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革命編 一章:目覚める少女
その名を呼ぶ者
しおりを挟むローゼン公爵家の統治する都市を襲撃し、更に多くの魔導人形を内外に転移させている襲撃者の目論見が明るみとなる。
それは各国から狙われていたアルトリアではなく、オラクル共和王国のリエスティア姫だった。
そしてリエスティアを狙う謎の人物を阻む為に、対峙するアルトリアは再び右手に白い輝きを纏わせながら波動砲撃しようとする。
それを察したのか、謎の人物はアルトリアが開けた壁の穴へ身体の向きを変え、そこから飛び降りた。
「!!」
「!?」
まるで交戦を避けるかのように逃走する謎の人物に対して、意識がある者達は驚きと困惑を見せる。
しかしアルトリアはそれを逃がすまいと、穴の開いた壁へ駆け出した。
「逃がさないわよッ!!」
「アルトリアさんっ!?」
「アンタ達は、その子を守ってなさいッ!!」
「――……ま、待て。アルトリア……!」
「!」
謎の人物を追おうとするアルトリアを、皇后クレアは呼び止めようとする。
しかしそれを無視して穴の開いた壁付近まで辿り着いたアルトリアに、剣を支えにしながら歩み出て来たユグナリスが声を向けた。
それに対して苛立ちを含んだ不快な表情を見せるアルトリアは、それを無視して穴から飛び出そうとする。
ユグナリスはそれに対して、自身が伝えるべき事を述べた。
「気を付けろ……。……奴には、魔法が効かない……ッ」
「は?」
「奴は急に、この部屋に現れた……。アレは多分、転移魔法だ。そして俺達が魔法を使おうとしたら、奴が手を翳しただけで、魔法の発動を無効化させられた……」
「……」
「体術も、半端じゃない……。ほとんど全員、奴に一撃で沈められてる……」
「……で?」
「お前は確かに、誰よりも優秀な魔法師だよ……。……でも、魔法を無効化させる相手には敵わない。ここは追うべきじゃない……!」
謎の人物と相対し相手の能力を確認していたユグナリスは、後を追おうとするアルトリアに注意を向ける。
そうした言葉を向けられるアルトリアは、不愉快そうな口調と表情を見せながら顔を逸らし、それに対する返答と行動を見せた。
「あっ、そう。――……私を、アンタ達みたいな間抜けと一緒にしないで」
「!」
アルトリアはそれだけを口に出し、別邸の二階部分に出来た壁の穴から飛び降りる。
その際に地面へ着地する時、自身の周囲に緑の輝きを纏いながら落下速度を緩めさせた。
更にアルトリアは降下しながら目で追い、謎の人物が別邸から走り離れる後ろ姿を視認する。
そして緩やかに着地し終えると、その人物を追うように走り始めた。
ユグナリスは傷付いた身体を自己治癒で回復させながら、穴から飛び降りて走るアルトリアの後ろ姿を視認する。
「……アイツ、一人だけじゃ……ッ!!」
「――……駄目だよ、ユグナリス! 貴方まで追っては!」
「!」
ユグナリスも負った傷を治し終えて、壁の穴から飛び降りそうになった時。
それを引き留めたのは母親である皇后クレアであり、ユグナリスは後ろを振り向きながら問い返した。
「母上……! しかし……」
「先程の者が狙っていたのは、リエスティアさんのようです。あの者の相手は、アルトリアさんに任せましょう」
「で、でも。あいつ一人では……」
「今はリエスティアさんの安全を確保するのが先決。他の者達を急ぎ起こして、ログウェル様と合流するのよ」
「……分かりました」
狙われているリエスティアの安全を確保する為に、皇后クレアはユグナリスを呼び止める。
それが最も理に適う選択だと理解しながらも、ユグナリスは別邸から離れて闇夜の中を走るアルトリアを背を見ながら複雑な思いを抱いている様子だった。
一方で、謎の人物を追うアルトリアは軽快な走りを見せる。
本来は運動能力がそれほど高くないアルトリアだったが、今は身体全体に白い光を纏う事で身体能力をかなり向上させ、百メートル程の距離を五秒にも満たない時間で走り抜けていた。
その白い光は呼吸と共に体内へ取り込み、まるで外部から力を得ているようにも見える。
しかし謎の人物との距離は縮まらず、アルトリアは舌打ちを漏らしながら呟いた。
「――……チッ。相手も速いわね……」
「……」
「!」
追跡するアルトリアに対して、謎の人物は息を乱す様子も無いまま平然と走り続ける。
その時、二人の間に白い渦が二つ出現し、アルトリアと謎の人物の間を割るように魔導人形が出現した。
それを見たアルトリアは走ったまま、躊躇せずに両手を魔導人形達に翳し、両腕を外側へ薙ぐように手を振る。
「……邪魔よッ!!」
『――……!』
アルトリアが腕を振った瞬間、進路を遮っていた二体の魔導人形がその動きに連動して突如として左右に吹き飛ぶ。
そして地面を削りながら魔導人形が倒れると、アルトリアはそれ等に視線すら向けること無く謎の人物を追った。
攻撃魔法を防ぐミスリル製の魔導人形を容易く吹き飛ばすアルトリアに対して、謎の人物は特に驚く様子は無い。
そしてそのまま逃走を続け、別邸から少し離れた森へと侵入した。
「……なるほど。そこで撒こうってわけね。させないわよ……!」
謎の人物が意図する事を察したアルトリアもまた、その森に入る。
二人はそのまま森の奥側へ移動し、アルトリアは別邸からかなり距離が離れた森内部へと誘われた。
その頃、寝室周辺で気絶していた騎士た侍従達が目覚め、起き上がり始める。
そして狙われているリエスティアの避難を進める為の準備が再び整えられている中で、その本人が神妙な面持ちを見せながら呟いた。
「……あの人も……」
「……ティア?」
「ユグナリス様……。……さっきの人が、言っていたこと……」
「今は、君の避難が先だよ」
「……ユグナリス様も、何か御存知なのですか……?」
「……ッ」
車椅子に腰掛け尋ねるリエスティアに、ユグナリスは言い淀む声を見せる。
そしてリエスティアは動揺と困惑に秘めた問い掛けを、ユグナリスに行った。
「……あの人も、多分……私に向けて言いました。『クロエオベール』と……」
「……」
「アルトリア様も、確か同じ名を私に尋ねました。……『クロエオベール』とは、私と関りのある名前なのですか……?」
「そ、それは……」
「……私の、本当の名前……なのですか……?」
「……ッ」
「どうして、あの人も……そして、アルトリア様も。……私の本当の名前を、御存知なのですか……?」
「……後で、必ず話すよ。だから今は、避難する事だけを考えるんだ。いいね?」
「……はい」
リエスティアはそう尋ねるが、ユグナリスは唇を噛み締めながら答えない。
代わりに避難を促しながら説得し、それに渋々ながらも承諾したリエスティアは車椅子を押されて寝室を後にした。
こうして襲撃の裏側で、リエスティアを目的とした者の行動が垣間見える。
そして互いに森の奥へ進む謎の人物とアルトリアは、リエスティアの名を『クロエオベール』と呼ぶという共通点を持っていた。
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