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革命編 一章:目覚める少女

未来の産物

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 突如として極光に襲われたローゼン公爵家が統治する都市では、内外で発生する光の渦から生命いのちの無い人形達が出現する。
 都市防衛を担う領兵達は市民の避難を迅速に進め、本邸と別邸に居る皇后クレアとアルトリアを始めとした人員の救出を行う為に部隊を編成していた。

 そうした中で、アルトリアを護衛する為に都市に赴き宿泊していたガゼル子爵家当主フリューゲルは、都市の司令部へ赴き統率している指揮官にある申し出を伝える。

「――……我々ガゼル子爵家も、貴殿等に協力しましょう。何か出来る事はありませんか?」

「有難い申し出ですが、この都市の事をあまり御存知では無い方々に頼める事は少ないかと……」

「そうですか。では、本邸の方にいらっしゃるアルトリア様達の救出に、我々も参加させていただきたい」

「!」

「この襲撃は、恐らくアルトリア様を狙った他国の勢力に因る事態ものだと推測できます。ならば敵勢力の狙いは、アルトリア様である可能性が大きい」

「既に、本邸へ向ける救出部隊を編成中です。ここは我々に御任せを――……」

「救援の数は多い方がいいでしょう。それに我々も、皇帝陛下からアルトリア様の安全を守る為の任を与えられています。ここは私達の兵を遊ばせるよりも、貴殿等と協力し敵の目的を達成させる事を阻むのが最善策です」

「……分かりました。子爵殿の兵達は?」

「既に本邸へ赴く準備を整えています。私が命じれば、すぐにでも向かう事が出来ますよ」

「そうですか。……では、御助力を御願いします」

 指揮官と話し合いを行ったガゼル子爵は、この事態に応じて迅速に動き、アルトリアの救出に助力する事を申し出る。
 そしてアルトリアが皇后クレアや共和王国の姫リエスティアと共に別邸に居る事を指揮官から伝え聞くと、案内の兵士を付けられ本邸と別邸が置かれた都市中央の敷地を目指した。

 一方その頃、『緑』の七大聖人セブンスワンである老騎士ログウェルが奮戦し、別邸に迫る人形達を押し返している。
 しかし人形達は身に纏う外套に描かれた構築式によって高い防御性能を誇る結界を展開し、ログウェルが生み出す風と剣の刃を諸共しない様子を見せていた。

 そしてついに、別邸を包囲するように出現する人形の数が二百体を超える。

 対して老騎士ログウェルを含む別邸の人員は、そこで働く従者や護衛として来ている帝国騎士達を含めても百人程度。
 更に別邸に設けた魔道具の通信で、本邸や中央の敷地内には更に人形達が出現している事が伝わっており、本邸や別邸の人員は逃げ場を完全に閉ざされた状態となっていた。

 数の上では圧倒的に不利であり、身重のリエスティア姫や初老を迎える皇后クレアを守りながら敵勢力を突破するのは危険性が高い。
 しかも上空には先程の極光を発生させ都市の結界を破壊したであろう戦力じんぶつが居る事を考えても、都市の内部を含めて安全な場所など既に存在しなかった。

 頼みの綱であるログウェルも人形を破壊し数を減らす事が出来ず、ついに各方向から別邸へ押し寄せる人形達の侵入を成功させてしまう。
 別邸に設けられている出入り口を家具などで塞いでいた騎士達だったが、人形の振る拳から放たれた魔法にも似た衝撃によって入り口や壁が破壊されてしまった。

「――……う、うわっ!!」

「出入り口が……!」

「これ以上、屋敷の中に敵をれるなッ!!」

 人形達は破壊した入り口や壁を崩しながら侵入し、その様子を見ながら騎士達は己の持つ手段ぶきで迎撃を行う。

 帝国騎士は剣を始めとした武器だけではなく、魔法を修める魔法騎士も在籍し、更に鎧や剣に施された魔道具を用いる。
 しかしログウェルのように高い威力のある攻撃手段は無く、辛うじて人形足達の止めする程度で精一杯だった。

 その時、突破された正面出入り口から新たに四体の人形達が瓦礫を乗り越えて侵入する。
 相対する騎士達は苦々しい表情を浮かべ、歯を食い縛った。

「こ、このままでは――……!?」

 状況の悪化に対応できない帝国騎士の一人が、そうした言葉を漏らした時。

 騎士達が展開する通路の壁を斜め様に走り抜ける人影が、素早い動きを見せる。
 そして騎士達が相手をしていた人形達に襲い掛かり、頭部や腹部を蹴り飛ばして出入り口付近まで押し返した。

 そして破壊された建物の瓦礫が点在する床へ着地し、その姿をはっきりと見せる。
 騎士達はその人物を見て、思わず驚きの声を漏らした。

「あ、貴方は……!」

「――……老いた身ながら。私も手を貸しましょう」

 騎士達の前に現れたのは、執事服を身に纏った老齢の男性。
 アルトリアの世話役として皇国から赴いていた、老執事バリス=フォン=ガリウスが騎士達に手を貸し、人形の侵入を阻んだ。

 そして蹴り飛ばしながらも起き上がる人形達に対して視線を戻し、素早く動き向かい跳ぶ。
 武器も持たず素手のまま相対するバリスを止める間も無い騎士達だったが、起き上がる人形達を素手で殴り吹き飛ばすバリスの戦い様に驚愕し、思わず口を開き呆然とした。

