなのね。……自分に従わない人を貶めて、暴力で従わせようとする……』
『……!!』
『――……だったら私も、親のアンタに見習って、暴力で従わせてやる』
私はこの瞬間、再び祝宴の場で見せた恐ろしい程の殺気を放ちながら父親を鋭く睨む。
その殺気が周囲の魔力に干渉し、屋敷の中に居た人間全てに悍ましい悪寒を感じさせた。
そんな私の殺気を真正面から受けた父親は、歴戦の勘によって思わず腰に携えていた槍を引き抜きながら伸ばして構える。
それが開戦の合図だと受け取った幼い私は、幼い自分の肉体に白い輝きを纏わせながら父親に波動砲撃を放った。
それからの事を、私はよく覚えていない。
ただ憎悪と憤怒に身を任せて能力を使い、屋敷を大きく破壊しながら父親と戦った。
私の能力で放つ攻撃は、本気で父親を殺すつもりで撃っている。
父親もまた本気で暴走する私と戦い、本気で殺そうとしている節が見えたのは理解した。
しかしその戦いも、僅か数分で決着を終える。
例え歴戦の猛者として名高く鍛え抜かれた父親であっても、私という暴力の前に屈することになった。
『――……グ……ッ。ハァ……ハァ……ッ!!』
『――……弱過ぎ。それでも本当に、私の父親なのかしら?』
『ク……ッ』
倒壊した屋敷の一画で戦い続けた私と父親だったが、決着は呆気ない程に容易かった。
身体に大量の傷を負った父親は崩れるように膝を着き、手に持っていた赤い槍を落とす。
その前に無傷の私が立ちながら父親を見下ろし、皮肉を込めた言葉を向けた。
防具が無いとは言え、たった二歳の子供に猛将として名を馳せた三十代の父親が敗北する。
それは言葉として聞けば、まさに父親にとっては滑稽極まりのない状況なのは確かだった。
私はそんな父親の姿を見下ろし、右手を翳して手の平を向ける。
そして娘として、最後の別れを告げた。
『……さようなら』
『……ッ』
私は躊躇せずに父親を殺そうとし、右腕に光の輝きを纏う。
父親もまた殺される覚悟を決めたのか、言葉を向ける事すら諦めて瞳を閉じた。
しかし次の瞬間、私は幻覚のような声と感覚を味わう。
それは祝宴で左手を翳して父親を攻撃しようとした時、私の止めようと左腕を掴んだ友達の声と姿だった。
『――……ダメだよ。アリス……』
『!?』
『あなたのお父さんを、殺しちゃダメ……』
私はその時、クロエオベールが何を言おうとして私を止めようとしたのかを思い出す。
あの時は荷電粒子によって阻まれたクロエオベールの言葉が、記憶にある口の動きで鮮明に聞こえた気がしたのだ。
そしてその幻聴を聞き終えた時、私は友達を傷付けた時の事が思い出してしまう。
それは自分の心に深い傷を刻み抑止としての働きをし、父親を殺そうとする意思を挫けさせた。
『……!』
私は翳していた右手を下ろし、何かを感じて周囲を見る。
するとそこには、屋敷の中に居た数多くの従者や使用人が私達のことを見つめていた。
そこには七歳になる兄セルジアスも佇み、ただ皆が無言のまま目を向けている。
そして私に視線を向ける全員が、まるで化物でも見るような恐怖を宿す瞳を見せていた。
『……そうか……。……わたしって……化物なんだ……』
私はその時になって初めて、自分の大事な友達さえ傷付け、人々からどのように見られていたかを自覚する。
そして憎悪と憤怒を上回る孤独感と悲哀が私の心を支配し、完全に戦意も殺意も喪失させながら光の無い青い瞳で顔を伏せた。
その後、私は駆け付けた騎士や領兵達に捕まる。
そして負傷した父親の指示によって、領地の隔離塔に在る地下牢に幽閉された。
しかしそれが友達である黒髪の少女クロエオベールを傷付け、両手と身体の正面に重度の火傷を生み出した。
幼い私は思わぬ事態に無我夢中で思考し、魔力を自身の生命力を還元し傷を負わせてしまったクロエオベールに与える事で治癒する方法を考え付く。
それを実行しクロエオベールの負った傷を完治させながらも、分け与えた為に衰えた生命力を回復する為に深い眠りに落ちた。
それから幾日か経ったのか、その時の私も詳しく分からない。
しかし次に目覚めた時、私はローゼン公爵領地の屋敷である自分の部屋に寝かされていた。
『――……ここは……』
私は虚ろな意識のまま瞳を開け、映る景色に見覚えがある事を悟る。
僅かに首を左右に動かして周囲を確認すると、そこは自分の部屋である事を思い出した。
そして上半身を起こそうとした時、歩み寄るような足音を聞く。
そちらに視線を向けると、見覚えのある侍女達が私が居た寝台へ近付いていた。
『――……御嬢様? 御嬢様、御目覚めになられましたかっ!?』
『……』
『急いで、クラウス様に御連絡を!』
一人の侍女は慌てながらも近付いて私の様子を確認し、若い侍女にそう伝える。
それに従う侍女は部屋の扉を出て行き、私は複数の侍女達に囲まれながら容態を確認された。
その時に侍女達が話す言葉から、私が数日間も眠り続けていた事を理解する。
それから虚ろな瞳が徐々に光を宿し、眠る前の記憶を鮮明に思い出した。
『……わたしは……』
『御嬢様?』
『……そうだ、クロエ……。あの子は、どうなって――……!!』
『お、御嬢様っ!?』
私は重傷を負わせて治癒したクロエオベールの事を思い出し、侍女達の抑えようとする手を振り払いながら寝台から降りる。
とにかく友達がどうなったのかを気にし、部屋を出て行こうとした。
その時、部屋の扉を開いてある人物が怒りの形相を見せながら現れる。
それは私の父親である、ローゼン公爵家当主クラウス=イスカル=フォン=ローゼンだった。
『――……何処に行くつもりだ? アルトリア』
『……ッ』
『お前はもう、今後は屋敷から出さない』
『!?』
『お前が持つ能力も、今後は何処だろうと使用を禁止する』
『なんでよッ!?』
『言わなければ分からないかッ!!』
『!?』
『お前は私の約束事を全て破り、自分の能力で多くの者達を傷付けた。……お前は既に、私の信用を失ったのだ』
『……』
『我が娘だからこそ、今までお前の横暴な振る舞いを許したこともある。……だが今回は、流石に我が娘だとしても許せん』
激怒するクラウスは静かに怒鳴り、私に失望の目と言葉を向ける。
それを聞いた私は、不思議と動揺はしていない。
逆に胸の奥に戻っていた何かが表面に溢れるように滲み出てきながら、怒り混じりの笑いと声を向けた。
『……ふっ。許せない? それはこっちの台詞よ』
『!』
『約束がどうの、人を傷付けただの。……アンタは結局、帝国貴族としての体面を気にしてるだけでしょ?』
『アルトリアッ!!』
『私はただ、友達を守っただけ。私のことを大事に思ってくれる友達を傷付ける奴等を、そしてそんな奴等を生んで貴族にしてるような帝国を滅ぼそうとしただけじゃない。それの何が悪いの?』
『!』
『あの子はたった一日だけの出会いだった私の事を、ちゃんと大事にしてくれた。思ってくれてた。……でも、アンタはどうなのよ?』
『……』
『私を抑え込んで、他の劣った奴等と並べて、ただ自分の道具として扱えるようにしたいだけのくせに、親ぶるんじゃないわよッ!!』
『ッ!!』
私から再び滲み出る敵意と憎悪が、今まで父親に対して抱いていた本音を吐き出させる。
自分を抑え込み、他者と並べて同じ事をさせようと制限させ、様々な縛りを課す父親のことを、私はずっとそう思っていた。
そして私の本音を向けた時、父親の怒りが頂点に達する。
父親の右手が振り上げられ、私は強い平手打ちを左頬に受けた。
それは父親に向けられた、初めての暴力。
その平手打ちを受けた一瞬だけ、私の思考は真っ白に染まり、ただ今まで知らなかった頬の痛みを感じていた。
父親もまた、娘に対して初めて暴力を振るった自分の行動に驚いた様子を見せている。