「な……」

「な、なんだ……あの人……!?」

「た、ただの執事じゃなかったのか……?」

 騎士達は目の前に居る老人バリスの強さに驚き、自身の目を疑う。
 しかしバリスは人形を殴り飛ばした後、僅かに表情を歪めながら呟いた。

「……やはり、あれは人形。この硬さ、それにこの魔力に強い耐性を持つ布。……まさか、ミスリル……?」

『――……』

「ミスリルを精製できる技術があるとすれば……魔導国の魔導人形ゴーレムか」

 バリスは殴った感触に違和感を持ち、騎士達が応戦した中で浴びせた魔法剣が無力化させられている様子を見て、敵の人形がミスリル製だと悟る。
 そして目の前に存在する人形群を作り出した存在が、ホルツヴァーグ魔導国の魔導人形ゴーレムではないかと推測した。

 バリスの攻撃を受けた魔導人形ゴーレムもまた、結界を形成し守りを固め始める。
 それを確認し眉を顰めたバリスは、構えながら呟いた。

「……しかし、これほどの純度を誇るミスリルを精製し、高い機能を有した魔導人形ゴーレムを、今の魔導国が作り出せるものか……?」

『――……!』

「!」

 魔導人形ゴーレムの性能に関して疑問を漏らすバリスは、怪訝そうな視線を向ける。
 その最中、魔導人形ゴーレム達の目に位置する部分が黒い布越しに赤く点滅する様子が見えた。

 それに警戒するバリスだったが、複数の魔導人形ゴーレムが両腕を動かし手を正面へ向ける。
 そして手の先端である五本の指に、魔力と思しき光が灯る光景が見えた。

「……ッ!!」

 バリスはそれを視認し、目を見開き驚愕する。
 そして次の瞬間、魔導人形の指先から白い魔力の弾丸が発射された。

「ッ!!」

「な――……グァアッ!!」

「ぐっ!!」

 バリスは夥しい数の白い魔弾を横に大きく飛び退く事で回避したが、その後方で構えていた騎士達が魔弾に直撃してしまう。
 鎧に守られながらも身体中に魔弾を諸に浴びた騎士達は、そのまま倒れてしまった。

 避けたバリスは大きめの瓦礫に身を屈めて隠れ、魔導人形達が放つ魔弾を一時的に防ぐ。
 そして倒れた騎士達に視線を向け、その状態を確認した。

「……あれは……」

 目を凝らして見るバリスは、騎士達がまだ生きている事を確認する。
 しかし大量の魔弾をまともに浴びて生存してる騎士達を不自然に思い、更に目を凝らして魔弾が直撃した部分を確認した。

 顕著に見えたのは、魔弾が直撃した騎士達の鎧。
 僅かに白く焼けたような跡が残りながらも、魔弾は鎧を貫通しておらず、身体から血が流れている様子は無い。
 鎧を纏っていない部分に直撃した騎士達も、同じような跡が残りながらも傷や血を見せる様子が無かった。

「……あれは、殺傷を目的とした攻撃では無いのか……?」

 魔導人形達が放つ魔弾が、人間を殺すに至らない威力ながらも、鍛えられた騎士達が倒れ起き上がれない様子から衝撃を与えている事が分かる。
 しかし壁や障害物は魔弾によって削られる様子を見る限り、魔弾一発の威力は小さな打槌ハンマーで殴る程度の威力を持っている事を理解できた。

 だがその理解は、逆にバリスに更なる疑心を生み出させる。

「しかし、どうして殺さない……? あれほど精巧な魔導人形ゴーレムならば、殺傷できる魔弾を撃ち出せるはず……。……この魔導人形ゴーレムを動かしている者は、いったい何を……」

 殺戮を目的とせず、気絶させ無力化させる程度に留める魔導人形ゴーレムの動きをバリスは不審に思う。
 そして魔導人形達ゴーレムを操作しているだろう術者の目論見を理解する前に、バリスは別の場所で更なる事態が起きた事を察した。

「――……この音は……!?」

 バリスの耳に届いたのは、魔弾の発射音や着弾音とは別の大きな衝撃音と振動。
 その方角と位置を耳だけで捉えたバリスは、衝撃音と振動が発生した場所が別邸のどの位置かを推測した。

「……まさか、リエスティア姫の寝室……!」

 衝撃音の発生源がリエスティア姫の居る部屋だと推測したバリスは、隠れていた瓦礫から飛び出し廊下へ戻り走る。
 それを追い撃ちするように魔導人形達の魔弾が発射され、バリスはそれを紙一重で避けながらリエスティア達の居る寝室へと向かった。

 一方、衝撃音が鳴り響いたリエスティアの寝室が在る二階では、驚くべき光景となっている。

 部屋の中は散乱する大小の瓦礫が散りながら埃に満たされる中、車椅子に座るリエスティアを守るように身を寄せる皇后クレアと侍女が居た。
 その周囲には複数の帝国騎士達が壁の傍で倒れ、剣を持つユグナリスもまた右肩を痛めた様子を見せながら剣を床に落とし、膝を着いたまま痛みで顔を歪めた状態になっている。

 そして部屋の外側に位置する壁は破壊され、その付近には上空から都市を襲った黒い外套を纏う人物が立っていた。 
 更に寝室の出入り口となる扉側には、アルトリアが右手をかざしながら、その人物と相対している。

 そんなアルトリアは謎の人物を睨んだまま、やや怒気を含んだ低い声を向けた。

「――……アンタ、誰?」

「……」
 
「てっきり、私が狙いだと思って待っててあげたのに。……どうやらアンタの狙いは私じゃなくて、あの子みたいね」

 アルトリアは謎の人物から僅かに視線を逸らし、目が見えず状況が分からないまま困惑しているリエスティアの方を見る。
 その人物はそれを否定する事なく、何も語らずにアルトリアを静かに見据えていた。
 
 今回の襲撃がアルトリアを狙った行動だと判断し誰もが動く中、それが異なると知る者達が居る。
 その目的がリエスティアである事を真っ先に悟ったのは、奇しくも自身が狙われていると思っていたアルトリアだった。
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