しかし真っ白だった思考が再び鮮明となった私は、今まで胸の奥に痞えていた何かが外れた事を自覚し、口元を微笑ませながら笑っていた。
『――……ふふっ。……アハ……アハハハッ!!』
『……ア、アルトリア……?』
『……結局、アンタもアイツ等と同じなのね。……自分に従わない人を貶めて、暴力で従わせようとする……』
『……!!』
『――……だったら私も、親のアンタに見習って、暴力で従わせてやる』
私はこの瞬間、再び祝宴の場で見せた恐ろしい程の殺気を放ちながら父親を鋭く睨む。
その殺気が周囲の魔力に干渉し、屋敷の中に居た人間全てに悍ましい悪寒を感じさせた。
そんな私の殺気を真正面から受けた父親は、歴戦の勘によって思わず腰に携えていた槍を引き抜きながら伸ばして構える。
それが開戦の合図だと受け取った幼い私は、幼い自分の肉体に白い輝きを纏わせながら父親に波動砲撃を放った。
それからの事を、私はよく覚えていない。
ただ憎悪と憤怒に身を任せて能力を使い、屋敷を大きく破壊しながら父親と戦った。
私の能力で放つ攻撃は、本気で父親を殺すつもりで撃っている。
父親もまた本気で暴走する私と戦い、本気で殺そうとしている節が見えたのは理解した。
しかしその戦いも、僅か数分で決着を終える。
例え歴戦の猛者として名高く鍛え抜かれた父親であっても、私という暴力の前に屈することになった。
『――……グ……ッ。ハァ……ハァ……ッ!!』
『――……弱過ぎ。それでも本当に、私の父親なのかしら?』
『ク……ッ』
倒壊した屋敷の一画で戦い続けた私と父親だったが、決着は呆気ない程に容易かった。
身体に大量の傷を負った父親は崩れるように膝を着き、手に持っていた赤い槍を落とす。
その前に無傷の私が立ちながら父親を見下ろし、皮肉を込めた言葉を向けた。
防具が無いとは言え、たった二歳の子供に猛将として名を馳せた三十代の父親が敗北する。
それは言葉として聞けば、まさに父親にとっては滑稽極まりのない状況なのは確かだった。
私はそんな父親の姿を見下ろし、右手を翳して手の平を向ける。
そして娘として、最後の別れを告げた。
『……さようなら』
『……ッ』
私は躊躇せずに父親を殺そうとし、右腕に光の輝きを纏う。
父親もまた殺される覚悟を決めたのか、言葉を向ける事すら諦めて瞳を閉じた。
しかし次の瞬間、私は幻覚のような声と感覚を味わう。
それは祝宴で左手を翳して父親を攻撃しようとした時、私の止めようと左腕を掴んだ友達の声と姿だった。
『――……ダメだよ。アリス……』
『!?』
『あなたのお父さんを、殺しちゃダメ……』
私はその時、クロエオベールが何を言おうとして私を止めようとしたのかを思い出す。
あの時は荷電粒子によって阻まれたクロエオベールの言葉が、記憶にある口の動きで鮮明に聞こえた気がしたのだ。
そしてその幻聴を聞き終えた時、私は友達を傷付けた時の事が思い出してしまう。
それは自分の心に深い傷を刻み抑止としての働きをし、父親を殺そうとする意思を挫けさせた。
『……!』
私は翳していた右手を下ろし、何かを感じて周囲を見る。
するとそこには、屋敷の中に居た数多くの従者や使用人が私達のことを見つめていた。
そこには七歳になる兄セルジアスも佇み、ただ皆が無言のまま目を向けている。
そして私に視線を向ける全員が、まるで化物でも見るような恐怖を宿す瞳を見せていた。
『……そうか……。……わたしって……化物なんだ……』
私はその時になって初めて、自分の大事な友達さえ傷付け、人々からどのように見られていたかを自覚する。
そして憎悪と憤怒を上回る孤独感と悲哀が私の心を支配し、完全に戦意も殺意も喪失させながら光の無い青い瞳で顔を伏せた。
その後、私は駆け付けた騎士や領兵達に捕まる。
そして負傷した父親の指示によって、領地の隔離塔に在る地下牢に幽閉された。
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